アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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本格始動

第64話 坂上智樹3(※坂上智樹SIDE)

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 魔法の授業は座学から始まった。基礎論は前の講師に習ったが、すっかりと頭から抜け落ちていた。魔法制御の練習なんか、俺の頭にはなかったからだ。反発したけれど、従った。
 メリットはあるはずだからだ。

 それよりもなによりも。

 アイテムボックス作ったってなんだよ!?
 裏ボスってなんだ!?
 ありえねえ。
 こいつ、チート中のチート持ちじゃねえか!?

 よく考えればテキストも、日本語でわかりやすく書いてあって、その下にこの世界の言語で書いてあった。これ、あいつが作ったんだ。

 俺が不貞腐れて自室で寝ている時間、アイテムボックス作って、これを作って、授業内容考えて……。
 俺達と違う、もともとのあいつの集団の表情は、いうなればリーダーと部下、先生と生徒。
 見ていれば、実技は後半の集団の方が、魔法を上手く扱っている。
 俺達はばらばらに離されて、それぞれ指導をされている。後半の集団に。

 何故だ。

 俺達の方が早くこの世界に来て、鍛えられてたはずじゃ、なかったのか。

 全然だ。全然足りなかった。あいつに何もかも、かなわない。

「もうちょっとイメージを固めて放ってみるといいよ。ラノベによくあるだろう?ゲームのエフェクトみたいにさ。炎と火がどう違うか、考えるといい。」

 奴がアドバイスをしてくる。俺は一人で実技を練習していた。いや、俺はこの、宇佐見明良が、指導することになっているのだろう。
 今さら憎まれ口をたたく気になれず、でも素直に頷くのは悔しくて、吐きだした肯定の言葉は小さかった。
 そして俺はその日から制御の練習を、寝る前にすることにしたのだった。
 アイテムボックスは俺にも配られた。ラノベのアイテムボックスそのままの機能に、驚くしかなかった。

 ラノベの勇者のような存在の、あいつはなんなのだろうか。

 自主錬というものがおこなわれていることを、初めて知った。それは俺達にはきつくて、後半の集団には当たり前の訓練だった。
 これが差なのだと知ったが、認めたくはなかった。

 藤宮かのんが戻ってきた。

 藤宮の顔つきが違っていた。いつもびくびくしていた女は、毅然とした表情をしていて、なぜだかひどく羨ましかった。
 その女が妙なことを言った。

「あ、初めまして? ……藤宮かのんです。……ラビちゃん先輩?……あの、その……何で銀髪じゃないんですか?目も金色でしたよ、ね?」
 宇佐見明良の顔が引きつったのを見た。そしてブーイングが起こって、奴がさらなるチートを隠してたのを知った。
 目が金色になるチートって何なんだよ!? 驚きすぎて心臓が持たねえよ。厨二病かよ!?

 だが、それでわかった。奴とは違う、俺はやっぱり凡人なのだということが。
 それでもやっぱり素直に従うことはできなくて、いろいろ突っかかったりはした。
 もう半分意地になっていると、自覚はしていた。

 その日、何気なしに夜窓の外を見た。見覚えのある影が、訓練所の方に向かうのを見た。

「こんな真夜中に?」

 この日はなかなか眠れずに、魔法制御の練習をしながら起きていたのだった。何をしに行くのだろうとあとをつけることにした。方角はわかったから、急いででも気配を消すようにして向かう。

 多分、ここだ。魔法用の訓練所。物陰からそっとのぞく。魔法陣が地面に二つ輝いていた。彼は片方の陣に石を置いて、後ろに下がった。光が輝いて石がもう一つの陣に現れた。
 彼のほっといた顔が見えた。汗を額に浮かべて、ブツブツと何かを呟いている。そうして彼は何度もそれを繰り返した。陣の距離が段々と離れていく。そうしてある程度離れたら、石は動かなくなった。
 彼の声が聞こえた。

