43 / 115
ラーン王国編ー見習い期間の終わりー(メルトSIDE)
野営訓練 その後
しおりを挟む俺はどうやら疲労で二日ほど寝ていたらしい。最後の方は記憶があやふやだった。きっと手だけが動いていたんだろうと思う。本当にまだまだだ。
それに比べて団長はすごい。あの飢餓の魔物を一人で討伐したなんて。うっすらとあの巨体は覚えている。恐怖にすくむ俺を助けてくれたのだ。
やはり第一騎士団に入りたい。それにはもっともっと鍛錬に励まなければ。
「ヤッホー、メルト!起きてる?」
俺はまだ医療棟に入院していた。間近で毒を吸い込んだ可能性があるので、様子見ということだった。俺には魔法が使えないので、ポーションを飲んでいた。
どうやら同室のミラン、エメリ、ポリカが見舞いに来てくれた。もう明日には部屋に戻れるんだけど。一緒にいた3班の連中は一日で戻れたそうだ。そんなとこも、俺は弱いんだなと感じる。
「…ん、もうほとんど問題ないんだけど、念のため、だって…」
みんなが一様にホッとした顔をする。心配してくれたんだ。なんだか、嬉しい。
「よかった。結局、前半組は訓練はおしまいだって。あの時点の勝率と、貢献度で成績つけてるみたい。」
なんだ、改めてじゃないのか。少し残念だ。後半組はどうするのだろう。飢餓の魔物が出たとなれば、浄化に時間がかかるはずだ。
「なんでも、後半の5班(チーム)は、反対側の王族の直轄領で野営訓練だってさ。ちょっと山になってるから厳しいとか嘆いてたよ。」
肩を竦めて、ポリカが言った。ポリカは5班で森の入口近くで討伐をしていたらしい。
「嘆いてるよ!なんで僕だけ、後半だったんだー!」
エメリが大げさに嘆いた。もう少しで出発らしい。
「まあ、頑張って?」
ミランが笑いながら言う。3人がいない部屋は広くて怖かったと言っていた。
「山かあ。いいなあ…俺も行きたかった…」
それを聞いたみんなは一斉にえええ!?悲鳴をあげた。
「もう、メルトってば、脳筋?あれだけ大変なことになってまだ訓練って…」
ダメなのか?
「そんな、キョトンとした顔で…ダメだ!可愛い!」
ミランが襲いかかってきた。その上にエメリとポリカも乗っかってくる。苦しい。潰れる。
「こら!何を騒いでるんだ!医療棟で騒ぐな!!」
治療師に怒られてしまった。でもおかげで早々に戻れることになった。
寮に戻ってきてホッとする。
下げたままだった、ペンダントを外して見つめた。
心がぐちゃぐちゃになりそうで、そっとまた奥にしまった。今度はきちんとした箱に入れて。
なぜ、このペンダントを見ると心がざわつくのだろう。
取り上げられてしまったものも多分そうだ。それらを見たらきっと涙が出る。
いつか、あの時ほんとは何があったか思い出せるんだろうか。
それとも、いつかそれすらも忘れてしまうのだろうか。
下降する気持ちを、顔を上げることで鼓舞し、夕方の鍛錬に出かける。いつものメニューをこなして、赤く染まった空を見上げた。それがすぐに暗くなっていって青と群青へと染まっていくコントラストにしばし見惚れた。最近、紺色と水色に目がいくのだ。
好きな色になっているのかもしれない。涼やかで綺麗な色だから。特に今は暑いからそう思えるのかもしれない。
第一騎士団長による慰労会が行われた。魔物の氾濫の討伐への団長の自腹の宴会だそうだ。
騎士団がよく利用する居酒屋を借り切って行われた。
俺は初めて宴会というものに出たからなんだかびっくりしてしまった。
お酒というのも初めて飲んだ。
エールはあまり好きじゃなかったが、ワインは美味しかった。
でも体が熱くなって、ふわふわして、なんだかおかしな気持ちになった。
「メルト、あんたはお酒、あんまり飲んじゃダメだよ?」
ミランが杯を取り上げた。
まだ飲む。お酒好き。
ねだるように見上げたら、ミランが俺の頭を抱きしめた。
「だめ!!帰るの!」
結局ミランに引きずられて寮に帰ったので、ご馳走はそんなに食べられなかった。
あとでこっそりポリカがお持ち帰りをしてくれてた。嬉しかった。
どうも俺はお酒には弱いらしい。飲みに行くときは気をつけろと言われた。
お酒、気に入ったのになあ。残念。
後半の野営訓練は何事もなく終わったらしい。
最終試験の組合せの発表は夏の終わり頃になるらしい。
「メルト!あ、明日の休日は、俺と飯に行って欲しいんだけど!お、おごるから!!」
食堂で夕飯を食べている時にロステにそう言われた。なんか必死な顔をしている。
「………奢りなら。そのあと鍛錬に付き合ってくれるか?」
ぱあっとなんだか顔が明るくなった。たまには対人訓練もいいだろう。奢りだし。
なんだかロステは固まってしまったけれど、大丈夫だろうか?
「はっ…夢みてた?俺?」
たまに、というかロステがバカだなと思うことが増えた。なぜだろう。
「あ、明日、11時ごろに裏門のところで!」
「わかった。」
俺は頷くとロステが離れて行った。なんだか囲まれて殴られている。
「いいの?ロステと出かけるなんて。鍛錬の邪魔になるんじゃないか?」
ミランが声をかけてくる。ミランはまだ、半分しか食べてない。
俺はもうそろそろなくなりそうで、もう少し頼めばよかったと後悔した。
「何そんなに落ち込んだ顔してるの。僕のあげるよ。少し多かったんだ。」
ミランが肉をくれた!肉!
「神がいる!!」
拝んでみた。
「ちょっとそういう時だけ持ち上げないでよ!メルトってば!」
周りで食べていたエメリやポリカも笑ってた。
そんなにおかしいか?と首を傾げてると、また可愛いと言われた。
俺のどこに可愛い要素があるんだ。わからん。
35
お気に入りに追加
1,107
あなたにおすすめの小説
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。
まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。
温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。
異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか?
魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。
平民なんですがもしかして私って聖女候補?
脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか?
常に何処かで大食いバトルが開催中!
登場人物ほぼ甘党!
ファンタジー要素薄め!?かもしれない?
母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥
◇◇◇◇
現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。
しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい!
転生もふもふのスピンオフ!
アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で…
母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される
こちらもよろしくお願いします。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる