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竜騎士団の始まり
竜舎
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お祝い客もすべていなくなり、静けさの戻った勇者の屋敷。
基本の体力づくりと基礎訓練を終えた私たちに大魔導士が声をかけてきた。
「二人とも、工房に来てくれないか?」
案内された工房は、二人が居室としている階にあった。
部屋に入ると大きい作業机と、機材があちこちに置いてあった。
見たことのないモノばかりで、ドナートの鼻息が荒い。
大魔導士に質問を連呼している。
基本、ドナートは研究者気質だなと思う。
そこらへんも、大魔導士に傾倒する一因なのかもしれないと、そう思った。
「これが騎乗具なんだが、馬につけるのを基本にして改良したものだ。普通手綱を操って意思を伝えるようにするだろう? あいつら馬鹿だからわからないみたいでな。ここに、魔石を付けて、命令を直接送り込むかって話になったんだ。ほんと、馬は利口でいいよな。スプレイニルなんか、自分で判断して、魔物を蹴散らしながら馬車引いてくれるのになあ。」
スプレイニルが馬車を引く? 聞いたことはないと思いながらもとりあえず説明を聞く。
「で、そこで問題発生。意思疎通がそもそもできないので、上位のもの、あるいは竜種支配のスキルのあるものからしか、命令を受け付けないらしくてね。そこで、その時の王族の中から竜騎士団をまとめよう、って話になったのはいいんだが、今の成人した王族の中でワイバーンに乗って空を飛びたいってやつがいない。いるのはまだ成人していない、クエンだけだ。そこで、クエンにも、この騎乗具の開発に協力してもらう。」
私はこくりと頷く。
「この魔石に魔力を流してくれ。」
手綱の根元についている魔石に手を触れて、魔力を流す。すると魔法陣が魔石の中で浮かび上がって発光する。
「ああ、それくらいでいい。」
魔石に発光の光が満ちたところで止められる。
「あと、49ほどあるからよろしくな?」
私はすべての魔石に魔力を通したところでひっくり返った。
「この魔力不足はいかんともしがたいな。もう少しトレーニングして、魔力を伸ばさないとダメだな。よし、この魔力回復ポーション飲みながら頑張ろう。」
大魔導士が提案したのは使い切って上限値を伸ばす、という方法だ。その度にひっくり返るのはまずいので、ポーションを飲みながら、魔法を使って、倒れる一歩手前に寝る前までにし、最後の仕上げに寝る前にライトの魔法を使い制御の練習をしながら、使い切ってしまうというものだった。
アクアにはその間極力寝てもらうことになった。
大魔導士が騎乗具の調整をする合間に、魔法を使う訓練を受けた。魔力を極力使わない魔法の使い方だった。
特に、回復魔法と治癒魔法、強化魔法と言われる補助魔法を集中的に教わり、更に水属性の上位属性、氷属性、空間魔法のアイテムボックスの使い方、光属性の攻撃魔法、等いろいろなことを教えてもらった。聖属性も使えそうということで、アンデットを一掃できる範囲魔法、聖属性の付与なども覚えた。
逆にその間、ドナートは剣技を勇者に鍛えてもらっていた。剣をふるうドナートは、かっこよかった。
そうして2週間が過ぎるころ、私たちは初めて竜騎士団のある、魔の森近くの竜舎へと行くことになった。試作品を試すためだ。
転移魔法でいくと言われて、手を繋ぐ。そうして次の瞬間には山の上にいた。
ギャアアアア
途端に響いてきた、魔物の声。
「ほんと鳴き声うるせえよなあ。あいつら。」
頭を掻く大魔導士はフードを被って、王都の広場にある像の姿になる。
「こっちだ。半分は繁殖場のようになっているから、頭上に気を付けろ。」
頭上、と言われて空を見る。黒い点が上空に見えて、それが旋回していた。
山頂の山肌は岩が露出していて、その向こうに森が見える。黒々とした森には濃い魔素を感じた。
「あの向こうは魔の森だ。そのずっと向こうに龍の住処がある。今はこっちに日に2度くらいは来てるかな。制御できるようになれば、もう龍は来なくてもいいんだが……」
『早くこやつらを何とかせい。』
