アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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見習い騎士はダンジョンで運命と出会う(メルトSIDE)

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 俺は夢を見ているんだろうか。目の前には湯気の立ち上るスープと皮は堅くて中が白い丸いパンがあった。ここはダンジョンだ。普通の冒険者はたいてい保存食で過ごす。何があるかわからないダンジョンでのんびりと食事を作る暇などないはずだ。

 しかも、何も持っていない手ぶらな魔術師…いや、ヒューか。ヒューは虚空で手を動かすと何やら魔道具やなべやら食材やらを出して調理をした。
 驚いている俺にこのコンロは自信作で持ち歩きも出来てダンジョンで使っても酸欠にならないから超便利、とか言った。酸欠ってなんだ?

「どうした?毒なんか入ってないぜ?」
 ヒューはスープの入った器を持ち上げてスープをスプーンですくって口に入れた。俺を安心させるためだろうか。俺は、スープを見つめて手に取った。器は木で出来ていてスプーンも木だ。

 俺が今座っている小さな椅子も木で出来ていてこんなものを持ちこむ余裕があったのかと感心している。ちなみに何故か膝下くらいの背の低い小さな木で出来た丸テーブルも、俺とヒューの間にあった。
 そこにスープとパン、水の入ったコップが置かれている。どう見ても、ダンジョンにあるべきものじゃない。

 何者なんだこいつは。と思ってちらっとヒューを見ると目があった。二コリと微笑まれて慌ててスープに視線を落とす。
 スープは野菜と肉が入っていてすごくいい匂いがする。スープの色はほんのり茶色というか黄色というか色がついていて、脂が少し浮いている。掬って恐る恐る口に運んだ。

「…!!」
 なんだこれ。

「どうした?熱かったか?火傷した?」
 ヒューが心配そうに俺を見る。その優しい目に心臓が跳ねた。なんだこれ。

 俺は首を横に振った。
「お、美味しい…です。」
 本当に美味しい。野菜の味と、多分鳥の肉から出た味がスープに甘い味を加えてるんだと思う。
 そしてスープは塩だけじゃない複雑な味がした。ハーブかなんか入ってるのだろうか。
 少しピリッとした味もする。野菜は俺の少し苦手なニンジンも入っていたが臭みはないほど煮込まれててそして小さかったのでよかった。

 これって今目の前で調理したわけじゃなかったよな。野菜切ってなかったし、鍋をコンロであっためただけに見えた。作ったのを持ちこんだ?それにしては出来たてのように思えた。

「それはよかった。口にあって嬉しいよ。あ、お代わりもあるから遠慮なく言って」
 そう言われてつい2杯もお代わりをした。美味かった。パンも美味しかった。柔らかくて今まで食べたことがないパンだった。

 うん。ヒューはいい奴だ。こんな美味しいものを分けてくれる人間に悪い奴はいない。

「で、提案なんだけど、ここは安全地帯で魔物が出ないようだから、ここを拠点にしてこの階層の様子を探りながら出口を探すというのはどうだろう?マッピングは俺がする。それで今はもう一旦休んで疲れを取ってからにしたいんだが…」
 ヒューの提案は悪くない。焦って動くとミスをするものだ。

「わかった。それでいい…です。」
 俺は頷いて、浄化の魔法を掛けつつなべやら器やらをマジックバック(だと思う)へしまっていくヒューの手元を見ていた。魔術師だけあって簡単に魔法をつかっている。少し羨ましい。

「丁寧な言葉遣いはしなくていいよ。」
 俺がつっかえて話してるのに気を使ってくれたのか、ヒューはそう提案した。
「わかった。ありがとう。」
 俺が同意するとヒューはにっこり笑って頷いた。美形の笑顔は破壊力があるな、とそう思った。

 ヒューは片付け終わると立ち上がって壁に向かって立った。何をするんだろうと思ってみているとテントが出現して驚いた。
 組み上がったテントだ。普通は畳んで、バラバラにしたものを持ちこむ。
 マジックバッグの容量は有限だから、そうしないと他の物資が持ち込めない。よほど大容量のマジックバッグを持っているのか、ヒューは。

 俺は驚いていたが、それはほんの序の口だった。
 このヒューという魔術師がどれほど規格外の人物か、その驚きの連続となることの。

「なんだこれ!?」

 テントに入って驚いた。テントの中に3つ扉があって、どう見ても表で見たテントの容量を超えている。

「あ。そうか、初めて見る人は驚くんだったっけ。その前にセキュリティの起動しないとなあ。メルト、ここに魔力流してくれる?」

 ヒューはマイペースだ。セキュリティってなんだ。言われるままにテントの入口にある、金属のプレートにハマっている魔石に魔力を流そうとするが、できなかった。

 そもそも俺は魔力の放出がほとんどできない。
 だから生活魔法さえ、ろくに使えない。誰でも使えるはずの魔法が、使えない。
 つまり、それ以上の魔法も使えない。
 騎士として最低限、使えるはずの身体強化の魔法すら、使えないのだ。まあ、だからここにいるわけだけど。

「えっと…苦手なんだ。」
 そう言うのが嫌でつい俯く。

「ああ、じゃあ、唾でもつけて。魔力パターンがわかればいいだけだから。体液には魔力が満ちてるからね。同じことだよ。」
 ヒューはさらりと言った。貶めることもなにもない。事実だけを受け止めて次善策を言ってきた。思わず見上げた。相変わらず水色の瞳は優しい色をしていた。

「わ、わかった。」
 指を舐めて魔石に唾を付けた。一瞬魔石が光った。その次にヒューが手を魔石においた。

「セキュリティオン」

 ヒューがそういうとテント全体が光った。なんだこれ!?
「なにこれ?」

 俺が光ったことにテントを指さして首を傾げると、ヒューはああ、という顔をしてニコッと笑った。

「テントに結界の魔法陣を付与してあってね。魔力を登録した者しか中に入れない仕組みになってる。その仕組みを今起動させたんだよ。野営の時も、そこらの魔物や盗賊は入ってこれないし、結界の防御を越えてくるような者の襲撃を受けたら警報が鳴る仕組みになっているんだ。ここは安全だと思うけど、魔物以外でも危険はいろいろあるからね。用心しておこうかと思って。」

 仕組み自体はよくわからないが凄い魔道具だっていうことはわかった。そんな凄い魔道具は物凄い金額になるはずで、ヒューはもしかしたらそんな金額を稼げる冒険者か貴族、とかじゃないのだろうか。

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