アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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見習い騎士はダンジョンで運命と出会う(メルトSIDE)

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 シャドウバットは一体一体ではさほど脅威にならない魔物だが、基本この魔物は群れをなす。一斉に襲いかかられると食い散らかされてあっという間に骨になるという話だ。生息地は洞窟の中。
 このダンジョンはシャドウバットに適した環境を提供していた。

「まずい、数が多すぎる。走ってここを抜けろ。あれにはかまうなよ!!縄張りからでないはずだ!」
 言われた途端、皆が身体強化の魔法をかけ、スピードをあげる。俺は魔法を使えないので、必死に走るが、その差は開いていく。

 キイキイと鳴いていたシャドウバットはザザザという羽音をさせて俺達を追ってくる。
 あの数に襲われたら剣ではどうにもできない。魔術師がいたらあの数も問題なかったのに。

 俺は何で魔法を使えない。こんなところでそのせいで死ぬのは嫌だ。あの数の魔物を一瞬で斬れたらよかったのに。せめて剣のスキルで斬撃を飛ばせるようになっていたら。

 後ろから羽音と鳴き声が近付く。
 追いつかれる。すでに皆は広場を抜けた。俺を待っている。あと、10メートル。その10メートルが遠い。
 背中に衝撃を感じてたたらを踏む。足が止まってしまって、次々と襲いかかってくるシャドウバットに俺は吹き飛ばされた。その勢いで出口から3メートルくらい離れた壁にぶつかった。

 慌てて剣を抜いて盾にしようと自分の前に掲げる。倒れ込んだ身体を立てなおそうとして、肘で壁を支えに身体を起こそうとした時だ。肘のぶつかった部分の壁が沈んだ。

『カチ』
 その音がした瞬間、俺は光に包まれた。

「メルト!!」
 ミランの焦った声が聞こえたがそちらを見ることはできなかった。

 光が収まった時俺は空中にいた。

 手にしてた剣は驚いたことで手から離れ、あ、と思った次の瞬間、身体が落下する。床に激突する、と思った瞬間身体がふわりと浮き、誰かの腕の中にいた。

(横抱きにされている!?)

 突然の事に混乱している俺の耳を、低音で涼やかな声が打つ。
「なんだ?俺のほかにも飛ばされた奴がいるのか。まったく、これだからダンジョンは油断ならねえ。…ファイヤーバレット…」

 キイ!と魔物の悲鳴が聞こえてその方を見た。炎に包まれて落ちるシャドウバットがいた。

 目の前を紺色の髪が舞った。魔術師らしい黒いマントが俺の目の前にある。
 見上げると20歳前半位の物凄い美形の顔が飛びこんできた。
 フードをかぶったその人物は、俺を横抱きにしていた。どうやら、落ちてきた俺を受け止めたらしい。

「安心しろ。ここはどうやら安全地帯だ。さっきの魔物はあんたにくっついてきた奴らしい。モンスターハウス仕様じゃなくてよかったな。」

 にこっと眩しい笑顔を見せてその美形の魔術師?が言う。そろそろ降ろして欲しい。
 なんだか顔が熱くなる。その、水色の優しい目に見つめられると。

「あ、あの…降ろして…」
 魔術師は俺の言葉にはっとした顔をして足の方からゆっくりと降ろしてくれた。
 降ろしてもらってほっと息を吐くと周囲を見回した。
 先ほどの広場より一回り狭い空間で、天井は高かった。壁は同じ岩でぼうっと光っていた。前方に出口と思しき穴があいていてそこに皆はいなかった。他に出口というか入口らしきものはない。

「ここ、どこ…」
 俺は思わず呆然として立ちつくした。噂には聞いていたけど、初級のダンジョンでも、こんな危険があるんだ。

「わからないな…俺のマップでも、位置が特定できない。深層のどこか、かな?」

 独り言に答えが返ってきて振り向くと、俺を受け止めた人が立っていた。
 メイルだろうか?足もとまで覆う黒のマントを羽織り、身長は180cmくらい。身長の割には細身に見える。 フードからはみ出た髪は腰近くまであり、かなりの長髪のようだ。肌は白いがやや黄味がかっていて、俺の国より南の方のような気がした。

「どうやらお互い転移罠で飛ばされたみたいだな。…俺はヒュー。冒険者をしている。ええと、君は?」
 冒険者か。あれ?でも、今回は冒険者はダンジョンへ入ってなかった気がするが…。まあ、俺達が入った後、俺と同じようにして飛ばされたのかもしれない。

「…メルト。見習い騎士だ。」
 答えると彼は俺を上から下まで眺めたあと首を傾げる。そんな仕草もなんだか品がある感じがした。

「…アルデリア王国?にしては装備が違うな。紋章もないし…」
「…ラーン王国だけど…」
 おかしいな。あのダンジョンはほぼラーン王国の低ランク冒険者が入っていて、他国の冒険者は余りというか、全く来ない場所なはずだ。だから、見習いの訓練に使われてるのだと、事前に説明があった。
 この魔術師……ヒューといったか。ヒューはアルデリア王国出身なのだろうか。

「ラーン王国?たしか魔の森を越えた、北方にある王国か。その綺麗な金髪と翠の目は北だからか。」
 き、綺麗?な、何言ってるんだ、この人。思わず頬が熱くなった。綺麗だなんて言われたことない。
 いや、フィメルにそういう事言うなんて。ラーンじゃ、リンド先輩みたいに娼館にしょっちゅう行くより軽蔑されるんだけど…。と思って眉が寄った。

「どうした?どこか痛めたか?」
 いきなり、綺麗な顔が目の前にあった。焦って首を横にぶんぶんと振る。
「痛くは、ない。大丈夫…」
 思わず一歩下がった。あんまり近くに寄らないでほしい。心臓に悪い。

「メルト、提案があるんだが。飛ばされた者同士、協力してダンジョンを脱出しないか?一人より、二人の方が安全だと思う。」

 ヒューは真剣な顔をして提案をしてくる。たしかに、シャドウバットの大群相手なら魔術師がいた方が、生存率は高くなる。詠唱の時間を稼ぐには俺が盾になればいい。

「…わかった。こちらからも、お願いします…」
 軽く頭を下げた。俺よりは年上そうだし、経験もありそうな冒険者で、何より希少な魔術師だ。どこなのかわからないダンジョンでは心強い道連れになるはずだ。

「そうときまったら腹ごしらえ、だな!」
 はい?
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