上 下
61 / 67
本格始動

第60話 魔法の授業

しおりを挟む
 午後、座学の教室の扉前だ。ざわついた雰囲気。深呼吸して勢い良く扉を開けた。
「みんな揃ってるか?よし。サボったら魔法使いこなせるの遅くなるってわかってるんだな。」
 俺は教壇のある黒板前に上がる。この部屋は大学の教室のような、机と椅子の並びになっている。俺は手ぶらのまま、教壇前に立つ。

「いや―照れるね! オタクの大学生だった俺が人前で授業とか。プレゼンの授業はまだ受けてなかったんだけどね。予習になるかな。ちなみに教職課程は取ってません。さて、オタクのあこがれ異世界転移なんだが、俺達は女神の加護を受けている。ギフトももらっている。それはこの世界の人たちが手にするには破格すぎる才能だ。スキルもかなり頑張って習得しなければならないのがこの世界の住人だ。俺達は女神に呼ばれた。その時に女神はそれぞれの個性に合わせたスキルや加護を俺達につけている。それが、“彷徨い人”であり、“勇者の卵”だ。俺たち全員、“勇者の卵”であるのは間違いない。」
 まあ、俺は雛なんだけれども。皆にも雛になって欲しいとは思う。

 なに言ってんの? という顔をしているのは何故か後半組だ。前半組は唐突に始まった俺の演説をどう受け止めていいのかわからない顔をしている。

「スキル鑑定を受けたと思う。自分の力は自覚しているはずだ。それを踏まえたうえで、自分はどういう方向で力を伸ばすか。それが重要になってくる。俺が視たところ、魔力のない者はいないし、魔法が使えない者もいないと思う。そこで、まずは魔法とは何か、というところから説明する。」
 俺は、最前列の向かって右側に座るしんちゃんの前に行き、”アイテムボックス”からテキストを全員分、机の上に出した。

「えええ!? どこから出したのラビちゃん先輩!?」
 俺はにやっと笑って。
「アイテムボックスからに決まってんだろ?」
 とウィンクした。……不評だった。

「え!? どういうこと!? この世界、そんな魔道具なかったよね!?」
 ガッキ―が突っ込んでくる。いいからはよ回せって。

「企業秘密です。授業をちゃんと聞いたら教えてやるよ。」
 俺は壇上に戻った。
「う、わー上から目線だ!!」
 ハジメが騒いだ。よし、お前達3人と坂上のグループをパーティーにする。決めた。

「テキスト行きわたったか?」
 これは俺が初級魔法の魔法陣と仕組み、詠唱のコツなんかを、図書室にあった魔道書から、抜き出して噛み砕いた形でまとめたものだ。マルティナが使った教材も参考にした。

「さて、魔法と言ったら厨二病、ではなく、30までど……じゃなく。ラノベに欠かせない要素だな。あ、ラノベをわかんない方はスルーで。ゲームでもおなじみの魔法。この魔法はこの世界の人は誰でも使える。無属性と呼ばれる属性は誰でも持っているからだ。この無属性に属しているのが生活魔法と呼ばれる便利魔法。俺は“浄化クリーン”をよく使う。水を出したり、火をおこしたり。それくらいなら息をするレベルで使いこなす。この世界の住人は、だ。」
 俺は一旦言葉を切る。

「だが、俺達はどうだろう? 魔法は身近なものじゃない。見たこともない。魔力はあるかもしれないが、感じたことはない。その状態で、魔法を使えるわけがない。ではどうするか? 一から訓練するしかない。資格試験や受験と一緒だ。魔力自体は全員感じることができていると聞いてるんだけど、もう一度基礎からやろう。」
 そう言って、俺は掌を上にして肩の位置に掲げた。

「わが道を照らせ、“光球ライト”」
 掌の上に光の球が現れる。丸い光の塊が、掌サイズで浮かんでいる。
「大事なのは魔力制御、そして魔力量を伸ばすということ。魔法は、イメージの具現化だ。荒唐無稽な魔法もイメージが具体的で、相応の魔力があれば、実現する。たいていは詠唱で、魔法を構築し発現させる。イメージが強ければ、詠唱破棄、無詠唱もできる。頭の中で詠唱したりだな。詠唱は複雑な魔法になると長くなる。その間に攻撃されたら魔法自体発動しない。詠唱を終えてもイメージが不十分だったり、魔力が足りなかったりすると、これまた発動しない。」
 この間、俺は光球を維持していた。

