おっさんが神子って冗談でしょう?

佐倉真稀

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古池悠久

神殿と祈り

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 唇に感触を感じて目が覚めた。
「おはよう。」
 間近に王様の顔があった。
「お、おはよう…」
 ちゅ、ちゅ、と顔中にキスがふる。胸の奥が熱くなって、初めての感覚に戸惑った。
「今日は夕方まで来られない。もう、行かなければならないが、許してくれ。」
 悲しそうな顔をする王様に首を振った。
「許すも許さないもないよ。お仕事だからね。待ってるから、頑張って。」
 そう言うとまた唇を合わせた。王様はずいぶんと積極的だ。
「ああ、待っててくれ、ハル。」
 起き上がると隣の部屋に出て行った。今日はもしかしたらいつもより遅い時間に起きたのかもしれないな。しばらくしてノックが聞こえてツォ―が入ってきた。

「おはようございます。お風呂を用意しました。どうぞ。」
 俺はタイミングをはかったようなツォ―に真っ赤になってお風呂に向かった。
 お風呂場で身体を洗ってると、あちこちに鬱血のあとがあった。

 ……これってキスマーク…。

 昨夜を思い出して顔が熱くなる。さっと洗って湯船に飛び込んだ。顔を半分ほど沈めた。
(ああ、後悔はしてないけど恥ずかしい。おっさんが、喘ぎまくってどうすんの。今朝のすっごい甘い恋人同士の会話みたいなのも恥ずかしい。いや、好きだっていい合ったから恋人だと思うけれども!)
 ごぼごぼと息を吐きだしながら頭まで沈んだ。息が苦しくなった時点で顔を出した。
(テオも趣味が悪い。俺の事好きだなんて。もっと綺麗な子も選り取り見取りだと思うのに…)
 そう思うと胸がチクリと痛む。

 長い間入っていたみたいで、ツォ―が心配して見に来てくれた。
 朝食は軽いものばかりだった。
「今日は午後は神殿で祈りを捧げましょう。神事も神子様のお仕事になります。」
 部屋に戻ったら綺麗にベッドメイキングされていて、更に小瓶には補充がされていて、恥ずかしさにツォ―と目が合わせられなかった。

 午前中の座学はなんとか終え、この国の歴史やら社会情勢やらが知識としてわかってきた。今日はツォ―の視線がちょっと痛かったけど。
 そして午後、神殿に初めて俺はやってきた。ツォ―に案内されて、神官長のもとへやってきた。彼が神託を受けた人だという。

 俺がこの世界にやってくるという神託があったんだそうだ。そして神子が現れるという召喚の間に待っていると俺が現れたんだそうだ。俺を迎えたのは、神官長とツォ―と王様。
 王様ができる限り俺を迎える人数は絞りたいと言ってそうなったらしい。
(じゃあ、俺を着替えさせてくれたのはその三人か)
 まあ、いろんな人に囲まれていたら怖かったと思うから、それでよかったけど。
 考えごとをしていたらいつのまにか神官長の部屋に着いた。辺りはシンとしていて人の気配がないように感じられた。

 ツォーはある扉の前に立ち止まるとノックをした。
「神官長、神子様をお連れしました。」
「入りなさい。」
 凛とした、男の声が響いた。ツォ―が扉を開けて中に入るよう促した。
「失礼します。」
 軽く頭を下げて中に入るとそこはいかにも書斎という感じの部屋だった。書架が一辺の壁一面にあり、大きな窓と、応接セット、窓の近くに大きな執務机があった。
 書類だらけのその執務机で仕事をしていた人物が立ちあがってこちらへと歩みよってきた。よく、教会の司祭が着ているような白の衣装で長い上着と長いスカートのような衣装だった。縁取りは輝く青色の刺繍がしてあった。

 白い長い髪で、柔和なやや皺の目立つ長身痩躯の老人だった。
「うむ。お身体の方は問題ないようで何より。どうぞ、そちらにお座りください。」
 勧められるままソファーに座った。ツォ―がお茶の支度をしてくれた。
「本日は神子様がいらっしゃるということで、私以外はこの神殿にはおりません。まだこちらの世界に不慣れな御身。お会いになる人物は絞った方がいいだろうと、勝手ではございますが手配させていただきました。」
 ああ、それで誰にも会わなかったのか。

「ありがとうございます。」
 それからしばらく雑談をした。俺が来た当初、身体に怪我を負っていたので治療してもらったこと。(目覚めたのは来てから一週間くらいたって、全快したときらしい)
 着替え等は王様がやると聞かなかったこと。俺には加護があること。身体がこの世界になじむまで一年ほどかかるということ。神子としての力も一年かけてなじませていくのだとか。その間にこの世界に慣れて、この世界に生きる覚悟と、王様との関係を決めて欲しいということ。

「しかし、神子様はその、王と親しくしておられるご様子。安心いたしました。王と深い結びつきを神子様が得られることはこの世界にとって僥倖でありますゆえ。」
 にっこりと笑って言われたこと。神子と王様の関係はやっぱり重要なことみたいだ。
「はい。ご配慮ありがとうございます。ツォ―も凄くよくしてくれて。俺に出来ることはしていきたいと思っています。」
 しばらくお茶を楽しんで退出した。ほっとした。いろいろ無理強いをしてくるような宗教関係者じゃなかった。

「ツォ―ありがとう。ほんとに感謝しているよ。あわないけど、食事作ってくれている人とか、陰で働いている人もいっぱいいるでしょう?その人たちにも感謝しているから機会があったらあってお礼を言いたい。」
 今度は祈りを捧げる部屋に案内されながらそんな話をした。
「ハルヒサ様ありがとうございます。」
 ツォ―は嬉しそうに微笑んで言ってくれた。

 この神殿の礼拝堂は王族と一部の貴族、神殿関係者しか入れないそうだ。こじんまりしている簡素な感じだが、恐ろしく手を掛けられているような感じがした。空気も静謐で、荘厳、というのはこのことかと、腑に落ちたくらいだ。
 正面にはこの世界の神、ラウ神とタリア神がお互いを向いて片手同士を触れ合わせている立像があった。元の世界で言うステンドグラスから注ぐ日の光が色とりどりに像を浮き立たせていた。
 フロアはその台座から雛段になっていて、正式な神事の際は二段目に大司教、次の段に司教、神官長、次の段に神官と、身分順に並ぶらしい。

 最上段は神子だ。王と伴侶になっていれば王も並ぶ。
 その下には参列者の座るベンチが中央の通路を挟んで並んでいた。俺達はその真ん中の通路を進み、最前列まで来るとそこで跪いた。手を組んで祈りを捧げる。
 この世界で祈りとは心の中で神に感謝を捧げて自身の行いを告白し、許しを得、また望みを願い、実現への糧とするということだった。

 では神子としての祈りとは何だろう?
 この世界の平穏ではないか、と思うのだ。

(天にあらせられる、ラウ神様、タリア神様、感謝を申し上げます。私がこの世界に呼ばれたこと、幸運と思っています。この世界は私に優しくしてくれます。ですから私は恩を返したい。この世界に平穏と恵をもたらしていただけますよう、お願い申し上げます。)

 俺はずいぶんと熱心に祈っていたと、あとで、ツォ―に教えてもらった。神気が溢れていたんだと、興奮して語るツォ―に若干引いてしまったが、務めを果たした気になって胸のつかえが下りた気がして、ほっとした。

 そして、祈りは日課となった。午後の昼過ぎの時間を充てることになった。もし何かあれば、朝もしくは夕方にずらすことも決まった。

 この世界に来てから約2カ月。俺は徐々に、この世界に慣れてきていた。
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