アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

クエスト①

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 テーブルに突っ伏して落ち込んでいるとおかしそうにメルトが笑った。
 メルトの笑顔に俺も笑った。
 ああ、メルトの元に戻れてよかった。

 エールを飲み干して、ギルドを出た。
「メルトどこ泊まってるの? 僕の泊まっている宿においでよ」
「いいのか?」
「もちろん!!」
 メルトの宿を引き払い、俺の泊まってる宿に連れてきた。
 連れてくる途中、メルトは周りを見つつ、「まさかな」と呟いていた。

「ここだよ」
「ここがヒューの泊まっている宿? 高級宿じゃないか」
 呆然とメルトは俺の泊まっている宿を見たあとそう呟いた。

 メルトは再度ヒューだからを呟いた後、覚悟を決めたような顔をして、宿を堪能することに決めたらしい。シャワーしかない浴室に、テントの方がいいかもと言ってくれた。
 どうやらお風呂を気に入ってくれたようだった。
 そうして一通り部屋を見回ったメルトを大人の姿になった俺は、抱きしめた。

「もっと早く会いたかった。待たせてごめんね。メルト」
 そう言ってやや高いところにある顔を見上げる。メルトは優しい笑顔をして横に首を振った。
「ちゃんと戻ってきてくれたから、いい」
 ああ、俺やっぱりメルトが好きだ。この居心地の良さは絶対メルトでしか、感じない。
「愛してるよ、メルト」
 俺は少し背伸びしてメルトに口付けた。メルトの唇はとても甘かった。
 これから、依頼をいっぱい受けて、ダンジョン行ってパワーレベリングして、ハイヒューマンになってもらって、いずれは結婚して一緒にずっと生きたい。

 メルトは許してくれるかな。俺の子供、産んでくれるかな。
 ああ、そうだ。恋人になってくれると言ってくれるだろうか。
 こうして待ってくれて、キスを受け入れてくれたってことは、俺に少しは好意があるんだよね。期待しても、いいよね?

 背中を抱く、メルトの手に力が籠って、唇が離れる。
 熱い吐息がお互いにかかって見つめあった。メルトが蕩けるようなうっとりした表情を見せていた。ああ、愛しい。 
「うん。ヒュー」
 照れた顔でそれだけやっといったメルトは、超絶可愛かった。
 これ、オッケーなんじゃないか?
 押し倒してもいいのでは?

 …………。

 …………。

 手を握って、メルトと一緒にベッドに向かおうとして、途中のテーブルの前で止まった。

 まだ、昼間だよな。夜じゃないととかお友達でいようとかまだ好きって思えないとか言われて断られたらダメージデカいな。
 うん。とりあえず、お茶にしよう。

 クエストの説明もしてなかった。
 俺はアイテムボックスから、紅茶のポット、ティーカップ、お砂糖にミルク、皿に盛られた焼き菓子を出して、テーブルの上に並べた。
 紅茶をカップに注いで対面に置く。
 メルトに椅子に座ってもらって、こほんと咳払いした。

 よし。ワイバーンの調査依頼の説明をするぞ。
「デッザを北門から出て魔の森の先に見える岩山にワイバーンの影を見たっていう情報が多数寄せられたんだ。そこで巣ができているなら、緊急討伐対象になる。ただ、卵があれば騎竜部隊に引き渡す案件だからその辺も見ないといけないね。俺には奥の手があるからあまり危険はないけど。メルトが危険な目に合うのは絶対に嫌だから装備はしっかり準備しないとね。通常、岩山へは4日くらいかかるようだね。途中に出てくる魔物も素材は売れると思うからどんどん倒していこう。メルトの薬草採取も途中でこなしてしまおうか?」
「わかった。俺は魔物を倒せばいいんだな?」
 メルトが紅茶を飲みながら頷く。俺は焼き菓子の皿をメルトに押しやった。