いきなり頭に声が響く。守護龍だ。
「今回の騎乗具で何とかできると思う。あと1年すればクエンが、竜騎士団を創設してくれる。」
『ああ、あ奴か。ふむ。待っておるぞ。』
そう言って念話が切れた。
「あ、あの……騎士団て、まだ?」
「ああ、一応人員は確保してるが、ワイバーンに乗ることはできてないな。そのための騎乗具だ。テイマーの素質のあるやつを選出したんだが、ワイバーンクラスを扱える奴はなかなかいなくてな。事実上、騎竜部隊は存在するが、機能していない。今いるのはテイマーで、主にワイバーンの世話だな。じゃないと食い殺される。この山は結界を張ってあいつらが外に飛び出さないようにしているんだ。ワイバーンに襲われるのは災害と一緒だからね。まあ、龍が脅しかけてるから、どこかにはいかないけど。」
思ったより、竜騎士になるのは難しいのだろうか、とそう思った。
「まずはワイバーンを調教する必要がある。その次は騎士の訓練、竜を使った戦闘訓練、最後はほかの兵との合同訓練。道のりは長いな。帝国は今北方を攻めているが一息ついたら穀倉地帯を狙ってくる。北方にはもう少し粘ってほしいところだな。多分そう、時間はないだろう。」
ごくりとつばを飲み込む。王都は今は平和だが、帝国に蹂躙される未来もある。
それは阻止したい。
「まあ、俺達も、この国に住んでいるから協力くらいはする。」
大魔導士にぽんと頭を軽く叩かれた。フードからのぞいた口元が優しく笑っていた。
竜舎も、その近くに築かれた兵舎も石造りだった。そのうち砦を作るらしい。
いきなりの英雄と王族の訪問に、兵舎は大騒ぎとなった。
私は、予告してなかったのか、と思った。
1週間ほど滞在予定と、大魔導士は責任者に告げていた。
慌てて整えられた部屋は将来、この騎士団の団長が使う予定の部屋だった。学院の部屋より小さいが兵舎の規模からすると一番いい部屋だった。ドナートは隣の副団長の部屋だ。
勇者と大魔導士は敷地内でテントを張る、と言っていた。騎士たちは恐縮していたがテントのほうがいいと言って、譲らなかった。
「お風呂はないね。残念だ。」
執務室と、それに続く寝室はそれなりに格式高く作られていたが、勇者の部屋のような浴室はなかった。
「茶器やカトラリーを持ってきた方がよかったな。失敗した。」
ドナートが、お茶を淹れようと、簡易キッチンを確認していたら何もなかったらしい。
まだ、本格的に始動してないせいか、物資は最低限にしているようだった。
ベッドは辛うじてあり、部屋全体に浄化の魔法を使った。
「まあ、仕方ない。竜舎の方に向かうぞ。」
私たちは大魔導士が待っているはずの竜舎に向かった。
竜舎はワイバーンが飛び立ちやすい場所に面して作られていた。柵で兵舎とは隔てられ、結界もあった。その柵より兵舎寄りに私たちは立ち、案内役の竜舎の責任者から説明を受けた。
石造りの竜舎は窓というより無数の穴が開いていた。
「あれは、あの穴から出入りもできるようにしています。巣は洞窟の中に作る習性で、巣に卵があるときは巣の傍に寝るようです。そうでないときは広場で寝ています。」
責任者が生態を教えてくれた。
「卵にどうやら親の魔力を注いでるようです。それで親と覚えさせるようです。テイマーの間では卵のうちに魔力を注いで染めると御しやすくなるという噂がありますが、今のところ、卵を持ち出せないので証明はできません。」
「そうか。」
大魔導士がすたすたと竜舎に向かって歩いていく。
「あ、危ないですよ……グレアム様……」
慌てて責任者が止めようとするが、かまわず竜舎の前まで進んだ。
ぎゃあぎゃあと騒いでいた上空を飛んでいるワイバーンが降りてきた。縄張りを侵されたと思ったのだろうか。
『我に従え』
魔力が大魔導士から吹き出す。ローブが魔力ではためいた。
ドン、とワイバーンが、広場に降りてきた。落ちたのもいる。降りてきた個体は頭を下げて、恭順を示しているようだった。
恭順を示す個体に大魔導士が騎乗具を取り付けていく。
落ちた個体はどうも支配に逆らっているようだった。それには騎乗具は取りつけず、竜舎の中に入っていき、しばらくすると出てきた。中にいる個体にもどうやら取り付けたみたいだった。そして手に卵を持っていた。
