蒼銀の竜騎士

佐倉真稀

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戦争

帝国との戦争

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 帝国は北方の国を何国か下し、一旦は矛を収めた。
 次の帝国の牙はどうやらアルデリアに向きつつあるようだった。
 帝国と隣接する、穀倉地帯を狙い、仕掛けてくると言う情報があちこちからもたらされている。

 竜騎士団が本格的に始動してから、もう5年が経つ。
 それぞれの騎士が自分のパートナーのワイバーンを持ち、すでに飛行は問題がない。
 戦術としては、空からの魔法、弓、石礫等の遠距離攻撃が主となる。
 相手の物理攻撃が届かない距離で蹂躙すること、それが竜騎士団の強みだった。

 魔術師の騎士は後列に置き、中列に弓、投擲部隊、前列に槍の物理部隊。
 飛んでくる魔法は魔道具、魔法部隊の盾魔法で防ぐ。
 槍や弓は届かないがたまに届く攻撃スキルを持つ者もいるので油断はできない。

 そして今日はお披露目飛行をする。
 竜騎士団が、他の王国騎士団の前で力を示す、デモンストレーションの場だ。
 場所は、竜騎士団の本拠地。
 士官以上の面々が首を揃えたこの場で、竜騎士団が空を舞った。
 普段はない熱気に、ワイバーンたちは多少興奮したが、概ね、普段通りに飛んでくれた。
 もちろん、王と兄たちも揃っていた。

「素晴らしい成果である。今後も精進せよ。」

 王からはそんな言葉と、兄たちからは様々な含みを持った目で見られた。
 私自身は一臣民になったつもりではあったが、王位継承権はいまだ私にもあった。
 最近王は少し年を取った気がする、前よりも小さく見えて、それをドナートに言えば。
「それはクエンが大人になったからだ。」
 そう言われた。
 もう私もダッドがいないと泣く子供でもない。
 政治は関わらないつもりだが、騎士団の団長という立場はそうも言ってられなかった。
 ワイバーンは金がかかる。
 雑食性だから草や木の実でもいいのだが、魔力を蓄えないと力が出ないので、魔力の豊富な肉を好む。
 国庫は有限なので、訓練ついでに魔の森で魔物を狩った。
 ワイバーンに索敵をさせて、乗り手の指示で仕留める。
 いい訓練になった。
 それからさらに3年、アルデリアとザラド帝国の間に戦端が開かれた。
 東の領地で小競り合いが起き、宣戦布告もないまま帝国軍は我が王国内に進撃した。

 そこから本格的な戦争へと拡大していった。
 始めは帝国と領土を接していた東側が侵略、略奪され数々の村や街が焼き払われた。
 彼らは暴虐の限りを尽くし、老人は殺され、フィメルは慰み者にされ、働き盛りのメイルや子供は奴隷として攫われた。
 収穫物や金品も軒並み奪われて、元の豊かさを取り戻すには何年もかかるだろうと思われた。

「酷い……」
 私とドナートは斥候として、現状把握にため、焼き払われた村を訪れた。
 上空からもわかったが、彼らは統治するつもりがないのか、荒らすだけ荒らしてアルデリアの領土を侵していった。
「現地調達と言えど、盗賊のほうがまだましな惨状とは。」
 悔しさに手を震わす私にドナートが手を重ねてくる。
「押し返さなければならない。俺達はもう、戦う力がある。」
「ああ、行こう、ドナート。我が国から、薄汚い盗賊を追い払おう。」
 私たちは、西へと進軍している帝国軍の詳細を調べて、王都へと現状を報告し、王都と東の彼らが山脈を超える前に、竜騎士団で足止めをすることになった。レスフィル侯爵が収める土地ゆえに、領軍と、周辺の貴族の派遣軍、モーデスが指揮する近衛軍、第一騎士団が足止めをしているうちに迎え撃つ。

 私たち竜騎士団はいわゆる先遣隊、および遊撃隊だった。

「初出陣だ。危なくなったら、逃げ…いや撤退していい。これは初戦だ。ある程度打撃を与えたら離脱し、時間を稼ぐように交代で、仕掛ける。いいな。」
 鬨の声が上がり次々と空へ武装した竜騎士団が編隊して飛ぶ。
 進軍する帝国軍へ上空から魔法を浴びせた。

「な、なんだ?」
「ワイバーンの群れが!」
「なんだと?」
「人が乗ってるようです!」
「まさか!」

 地上は大混乱だった。
 そうして、アルデリアにワイバーンに乗って戦闘をする、竜騎士団があると、他国に示した初めての戦闘だった。

 それから帝国軍は何度も兵を送ってきて、その度に撃退した。しかし、国境は押し上げられて住民は王都周辺へと逃げてきていた。

 竜騎士団がいなければ、もっと押し込まれていたかもしれない。
 そう思わせる戦果を挙げてきていた。
 そうして3年、戦争は膠着状態になっていた。
 お互い多大な犠牲を払って、落としどころを失っているというべきか。
 地形のせいか、いくつかの方面から侵略されて戦力を散らされていた。

 竜騎士団と本来の軍との連携がまだ、うまくいってない。
 それを突かれて一進一退になる。
 戦闘経験もまだ積んでいる最中で、戦争慣れしている帝国軍と戦争慣れしてない我が王国軍は徐々に押されてきていた。

 そしてその日、敵軍からの攻撃に、プルシェの翼膜が貫かれた。
 錐もみ状態で私たちは落ちた。
 途中、プルシェは何度も体勢を立てなおそうとして、魔の森の方向へ流された。

「クエン!」
 ドナートの声が聞こえたが、すぐに追ってこられる状態ではないのをわかっていた。

 私は自分が投げ出されそうになるのを、ベルトで止められて、魔の森の木々にぶつかりそうになるのをプルシェが庇ってくれたのを感じた、それを最後に私は意識を失った。

 私は木に吊るされた状態で、目を覚ました。
『プルシェ……プルシェ?』
 ああ。そうか。私は喪失に痛む胸を押さえて、ベルトの留め具を外した。

 プルシェの亡骸を葬って、索敵をする。
 とりあえずは魔物も、帝国軍もいない。
 剣戟も、ワイバーンの舞う姿も、何も。
 魔力は残り少なく、アクアを呼ぶわけにもいかない。
 腰に括りつけてあったマジックバッグにそっと手を伸ばした。
 テントを張って、結界を張った。
 中に入って少し休むことにした。
 帝国軍兵士に囲まれたらまずいことになる。私は指輪にそっと手を置いた。
 まだ、まだ呼ぶほどではない。
 魔力回復薬はもうすべて消費していた。多少の水と携帯食料が1日分。
 私は転移魔法は使えない。
 ここが魔の森のどこであるかは、わからない。狼煙を上げるわけにもいかず、詰んでいるなとそう思って目を閉じた。

 身体が、熱い。
 ドナート、助けて。
 ドナート!

 はっとして、目が覚める。

 まさか。
 まさか。

 こんな時に発情期、なんて。

「ドナート……助けて。」
 どうにもならない熱い身体を抱え込んで私は、蹲った。

(グレアム師匠、助けて)

「よく頑張った、クエン。」
 朦朧とする意識の中、懐かしい師匠の声が聞こえた。

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