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見習い騎士はダンジョンで運命と出会う(メルトSIDE)
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「おはよう。メルト」
目を覚ますとヒューの顔が視界いっぱいにあった。なんだか顔が熱くなる。固まっていると、チュッとキスをされた。
「お、おはよう…ヒュー…」
挨拶を返すと蕩けそうな笑顔が返ってきた。ドキンと心臓が跳ねる。美形って凄いなとつい感心してしまった。
「顔洗っておいで?ご飯できてるから…」
ポンポンと頭を軽く叩いて、ヒューは部屋を出ていった。起き上がると裸だった。そういえば、恋人がすることをしちゃったんだと思いだして顔が真っ赤になった。
恋人じゃないとそういうことしないって言ったから俺とヒューは恋人、なんだよな?
なんだか、自分に恋人ができたのが信じられなくて、ぐるぐると考えた。優しくしてくれるヒューの目に俺に対する気持ちが見えて、顔が赤くなるのが止められなかった。
顔を洗って用意されていた浄化を施された服を着て、テントを出た。
用意してくれた朝食を食べてまたダンジョンの探索に出る。転移魔法で昨日の場所に出る。
「魔物はまだ、近くにいないけど、気をつけて。」
抱きしめていた腕が離れると、なんだか寂しい気持ちになって戸惑った。
昨日までそんなこと思わなかったのに。
探索に集中しないと命を落とすと気持ちを無理やり切り換えた。
ヒューの指示で薄暗いダンジョンの中を進む。進むほど、出てきた魔物の強さが上がっているような気がした。魔物はひっきりなしに現れて行く手を阻む。返り血で剣の握りが滑るとヒューが浄化をかけてくれた。
「ありがとう…」
「どういたしまして」
何でもないように息をするように魔法を使うヒューは本当に凄い。魔力切れも起こしていない。俺は少し息が上がっている。
「メルト、くるぞ。狼型、個体数5だ。」
考えるのは止めだ。目の前の敵に集中しろ。今までしてきた鍛錬の成果を試せるときなのだから。
ヒューの拘束魔法で動きが止まる。そこを目がけて剣で首を落とす。4体目で、剣に異変が起こった。
剣から起こる、小さな異音。首の半ばで剣が止まり、砕けた。
「…!…」
刃がなくなった柄を見て一瞬、動きが止まった。傷をつけられたことで拘束魔法が解けたのか、頭が俺の方を向く。
「メルト!」
声に振り向くと剣をヒューが投げてきた。持っていた柄を捨て、それを掴んで上段から降り降ろす。頭を真二つに斬り裂いた。
凄い斬れ味の剣と思う間もなく、5体目の首を切り落とす。
「はあ…はあ…」
ひやっとした。こういうこともある。俺が持っていた剣は数打ちの安物だ。
見習いはいい剣など手にできない。そもそも、それほどの討伐をする前提で、組んでいた演習ではないからだ。何十体も斬れば、剣が耐久値を超えるのは当たり前だ。
「大丈夫か?メルト…」
肩にヒューの手が置かれた。俺は振り返って頷く。
「ひやっとしたけど、大丈夫…ありがとう…これ、凄い、ね…」
剣を返そうとして押し止められた。
「それはメルトが持っていていい。丸腰じゃ、ここを出るのは無理だろう?他にも予備の剣はあるから、安心していい。」
やんわりと押し戻された。にっこりと笑っているが譲る気はないようだった。
「わ、わかった。借りておく…」
俺がそう言うと満足そうにヒューが頷いた。その笑顔が眩しくて視線を手もとに落とした。
凄い剣だ。
刀身はまっすぐの両刃の片手剣。
剣の表面は俺の顔が映るほどに磨かれてて、中心には魔法が付与されているのか文字の刻印が見える。刀身は光の加減で、うっすらと赤く見える。
長さは80センチほど。幅は15センチほど。真ん中が厚く端に行くと薄くなっている。先が尖っている。
持ち手には革が巻かれて滑り止めになっている。革の色は赤だ。柄頭は丸く、青い魔石が埋め込んである。
鍔は剣を受け止められるような少し幅広の、上から見ると楕円系でこれも赤い金属だ。装飾に模様が描かれている。
「一応渡しておくか。鞘だ。腰につけておくといい。」
渡された鞘は何かの皮で覆われていて、装飾はないが握りに巻かれている皮と同じ赤い皮だった。腰に巻くベルトにつけられていて、ベルトを巻いて鞘を下げた。意外と軽くて邪魔にならない。
こんなすごい剣を持っているんだから、剣を振ればいいのに。
魔法も剣も凄いなら魔法剣士という奴でもなればいいのに。もったいないな。
「ああ、その魔石に唾をつけといて?それでメルト以外は鞘から抜けなくなる。」
はい??
