蒼銀の竜騎士

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
25 / 30
戦争

論功行賞

しおりを挟む
 開戦の合図に竜騎士団は空に舞い上がる。
 私を先頭に槍のように隊列を組んで、一気に味方も敵も飛び越えた。

「竜騎士団だ!」
「解散したんじゃないのか?」
「復帰したんだ、蒼銀が乗っているぞ!」
「あの白いの、ワイバーンなのか?」

 矢や、魔法が飛び交い、歩兵が敵に向かっていく。
 それを眼下に見ながら一気に敵陣に突っ込む。
 隊員たちは弓や魔法、それぞれの投擲武器を駆使し、遠距離攻撃ができるものを射程外から潰していく。さらに風魔法をドナートが撃ちだし、広範囲の敵兵が倒れ込んだ。
 帝国は魔術師があまり育たない。魔力が多いものが生まれてこないのだ。
 希少な魔術師は後方にいて、司令官や将官を守っている。
 今の風魔法も、しっかりと防いだようだった。
 そして、その魔術師たちが、魔法を私にめがけて撃ってきた。

『だが私に魔法は効かぬ。』
 龍の纏う風の壁に阻まれて攻撃魔法は私と龍に傷一つもつけることは出来なかった。
 龍は下降すると、敵の総大将の防具を爪に引っ掛けて釣り上げた。
 ドナートは影縛りの魔法を使い、副官らしき将を捕らえた。
(アクア)
『呼んだか、主』
(水で洗い流して、遠くまで)
『容易い事だ。』

 アクアは顕現せずに魔法のみを行使してくれた。
 津波のように大量の水が押し寄せ、帝国兵だけを帝国側へ押し流していく。
 陣も、兵站も何もかも。

 誰かが息を飲む音が聞こえたように思う。

「よし、本陣へ戻るぞ。」

 手でサインを出し、本陣へと戻る。
 王の前に捕虜を投げ出し、待機していた場所に降り、下竜して王の前に行く。
 すでに二人の帝国司令官は縄を打たれて近衛に抑えられていた。

「よくやった。」

 そう、王と、こっそりと大魔導士から言われた。

 味方の死傷者は1%に満たず、相手の死者も少なかった。魔法で流された者の中にはかなりの怪我を負ったものもいたようだが仕方ない。
 帝国側は敗北を認め、国の境界を決戦の行われた平原の真ん中にし、司令官の引き取りの際、多額の賠償金を払った。
 常勝帝国の完全なる敗北に、周辺諸国は震撼した。
 そして、アルデリアの竜騎士団の存在も知れ渡ったのだった。

 ほとんどの戦後処理が終わり、主だった将校や貴族が、王宮の謁見の広間に集まった。
 この日は論功行賞が行われる。
 騎士の正装に身を包み、ドナートと二人、軍の末席に、跪いている。
 大魔道士だけが、まっすぐ立って王を待っている。

 一位は言わずと知れた大魔道士だ。
 私が脱落した後、戦線を押し上げた功績。

「私は、冒険者ギルドの依頼を受けたまで。依頼の成功報酬で充分です。ああ、今後無理な依頼は勘弁していただけると助かります。」

 王はこれに対して報酬の上乗せとギルドランクの新規創設を持って応えた。
 SSSランクの創設だ。
 これは勇者と大魔道士のみ。
 今後、二人の功績に匹敵する功績が認められたなら与えられる名誉的なランクだ。

 2位は私だった。

 王が望みがあれば言えといった。ではここぞとばかりに押し通してしまおう。

「では、恐れながら。まず、ドナートを私の伴侶に。そして、王族直轄地の湖と周辺を私の領地に。湖のほとりに私の屋敷を。そして5年の休暇をください。」

 静まった大広間。

 そしてしばらくして大魔導士が大笑いをした。

「いいんじゃねえの。ささやかな望みじゃねえか。な、王様。」
 そう大魔導士が王に声をかけるとビクリ、と王の身体が震えたように思う。

「英雄と言えど、不敬な。」
「第5王子殿下と言えども願いを3つも。」
「はて、二人ともメイルと聞いておるが……」

「あいわかった。そのように取り計らおう。」
 礼をして下がると、3位はドナートで。

「私の望みはクエンティン殿下と伴侶になること。それ以外は望みません。あ、いえ。側仕えと護衛騎士は変わらず頑張ります。」

「う、うむ。」
 王の戸惑った顔は見物だったが、空気がなんとなくおかしな感じになったのは仕方ない。
「うちの子はほんとにブレないな。」
 リュシオーン公爵の嘆きが聞こえたように思う。

