アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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大賢者はダンジョンで運命と出会う(ヒューSIDE)

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 懐かしい夢を見た気がする。

 目を開けるのが惜しいような気持ちになった。

 それでも目を開けると、目の前にメルトの顔があった。すやすやと寝ている。まだあどけなさが残る顔だ。今の俺と同じ位ってことだろうか。可愛いなあと、思って、癒された気になった。
 スリープの魔法で寝ているから、起きないとは思うが、そっとベッドを降りて、20代の姿になる。パジャマから、ダンジョン用の服装に着替えた。

 メルトの防具と服に浄化をかけて置いておく。水を張ったたらいとタオルも置いて、テントの外に出た。

 テーブルセットを出して、アイテムボックスの食材を見る。
 やっぱり朝はオムレツだな。昔某ホテルに泊まった時に食べた、朝食のバイキングで出た、オムレツのトリュフソースが美味かったんだよなあ。それで作り置きしたオムレツがあるな。
 それから食パンにしようか。よく食べるから6枚切りがいいか。ここはボイルのソーセージを添えて、ジャムとバターも置いておこう。
 ビタミン取りたいからピンクグレープフルーツジュースとイタリアンサラダ。レタスにスライス玉ねぎ、パプリカにフルーツトマト。

 さて、起きただろうか?テーブルセットと出来上がったものや調理器具などをしまって、テントに戻り、寝ている部屋にある普通の背丈のテーブルセットの上に朝食を並べる。匂いに気付いたのかもそもそと寝ぼけまなこで起きてくるのを見て、口元が緩んだ。洗面所で顔を洗うように言って待った。

「あの、服とか食事とか、ありがとう…」
 メルトは部屋に戻って開口一番そう言った。いい子だな。
「いや、遭難者はお互い助け合わないとな。ご飯用意したから食べてから出発しよう。」
 そしてまたメルトは顔を輝かせながら、食事をした。

 何か小動物を見てるようだ。パンに自分で具を挟んで食べている。じゃあ、サンドイッチとか好きかもしれないな。
「すっごい美味しかった!」
 満面の笑みで言われると、用意した俺も嬉しい。つい顔が綻ぶ。

 食べ終わった食器を片付けて、そういえばとメルトの口内へ浄化をかける。歯磨きの習慣はないこの世界。虫歯はあまり聞いたことないけど、浄化の生活魔法をかけているからだと思っている。便利魔法だな。

 見上げるメルトに微笑みかけると、声をかけてテントを出る。メルトが出てからテントをしまった。この場所に、転移の目印のアンカーを仕掛けておく。ダンジョンは平面の転移は可能だが、階層を跨ぐことはできない。この階層は広いようなので、この場所を拠点として、探索をしていくつもりだ。

 さあ、冒険の始まりだ。前世で言ってみたかったセリフをカッコつけていってみた。

 マップを起動させ、出口らしい通路に向かう。歩きながらメルトに探索上の注意をし、支援魔法をかける。
 うん。効きは良いからやっぱり魔力の相性がいい。効率が上がっている。

 通路に出るとメルトを前衛に、俺が後衛で、あたりを警戒して歩く。まだ赤の光点は先にある。暗い洞窟型の通路は、メルトの足音を響かせた。
 まだ、足音が出るような足さばきなんだな。体から発する音は耳の良い魔物を引きよせるから実力のある者はあまり出さないものだからだ。

 俺?
 子供の頃、うちの家に居候している剣聖が俺を鍛えた時、目隠しで打ち合いなんぞやらされて、滅多打ちに体感させられてから消すように努力したら身についたよ。うちの師匠は気配すら消すからな。普段は威圧垂れ流しするのに。

 メルトはかなり緊張している。これは、魔物が出たら慌てて剣を振りまわしかねないな。とりあえず魔法障壁をメルトの前に展開して、肩をポンと軽くたたいた。メルトの身体がびくっと跳ねる。ああ、やっぱりか。

「そんなに緊張してると返って身体が動かなくなるぞ。リラックス、リラックス。それにお待ちかねのお客さんもそこの角を曲がった所に現れるからな。」

 通路の先に視線を向ける。光点もセーフエリアから獲物が出たのに気付いたのか、こちらに向かってくる。情報では狼型の魔物、グレイウルフ3体。Bランク程度の脅威度だ。
 メルトは深呼吸して力を抜こうとしていた。あまり効果はないようだったが。

 剣を握り直したメルトは通路の先を睨む。通路の角からグレイウルフが飛びだし、トップスピードで俺達に襲いかかってくる。グレイウルフの威圧に、メルトが竦む。

 竦むメルトに標的を定めた一体が、俺の張った障壁に思い切り衝突した。俺はメルトの前に出てアイテムボックスから出した剣を振り降ろす。
その一体を真二つにすると翻した剣でその後ろから飛び出してきた二体のうちの一体の首を刎ねた。もう一体は風魔法のかまいたち(こっちじゃ風刃とか、そんな感じの魔法名)で首を刎ねる。剣についた脂や血を浄化して振り返る。

 今のでわかった。メルトは圧倒的に経験が足りない。俺が庇って探索してもいいが、見習い騎士といっていたからには剣の腕で食べていくんだろう。それなのに、全部護ってしまっては、彼のためにならない。

 よし、レベリングしよう。

 この世界はレベルが存在する。俺がそう概念付けているのかもしれないが、進化というのは種族の壁、つまりレベル上限を突破することに他ならない。ヒューマンはどうやら100のようだった。今のメルトは多分レベルイコール年齢だろう。

 俺の持っている統率というスキルはパーティーメンバーと認識した者への能力10%UP、経験値5倍付与、限界突破、魔力量倍加の効果を及ぼす。

 メルトをパーティーメンバーと意識する。統率のスキルが発動する。

 さて、メルトには頑張ってもらおうか。

「いや、俺が拘束魔法を使えばよかったんだ。少し戦法を変えよう。まず俺が魔法で先制、怯んだところをメルトが剣で止めを刺す。これでいこうか。」

 メルトは恐怖にか身体を震わせていた。可愛くて抱きしめたかったが、我慢する。でも頭を撫でるくらいは許してもらおう。

 マップに赤い光点が現れる。探索できる通路にはかなりの数が点在していた。しかもBランク以上。

 それからは俺が魔物を拘束し、メルトが首を落としていくという、単純作業、いや戦闘を繰り返した。
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