言われたとおりにしたけれど、剣に使用制限つけるって、意味がわからない。
大分歩きまわって、昨日と同じように少し開けたところで休憩を取った。
「まだ半分も行ってないかな。階段が見つかればいいけれど、多分ボス戦をしないと出られないタイプかもしれないな。」
ヒューが出してくれた水筒で喉を潤しながら聞いた。
この水筒は魔道具で勝手に水が満タンになるそうだ。そんな魔道具があるんだ。
うちの国は水の質はいいけれど、量が少ないからたまに水不足になる。そんな魔道具が平民にも買えたらそういうことにならないだろうに。
魔道具って言うだけで、平民には買えないのだけど。
「さて、もう少し頑張って、今日はもう終わりにしよう。」
そうして、何十体も魔物を切りながら進んでまたあの場所に戻った。
テントをヒューが出して、食事の用意をする。その脇で俺は貸してもらった剣で素振りをした。
半日で、多少慣れたとはいっても、新しい剣に慣れておくにこしたことはない。
何十体も斬って、刃零れもない。どこかの名工が鍛えた品に違いない。もともと叩き斬るものだし、切れ味とかないはずなのに、綺麗に斬れる。
綺麗に斬れるというのはスキルに依存する。斬撃というスキルがなければ綺麗に斬れないのだ。
斬撃は剣士に現れるスキルで、俺はまだ、持っていない。斬撃は、飛ばすことができて広範囲の敵も斬れるのだ。
早く習得したい。
夢中になって剣を振っていると、ヒューが模擬戦をやろうと言ってくれた。
昨日と一緒で木剣を出してくれて、打ち合う。ヒューの剣筋は綺麗で実践的だ。最小の取り回しで最大の効果が出るような軌跡。
身のかわし方も、防御も最小限の動きで済ませている。だから反撃が早い。隙の少ない理想的な剣術。それを俺に教えてくれる。
ヒューの、俺にしてくれる剣の稽古なのだ。
ヒューと出会えてよかった。
先のわからないダンジョンで、ヒューという剣も魔法も、料理も凄い人物と会えた。
俺はなんて幸運なのだろう。
こんな幸運は一生に一度しかないのかもしれない。それともヒューと出会ったのは運命といわれるようなものなのだろうか?
それだったらいいのに。
そんなことをちらりと頭の隅に過らせながら、模擬戦に夢中になっていった。
※火竜剣※
メルトの借りた(ヒューはあげたつもり)剣の素材はヒヒイロカネ。軽い赤い刀身が特徴。
握りや装飾につかわれている革は、火山に生息するワイバーンの亜種の竜種の革。火を弱点とする魔物に効果大。
他に魔法付与として耐物理特性、不壊(永続ではない)特性がされている。
名工ドワーフのボルドール作成の銘剣。魔法付与はヒュー。
目を覚ますとヒューの顔が視界いっぱいにあった。なんだか顔が熱くなる。固まっていると、チュッとキスをされた。
「お、おはよう…ヒュー…」
挨拶を返すと蕩けそうな笑顔が返ってきた。ドキンと心臓が跳ねる。美形って凄いなとつい感心してしまった。
「顔洗っておいで?ご飯できてるから…」
ポンポンと頭を軽く叩いて、ヒューは部屋を出ていった。起き上がると裸だった。そういえば、恋人がすることをしちゃったんだと思いだして顔が真っ赤になった。
恋人じゃないとそういうことしないって言ったから俺とヒューは恋人、なんだよな?
なんだか、自分に恋人ができたのが信じられなくて、ぐるぐると考えた。優しくしてくれるヒューの目に俺に対する気持ちが見えて、顔が赤くなるのが止められなかった。
顔を洗って用意されていた浄化を施された服を着て、テントを出た。
用意してくれた朝食を食べてまたダンジョンの探索に出る。転移魔法で昨日の場所に出る。
「魔物はまだ、近くにいないけど、気をつけて。」
抱きしめていた腕が離れると、なんだか寂しい気持ちになって戸惑った。
昨日までそんなこと思わなかったのに。
探索に集中しないと命を落とすと気持ちを無理やり切り換えた。
ヒューの指示で薄暗いダンジョンの中を進む。進むほど、出てきた魔物の強さが上がっているような気がした。魔物はひっきりなしに現れて行く手を阻む。返り血で剣の握りが滑るとヒューが浄化をかけてくれた。
「ありがとう…」
「どういたしまして」
何でもないように息をするように魔法を使うヒューは本当に凄い。魔力切れも起こしていない。俺は少し息が上がっている。
「メルト、くるぞ。狼型、個体数5だ。」
考えるのは止めだ。目の前の敵に集中しろ。今までしてきた鍛錬の成果を試せるときなのだから。
ヒューの拘束魔法で動きが止まる。そこを目がけて剣で首を落とす。4体目で、剣に異変が起こった。
剣から起こる、小さな異音。首の半ばで剣が止まり、砕けた。
「…!…」
刃がなくなった柄を見て一瞬、動きが止まった。傷をつけられたことで拘束魔法が解けたのか、頭が俺の方を向く。
「メルト!」
