アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

クエスト⑥

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 食事が終わったらお風呂だ!
 メルトが言っていたキスの先はまだっていうのは忘れてないけど……。
 いや、嫉妬でつい、悪戯したのは認める。
 でも、メルト嫌がってなかったんだけど。本気で嫌がったら俺もやめていた。
 もしかして、メルトは俺のこと、少しずつでも、好きになってくれてるんだろうか。

「先にお風呂入ろう。メルトが褒めてくれたお風呂だからね」
 手を繋いでテントのお風呂に向かう。元の姿の俺の手とメルトの手じゃ、大人と子供くらい差がある。悔しいので、脱衣所に入ったら大人の姿になった。
 繋いでいる手を引いて抱き寄せて口付けると、メルトの身体から力が抜ける。
 大分、心を許してくれていると、思うんだけどな。
 舌を差し込むと、メルトからも舌を絡めてくれるようになった。おずおずとした動きだけど、それが嬉しい。
 ああ、メルトのファーストキスは俺なんだっけ。凄く嬉しい。

 鼻に抜けた声で、俺を呼ぶメルトの甘い声が背筋をぞくりとさせる。
 唇を離してメルトを見つめた。上気した頬が色っぽくて、翠の瞳が熱に潤んでいる。
 いやがっている顔じゃないと確認して、俺はメルトの服を剥ぎにかかった。
 キスの余韻にぼうっとしているのか、全部脱がされて、声をかけるまで、動かなかった。
 シャワーを浴びて、メルトを洗う。メルトは為すがままだ。いや、俺を見ている?
 あれ? 視線が股間の方に釘付けになっているぞ。

「……メルト、さすがの俺でもそんなにガン見されると恥ずかしいんだけど……」
「え、あ、いや……その……改めてみると凄いなと……」
「え、そうかな? で、ナニが?」
 自分がにやにやした悪い顔になっているのを自覚する。ナニってナニだよね。わかってる俺の凶器のことだって。
「いや、それよりも入ろう、お風呂……」
 手を引っ張られて浴槽へ向かう。俺のナニよりお風呂なんだ。そっかー。
「それよりもなんだ……」
 メルトのクスッという笑い声に目を細めつつ浴槽に身を沈めた。

「ヒューのせいでお風呂好きになってしまったみたいだ。一カ月入らなかっただけでもう我慢できないくらいだった。浄化の魔法も使えないから、ずっと濡らしたタオルで拭いていただけだったしなあ」
「俺のせいって……まあ、俺のせいだけど。メルト、人前で汗拭う時、上半身裸になったりしてないよね? ちゃんと隠れて拭ってたよね?」
 目を逸らされた。これは?
「え、あ? そこまで意識してなかったから、どうだった、かな? うん、大丈夫だと思う?」
 これは本気で意識してなかったな? メルトはこんなに色っぽくて魅力的なんだから、襲われちゃう。ラーンの騎士団め。どうせメイルがフィメルの着替えを堂々と覗きたかったからそんな風習になったんだろう。
 北の方はメイル上位主義がまだ蔓延ってるって聞いたことあるからな。
 そもそもメルトを辞めさせることがおかしい。ラーンの騎士団は品行方正で、素晴らしい騎士団だって評判だったのにがっかりだ。

 思わずメルトを抱きしめた。メルトはあまり人を疑わないんだろう。もしかしたら悪意に気付かない可能性もある。
 酔ってるところをやられたのだってそうだ。そんなのただやりたかっただけだ。そいつが。初物食いたかっただけだろう。本気でメルトが好きならちゃんと言葉にして申し込んで、付き合ってからするもんだ。あー腹立つ。
「お、おい、ヒュー……」
「ダメだ。メルトはこんなに色っぽいんだからメイルの前でそんなことしたら、絶対襲われちゃう。絶対だめ」
「わ、わかった。色っぽいとかはちょっとわからないが、これからはヒューがいるから、ヒューに浄化してもらえば、それはしないですむだろう? 出来れば俺が浄化を使えるようになればいいんだが」

 ん?
 

 思わず体を離してメルトの顔をじっと見る。

 メルト、今言った言葉って告白のようなものだよ。ずっと一緒にいるって言ってくれたんだから。思わず嬉しくなって顔が緩んだ。あー今俺は締まりのない顔をしていると思う。
「うん。俺がずっと傍にいて、浄化するから! まかせて。メルトが魔法を使えるようになりたいなら、それも俺が頑張って使えるようにするよ?」
 驚いた顔でメルトが俺を見つめた。

「え? 俺が魔法を使えるようになるのか?」
「うん。前から言っているように治す手段はあるんだよ。ただ、そのう、直接触れて魔力を流し込んで治療しないといけないから、魔力の相性が悪いとできないっていうのと、セックスに近いことになっちゃうから……メルトと恋人にならないとって思っていたんだけど。今はお試し期間で一応恋人同士だから、メルトがいいっていうなら今夜からでも治療していこうか。すぐには治らないからしばらく続けないといけないけど……いいかな?」
 言ってくれるかな。お試し期間はいらないって。
「治るなら、お願いしたいのは俺の方だ。身体強化や生活魔法を人並みに使えることができるなら、俺はどんな治療でもいい。もちろん、ヒューだからって思っている。凄い魔術師だからな。ヒューは」
 あー。うん。メルトの信頼が重い。でも、メルトは魔法を使えないことに、相当なコンプレックスがあるみたいだ。
 そうだよな。この世界で生活魔法を使うのに苦労するものはほとんどいないから。

 ならば、全力で治そう。
「じゃあ、今夜から、ね?」
 俺は夕べと同じように風呂から上がるとメルトをしっかりと抱きかかえて寝室に跳んだ。
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