アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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ラーン王国編―終章―(メルトSIDE)

勘違い ※

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 帝国が大人しくなって3年が過ぎた。
 とうに適齢期は通り越してもう行き遅れ以外の何者でもない25歳の初夏。

「婚約した?」
 ミランが、嬉しそうに報告してきた。
「そうなんだ。まだ結婚は先なんだけど、婚約だけでもしておこうって。」
 隣にはスラフがいる。二人とも幸せそうだ。
「そうだったのか。全然、気付かなかったな。おめでとう。」
 もしかしたら、一緒のチームになったときに色々あったのかもしれないな。
 だが、これで俺と同期のフィメルは全員が結婚、もしくは恋人が見つかったことになる。
「お幸せに。」
 実家に顔を出すたびに恋人は?結婚は?と言われていたから、最近は億劫になって全然帰ってはいない。

「騎士様!」
 見回りで、先日暴漢に襲われていたところを助けたフィメルの子に呼び止められた。
「あ、あのこれ、お礼です!」
 差し出された、包みを見るとビスケットだった。
 思わず首を横に振った。
「!だ、だめですか?」
 俺はまた首を振った。
「気にすることはない。当然のことだ。」
 そういってそっと押し戻した。
 こういうのは、良くない。発展すると賄賂になってしまう。
「気持ちだけ……」
 そうしてやんわりと断ると、泣きそうな顔になって帰っていく。悪いことをしたかな?
「まあ、仕方ないよなー。もったいないけど。」
 隣にいたリスクが去ったフィメルのほうを見ていった。
「もったいない?」
 ビスケットのことかな?と首をかしげる。
「ああ、いや何でもないよ。次のところ行こうか?」
 そうして、日々は過ぎていく。
 これは一生独身を覚悟しなければならないな、とあきらめにも似た境地だった。

 騎士団には年二回ほど、腕を試す試合がある。6月と12月に行われているそれは、名誉という点において戦功に次ぐものだった。とくに12月は王の前で行われる御前試合で、6月はその予選に近い。6月に上位になったものが、12月に陛下の前で腕前を披露することができる。

 段々と勝ち残れるようになってきていて、近いうちに陛下の前で試合ができるのではないかと思っている。頑張って頑張って優勝したい。
 そうすればきっと迎えに来てくれる。

 ん?誰に、だ?

 俺は時々、変なことを考える癖がついているな。


 6月の試合で、リンド先輩とスラフが上位にはいった。俺はあと1試合勝てれば12月の御前試合に出られたのに。惜しかった。
 そして暑気払い、ということで飲み会だ。なんでも今日は酒精が強い良いお酒が手に入ったということで、団長が差し入れをしてくれたのだ。
 酒に強いメイルから嬉しそうに口にしていた。

 どんな味かな??すぐ酔っちゃうから量は飲めないけど、お酒の味は大好きなんだよなあ。
 大抵こういう時はメイルとフィメルで別れて座るが、酒が進むと入り乱れている。
 俺はいつもミランによって酒量のコントロールをされているので問題はないのだが、今回は婚約した経緯をほかのフィメルに囲まれて話しているから、少し離れてしまった。
 話しているのを傍で聞いていると、隣にリンド先輩が座った。隣に座っていた友人はもう潰れそうだと帰ってしまっていた。

「よう、飲んでるかー?メルトー!」
 すでに出来上がっていた。
「飲め飲め!これはいい酒だぞ。」
 そういって酒のグラスを渡してきた。飲んでみると喉が熱くなった。
(これ、ものすごい強い。まずいかも…)
 そう思っていると、リンド先輩がもっと飲めと言ってきた。
 断り切れずに飲んでいると、酔いに意識が朦朧となる。

「よう、うわさに聞いたんだけどな?今まで一度も経験がないって聞いたぞ?」
 なぜか肩を抱かれていた。あれ?なんで?何の経験がないって??
 顔を見ると青い目が見えた。リンド先輩は青い灰色なんだけれど、それが水色に見えてくる。
 誰かの目と重なる。
 俺の大事な大事な、だれかと。

『---。迎えに、きてくれたの、か?』
 心の奥底で心がざわつく。

「俺は経験豊富だからな?気持ちよくさせてあげられるぞ?」
「気持ちいい?」
 ああ、なんかふわふわして気持ちいい。---とするのは気持ちいい。うん。気持ちいいことは好き。

「一度は経験しなくちゃな?」
 おかしいな?もう何度もしてるけど……?
 でもーーーが言うならそうなんだろう。まだしてないこと、試すのかな?