「何が、悪いんだ? この部分か?それとも……」

 魔法陣を何度も描いて、それをじっと見ている。俺はなんだか、悪いことをしている気になって、部屋にそっと戻った。

 その夜はやっぱり眠れなかった。

 早朝の訓練に寝不足の身では、やはり苦しかった。あいつを見れば、平然と走っている。地力が違うのかなんなのか。

「くそっ」

 俺は抜けそうになる力を振り絞って、走る速度をあげた。

 手に持ってた木剣が飛ばされる。王都に戻ってから、一週間がたっていた。繰り返される訓練は段々負荷を増している。今俺の相手をしているのは、カディスだ。

 宇佐見明良は今日は野暮用とかでいない。この男も相当な技量を持っているんだろう。

 見えないところから繰り出される攻撃は、目の前に剣が来るまでわからない。気配というか殺気もない。俺はそういうものを感じ取る能力はあんまりない。だが、他のメンバーと打ち合えば多少はわかる。それがないのは脅威だ。じんじんと痛む手を片手で押えて木剣を拾った。

 俺の剣の腕前はお粗末だ。剣を習ってた半年は、何の役にも立ってなかったってことが、身に染みてわかった。
 
 それでも、この目の前のカディスと宇佐見明良の、模擬戦を見せられたあとでは、悔しくて諦められない。
 才能は多分ない。チート集団のこの“彷徨い人”のなかで俺は真ん中よりも下だ。炎魔法は使い勝手が悪く、小回りはきかない。総合的な戦闘能力で、宇佐見の集団に劣る。

 それくらいは自覚した。

 自覚はしたが悔しい。素直になるのは今さらできない。出来るのはがむしゃらに向かっていくことだけだった。
 結果、俺は体力の限界を迎えて地面に転がることになった。見上げた空は青く、雲が流れている。異世界なのに空は元の世界と変わらない。それがなんだか不思議で胸が苦しくなった。

 俺は訓練量を増やした。夕食後誰もいない訓練所に素振りに出かける。走って身体を解して、型の稽古。魔力制御の練習。
 それをずっと続けて、多少体力がついた、1週間後冒険者登録をするとあいつが言った。

 チーム分けは魔法の授業でのグループそのまま、女どもだけ、二つに分かれた。

 俺は奴と二人チームだった。

「トモちゃんだと可愛すぎるか―。智樹、ウィズダムウッド、ウッドでどう?」

 何を言ってるのか、こいつは。

「また始まったよ。ラビちゃん先輩、ネーミングセンス最悪なのわかってんのかな?」
「わかってないだろ。」
「わかってないよね。」

 おい、誰か止めろよ。
 だが、俺だけではなかったので、諦めるしかなかった。それで後半の集団が愛称で呼んでいる理由がわかった。
 宇佐見明良のせいだった。普段から呼んでないと、ギルドでぼろが出るから、だそうだ。

「はあ」
 思わずため息が出た。
「幸せが逃げるぞ、ウッド。」
 背後で突然声がした。振りかえるとカディスがいてにやっと笑った。
「こんなの序の口だからな。」
 言って彼は女子のグループに向かっていった。爺さんもいる。どうやら女子4人に1人ずつつくようだった。何が序の口なんだろう。いやな予感がして俺はぶるっと震えた。

「ギルド行くぞ―」
 あいつがそう言って、王城の門をくぐった。初めて出る、王城の外。その景色に目を奪われた。
 
初めてここに来た時に見た風景のはずなのに。あの時とは季節が違う。少し色がくすんだ王都。雪がつもったその風景に俺は見惚れてしまった。


 俺はフード付きマントに皮の防具、長袖のシャツに、皮のズボン、ロングブーツに、鋼のすね当てが付いている。
 足先には金属が覆い、安全靴のようになっていた。腰に嵌めたベルトに、ポーションの入ったポシェット、ショートソードと短剣を装備していた。

 他の面子もそんな感じで、集団で移動する様は少し目立っていた。

 ギルドにつくとあいつが登録用紙に、何か書いていた。それをまとめて出していた。
 
そして新たに登録する俺達にギルドカードが渡された。それに魔力を通すと、カードが自分のものになるようだった。
「さて、定番の薬草採取だ。ウッドは俺と二人パーティ。達成度B以上目標だ。いくぞ。」

 すでに依頼の受理はされたようで、俺は宇佐見明良と森へ向かうのだった。
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