 それから通常の褒章をして、下位の褒章に関しては各部隊、貴族軍士官に任せることとなり、目録だけの受け渡しになった。

 私も部下の褒章の目録をもらい、広間を出る。

「クエンティン。少し話があるのだけど、いいかい?」
 すぐ上の兄、ウェザルだった。

 休憩に使われる小部屋に寄り、出入り口にはお互いの護衛騎士が立った。
 お茶の用意はドナートがした。

「すっごく美味しい。うちの側仕えは紅茶の淹れ方が微妙なんだよね。」
 ドナートが防音結界を張った。
「それで、どのような用件でしょうか。」
「兄弟じゃないか。普通に話してくれよ。」
 私とドナートは顔を見合わせて頷いた。
「わかった兄上。」
 正直、すぐ上の兄とは交流がほとんどなかった。ウェザル兄は側配の実家に年の半分は行っていた、というのもあるだろう。南の防衛の拠点で、武を誇る家で、政略的な意味合いの深い婚姻であったはずだ。

「私をね、竜騎士団に一時配属させてもらえないかと思ってね。」
「え。でも、竜騎士団への協力は全員断られたと聞いたけど……」
「ああ、そのことなんだけど、私は断ってはいないんだよ。実はね、クエンティンが湖に落ちた件は非常にまずい事件だったんだ。君たちはほとんど社交界に出できていないからわからないと思うけど、表立って、気に入らない人間を直接的に消そうとした、と思われている。王になるべき人間が、そういう気質であるならば、暴君の予感がするじゃないか。だから、派閥の力関係がかなり私と、メッシーナに傾いた。特にメッシーナは王配の子だ。上の兄のやらかしで王太子はメッシーナになるのかと大変な騒ぎになった。」
 そう言って、紅茶を手に取った。口を湿らせてから、話を続ける。

「メッシーナに何か起こったら、次は私だ。だから、リスクの高い、竜騎士団に携わるのはまずい、ということで、上の方で協力を断ったんだ。それに君が竜騎士になりたいって願いを言っていただろう? だから、竜騎士団は君に任せることに決まったんだ。大魔導士グレアムも、君を気に入ってたみたいだし。あの人は怖い人だよ。私は魔力の圧が凄すぎて、彼には近寄れない。」
 ブルっとおどけて震える真似をする。

「そして戦争が始まって、竜騎士団は凄い活躍じゃないか。手のひらを返したように、持ち上げる。そして今回の活躍。王族が率先して、敵軍を撃破したんだ。あの戦争に参加した農民兵や、王都より遠い、領地の低位の貴族軍にいた者たちから英雄だと、噂になった。蒼銀の竜騎士、英雄クエンティン殿下、と。そうなると、次の王を巡っての、勢力図が変わってくる。君はもう、何でもない5番目の王子、ではなく、次の王に一番近い王子、なんだよ。」
 なんだそれは。要らないことを。知らないうちにそんなことになるとは。

「5年、休職するんだろう? その間、竜騎士団に王族がいないとまずいんじゃないか? ワイバーンを御すのに、何か必要なんだろう? だから私が行こうと思う。あの、白いワイバーンにのせてもらえたりするかな?」
 政治的な話から、一気に竜の話になった。
「もしかして、動物が好きだったり……」
「ああ。私の専攻は生物でね。魔物から家畜まで。ワイバーンの生態も興味ある題材なんだ。調べさせてもらってもいいだろう?」
 意気込んで言う兄に、私は緊張して握っていた手を、少し緩めたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...