「基本メルトは前衛で頑張ってもらうね? それとメルトの装備に魔法陣付与するから出してね?」
「魔法陣?」
「物理衝撃緩和とか、耐物理耐性とか、いろいろ」
「俺の装備なんて剣はともかく、安いものだから魔法なんか付与できないんじゃないか?」
 メルトは革鎧に金属を張った胸当てと腰当て、手甲を外して俺に渡してきた。

 冒険者の標準的な装備だ。革もそんなにいいものではなかった。ラーンは金属鎧が標準装備だって聞いていたけど、自費で賄うってなったら、こうなるかな。
 メルトの腕ならそう攻撃を受けることはないだろうけど、万一の時ってあるからな。不意打ちは防ぐようにして、即死攻撃も無効にして、魔法耐性と物理耐性かな。物理衝撃緩和、この程度でいいか。

「まあ、金ができたら防具を買い替えるのも考えるが、今はGランクだからな」
 メルトは肩を竦めて見せた。買い替え……。
 うん。ボルドールに借りを返してもらう時なんじゃない?
 メルトの剣と防具作ってもらおうかな。死蔵しているレアな素材を吐き出せば、いいのが作れるだろうし。よし。楽しくなってきた。

 よしさっさと済ませちゃおう。手元の防具を見た。魔法陣を付与するにはある程度素材の質も必要になる。でも、俺には関係ない。
 素材の質を鑑定分析して上手いこと付与できるからだ。
 即死無効、打撃緩和、衝撃緩和、魔法攻撃耐性、物理攻撃耐性これくらいかな?
 魔法陣が空中に展開される。それが防具に吸い込まれるように消えた。
 鑑定してみると、しっかり効果がついていた。
 俺は満足げに頷く。まあ、見た目はさっぱり変わっていないんだけど。

「はい。大丈夫、そこそこ防御力上がったから」
 メルトがぽかんとした顔をしてテーブルに突っ伏した。
 あれ? どうしたんだろう?
「え? メルト? どうしたの? 気分悪いの?」
 むくりと起き上がったメルトは黙って菓子を口に放り込んだ。メルトはそれを咀嚼をして、表情が緩む。
「ヒューは少し、自覚したほうがいい」
 自覚? なんのだろう。メルトが大好きなのは十分自覚しているけれど。

 メルトが紅茶を飲んで、もう一つ菓子を口に放り込む。気に入ってくれたかな?
 この世界、砂糖というか、嗜好品はやっぱり貴族や富裕層なら食べる機会は多いけれど、平民にはまだまだ、手を出せる品じゃない。うちの実家だって、このタイプの焼き菓子は作ってなかった。砂糖そのままのお菓子とかだったかな。パウンドケーキもどきはあったけど。実家の領で砂糖を普及させるまで、すったもんだしたっけ。
「あ、それ俺が焼いたんだ。どう? 美味しい?」
 くわっとメルトが目を見開いて菓子を凝視し3個目を手に取って、俺を見た。
 あ、獲物を狙う猛禽類の目だ。

「え、なに? なんて表情で俺を見てるんだ? 目が怖いよ? メルト……」
「めちゃくちゃ美味しい。もしかしてお菓子も得意なのか?」
 3個目を口にしたメルトが更に菓子に手を伸ばす。
「ああ。食べたいものは作るしかないから、色々作っているうちに得意になったっていう方がいいかな? で、メルトお腹空いてるの?」
 4個目だ。ご飯にしたほうがいいかな? いや、軽食でも出そうかな?
「あーいや、美味かったから止まらなくなって……」
 褒められた!!
 思わず立ち上がって後ろから抱き着いた。
「ありがとう、メルト! すごく嬉しい」
 龍は食べるけど、何となく気に入った感しか出さないからな。作り甲斐がない。

 美味しそうに食べてくれると、食べさせたい気になる。
 よおし! 胃袋鷲掴み計画発動だ!!

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