アーリウムの大賢者

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
63 / 115
金の夢と、失くした記憶(ヒューSIDE)

極上の夢 ※

しおりを挟む
『ヒュー』

 甘く鼻にかかる声が俺を呼ぶ。起きている時は絶対に思い出せない、その声。

『ヒュー』

 甘く掠れて俺を求めて呼ぶ声も。

『ヒュー』

 やらかした後に俺を責めるように少し低いその声も。

『ヒュー』

 期待に満ちた弾んだ声で剣の鍛錬をねだるその声も。

 どうして起きている時は思い出せないのに、今はこんなに鮮明なのか。

 ああ、これは夢なのだと俺の心の一部が思う。起きても覚えていられればとそう願う。

「メルト」
 そっと大事に大事に抱きしめる。俺の大事な伴侶。
「ヒュー」
 嬉しそうに俺の背に手を回してくれるメルトが愛しい。

 口付けすれば恥ずかしそうにしながらも口を開いてそっと舌を絡めてくる。
 俺にキスを教えられてからはキスが好きになったらしい。
 メルトは気持ちいいことが好きだ。どうも、俺のアレが一番好きみたいな気もするけど、まあ、気持ちよくしてくれるものだからと解釈しておこう。
 だから俺より先に気持ちいいことをしてくれた人がいればそっちを好きになったかもしれないと危惧した。
 ぐずぐずに快感に溺れさせて俺だけを見てくれればいいと何度も思った。メルトは綺麗で可愛いから絶対にモテる。
 離れれば不安しかない。

 俺よりももっと高スペックなメイルに陥落されたらどうしようとか、そんな不安が押し寄せる。
 肌を合わせて何度も言葉を交わして確認して、やっと安心する。
 だけど、今は……。

「あ……ヒュー……もう……」
 俺の昂りで奥を突くと艶めいた肢体が仰け反って喘ぐ。その姿が俺を煽る。甘い声も体温も。
「うん。いいよ。イって?」
 奥を思いっきり突き上げるとメルトが達する。中で締め付けられて俺も達した。
「愛してる。メルト……」
 ああ。メルトに本当に届けばいいのに。

 愛してるよ、メルト。

「……! ……」

 目が覚めた。
 ここは王都の宿だ。
 青の結晶を届けにきて、飲んでここに泊まった。
 そうだ。そのはず、だ。
 俺は両手を見た。
 この手に残る温もりは、誰のなんだ。
 ぎゅっと手を握る。そのまま顔に当てて、俺は嗚咽を漏らした。
 思い出せない、その金と緑に。

 宿を出て、今度はミハーラのいる冒険者ギルドに向かった。
「すみません、ミハーラいる?」
 受付が目を丸くしていた。まあ、普通は統括なんかに話する冒険者はいない。
 不審げにしながらも取り次いでくれて、俺は統括の部屋に案内された。

「ヤッホー、元気?」
「なんでそんなに元気なんだ」
 頭を抱えているミハーラに、解毒の魔法をかけた。
「俺には加護があるから、状態異常にはならないんだ」
 スッキリした顔になったミハーラは眉を寄せて背を正した。
「礼を一応言っておこう。で、やっと冒険者活動する気になったのか?」
 ミハーラは仕事モードになって聞いてきた。
「いや、少し帝国の動きが気になって。龍の住処から近いだろう?」

「ああ、そういうことか。帝国がアルデリアに仕掛けてくることは多分ないだろうが、隣国の北方小国同盟国に、しかけるんじゃないかと思われる動きが出てきた。予想では3~4年以内だな。帝国は精霊の加護を失っている。土地は痩せてみのりが少なく、また農民がいない。度重なる兵役で農業の働き手を失っている」
 ふうと一回ミハーラは息をついた。

「搾取による搾取で、平民は各国に逃げてきている。冒険者ギルドの問題はこの亡命してくる帝国の難民の扱いだな。冒険者登録は誰でもできる。できるからこそ、クエストのレベルに満たない冒険者が命を落とす。国境近くの支部では初級冒険者の死亡率が高くなっているんだ」
 あの国はいつになったら戦争をしない選択肢を取ることができるのか。

「帝国の帝王だっけ。変わっても変わらないのか? その戦争好き。あの国は建国からずっとだよな」
「エルフ領もあの国と近いからな。何度も迷惑を被っている。なんとかしたいが……」
 まあ、そうそう話し合いでは国策が変わることはありえないんだよな。特にあの国に冒険者ギルドはないからな。
「まあね。本気であの国潰すつもりがないとね。でも先に犠牲になるのは罪のない民兵なのがまた腹たつよ。ちょっと警戒はしておく。じゃあね」
 俺はさっと立ち上がって出て行こうとした。

「依頼受けないと、今度は使えるようにしないからな?」
 俺はギクリとして振り返る。
「そこをなんとか?」
「規則だからな」
 ひらひらとミハーラは手を振り、俺を追い払う仕草をすると、自分の仕事に戻るように顔を伏せて書類を見始めた。俺はそれを見て部屋を後にした。

 冒険者のギルドカードは依頼を受けないと失効してしまう。俺は何度も繰り返しているので、またお金を払えばいいと思っていたが依頼を受けないといけないようだ。
 まあ、必要になった時でいいか。
 俺はその足で商会に戻った。
 セッテに見つからないよう転移で地下室に向かう。そこから転移陣に乗って龍の住処に戻った。

 朝の夢の中身が知りたくて胸がモヤモヤした。

「あ、そういえば青の結晶の報酬もらってない」
 今度請求してやろうとそう思ってテントに入った。
 龍は出かけていたようだった。

『恋人を紹介してくれ』
 二人に言われたということは、わかる状態だったということだ。
 恋人なんてできていないのに。なんでだろうか?

(わかっているくせに。体に残る魔力の持ち主のことなのに)

 心の奥で自分に届かない声が聞こえる。

 俺は魔道具を作りたくなって、作業することにした。
 通信機を作ろう。
 イヤーカフで、片方は翠、片方は水色の魔石にした。場所感知と通信機能、念話でだ。
 片方が魔力を通すと片方に場所がわかるように。

 危険が相手に迫った時、駆けつけることができるように。

 なぜだかわからないけれど、作らないといけないとそう、思った。

しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

処理中です...