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閑話2(他視点)
守護龍の憂鬱
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私は神獣の古代龍だ。創世からこの世界に存在し、今なお、世界を見守る神に近い存在である。そういった、神に近い存在は聖域と呼ばれる島(領域)を出ることはほとんどないのだが、私は退屈していた。
だから、この世界の二つの大陸のうち、東の大陸に版図を広げつつある、ヒューマンに興味を持った。
誇れるものは繁殖力、ただ一点。その数にものを言わせて長命種を追いたてた。長命種は良くも悪くも、短命種に関心がなかった。
しかし、自分たちが奴隷にされたり、危害を加えられるに及んで、彼らから離れて生きる方法をとった。
ドワーフは地下に、エルフは森に、ハイヒューマンは大陸を離れ、海を隔てた島に移り住んだ。
大陸の覇権はヒューマン種が握り、彼らは同族でも争った。
その争いを魔の森と呼ばれる魔素が濃密に漂う、魔物の多い森の奥に塒を構えて見守った。
魔物にヒューマンに竜種と呼ばれる、私に似た種族がいて、その上位種と間違えられ、よくヒューマンが討伐にやってきた。
私も羽虫が周りを飛び交うくらいの物に感じていたから、転移魔法で遠くに飛ばすくらいで命は取らなかった。たまに近くに巣を作った、ワイバーンの巣の中に放り込んでやったが、私を狩りに来るくらいなのだから、心配はいらないだろう。
そうして50万年は過ぎたか。ある日、勇者と呼ばれる異世界から来たヒューマン種がやってきた。勇者パーティーと呼ばれたその部隊はドワーフ、エルフ、ハイヒューマン、ヒューマンとバラエティに富んだ種族で構成されていた。
彼らはワイバーンがいると聞かされてやってきた。そいつらはちょっと先の山にいるのだが。
接敵して、私の存在に気付いたのは、ハイヒューマンの若者だった。
稀有な存在だった。
創世神の加護があり、勇者と同じ世界からこの世界に生まれ落ちている。しかも、姿を変えている。勇者パーティーでは偽った名前で活動をしていた。
彼の、心境が見えて興味を惹かれた。
彼はそれこそ1万年は生きるだろう。見守るのは面白そうだ。
彼は私と敵対しないよう交渉をしてきた。私の正体を見破るその力量に、素直に感心した。ハイヒューマンは長く生きると、聖域へもやってくる。そして神に近い存在を知るのだが、この若者は私の神気を感じたらしい。
私はこの若者に付き合うことにした。彼の憤懣に付き合い、ヒューマンへ関わることにした。私はアルデリアの王族と契約し、加護を与えた。ワイバーンを従えた、騎竜騎士団の誕生だった。
それは勇者召喚をアルデリア、いや世界から破棄させるために勇者の側にいた、ハイヒューマンの若者、ヒューのためだった。
以来800年ほど、ヒューマンの国にちょくちょく訪れて契約の確認をしていた。
ワイバーンの面倒も見た。ヒューは勇者のために献身的に働いていた。
その勇者とヒューは身分を偽ったまま結婚し、短命種である勇者が老衰で死ぬまで幸せに暮らしていた。なんとかヒューは元の世界に返そうとしていたが勇者がこの世界で生を全うすると決意したために、彼を支える決心をしたのだろう。
ただ異世界人はこの世界の者ではないため、子供は作れなかった。神に聞いたが、無理とのことだった。本来ない魔力を神が後付けにしていて、その魔力はこの世界の生命の持つ魔力と交わることはなかった。支援魔法や回復魔法は受け入れられているが、生命を誕生させるための魔力の受け渡しはできないとのことだった。
ヒューと勇者は情を交わしてはいるがこの世界の恋人たちの行う情交とは似て非なるものだったのだ。
それでも彼らは二人で屋敷を構え、この塒にやって来ては惚気て帰った。
それは勇者が老衰で亡くなるまで続いた。勇者が老衰で亡くなるとヒューは本来の姿でやって来て、ここに住みついた。
引き籠ってしまったのだ。
自宅で引きこもらんか、と言ったのだが人がいるから嫌だと抜かし…いや、言ったのだ。
アルデリアの王都の屋敷は思い出がありすぎていやだと。
勇者パーティーのメンバーと会うのもつらいのだと、言った。
それでもたまにダンジョンへいったり、引き籠って作った魔道具を王都にある自分の商会へ持っていったり、多少の交流はしていたように思う。
いつものようにある日、彼は素材を採取しにダンジョンへ向って、しばらく帰ってこなかった。
帰って来た時、彼の魔力に、フィメルと思われる魔力が混ざっていたのだった。
透明と思われる魔力は綺麗に混ざっていて、美しかった。これほど、相性の良い魔力の持ち主と情を交わすことができるなど、僥倖だ。
とうとう、新しく番を見つけられたのだと、私は嬉しくなった。彼は番がいないと活動的にならないし、面白味にかけるのだ。
だが彼はまるで、勇者を失った時のように引きこもった。
おかしいと思って探ってみると、彼は記憶を封じられていた。状態異常無効のスキルを持つ彼が抗えないのは私の加護より強い力だということに他ならない。
神の試練、神のダンジョン。創世から力を失っていない、稀有なダンジョンに迷い込んだのだ。忘却のダンジョンと呼ばれるそれは、脅威度SSSランクだと言われている。しかし神の力に抗って失った記憶を取り戻すことができれば力を与えられると言われている。
取り戻すにはもう一度、忘却のダンジョンへ行かねばならない。
神の定めたルールで教えることはできない。だが、手助けくらいはできるだろう。
番と離れていることは彼にとってよくないことになるだろう。彼はハイヒューマンなのだ。番に危害を加えるものがいたら、ましてやそれで失ってしまったら。
この世界を滅ぼしかねないだろう。
相手がヒューマンである可能性があるならなおさら、急がねばならない。
もし、番がいなくなった後彼が記憶を取り戻したならば。
私に彼を止められるだろうか。神獣である私でも多分、被害は相当のものになるに違いない。
日に日に焦燥感を増す己の予感にいてもたってもいられずに魔の森の上空を飛びまわった。
魔物が右往左往していたが知ったことではない。
その気配の中に見知った気配があった。興味を惹かれてその方角に向かう。
魔の森を歩いている、ある青年がその気配の持ち主だった。
私はすぐとって返した。
これが最後のチャンスだ。たとえ彼らが記憶を取り戻さなくても、運命ならば、再び番となるだろう。
これは私の賭けだ。
塞ぎこんでいる彼が700年ぶりに生きる気力を取り戻せるかどうかの。
『いい天気だ。空の散歩に行こうではないか?』
念話で彼を誘う。しぶしぶと誘いに乗った彼を番の居る場所まで連れて行く。
「どこまで行くんだ?ここまでくると、もうアルデリアを出てしまうんじゃ…」
不審に思った彼が問うた。
『もういい加減引きこもるのはやめて、新たな番を見つけた方がいいぞ。』
これは私の本音だ。
「はい?」
『冒険者でも何でもして、自分で宿をとるんだな。しばらく私の塒は使用禁止だ。』
そうして彼を振り落とした。彼の番である青年の目の前に落ちるように。
彼は転移魔法とか、飛行魔法が使えるのだが、さすがにとっさには使えなかったらしい。
木の枝を折りながら落下していった。まあ、回復魔法も使えるから大丈夫だろう。
しばらく上空で旋回して様子を見ていたが、上手く一緒に行動することにしたようだ。
番とともに塒へ来たなら歓迎してやろう。
さて、彼らに神の試練は乗り越えられるだろうか。
それこそ、神のみぞ知る、だろうな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これでダンジョン編は完結です。
26日からラーン王国編を始めます。
だから、この世界の二つの大陸のうち、東の大陸に版図を広げつつある、ヒューマンに興味を持った。
誇れるものは繁殖力、ただ一点。その数にものを言わせて長命種を追いたてた。長命種は良くも悪くも、短命種に関心がなかった。
しかし、自分たちが奴隷にされたり、危害を加えられるに及んで、彼らから離れて生きる方法をとった。
ドワーフは地下に、エルフは森に、ハイヒューマンは大陸を離れ、海を隔てた島に移り住んだ。
大陸の覇権はヒューマン種が握り、彼らは同族でも争った。
その争いを魔の森と呼ばれる魔素が濃密に漂う、魔物の多い森の奥に塒を構えて見守った。
魔物にヒューマンに竜種と呼ばれる、私に似た種族がいて、その上位種と間違えられ、よくヒューマンが討伐にやってきた。
私も羽虫が周りを飛び交うくらいの物に感じていたから、転移魔法で遠くに飛ばすくらいで命は取らなかった。たまに近くに巣を作った、ワイバーンの巣の中に放り込んでやったが、私を狩りに来るくらいなのだから、心配はいらないだろう。
そうして50万年は過ぎたか。ある日、勇者と呼ばれる異世界から来たヒューマン種がやってきた。勇者パーティーと呼ばれたその部隊はドワーフ、エルフ、ハイヒューマン、ヒューマンとバラエティに富んだ種族で構成されていた。
彼らはワイバーンがいると聞かされてやってきた。そいつらはちょっと先の山にいるのだが。
接敵して、私の存在に気付いたのは、ハイヒューマンの若者だった。
稀有な存在だった。
創世神の加護があり、勇者と同じ世界からこの世界に生まれ落ちている。しかも、姿を変えている。勇者パーティーでは偽った名前で活動をしていた。
彼の、心境が見えて興味を惹かれた。
彼はそれこそ1万年は生きるだろう。見守るのは面白そうだ。
彼は私と敵対しないよう交渉をしてきた。私の正体を見破るその力量に、素直に感心した。ハイヒューマンは長く生きると、聖域へもやってくる。そして神に近い存在を知るのだが、この若者は私の神気を感じたらしい。
私はこの若者に付き合うことにした。彼の憤懣に付き合い、ヒューマンへ関わることにした。私はアルデリアの王族と契約し、加護を与えた。ワイバーンを従えた、騎竜騎士団の誕生だった。
それは勇者召喚をアルデリア、いや世界から破棄させるために勇者の側にいた、ハイヒューマンの若者、ヒューのためだった。
