アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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本格始動

第58話 ブートキャンプ再び

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 俺は王都に戻った。“彷徨い人”と、騎士も一緒にだ。俺は王城に着くとカディスとともに一団とは離れて、アーリアに報告をするため、謁見のための控室で待っていた。
 許可が与えられて謁見室に向かう。そこには落ち着きがなく歩き回っているアーリアがいた。

「アキラ様!」
 俺の胸に飛び込んできた、アーリア。受け止めてそっと手を背に回す。
 え、ちょっと待って。他の人……。
 あ、影だけだ。これ報告されちゃうよなあ。王様に。
 後ろで気配を消しているカディスがにやにやしているような気がした。

「アーリア様。無事戻りました。」
 身体を離して一応の礼を執る。一応、汚れを落として、着替えてきたから俺は黒目黒髪の素の自分に戻っている。
 アーリアは対面の椅子に座り、俺にも座るように勧めた。カディスは俺の背後に立っている。気配を消して。

「では、報告をお願いします。」
 迷宮で行方不明になった二人の調査結果をまとめた文書を差し出す。

「竜の色は違ったが、俺達が王都の迷宮で出会った竜とほぼ同じだった。ただ、向こうの竜はテレポー…瞬間転移をして攻撃をしていた。ドロップ品は拾う余裕がなかったみたいだ。で、巻き込まれた冒険者は騎士団長の秘蔵っ子だった。魔法学院のトーナメントで優勝したタツト君だ。帰ってきた段階ではまだ治癒院で治療を受けていた。」
 アーリアは報告書に目を落としつつ、表情が強張っていた。

「で、王女殿下としてのアーリア様にお願いがある。今の彼らでは、中級の魔物すらも討伐できないと思う。俺に、任せて欲しい。特に魔法、何も学んでないのと一緒だった。まあ、あいつらも成長してるし、協力してもらえばそんなに難しくはないと思う。前半の10人も同じ日本人だしね。」
 俺はアーリアの心配そうな瞳に、視線を少し逸らした。

「200年前の勇者は、あちこち国を回って、魔物討伐で神経擦り減らして、邪王を討伐したんだろう?だったら、勇者には邪王を心おきなく万全の体調で倒してもらいたいと思うんだ。疲弊しきったところで邪王に突っ込ませるのってないと思うんだよ。前回は1人。今回は20人以上。だったら、一宿一飯の恩を返してもらうために多少はこき使ってもいいんじゃないか? 国民の血税でご飯食べてるんだしなあ。」
 俺は少し、人の悪い笑みを浮かべてたんだと思う。

「全員鍛えて、各地の魔物被害が増大した時に、派遣すればいい。騎士達や冒険者とも連携を図って対処すれば、苦しい戦いにならないと思う。素で、騎士を超えているはずなんだ。能力的には。だから、その辺の事も含めていろいろ準備したい。やらせてもらえるか?」

 アーリアが俺の目をまっすぐ見る。
「わかりました。世界の危機です。私にできることならば出来る限りのことをするつもりです。」
 力強く頷いてくれた。なんとかなるだろう。なるのか?
「ありがとう。」
 俺が頭を下げるとアーリアは慌てて首を振る。
「本来はこの世界の私たちがやらなければならないと思います。でも、邪王は特別で。勇者様には出来る限りの支援をしなければ、救ってもらう資格はないと思うのです。だからアキラ様、礼を言うのは私たちです。ありがとうございます。アキラ様が来てくださって本当に私たちは救われているのです。」
 アーリアが俺の手を取って握り締める。力を込められたそれは、彼女の肩にもこの世界の重みがのしかかっているのだと、感じる強さだった。

 さて、ブートキャンプ再びだな。その前に事情を話しておかないとな。

 早朝のいつもの風景。暗い中、団体で走っている、10人の日本人。
「あー! ラビちゃん先輩だー!」
「戻ってきた!?」
「宇佐見殿、お疲れ様でした。」
「お土産はー?」
 あるわけないだろ。

 相変わらずのテンションでほっとする。戻ってきたなって感じだ。
「あーそのな。俺達の前に来ている10人と合流して訓練することになった。」
 走りながら説明がてら少しペースをあげた。何なく着いてくる。

「え、どゆこと??」
「あの人たち感じ悪いからやなんだけどー??」
 とざわざわする。

「まあまあ。というか鍛える感じかな。皆が最初ここに来た時にやった訓練早回しでやる。」
 後ろがザワっとした。
「え、そ、それはー」
「早回し!?」
「もはや拷問では……」
 なんだなんだ?? なんでそんな同情するような発言ばかりなんだ??

「皆には補助や指導をお願いしたい。もうそれくらいレベル上がってるだろ? 迷宮も5人パーティで、ボス倒せるようになってきただろ?」
 そしてまたペースをあげる。ちゃんと合わせて走っているのが、なんか嬉しいな。
「しかたないか~」
「ラビちゃん先輩のお願いだもんね~」
「やらないとあとで殺されそうだし。」
 おい、最後の誰だ?

