十人十色の色恋沙汰。

楪 琴音

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園田馨の場合。

2.崩れた平穏

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今日程、これまでの自分の考えに後悔した日はないと思う。
放っておけば飽きると思った僕が馬鹿だった。

そう感じてしまうのは入学式の日に告白してきたあの男のせいだ。

あれから彼はほぼ毎日僕のクラスへと通いつめているらしい。
僕は卒業に必要な最低限の授業やテストにしか参加しておらず、毎日は学校へと通わない為人伝にしか聞いていないが、僕が居ない時もクラスへと来るらしい。
僕が学校へ来ていると分かれば休み時間の度に顔を出しに来て正直鬱陶しい。
しかも、来るのが早いのだ。これでは避けようがない。

今まで静かに過ごせて居たのに、彼のせいで煩くてしょうがない。


「…ねぇ、毎回来るの辞めてくれないかな。鬱陶しいよ。」


目の前で楽しそうに日常を語る彼に一言告げる。
ここまでしつこいのならばもう突き放す方がいいだろう。
そう思ったけれど…


「そ、そないなこと言わんといてや!学年がちゃうからこうして休み時間にしか仲良うなれへんし…」


どうやら彼は引き下がりそうもない。
だが、眉尻を下げ悲しそうにした。


「…そんなの、僕の知ったことじゃない。」


僕は何故だかその顔を見たくなくて、そう告げるとつい教室を飛び出してしまった。


「…あ、馨ちゃん!」


何故見たくないと思ってしまったのだろうか。
出会って数日の人間なのに…

僕はそんな思いを靄と一緒に心に抱えそのまま保健室へと向かった。
僕のサボる際に利用してる場所の1つで、屋上もそうなのだが今は行きたくなかった。

目の前に見えた扉を少し乱暴に開ける。
その音に中に居た教員である五十嵐先生は少し驚いて居た。


「…っと、何だ…園田か。どうした?また、サボりか?」


呆れ気味に問い掛けを投げてくるもその表情は優しく笑っていて、彼はどうやらマグカップを片手に何やら書類整理をしていたようで、机を散乱させていた。


「ちょっとだけベッド借る。ここに誰が来ても僕は居ないって言っておいて。」


短く告げると返答を聞くより先にベッドへと足を向け潜り込む。

嗚呼、なんて腹立たしい事なのだろう。
出会って数日の人間に振り回されている現状が、静かだった平穏を崩されたようなこの感覚が。
そして何より自分が少し彼を気にかけ始めていることが何より嫌だった。

少し眠って落ち着こう。
そうして僕は布団を深く被り瞳を閉じた。
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