蒼銀の竜騎士

佐倉真稀

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貴族学院

紅茶※

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 ドナートは、自分から下着とズボンを脱いでくれた。
 現れたのは私より一回りも大きい、象徴だった。
 血管が浮かんで、先端はぬらぬらと濡れていた。
「僕のより大きい……」
 ごくりと喉を鳴らして、思わず呟くとドナートはふっと笑った。
「クエンのも、大きいじゃないか?」
 私は口を尖らせて、見比べた。
「別に、とってつけたようなこと言わなくてもいい。」

 ドナートはくすくすと笑った。久し振りに見た、上機嫌なドナート。
 貴族学院に入ってから、張りつめていて、ピリピリとしていたから少し心配だった。

 私は手を伸ばして、そっと触れた。
 幼馴染だが、そう言えばこんな風に触ったことはない。
 着替えの時は実は一人でする。
 使用人の数が少ないのもあるが、王族の肌はみだりに見せてはいけない、んだとか。
 それで服を一人で着られるようになって以来、肌を晒したことはなかった。
 もし掴んだことがあればそれは、一緒に育てられていた幼児の頃だろうと思う。

 手の中のドナートは熱かった。
 先端をぺろりと舐めると、ピクリと震えた。嬉しくて夢中で舐めた。確かに甘い。それを飲み下すと喉が熱かった。
「クエ、ン……」
 は、と熱い吐息がドナートから漏れる。それだけで背筋が震えるほど、嬉しかった。

 私が、ドナートを興奮させている。

 私の少ない、閨知識でも、メイルがこうなるのは、少なくとも興奮して性的興味を持っているから。
 嫌いな相手にこんな風になるわけがない。
 物理的な刺激が加えられたとしても、ここはデリケートなのだと知っている。

「ドナート、気持ち、イイ?」
 口を離して見上げると、ドナートの紅潮した顔が見えて、綺麗な緑の目が欲情の色を湛えていた。
「ああ、もちろん。クエンにしてもらえるなんて最高だ。」
 涎の橋が口元とドナートの象徴にかかっていた。

「クエン、色っぽい……」
 ドナートの指が私の唇を拭った。その唾液が付いた指をドナートが舐める。
 かあっと、頬が熱くなった。慌てて下を向いて、ドナートにされたようにドナートの昂りを刺激した。
 ちゅうちゅうと先端を吸い上げて、幹を指で刺激した。

 脈打つ昂りは硬くなって震えた。
「クエン、出る……」
 小さく呟いたドナートの声に、一層指で刺激して、深く咥えこんだ。
 喉奥に熱いものが放たれて、それがドナートのものだと、わかった。咽かえるほどの甘い匂いにくらくらとした。
 出されたものを飲み込んで、自分がされたように舐めとると口を離した。

「クエン……」
 ドナートが私を押し倒した。
 見上げると切なそうな瞳で私を見ていた。
 おずおずとその背に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。

「ドナート……」
 顔が近づいてきて、唇が私の唇に触れて、そっと吸い上げられた。
 本当のキス。
 夢で見たドナートとのキス。

「……ん……」
 私の唇を割って、ドナートの舌が入ってきた。私のそれを探して、口中を舐め回す。
 くすぐったくて気持ちよくて。
 自分からも絡ませて擦った。きつく吸われて息ができなくてくらくらした。
 鼻でするんだ、と言われて息を止めていたのに気付いた。
 薄い寝間着越しに感じる、ドナートの体温。鍛えられた身体の感触。
 裸で抱き合ってしまいたいと、そう思った。
 何度も貪るようにキスをして。
 離れがたいけれど、もう起きなくてはいけない時間だった。

