アーリウムの大賢者

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
105 / 115
王都アルデ(ヒューSIDE)

王都アルデでデート

しおりを挟む
「久しぶり。ボルドール。俺の伴侶のメルト。今日はメルトの防具と剣を作ってもらいに来た。貸しを返してもらおうかと思ってね?」
 ボルドールが目を丸くした。なんだよ、その反応。
「カマをかけただけだったんだが。そうか、メルトか、よろしくな。まったく仕方ねえなあ。どんなのがいいんだ?」
 メルトが遠慮がちに口を開く。何でも言ってもいいんだよ?
「ええっと……俺は剣が得意で……その……ラーン王国の騎士団にいたので……片手剣と大剣を使います……」
「ラーンの騎士か。あそこは式典だと正装の全身鎧があったな。実戦は指揮官以外着てはいないみたいだったがな」
「あれ? ボルドール、ラーンの騎士団の鎧知ってるの? それに似た白銀の鎧作ってほしいんだよなあ。俺見たかったけどメルトは退団してるから見られないんだよ。それともう一つ。俺とパーティー組んで冒険者やるからダンジョンでも耐えうる防具と剣をお願いしたいんだよ」
 白銀は凄くメルトに似合いそうだからね。元騎士なんだから似合うに決まっている。
「あ、あの、ヒュー? 見たいだけなら俺の肖像画がラーンの王城に残っているから新年に城に行けば見られるぞ? 一般公開しているから……」
「え!? ほんと!? じゃあ、見に行こう! メルトのご両親にも結婚のお許しもらわないといけないしね」
 メルトはなんだか、自分に自信を持ってないようだし、ラーンは貴族主義的な国のようだから、手順を踏まないと結婚に納得してもらえない気がするんだ。
「う、うん……」
 メルトの手を握ってじっと見つめると、白い頬が赤く染まっていく。綺麗だ。

「ゴホン!!」
「なんだよ。邪魔するなよ。ボルドール」
「すまんな。俺もそう暇じゃないんだ。とりあえず採寸するから、採寸室に行ってもらえないか?」
「フィメルでお願いするよ? フィメルで……」
「あーわかったわかった。移動するぞ。剣のバランスも見ないといけないしな。素材は持ち込みか?」
「アダマンタイト、ヒヒイロカネ、ミスリル何でもござれ。ああ、守護龍の鱗があるぞ。この間大量に採取しておいた」
「お前、ちゃんと許可取ったのか?」
「掃除するって言ったらくれた」
 なんで頭を抱えるんだ。ちゃんと許可取るに決まってるだろうが。
「よし、鱗で防具だな。白銀ならちょうどいい。あの龍の鱗も白銀だろう。それで両方作ればいいか?」
「ボルドール話わかるね。日本酒差し入れよう」
「なに!? ブランデーはないのか?」
「あるある」
「よっしゃ。腕によりかけて作ろう!! まかせろ。俺が打つ」
 現金な奴だな。まあ、扱いやすくていいし、裏表はないからな。特別に限定物の高級酒、あげてもいい。
 採寸室につくとメルトが捨てられようとしている子犬の目をしてきた。可愛い。大丈夫、採寸だけだから。

「測ったデータ俺にくれよ。鎧下作ったりしなきゃいけないから必要なんだ」
「見てわかるとか、ないんだな。自分で測らせてもらえばいいだろう」
「何度も、採寸する必要ないだろ?」
「まあ、そうだが……」
 じっとボルドールが俺を見る。
「なんだよ?」
「もう吹っ切れたんだな。メルトに感謝だな」
「……ああ。もう、メルトしか見えないよ。メルトに何かあったら俺は世界を滅ぼす覚悟がある」
「おい、お前のその言葉は本気だろうから、めったに口にするなよ?」
「なんだ、止めないのか?」
「止めて止まるかよ。ハイヒューマンが。そんなんで止まるなら、怖れられてないだろうが」
 まあ、その通りだけどね。徹底的に潰してやる。もう、候補は二人いるんだ。
「よし、俺の全身全霊をかけて彼を護る防具を作るぞ。世界平和は俺の手にかかっている!」
「そんな大げさな……」
「いや、大げさじゃない。お前のそのメルトしか見えてない態度を見れば、世界の危機だって、ミハーラも言うだろうよ!」
「まあまあ。ほら日本酒」
「お、おう、ありがとう」
 ちょろい。

 ガチャリと音がして、涙目でメルトが出てきた。採寸はSAN値が削られるからな。
「ヒュー……」
「よしよし」
 ぎゅっと抱きしめて頭を撫でる。ああ、メルトのいい匂いがする。
「次は剣のバランスを見させてくれ。こっちだ」
 剣の見本が置いてある場所に案内される。メルトが一本一本振って確かめている。綺麗だ。
 メルトは姿勢がいいし、魔力頼りじゃない技術を持っている。
 それに武器の性能が加われば、そんじょそこらの破落戸や魔物なんか敵じゃなくなる。
 まあ、メルトに危害を加えるような奴は俺が処すけど、メルトは剣を使うこと自体が好きみたいだから存分に振るわせてあげたい。
「よし、調整は必要だから、一カ月半後くらいに一度来てくれ」
「わかった」
 俺たちはボルドールの工房を出た。もちろんブランデーも渡しておいた。

「次は服だね」
 馴染みの洋装店へメルトを連れて行った。そこでも採寸されてメルトはまた涙目になっていた。
 そこでは俺も採寸されて、注文を終えた。
 仕上がった服はセッテのところに届けてもらうことにした。支払いはギルドカードで済ませて、洋装店を出た。
 さて、非常に嫌だけど、本命の用事を済ませなきゃな。
「これでとりあえず、用事は終わり。ご飯食べて冒険者ギルドに行こうか?」
 メルトがは? という顔をした。忘れてたな。
「ああ。本命を忘れるところだった。お腹も空いたな」
「じゃあ、まずはお昼だな。食堂が集まっているところはこっちだ」

 手を握って引いて歩く。うん。デートだ。
 王都アルデで定番のデートといえばお洒落なカフェで食事だ。
 アルデリアはアーリウムの次に前世のような文明水準に達しているところだ。
 勇者が前世の地球出身ということもある。
 勇者に話を聞いた技術者連中がこぞって開発したせいもある。
 俺も手を貸した。
 自分の住むところは便利にしたいからね。
 そこでカフェという概念がこの国に定着したんだ。

 高級ブティックの並ぶ区画からちょっと裕福な平民が通う商店街の一区画。そこにはカフェやレストランが並んでいた。
 甘い香りが漂ってくる。パンケーキの香り。
「ここにしようか?」
 お洒落なカフェの前で俺は言う。一瞬メルトの視線が泳いだが頷いた。
「ああ、いいぜ」
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

処理中です...