アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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金の夢と、失くした記憶(ヒューSIDE)

失くしたもの

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「出られたぞ。…―――…」
 伸ばした手が空を切る。手に残る温かみが何かを物語っていた。

 俺は、何をしていた?
 何を言おうとした? 誰に向かって?

 幽玄迷宮を出てくる冒険者たちが、出口で立ち止まっている俺を訝しげに見て遠ざかっていく。

 ここは幽玄迷宮。
 地上の転移の間。

 俺は青の結晶を採取して、戻ってきた……はずだ。
 42階層の隠し通路で、上物の結晶を手にして。

『違う!!』

 ずきり、と頭が痛む。
 いや、痛むのは胸か。
 何か、大切なものが抜け落ちている。
 とても、とても大事なもの……。

 よろけるようにその場を後にし、人気のないところで龍のねぐらに跳んだ。

 龍は突然転移してきた俺にまた文句を言っていた。

『なんだ? 突然転移してくるのはやめろと言っただろうに。採取は終わったのか? ……ん?? なんだ。番を見つけたのか?』

 番? 何を言ってるんだ。俺は誰にも、恋をしていない。胸の辺りのローブをぐっと握りしめて、喪失感をごまかす。
 頭に霞がかかっているように、思考が回らない。何かが抜け落ちていることはわかるのに、何かが邪魔をして、違う答えを出す。

「何言ってるんだ? 採取にダンジョンに行っただけで、見つかるわけがないよ。疲れてるから、寝る」
 テントを出して、中に入る。誰もいない。俺一人だ。
 でもふわりと甘い柑橘系の香りがした。
 俺ではない誰かの残り香。
 
「誰にも会っていないし、このテントに入れたのは、ショーヤと、あの二人だけで、改造してからは誰、も……」
 そっと、ベッドのシーツを手で撫でた。冷たいシーツにぬくもりはない。
 ぽたりと涙が落ちた。

 ああ、まるでショーヤを亡くした時みたいだ。
 苦しくて、どうにもできない。

 どうしてかわからないが、俺は声をあげて泣いた。
 声が枯れるまで泣いて、そのまま寝てしまって2日ほど寝込んだ。
 魘されてみた夢は金色の、眩い夢。
 夢では手が届くのに、起きると忘れてしまう、夢。

「復活!」
 誰に言うわけでもないが、独り言が多いのは寂しい独り身だからか。
 もうショーヤが儚くなってから約700年。
 時折一人寝が寂しく感じるのは人恋しさか。
 すっかりと熱が下がり、疲れもなくなって体調が元に戻った。
 食べるものを食べて落ち着くと、記憶が抜け落ちてるのはわかった。
 青の結晶を手にして、眩しい光に包まれたところまでは覚えている。
 
 そこから先がまるで思い出せない。
 大切な記憶だと思えるのにそれが抜け落ちている。
 

「よし、悩んでいても仕方ない。とりあえず、届けに行かないといけないか」
 青の結晶は手に入れている。ボルドールに渡さないと。

 俺はアルデリアの王都に跳んだ。
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