 いつの間にか手を引かれて会場を出ていた。ごみごみした一角へ出て、安宿に連れ込まれた。
 ベッドに押し倒されて、結んだ髪がさらりと俺の頬を撫でた。ああ、---の髪は長くて、触れてると気持ちよかった。艶々で…。

『メルト』
 名前を呼ばれた。
 声が重なる。
 懐かしい、響きに。
 服をはぎ取られてお互い裸になっていく。

「…ン…」
 前が弄られて、勃ち上がる。あれ?でも何となく違う気がする。こんな、仕方だったろうか?
 ---が触ってくれるところはどこも気持ちいいし、魔力が入ってくるのに。

 そうしたらいきなり、ひっくりかえされて、後ろから股の間に突っ込まれた。

『こうやって、腿で挟んでくれると俺も気持ちいいんだ…』
 そう言ったのは---。

 でも、今俺に触れているのは、何となく違う気がする。
 ---とは。
 モノが少し長さが足りない気がする。---のは、後ろから前まで股間の下を通っても、先が俺の幹を突くほどなのに。太さも、一回り小さいような気がする。

 おかしいな。魔力が気持ち悪い。
 股の間に突っ込まれて、何度か動くとそれほど経たないうちに果てた。
 その飛沫が肌を濡らした。
 あれ?気持ち良くない?
 すごく気持ちよかったはずなのに?
 なんだか、俺は勘違いをしているなと、うっすらと思った。
 それでも、酔いが回ってしまったせいで俺はそのまま寝てしまったようなのだ。

 翌朝、重い頭を抱えて目が覚めた。
(え、服、着てない)
 青くなって隣を見ると、リンド先輩が裸で寝ていた。
 この状況って、うわさに聞いていた、あの状況と、似ている。

『もー、あったまきたんだよ。僕だってね?別にもったいぶってるわけじゃなかったよ?でもムードとか、気持ちの盛り上がりとかあるじゃん。なのにセックスのことばっか考えてるの、まるわかりで。百年の恋も冷めるっつーの。で、帰ろうとしたら、もう一杯だけって言われて飲んだ酒が強くて、いつの間にかつれこみ宿だったんだよ!しっかりやられた後で朝起きたらお互い裸。あいつが起きたら枕投げつけてやったよ。も―許してやんないんだから!』

 そう言ってたのはエメリだったか。
 いろいろケンカしあってたけど、結局は尻に敷く感じでまとまってたな。
 俺たちは毎回愚痴に付き合わされたけど。

 そうか、俺は、リンド先輩とセックスしたのか。でも、思ったより気持ちよくなかった。
 セックスは気持ちいいって経験あるみんなは言ってたけど、これのどこがいいんだろうか?なんだか股間が気持ち悪い。
 サイドテーブルのたらいの中に水があったので、使わせてもらった。タオルで体中拭いた。
 こういう時、魔法が使えたらと思う。
『俺、浮気した?ヒューじゃなかった?』
 嫌悪感が沸き上がって、吐きそうになった。起きる気配がなさそうなリンド先輩を見る。
『背格好が似てた。目の色も似てて間違えたんだ。』
 声をかける気分じゃなかったから、宿賃を置いてリンド先輩の目が覚める前に宿舎に戻ったのだった。

「メルト!心配したんだよ?」
 ミランが寝不足の顔で言った。
「ごめんなさい。リンド先輩と一緒だったから…」
 ぴくりと、ミランが震えた気がした。
 仕方ないから、ごまかし笑いをした。きっとひきつってたと思う。

「なんだか気持ち悪くて、二日酔いみたいなんだ。俺、寝てていい?」
 本当に気持ち悪い。あの、魔法の検査してもらった時のようだ。
 頭もガンガンする。痛くて起きていられない。
「もちろんだよ。寝て寝て。熱はないかな?」
 本格的に具合が悪くなって俺はその日、ミランに面倒を見てもらって寝ていたのだった。
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