以来800年ほど、ヒューマンの国にちょくちょく訪れて契約の確認をしていた。
ワイバーンの面倒も見た。ヒューは勇者のために献身的に働いていた。
その勇者とヒューは身分を偽ったまま結婚し、短命種である勇者が老衰で死ぬまで幸せに暮らしていた。なんとかヒューは元の世界に返そうとしていたが勇者がこの世界で生を全うすると決意したために、彼を支える決心をしたのだろう。
ただ異世界人はこの世界の者ではないため、子供は作れなかった。神に聞いたが、無理とのことだった。本来ない魔力を神が後付けにしていて、その魔力はこの世界の生命の持つ魔力と交わることはなかった。支援魔法や回復魔法は受け入れられているが、生命を誕生させるための魔力の受け渡しはできないとのことだった。
ヒューと勇者は情を交わしてはいるがこの世界の恋人たちの行う情交とは似て非なるものだったのだ。
それでも彼らは二人で屋敷を構え、この塒にやって来ては惚気て帰った。
それは勇者が老衰で亡くなるまで続いた。勇者が老衰で亡くなるとヒューは本来の姿でやって来て、ここに住みついた。
引き籠ってしまったのだ。
自宅で引きこもらんか、と言ったのだが人がいるから嫌だと抜かし…いや、言ったのだ。
アルデリアの王都の屋敷は思い出がありすぎていやだと。
勇者パーティーのメンバーと会うのもつらいのだと、言った。
それでもたまにダンジョンへいったり、引き籠って作った魔道具を王都にある自分の商会へ持っていったり、多少の交流はしていたように思う。
いつものようにある日、彼は素材を採取しにダンジョンへ向って、しばらく帰ってこなかった。
帰って来た時、彼の魔力に、フィメルと思われる魔力が混ざっていたのだった。
透明と思われる魔力は綺麗に混ざっていて、美しかった。これほど、相性の良い魔力の持ち主と情を交わすことができるなど、僥倖だ。
とうとう、新しく番を見つけられたのだと、私は嬉しくなった。彼は番がいないと活動的にならないし、面白味にかけるのだ。
だが彼はまるで、勇者を失った時のように引きこもった。
おかしいと思って探ってみると、彼は記憶を封じられていた。状態異常無効のスキルを持つ彼が抗えないのは私の加護より強い力だということに他ならない。
神の試練、神のダンジョン。創世から力を失っていない、稀有なダンジョンに迷い込んだのだ。忘却のダンジョンと呼ばれるそれは、脅威度SSSランクだと言われている。しかし神の力に抗って失った記憶を取り戻すことができれば力を与えられると言われている。
取り戻すにはもう一度、忘却のダンジョンへ行かねばならない。
神の定めたルールで教えることはできない。だが、手助けくらいはできるだろう。
番と離れていることは彼にとってよくないことになるだろう。彼はハイヒューマンなのだ。番に危害を加えるものがいたら、ましてやそれで失ってしまったら。
この世界を滅ぼしかねないだろう。
相手がヒューマンである可能性があるならなおさら、急がねばならない。
もし、番がいなくなった後彼が記憶を取り戻したならば。
私に彼を止められるだろうか。神獣である私でも多分、被害は相当のものになるに違いない。
日に日に焦燥感を増す己の予感にいてもたってもいられずに魔の森の上空を飛びまわった。
魔物が右往左往していたが知ったことではない。
その気配の中に見知った気配があった。興味を惹かれてその方角に向かう。
魔の森を歩いている、ある青年がその気配の持ち主だった。
私はすぐとって返した。
これが最後のチャンスだ。たとえ彼らが記憶を取り戻さなくても、運命ならば、再び番となるだろう。
これは私の賭けだ。
塞ぎこんでいる彼が700年ぶりに生きる気力を取り戻せるかどうかの。
『いい天気だ。空の散歩に行こうではないか?』
念話で彼を誘う。しぶしぶと誘いに乗った彼を番の居る場所まで連れて行く。
「どこまで行くんだ?ここまでくると、もうアルデリアを出てしまうんじゃ…」
不審に思った彼が問うた。
『もういい加減引きこもるのはやめて、新たな番を見つけた方がいいぞ。』
これは私の本音だ。
「はい?」
『冒険者でも何でもして、自分で宿をとるんだな。しばらく私の塒は使用禁止だ。』
そうして彼を振り落とした。彼の番である青年の目の前に落ちるように。
彼は転移魔法とか、飛行魔法が使えるのだが、さすがにとっさには使えなかったらしい。
木の枝を折りながら落下していった。まあ、回復魔法も使えるから大丈夫だろう。
しばらく上空で旋回して様子を見ていたが、上手く一緒に行動することにしたようだ。
番とともに塒へ来たなら歓迎してやろう。
さて、彼らに神の試練は乗り越えられるだろうか。
それこそ、神のみぞ知る、だろうな。
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これでダンジョン編は完結です。
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