「とりあえず、いくつか持ってきた。実験をしよう。騎乗具の実験は俺の支配の抜けた明日からだな。」
にやっと笑う大魔導士がそういうと、責任者はへなへなと地面に座り込んでいた。
基本の体力づくりと基礎訓練を終えた私たちに大魔導士が声をかけてきた。
「二人とも、工房に来てくれないか?」
案内された工房は、二人が居室としている階にあった。
部屋に入ると大きい作業机と、機材があちこちに置いてあった。
見たことのないモノばかりで、ドナートの鼻息が荒い。
大魔導士に質問を連呼している。
基本、ドナートは研究者気質だなと思う。
そこらへんも、大魔導士に傾倒する一因なのかもしれないと、そう思った。
「これが騎乗具なんだが、馬につけるのを基本にして改良したものだ。普通手綱を操って意思を伝えるようにするだろう? あいつら馬鹿だからわからないみたいでな。ここに、魔石を付けて、命令を直接送り込むかって話になったんだ。ほんと、馬は利口でいいよな。スプレイニルなんか、自分で判断して、魔物を蹴散らしながら馬車引いてくれるのになあ。」
スプレイニルが馬車を引く? 聞いたことはないと思いながらもとりあえず説明を聞く。
「で、そこで問題発生。意思疎通がそもそもできないので、上位のもの、あるいは竜種支配のスキルのあるものからしか、命令を受け付けないらしくてね。そこで、その時の王族の中から竜騎士団をまとめよう、って話になったのはいいんだが、今の成人した王族の中でワイバーンに乗って空を飛びたいってやつがいない。いるのはまだ成人していない、クエンだけだ。そこで、クエンにも、この騎乗具の開発に協力してもらう。」
私はこくりと頷く。
「この魔石に魔力を流してくれ。」
手綱の根元についている魔石に手を触れて、魔力を流す。すると魔法陣が魔石の中で浮かび上がって発光する。
「ああ、それくらいでいい。」
魔石に発光の光が満ちたところで止められる。
「あと、49ほどあるからよろしくな?」
私はすべての魔石に魔力を通したところでひっくり返った。
「この魔力不足はいかんともしがたいな。もう少しトレーニングして、魔力を伸ばさないとダメだな。よし、この魔力回復ポーション飲みながら頑張ろう。」
大魔導士が提案したのは使い切って上限値を伸ばす、という方法だ。その度にひっくり返るのはまずいので、ポーションを飲みながら、魔法を使って、倒れる一歩手前に寝る前までにし、最後の仕上げに寝る前にライトの魔法を使い制御の練習をしながら、使い切ってしまうというものだった。
アクアにはその間極力寝てもらうことになった。
大魔導士が騎乗具の調整をする合間に、魔法を使う訓練を受けた。魔力を極力使わない魔法の使い方だった。
特に、回復魔法と治癒魔法、強化魔法と言われる補助魔法を集中的に教わり、更に水属性の上位属性、氷属性、空間魔法のアイテムボックスの使い方、光属性の攻撃魔法、等いろいろなことを教えてもらった。聖属性も使えそうということで、アンデットを一掃できる範囲魔法、聖属性の付与なども覚えた。
逆にその間、ドナートは剣技を勇者に鍛えてもらっていた。剣をふるうドナートは、かっこよかった。
そうして2週間が過ぎるころ、私たちは初めて竜騎士団のある、魔の森近くの竜舎へと行くことになった。試作品を試すためだ。
転移魔法でいくと言われて、手を繋ぐ。そうして次の瞬間には山の上にいた。
ギャアアアア
途端に響いてきた、魔物の声。
「ほんと鳴き声うるせえよなあ。あいつら。」
頭を掻く大魔導士はフードを被って、王都の広場にある像の姿になる。
「こっちだ。半分は繁殖場のようになっているから、頭上に気を付けろ。」
頭上、と言われて空を見る。黒い点が上空に見えて、それが旋回していた。
山頂の山肌は岩が露出していて、その向こうに森が見える。黒々とした森には濃い魔素を感じた。
「あの向こうは魔の森だ。そのずっと向こうに龍の住処がある。今はこっちに日に2度くらいは来てるかな。制御できるようになれば、もう龍は来なくてもいいんだが……」
『早くこやつらを何とかせい。』
いきなり頭に声が響く。守護龍だ。
「今回の騎乗具で何とかできると思う。あと1年すればクエンが、竜騎士団を創設してくれる。」
