アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

デート

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 渡された報酬を3等分して受付でギルドカードに入金した。割り切れない分は新しく作ったパーティー資産用の口座に入れてもらう。
 メルトはその間、ちらちらと依頼の張ってあるボードを気にしていて、何も言わなかった。あとで説明をしよう。
 メルトはランクが上がってEになった。Dも目前だ。ワイバーンを狩った実績が後押しになっている。さすがメルト。1月ちょっとでEなんて優秀なんてものじゃない。
 カードを見てメルトは顔を綻ばせた。

 ギルドを出ると日が真上にあった。
 昼だ。
 
「なあ、ヒュー、どこかでお昼を食べて行かないか?」
 とりあえず手は握っておこう。キュッと握り返されて俺の顔はだらしないことになっているのではないかと思う。
「あ、そうだね。同じ宿のお昼って芸がないしね。じゃあ、屋台や食事処のある方へ行こうか?」
「ああ。そうしよう。俺はお昼はたいてい依頼で外にいたから店で食べたことないんだ。楽しみだな」
 そっか。薬草採取でも数を熟すなら、一日中外にいないといけないからな。
「あ、これってデートだね。ランチデート」
 デートと言うと、メルトの顔が赤くなった。
「メルト、顔赤い。可愛い」
「か、からかうな」
 ますます赤くなって耳まで赤くなった。頬に手を当てて、メルトは顔を隠そうとした。
「可愛いんだもん。あ、屋台あるよ。屋台」

 俺達は南門の方へ向かっている。そっちは市場通りと呼ばれる通りがあって、その名の通り、いろんなものが売られているマーケットだ。屋台のようなワゴンが軒を連ねてにぎやかだ。食材ばかりでなく雑貨なども売られている。
 おやつ袋に追加するなら食材が必要だな。補充しておくか。
「よく勤務帰りに買っていたな」
「へえ、僕はもっぱら食材を買う方が多かったな」
 今日も買う。買うったら買う。
「ヒューは料理を作れるからな。俺は野営で狩った獲物を焼くくらいしかできないな。ずっと寮暮らしで宿舎の食堂で食べていたからな。もっぱら店か、こういった屋台のお世話になった」
 やっぱり騎士だから、騎士がいる宿舎で暮らしていたんだ。それじゃあ、自分で作る機会はないか。
「じゃあ、定番、串焼き肉を食べるのはどうかな?」
「賛成だ」

 いい匂いのする屋台に寄っていく。いろんな屋台を梯子するなら、量はいらないか。
「その肉は何?」
「オークだよ」
「2本ください」
「はいよ」
 ちゃりっと、小銭を渡す。こういった店ではせいぜい小銀貨までだ。鉄貨や銅貨、大銅貨くらいしか使わない。大体日本円で1本200円くらい。
 人の邪魔にならないところで齧りつく。調味料はシンプルに塩。調味料はなかなか平民が気軽に使うところまで、普及はしてない。採取じゃなく栽培をしないと流通量は増えないものな。塩は必須だから、そこそこの値段で売っているけれど。
「美味しい」
 メルトが肉を食べて笑顔になった。
「あっちの店は違うのを売っているよ」

 そこはホーンラビットの肉だった。ハーブを使っていて、爽やかな香りが淡白な肉にアクセントをつけていた。
 それから目につく屋台には寄って食べ歩いた。ガレットやスープ、果物。アルデリアでも一番北だからパンはライ麦を使ったものが多い。デンマークの有名料理のようにスライスしたパンの上に食材を載せたものも多く売っていた。
 俺はクリームチーズと燻製のハムを載せたものが気に入った。メルトは焼いた肉を載せたものが気に入ったようだった。
「凄くいろんな食べ物があるな」
 メルトの目が輝いている。俺も料理の参考になった。

「あ、ちょっと待って、メルト、買い物する。すみません、それとそれ、ください」
 小麦粉が売っていた。そば粉もある。こっちではガレットによく使う。その辺は前世とそう変わらない。
 果物と、ミルク、バター。蜂蜜があった。蜂蜜はダンジョン産と、魔の森産。どっちも上物。屋台でこれなら、店売りはもっといいものが売っているかもしれない。

「ヒュー、俺のポーチに入れるふりをしたほうがいい」
 こそっとメルトが耳打ちした。
 あ。
 やっちゃった?

「それと、支払任せてすまない。宿に帰ったら精算してくれるか?」
「え、必要ないよ。僕の役目だもの」
「はい?」
「恋人なんだから、僕が払うべきだよね? 見栄を張らせてよ」
「見栄?」
「恋人ならメイルはフィメルに払わせるわけにいかないんだよ」
「はあ」
 メルトは少し考えて自分の中で納得したようだった。
「わかった。ありがたく奢ってもらうことにする。ありがとう」
「どういたしまして」
 そんなこんなで、買い食いデートを楽しんだ。メルトは実に楽しそうだったので、俺も楽しかった。
 空が赤く染まる頃に宿に戻った。

 宿の部屋に入ると、俺は大人の姿になった。メルトを抱き寄せてキスをした。デートの最中に、朗らかに笑うメルトを見て、キスを我慢していたんだ。
 メルトはすぐに体の力を抜いて、キスに応えてくれた。
 唇を離すとなんだか甘酸っぱい空気になった。お互い照れている。
 こほんと咳払いして、事務的なものから片付けようと思った。

「メルト、パーティーのことなんだけど、受けた依頼の報酬は一対一対一にしようと思う。パーティーの共有財産、俺と、メルトで、均等に分ける。装備とか必要経費は共有財産から出すということにしよう。割り切れない端数は共有財産へ入れる、でいいかな?」
 メルトは頷いてくれた。よかった。
「それから、パーティー名なんだけど、勝手にきめちゃったけど、良いかな? 『守護龍の使徒』っていうんだけど……ほら、二人共龍に加護もらってるからね? 受付では多いんですよね、とか言われて生温かい目で見られちゃったけど」
「いや、良いんじゃないか? あの龍と仲がいいんだろ? ヒューは。あの龍にあやかってなら凄いパーティー名だと思う」
「メルト……」
 ネーミングセンスは問われなかった! よかった!

「コホン。ええと、依頼なんだけれど、龍に連れていってもらったワイバーンの件なんだ。ワイバーンの騎乗用具の作成依頼で、魔道具職人としての俺に宛てたものになっている。アルデリアの王都にある冒険者ギルドはギルドの本部でそのギルドの本部の長と言うかギルド統括の直接の依頼で、元は騎竜部隊の騎士団長からだね。今の王様の第一王子がその地位にいるかな。素材とかが王都にある俺の商会にあるから、そこで作って王都のギルドに収めることになるから、明日王都に出発しようと思う」
「要するに明日王都に行こうってことでいいか?」
「うん」
 俺は頷いてぎゅっと抱きしめる。柑橘系の香りを吸い込んだ。
「あ、あの、夕飯、夕飯の時間じゃないか?」
 メルトが訴えるので仕方なしに離れた。

「あー、うん。そうだね。ご飯食べたらお風呂に入ろう。まあ、そんなに慌てることはないからゆっくり出発で良いかなと思う」
 夜良い雰囲気になると、朝早くは起きられないと思うからな。

 下の食堂に行くとワイバーンのステーキがアラカルトであった。
 せっかくだから注文してみると、美味しかった。あの姿かたちで、雑食なのに、臭みもなく柔らかくて美味しかった。
 メルトの目が語っていた。
『他のワイバーンは売らずにいよう』
 メルトに捌いてもらって、自分たちで消費しよう。そうしよう。
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