声に振り向くと剣をヒューが投げてきた。持っていた柄を捨て、それを掴んで上段から降り降ろす。頭を真二つに斬り裂いた。
凄い斬れ味の剣と思う間もなく、5体目の首を切り落とす。
「はあ…はあ…」
ひやっとした。こういうこともある。俺が持っていた剣は数打ちの安物だ。
見習いはいい剣など手にできない。そもそも、それほどの討伐をする前提で、組んでいた演習ではないからだ。何十体も斬れば、剣が耐久値を超えるのは当たり前だ。
「大丈夫か?メルト…」
肩にヒューの手が置かれた。俺は振り返って頷く。
「ひやっとしたけど、大丈夫…ありがとう…これ、凄い、ね…」
剣を返そうとして押し止められた。
「それはメルトが持っていていい。丸腰じゃ、ここを出るのは無理だろう?他にも予備の剣はあるから、安心していい。」
やんわりと押し戻された。にっこりと笑っているが譲る気はないようだった。
「わ、わかった。借りておく…」
俺がそう言うと満足そうにヒューが頷いた。その笑顔が眩しくて視線を手もとに落とした。
凄い剣だ。
刀身はまっすぐの両刃の片手剣。
剣の表面は俺の顔が映るほどに磨かれてて、中心には魔法が付与されているのか文字の刻印が見える。刀身は光の加減で、うっすらと赤く見える。
長さは80センチほど。幅は15センチほど。真ん中が厚く端に行くと薄くなっている。先が尖っている。
持ち手には革が巻かれて滑り止めになっている。革の色は赤だ。柄頭は丸く、青い魔石が埋め込んである。
鍔は剣を受け止められるような少し幅広の、上から見ると楕円系でこれも赤い金属だ。装飾に模様が描かれている。
「一応渡しておくか。鞘だ。腰につけておくといい。」
渡された鞘は何かの皮で覆われていて、装飾はないが握りに巻かれている皮と同じ赤い皮だった。腰に巻くベルトにつけられていて、ベルトを巻いて鞘を下げた。意外と軽くて邪魔にならない。
こんなすごい剣を持っているんだから、剣を振ればいいのに。
魔法も剣も凄いなら魔法剣士という奴でもなればいいのに。もったいないな。
「ああ、その魔石に唾をつけといて?それでメルト以外は鞘から抜けなくなる。」
はい??
言われたとおりにしたけれど、剣に使用制限つけるって、意味がわからない。
大分歩きまわって、昨日と同じように少し開けたところで休憩を取った。
「まだ半分も行ってないかな。階段が見つかればいいけれど、多分ボス戦をしないと出られないタイプかもしれないな。」
ヒューが出してくれた水筒で喉を潤しながら聞いた。
この水筒は魔道具で勝手に水が満タンになるそうだ。そんな魔道具があるんだ。
うちの国は水の質はいいけれど、量が少ないからたまに水不足になる。そんな魔道具が平民にも買えたらそういうことにならないだろうに。
魔道具って言うだけで、平民には買えないのだけど。
「さて、もう少し頑張って、今日はもう終わりにしよう。」
そうして、何十体も魔物を切りながら進んでまたあの場所に戻った。
テントをヒューが出して、食事の用意をする。その脇で俺は貸してもらった剣で素振りをした。
半日で、多少慣れたとはいっても、新しい剣に慣れておくにこしたことはない。
何十体も斬って、刃零れもない。どこかの名工が鍛えた品に違いない。もともと叩き斬るものだし、切れ味とかないはずなのに、綺麗に斬れる。
綺麗に斬れるというのはスキルに依存する。斬撃というスキルがなければ綺麗に斬れないのだ。
斬撃は剣士に現れるスキルで、俺はまだ、持っていない。斬撃は、飛ばすことができて広範囲の敵も斬れるのだ。
早く習得したい。
夢中になって剣を振っていると、ヒューが模擬戦をやろうと言ってくれた。
昨日と一緒で木剣を出してくれて、打ち合う。ヒューの剣筋は綺麗で実践的だ。最小の取り回しで最大の効果が出るような軌跡。
身のかわし方も、防御も最小限の動きで済ませている。だから反撃が早い。隙の少ない理想的な剣術。それを俺に教えてくれる。
ヒューの、俺にしてくれる剣の稽古なのだ。
ヒューと出会えてよかった。
先のわからないダンジョンで、ヒューという剣も魔法も、料理も凄い人物と会えた。
俺はなんて幸運なのだろう。
こんな幸運は一生に一度しかないのかもしれない。それともヒューと出会ったのは運命といわれるようなものなのだろうか?
それだったらいいのに。
そんなことをちらりと頭の隅に過らせながら、模擬戦に夢中になっていった。
※火竜剣※
メルトの借りた(ヒューはあげたつもり)剣の素材はヒヒイロカネ。軽い赤い刀身が特徴。
握りや装飾につかわれている革は、火山に生息するワイバーンの亜種の竜種の革。火を弱点とする魔物に効果大。
他に魔法付与として耐物理特性、不壊(永続ではない)特性がされている。
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