「魔法を構成するのは、術者の魔力だ。魔力を燃料にして、魔法は発現する。魔法は必ず、魔法陣を内包する。詠唱は、この魔法陣を形作る。さっきで言えば、わが道を照らせ、が構成。光球が、発動キーだな。まあ、感覚で発動出来る天才もいるから、魔法陣を描くということはあまり重要じゃない。重要じゃないが、魔法の効率化や、武器や魔道具への付与には必要になる。」
 俺は左手から魔力を放出し、同じ詠唱をした。同じ“光球”が左手に現れる。だがこれは精霊魔法。精霊眼の副次効果だ。

「さて、新しく作った方は種類の違う魔法だ。まあ、この違いは自分の魔力を使うか、その辺にある魔素を利用するかの差だ。適性が必要で、皆の好きなエルフが得意とする魔法だな。」
 俺は光球を維持しながら話を続ける。

「世の中の魔法使いは属性の適性がないとその属性魔法は使えない。多分、皆は2~3属性の適性がある。これは破格だ。この世界の魔法使いで複数の属性を持っていたらそれだけで一流の魔法使いを目指せる。つーことで、それくらい魔法が使えないと勇者の入口にも立てないということだから……実践は、必死になって、自分の属性魔法を究めて欲しい。そこで推奨したいのは魔法制御の練習だ。フレンドリーファイアはいやだろう?」

 俺は手をまっすぐ伸ばして”光球”を見せる。
「これを限界時間まで維持する練習をする。この球形が乱れたり、不安定になったりするのは制御が甘いということだ。この程度の魔法で、大量に魔力がなくなるのも制御が甘い。制御が上手くなるということは魔法の扱いが上手くなることだ。毎日やるように。」
 魔法を解除する。魔力をストップすればすぐ消える。タツト君はアンチマジック使ってたけどな。
「今、やってみてくれ。俺が程度をみる。あ、厨二くさいセリフなくてもいけるなら詠唱破棄でいいぞー。」

 どっと笑ったのが後半組。
 ざわついてるのが前半組。
 それでも。ちゃんと実行した。出来ない者はいないようだった。

「坂上君。ほら、光球出して。」
 やる気なさそうに頬杖をついている坂上智樹は、俺をちらりと見上げて視線を逸らした。
「うぜえよ。」
 あー、俺、2、3年前だったら殴ってるかも。
「へーそう。まあ、いいんだよ。皆が練習して、どんどん魔法を使うのが上手くなっていくのに、坂上君だけ、ずーっと同じ状態でレベルの変わらない魔法を使ってるのって、それ、あんまかっこよくないよね?」
 あ、ものすごく睨まれた。
 でも、光球を出した。
 向上心はある。これで出さなかったら喧嘩するところだった。
 ほっとして見回すと、制御の上手いのが後半組。余りもたなそうな前半組。
 レベルも違うから魔力量も段違いなんだが、この差を埋めるにはかなり難しいかもしれないな。

 さてグループ分けだ。
 ガッキ―チーム3人と坂上智樹を除く3人。
 女子は女子に任せて、サラリーマン2人と一番最後の二人。
 俺が坂上智樹と田村さんを受け持つ。ほんとは薬師の子に田村さんつけたいんだけどな。
 これでいこう。女子は2チームに分けて活動してもらおう。ガッキ―チームは仕方ないかな。

「休憩挟んで実践訓練だ。訓練所に移動する。」
 俺はそう言って、解散にしようとした。
「待ってラビちゃん先輩! アイテムボックスの秘密は!!」
 あ、覚えてたのね。
「裏ボスのドロップ品が、魔法袋だったんだよ。解析して、魔道具にしました。これな。」
 俺は指輪を見せた。これに使われているのは魔法鉱石と竜の魔石のかけら。
 一瞬の沈黙のあと、驚きの声が室内を揺らした。

 だって、魔法陣解析できたんだよ。作りたくなるだろー。
「あ、真面目に訓練受けた人にはこれあげるから、がんばろーね。」
 と指輪を見せびらかした。

 ちなみに俺は時空間魔法で収納魔法覚えたから魔道具はいらない。
「俺の分はないのか。」
 カディス……。
「アーリア様と、グレイナーとカディスの分は用意してあるよ。あとであげるから、武術の稽古、ちゃんと指導お願いしますよ。」
 満足気に頷くカディスに少し不安を覚えた。

「暗器の幅が広がるな……」

 物騒なこと言ってる。裏の仕事じゃないの、それ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...