アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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再会編(ヒューSIDE)

魔の森④

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 会話が少なくなった俺達は早々に休むことにした。
 メルトが俺を気遣っているのがわかって、居たたまれない。
 メルトが寝ると、テントを出して転移でベッドに運んだ。彼に浄化魔法をかけ、俺は考え事をしたいので、風呂に入る。広くした風呂場だ。メルトが入っても足が延ばせる湯舟。
 どうしてだろう。
 メルトが使うのを予感してたみたいな、リニューアル。

 もういっそ、テントのことはばらしてしまってもいいんじゃないかと思い始めている。
 メルトなら、驚くだけで、俺を利用しようとか、そういうことは思わないだろう。

 はあ、と息を天井に向けて吐く。
 祥也。
 俺、メルトを好きになったみたいだ。
 好きになっても、いいのか?
 彼を愛してもいいのだろうか。

 すでに出ている答えに気付かないふりをして、のぼせる前に風呂から上がった。
 ドライヤー魔法で髪を乾かす。ちゃんと冷風で仕上げるのもコツだ。
 俺の髪は腰まであって、たまに邪魔になる。時々後ろで一つに結んだりしているが、寝る時は邪魔なのでそれはしない。ゆったりした寝巻にしている服を纏って、主寝室に戻る。

 メルトは相変わらずうなされている。それでも、最近は少し、落ち着いてきたようだった。
 俺は、時を進める魔法を使って、ヒューマンで言う20~25歳位の外見になる。背は167cmから180cmへ変化する。メルトよりは一周り華奢になるが、しっかりと筋肉の付いた大人の肉体になる。

 ベッドに寝かせたメルトの横に寝そべって、メルトの髪を撫でる。辛そうに寄せられた眉が少し和らぐ。ああ、やっぱり、相性がいい。
 そうっと、彼を抱きしめた。背中を撫でて落ち着かせる。魔力を少し流して彼の身体に巡らせるのは魔力回路の改善に少しは役立つだろう。
 相性のいい、俺の魔力なら、魔法を使わず彼を落ち着かせることができるはずだ。
 辛そうな表情から、落ち着いた表情に変わる。呼吸も規則的になった。

 俺もそのまま眠ることにした。メルトから、柑橘系の爽やかで甘い匂いがした。
『この匂いだ。メルトの匂い』
 テントに残っていたオレンジの残り香。あれに似ている気がした。
(まさか、な)

 そして翌日、彼に気付かれぬままテントを片づけて、元の姿に戻った。
 メルトは朝起きると身体を解して素振りをする。その姿は綺麗で、朝食の準備をしている時、たまに見惚れて焦げそうになる時もある。その型は、系統立てた流派のものと思われて、何故一人で彼が森に迷っているのか、少し疑問に思った。

 メルトは相当強い。
 そんじょそこらの冒険者じゃ彼には身体強化をしてもかなわない。魔法を使わず、剣技だけで軽くいなせてしまうと思う。ちゃんとした指導に従って鍛え上げたものが根底にある。
 所作も綺麗なのだ。教育を施されていると思う。多分、どこかの国の騎士団か、軍にいたと思われる。多分、メルトはそこを辞めている。今彼を苦しめている悪夢に原因があるのだろうか。
 だって、剣を離さない彼が自分から辞めるとは思えないから。
 俺が魔物を狩っていたけれど、これからはメルトに倒してもらった方がいいかもしれない。

 俺は“統率”というスキルを持っていて、パーティーメンバーと認識した者への能力10%UP、経験値5倍付与、限界突破、魔力量倍加の効果を及ぼす。これを使えば、メルトはさらに成長できると思うからだ。
 この世界はゲームの世界と似ていて、 魔物を倒すとレベルというものが上がる。レベルが上がると肉体や精神の能力が上がっていき、個体として強くなる。
 地球で言うチーター並みに速く走ることも、殴られても傷ができないこともありうる。スキルも使うほど成長するし、努力すればスキルを獲得できる。

 ただ、やはり向き不向きがあるので生産に適した能力、事務仕事や商人など、生活に密着した能力に特化するものもいる。そういった戦うことのない者のレベルは年齢に相当する。身体能力は30代がピークで何もしなければ徐々に落ちていく。レベルは高くても各ステータスは減少したりする。
 逆に言えば、魔物を狩っているとステータスは衰えずに過ごせる。ただ、やはり生命力の減少には抗えないのだけれど。

 食事を終えて野営地をあとにする。しばらく歩くと水場に出た。彷徨い歩いてからの初の水場だ。
 川ではなく、地面からの湧水が泉になったようだ。

「毒はなさそうだし、魔物もいないみたいだ。水が補給できるね」
 俺はそこに近づき中を覗くと湧いている様が見て取れる。透明で濁りのない水は鑑定をしてみると毒もなく飲み水にできるようだった。水袋をアイテムボックスから取り出して中を補充する。ためしに飲んでみると清涼で美味い水だった。

 メルトがそばに来て泉を覗き込む。
「ちょっと身体を拭きたいな。補給が終わったらいいか?」
 そういえばメルトは生活魔法をうまく使えないと言っていた。実は俺が浄化をしているのだが、寝ている時なので気付いてないと思う。本人としては気になるのだろう。
 メルトも自分の持つ水袋に入れて水を補充していた。
 彼の持っている背負い袋と腰につけてるポーチはマジックバックになっているらしく、武器や防具も予備をその中にしまっているらしい。そのことについても、そこそこの稼ぎがあった職についていたと思える。

 俺は頷くと、水場を離れた。身体を拭くのなら、少しどこかに、と思っているといきなりメルトが上着を脱ぎだした。ちょっと待て。俺が見ているんだぞ?
 躊躇いがない行動に俺が面食らった。
「ま、待って! メルト、フィメルが人前で脱いじゃいけません!」
 前世の世界で、男の前で女が脱ぐようなものなんだ。この世界のメイルとフィメルの関係は。
 まあ、メイルも卵を産むのでそういった面は違うけれど、性的役割から言ったらそんな感じだ。タチの前でネコが脱ぐ、みたいな?

 つい、目を覆った手の間からちらっとメルトを見た。ああは言ったけど。見たいって気持ちもある。悪いか、俺も男(メイル)だ。
 あれ? メルト、何でそんなきょとんとした顔してるんだ?
「……よく俺がフィメルだってわかったな。このガタイで初対面でフィメルって言われたのは初めてだ」
 抑えた声だった。信じられない、とでもいったような。

「わかるにきまってる。僕、メイルだもの。本能でわかるよ」
 だから、今俺は平常心ではいられない。メルトはメイルと告げた途端、は? という顔をした。
「あ、フィメルだと思ってたんだ。僕はメイルだよ。ちなみにちゃんと成人済みなんだから!」
 そうか、フィメルと思っていたなら、同性の前で脱ぐ感覚だよ。意識なんてしてもらえないよ。はあ、そうでしたか。
「とにかく、僕は後ろ向いてるから、終わったら言って」


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