「まあ、今日は説明と軽く魔法の指導だな。どうも教師がいなかったらしい。座学と基礎訓練が身についているかやって、俺は重点的に坂上智樹を鍛える。やらないとまずいからな。ヒャッハ―されたら困るだろう?まあ、こっちの皆が負けるとは思えないけど、万が一の事故もある。それにただ飯食わせるのはよくない。やっぱり一宿一飯の恩義って大切だと思うんだよね。まあ、みんな、仲良くしてあげてよ。」
 そしてまたペースをあげると静かになった。

「な、仲良くする、から……」
「もう少し、ペース……」
 あ、女子が遅れ始めた。
「鈍ってるな―はい、もう少し頑張ろう。」
 鬼ー!と声が聞こえたが聞こえない。

 汗を流して朝食を食べて、座学の教室に向かう。藤宮かのん以外の全員がこの部屋に集まっているはずだ。

 前半組、田中哲夫・鈴木啓太・坂上智樹・佐藤昌樹・甲斐りく・井上勝道・楡崎カンナ・瀬川有希・河崎結衣。

 後半組、上谷真悟・新垣悠斗・今井基・鷺宮エリカ・大野玲奈・鈴木亜由美・山下望未・黒田洋平・芳田良。

 そして俺と、田村光春さんだ。総勢、20人これに、藤宮かのんとタツト君を含めると22人。
 
 呼びすぎだよな。でも、各地に散らばる魔物を討伐することを考えると少ない。

 今、隣国との諍いでこの国の軍隊に当たる騎士団は動きが取れない。貴族の下に軍(領軍と呼ばれる)があるが私兵で戦争時しか動員されない。通常は冒険者に魔物討伐依頼を出すので、動かない。ただし、災害級レベルのやばい魔物が出現したら軍が出るそうだけど。ただ、邪王の復活が確認されたらこの軍や騎士団も動くという話だ。

 勇者に丸投げだった、200年前。
 そうしてはならないから、出来る限り考える。
 俺は扉の前に立って、いったん立ち止まる。

 勢い良く扉を開けて中に入った。

「やっほー、みんな揃ってる? 俺は宇佐見明良。よろしく!以下、そっちから順番に自己紹介!」
 さて、教室の空気は今バラバラだ。さて、どうしようかな。威圧とか掛けるかな……いや―温厚な俺はそんなこと出来ないしな。

「ふざけんな! 今さらできるか! 大体あんたは何で偉そうなんだ!!」
 あーもう、坂上智樹、あんたは別メニューだよ。覚悟しろよ。あ、威圧漏れた。カディス、背後取らない。
「偉いからだ。本日この時間を持って教官と呼べ!答えはイエッサ―しか認めない!……とか言ったらどうすんのかなあ?」
 と、目の前に立っていってみた。立ち上がって睨みつけてくる。もう、普通に話せないのかね。
 まあ、仕方ないけど。

「いや、あれ本気でしょ。始めの訓練なぞるって言ってたしね……」
「にっこり笑顔が怖ぇ……」
 うちのグループから声が上がる。うん。あとで訓練を倍にしてあげよう。
 そっちに視線向けてちょっと睨む。

「何か言ったかなあ?」
 首を振って青い顔をしている。
「何でもありません、サー!!」
 よしよし。あ、前半組がぽかんとしてる。坂上智樹も、毒気を抜かれた顔をした。まあ、これもじゃれあいなんだけど。

「始めに言っておくよ。魔法の訓練は俺、剣と言うか武術の訓練はそこのカディス、たまにフリネリアとグレイナーが来る。スキルに関しては俺が相談を受ける。迷宮での事故で、王女様は非常に、心を痛めている。ある程度のレベルまで引き上げないといけないから覚悟して欲しい。ちなみにこっちの皆はC級冒険者になっているから、レベルも高いよ。こっちに追い付くには倍の努力をしなきゃいけない。俺は勇者を孤立させるつもりはないから協力してもらいたい。これは全員へのお願いだ。」

 ぐるりと、壇上に戻って全員の顔を見回す。ああ、後半組もぽかんとしている。
 
 そう、この中の誰も邪王がどんな存在かわからない。恐ろしい存在なのかわからない。俺だって、水峰のシナリオを見てどんなふうに戦ったか概略だけ知ってるだけ。でも、一撃で勇者が死にかけた。それほどの相手なんだ。今回聖剣はない。それがどれほどのハンデか、皆は知らない。

「この国の誰も、邪王を倒せと強制はしない。だが俺は衣食住の面倒を見てくれた王女の役に立ちたいと思っている。だから……」
 俺は凶悪な顔をしてたんだろう。しんちゃんからひっと息を飲む声がした。

「とりあえず鍛えるのは強制ね。せめてCランク冒険者になってから我儘言おう。ハイ、とりあえずグランド100周。返事は?」

「イエッサ―!!」
 綺麗に後半組はそろえた声で返事が返ってきた。
「イ、イエ??」
「どゆこと?」
 戸惑っている前半組。それを仕方ないというふうに誘導していく後半組。威嚇している坂上のグループはまだ俺の前にいる。

「ほら、グランド100周だからついていって?」
「ふざけんな。なんでてめえの命令聞かないといけないんだ?」
 俺は仕方ないと“電撃”を打った。ばたりと坂上が倒れる。

「仕方ない。俺が担いで行こう。ほら君達も“電撃”食らいたくなかったら外に出る。素直に自己紹介してれば、実技訓練なかったのにね。残念!!」
 佐藤昌樹、甲斐りく、井上勝道が、出ていった皆のあとをいやいやついていく。俺は肩に、坂上を担いで最後に教室を出た。

「やりすぎだろ。」
 カディスの突っ込みは無視した。
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