「ドナート。主の命令だ。」
 パチパチっと驚いたようにドナートが目を瞬かせた。
「はい、クエンティン様。」
「今夜からは、ここで寝ろ。」
「え。」
 思い切り、驚いた顔をした。
 最近のすまし顔に少し不満だったから、意趣返しできたようで、満足した。
「ここ、ですか。」
 ドナートは救いを求めるように周りを見回し、ソファーを見た。
「ここだ。」
 ぱんぱんと、ベッドを叩いた。
 ドナートが目を手で覆ってベッドに突っ伏した。
「……本気ですか。」
「本気だ。護衛は主の側にいて、主を守らないといけないだろう。ならここがベストだ。」
「……本音は?」
「一緒に寝たいからに決まっている。もう冬だし、寒いからな。」
「-------ッ……」
「命令だぞ?」
「わかりました。その代わり、何が起きても知りませんよ。」
 ドナートががばりと起きて、脱いだ服を手に、側仕えの部屋に足を踏み鳴らして歩いていく。
「朝食を持ってきますから、その間に着替えておいてください。」
「わかった。」
 ドナートが出ていくと、はあ、と息が漏れた。

 奥底にしまったのに、期待してしまう。

(アクア)

『呼んだか、主。』

(その、えっと)

『閨事の時は眠っている。そうでなくても主は成長期で、魔力が必要だ。私はしばらく大部分を眠って過ごすから、安心していちゃついてくれ。』

(い、いちゃ……)

『お休み、主』

(アクア――――ッ)

 今度は返事はなかった。自由か。自由だろうな。精霊だし。
 でも、見ないでくれるのはありがたい。
 いちゃつくって。

 ため息をついて立ち上がると、制服に着替えるために自分に浄化の魔法をかけた。


 その日、授業と自主訓練が終わって、夕飯を食堂で食べた後、次の日の授業の準備、予習をしていた。
 ペンの音、本のページをめくる音だけが書斎に響く。
 ランプの油が減ってきたのか、部屋が少し暗くなってきた。
 ひと段落ついて、息を吐き出す。

「お茶を淹れてきます。」
 タイミングを計ったようにドナートがキッチンへ向かう。
 リビングに備え付けてある簡易なところだ。
 ドナートはお茶を入れる腕前もどんどんと上がって、完璧な側仕えになってきている。

 剣術も、魔法も、子供から、少年へ、変わった体躯もフィメルの憧れを呼ぶものになっていた。
 最近精悍さが加わって、日々、メイルらしくなっていく。

 ドナートは公爵の子息で、身分的にも高い。有望株だ。
 私の方は、フィメルにも見える顔立ちや、そっけない態度、王子の中では最も王位に遠いせいか、また兄たちとの力の関係もあって、今だ遠巻きにされている。

 まだ、私がメイルであると広まっているわけではないので、どちらかというとメイルの方からの視線が多い。

 いつまで、二人でいられるだろうか。
 この貴重な時間を逃したくなくて、今朝は強引に一緒に寝ろだなんて言ってしまったけれど。

 パタリ、とドアの閉まる音が響いて視線を上げた。
 ティーセットを手にしてドナートが戻ってきた。紅茶のいい香りが漂ってくる。
 綺麗な手つきで紅茶をドナートが入れる。もう夜なのでお茶菓子はなしだ。
 目の前に置かれたカップから、湯気が立ち上っている。

「美味しい。ほんとに淹れるの上手くなったな。」
 香りがふわっと立ち上り、口に含むと茶葉の甘みが来る。
 私が一番摘みの茶葉が好きだ、と言ったら、いろいろな国から取り寄せてくれているみたいだ。
 普通の紅茶より、薄い色合いが白いカップに映える。
「鍛えられたからな。」
 対面でカップを持って飲むのは、幼馴染のスタンスだ。
「ほんとに、ドナートは凄いよ。僕は勉強と鍛錬で精いっぱいだけど、僕の世話焼きのための修行もしているんだから。」
 ふいっとドナートの視線がそれる。ほんのり、目元が赤い。
 照れた。こういった仕草はまだ、可愛い年だ。お互いに。
「側仕え見習いだからな。できなきゃ、お前の側にいられないだろ。」

「……」

 心臓が、止まるかと思った。

「嬉しいな。あの時、ずっと一緒にいてくれるって、言ってくれたね。」
 嬉しくて微笑む。カップを置いて手を伸ばした。テーブルの上の、ドナートの手に。

「お前を、死なせたくないからな。絶対に。」
 その手を指を絡めて握られて、引き寄せるように少し引っ張られた。
 ドナートが椅子から腰を浮かす。
「うん。守って。」
 近づいてくる、ドナートの顔に、私はそっと目を閉じた。

 キスは、甘い紅茶の味がした。


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