『ああ、あ奴か。ふむ。待っておるぞ。』
そう言って念話が切れた。
「あ、あの……騎士団て、まだ?」
「ああ、一応人員は確保してるが、ワイバーンに乗ることはできてないな。そのための騎乗具だ。テイマーの素質のあるやつを選出したんだが、ワイバーンクラスを扱える奴はなかなかいなくてな。事実上、騎竜部隊は存在するが、機能していない。今いるのはテイマーで、主にワイバーンの世話だな。じゃないと食い殺される。この山は結界を張ってあいつらが外に飛び出さないようにしているんだ。ワイバーンに襲われるのは災害と一緒だからね。まあ、龍が脅しかけてるから、どこかにはいかないけど。」
思ったより、竜騎士になるのは難しいのだろうか、とそう思った。
「まずはワイバーンを調教する必要がある。その次は騎士の訓練、竜を使った戦闘訓練、最後はほかの兵との合同訓練。道のりは長いな。帝国は今北方を攻めているが一息ついたら穀倉地帯を狙ってくる。北方にはもう少し粘ってほしいところだな。多分そう、時間はないだろう。」
ごくりとつばを飲み込む。王都は今は平和だが、帝国に蹂躙される未来もある。
それは阻止したい。
「まあ、俺達も、この国に住んでいるから協力くらいはする。」
大魔導士にぽんと頭を軽く叩かれた。フードからのぞいた口元が優しく笑っていた。
竜舎も、その近くに築かれた兵舎も石造りだった。そのうち砦を作るらしい。
いきなりの英雄と王族の訪問に、兵舎は大騒ぎとなった。
私は、予告してなかったのか、と思った。
1週間ほど滞在予定と、大魔導士は責任者に告げていた。
慌てて整えられた部屋は将来、この騎士団の団長が使う予定の部屋だった。学院の部屋より小さいが兵舎の規模からすると一番いい部屋だった。ドナートは隣の副団長の部屋だ。
勇者と大魔導士は敷地内でテントを張る、と言っていた。騎士たちは恐縮していたがテントのほうがいいと言って、譲らなかった。
「お風呂はないね。残念だ。」
執務室と、それに続く寝室はそれなりに格式高く作られていたが、勇者の部屋のような浴室はなかった。
「茶器やカトラリーを持ってきた方がよかったな。失敗した。」
ドナートが、お茶を淹れようと、簡易キッチンを確認していたら何もなかったらしい。
まだ、本格的に始動してないせいか、物資は最低限にしているようだった。
ベッドは辛うじてあり、部屋全体に浄化の魔法を使った。
「まあ、仕方ない。竜舎の方に向かうぞ。」
私たちは大魔導士が待っているはずの竜舎に向かった。
竜舎はワイバーンが飛び立ちやすい場所に面して作られていた。柵で兵舎とは隔てられ、結界もあった。その柵より兵舎寄りに私たちは立ち、案内役の竜舎の責任者から説明を受けた。
石造りの竜舎は窓というより無数の穴が開いていた。
「あれは、あの穴から出入りもできるようにしています。巣は洞窟の中に作る習性で、巣に卵があるときは巣の傍に寝るようです。そうでないときは広場で寝ています。」
責任者が生態を教えてくれた。
「卵にどうやら親の魔力を注いでるようです。それで親と覚えさせるようです。テイマーの間では卵のうちに魔力を注いで染めると御しやすくなるという噂がありますが、今のところ、卵を持ち出せないので証明はできません。」
「そうか。」
大魔導士がすたすたと竜舎に向かって歩いていく。
「あ、危ないですよ……グレアム様……」
慌てて責任者が止めようとするが、かまわず竜舎の前まで進んだ。
ぎゃあぎゃあと騒いでいた上空を飛んでいるワイバーンが降りてきた。縄張りを侵されたと思ったのだろうか。
『我に従え』
魔力が大魔導士から吹き出す。ローブが魔力ではためいた。
ドン、とワイバーンが、広場に降りてきた。落ちたのもいる。降りてきた個体は頭を下げて、恭順を示しているようだった。
恭順を示す個体に大魔導士が騎乗具を取り付けていく。
落ちた個体はどうも支配に逆らっているようだった。それには騎乗具は取りつけず、竜舎の中に入っていき、しばらくすると出てきた。中にいる個体にもどうやら取り付けたみたいだった。そして手に卵を持っていた。
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