アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
59 / 67
本格始動

第58話 ブートキャンプ再び

しおりを挟む
 俺は王都に戻った。“彷徨い人”と、騎士も一緒にだ。俺は王城に着くとカディスとともに一団とは離れて、アーリアに報告をするため、謁見のための控室で待っていた。
 許可が与えられて謁見室に向かう。そこには落ち着きがなく歩き回っているアーリアがいた。

「アキラ様!」
 俺の胸に飛び込んできた、アーリア。受け止めてそっと手を背に回す。
 え、ちょっと待って。他の人……。
 あ、影だけだ。これ報告されちゃうよなあ。王様に。
 後ろで気配を消しているカディスがにやにやしているような気がした。

「アーリア様。無事戻りました。」
 身体を離して一応の礼を執る。一応、汚れを落として、着替えてきたから俺は黒目黒髪の素の自分に戻っている。
 アーリアは対面の椅子に座り、俺にも座るように勧めた。カディスは俺の背後に立っている。気配を消して。

「では、報告をお願いします。」
 迷宮で行方不明になった二人の調査結果をまとめた文書を差し出す。

「竜の色は違ったが、俺達が王都の迷宮で出会った竜とほぼ同じだった。ただ、向こうの竜はテレポー…瞬間転移をして攻撃をしていた。ドロップ品は拾う余裕がなかったみたいだ。で、巻き込まれた冒険者は騎士団長の秘蔵っ子だった。魔法学院のトーナメントで優勝したタツト君だ。帰ってきた段階ではまだ治癒院で治療を受けていた。」
 アーリアは報告書に目を落としつつ、表情が強張っていた。

「で、王女殿下としてのアーリア様にお願いがある。今の彼らでは、中級の魔物すらも討伐できないと思う。俺に、任せて欲しい。特に魔法、何も学んでないのと一緒だった。まあ、あいつらも成長してるし、協力してもらえばそんなに難しくはないと思う。前半の10人も同じ日本人だしね。」
 俺はアーリアの心配そうな瞳に、視線を少し逸らした。

「200年前の勇者は、あちこち国を回って、魔物討伐で神経擦り減らして、邪王を討伐したんだろう?だったら、勇者には邪王を心おきなく万全の体調で倒してもらいたいと思うんだ。疲弊しきったところで邪王に突っ込ませるのってないと思うんだよ。前回は1人。今回は20人以上。だったら、一宿一飯の恩を返してもらうために多少はこき使ってもいいんじゃないか? 国民の血税でご飯食べてるんだしなあ。」
 俺は少し、人の悪い笑みを浮かべてたんだと思う。

「全員鍛えて、各地の魔物被害が増大した時に、派遣すればいい。騎士達や冒険者とも連携を図って対処すれば、苦しい戦いにならないと思う。素で、騎士を超えているはずなんだ。能力的には。だから、その辺の事も含めていろいろ準備したい。やらせてもらえるか?」

 アーリアが俺の目をまっすぐ見る。
「わかりました。世界の危機です。私にできることならば出来る限りのことをするつもりです。」
 力強く頷いてくれた。なんとかなるだろう。なるのか?
「ありがとう。」
 俺が頭を下げるとアーリアは慌てて首を振る。
「本来はこの世界の私たちがやらなければならないと思います。でも、邪王は特別で。勇者様には出来る限りの支援をしなければ、救ってもらう資格はないと思うのです。だからアキラ様、礼を言うのは私たちです。ありがとうございます。アキラ様が来てくださって本当に私たちは救われているのです。」
 アーリアが俺の手を取って握り締める。力を込められたそれは、彼女の肩にもこの世界の重みがのしかかっているのだと、感じる強さだった。

 さて、ブートキャンプ再びだな。その前に事情を話しておかないとな。

 早朝のいつもの風景。暗い中、団体で走っている、10人の日本人。
「あー! ラビちゃん先輩だー!」
「戻ってきた!?」
「宇佐見殿、お疲れ様でした。」
「お土産はー?」
 あるわけないだろ。

 相変わらずのテンションでほっとする。戻ってきたなって感じだ。
「あーそのな。俺達の前に来ている10人と合流して訓練することになった。」
 走りながら説明がてら少しペースをあげた。何なく着いてくる。

「え、どゆこと??」
「あの人たち感じ悪いからやなんだけどー??」
 とざわざわする。

「まあまあ。というか鍛える感じかな。皆が最初ここに来た時にやった訓練早回しでやる。」
 後ろがザワっとした。
「え、そ、それはー」
「早回し!?」
「もはや拷問では……」
 なんだなんだ?? なんでそんな同情するような発言ばかりなんだ??

「皆には補助や指導をお願いしたい。もうそれくらいレベル上がってるだろ? 迷宮も5人パーティで、ボス倒せるようになってきただろ?」
 そしてまたペースをあげる。ちゃんと合わせて走っているのが、なんか嬉しいな。
「しかたないか~」
「ラビちゃん先輩のお願いだもんね~」
「やらないとあとで殺されそうだし。」
 おい、最後の誰だ?

「まあ、今日は説明と軽く魔法の指導だな。どうも教師がいなかったらしい。座学と基礎訓練が身についているかやって、俺は重点的に坂上智樹を鍛える。やらないとまずいからな。ヒャッハ―されたら困るだろう?まあ、こっちの皆が負けるとは思えないけど、万が一の事故もある。それにただ飯食わせるのはよくない。やっぱり一宿一飯の恩義って大切だと思うんだよね。まあ、みんな、仲良くしてあげてよ。」
 そしてまたペースをあげると静かになった。

「な、仲良くする、から……」
「もう少し、ペース……」
 あ、女子が遅れ始めた。
「鈍ってるな―はい、もう少し頑張ろう。」
 鬼ー!と声が聞こえたが聞こえない。

 汗を流して朝食を食べて、座学の教室に向かう。藤宮かのん以外の全員がこの部屋に集まっているはずだ。

 前半組、田中哲夫・鈴木啓太・坂上智樹・佐藤昌樹・甲斐りく・井上勝道・楡崎カンナ・瀬川有希・河崎結衣。

 後半組、上谷真悟・新垣悠斗・今井基・鷺宮エリカ・大野玲奈・鈴木亜由美・山下望未・黒田洋平・芳田良。

 そして俺と、田村光春さんだ。総勢、20人これに、藤宮かのんとタツト君を含めると22人。
 
 呼びすぎだよな。でも、各地に散らばる魔物を討伐することを考えると少ない。

 今、隣国との諍いでこの国の軍隊に当たる騎士団は動きが取れない。貴族の下に軍(領軍と呼ばれる)があるが私兵で戦争時しか動員されない。通常は冒険者に魔物討伐依頼を出すので、動かない。ただし、災害級レベルのやばい魔物が出現したら軍が出るそうだけど。ただ、邪王の復活が確認されたらこの軍や騎士団も動くという話だ。

 勇者に丸投げだった、200年前。
 そうしてはならないから、出来る限り考える。
 俺は扉の前に立って、いったん立ち止まる。

 勢い良く扉を開けて中に入った。

「やっほー、みんな揃ってる? 俺は宇佐見明良。よろしく!以下、そっちから順番に自己紹介!」
 さて、教室の空気は今バラバラだ。さて、どうしようかな。威圧とか掛けるかな……いや―温厚な俺はそんなこと出来ないしな。

「ふざけんな! 今さらできるか! 大体あんたは何で偉そうなんだ!!」
 あーもう、坂上智樹、あんたは別メニューだよ。覚悟しろよ。あ、威圧漏れた。カディス、背後取らない。
「偉いからだ。本日この時間を持って教官と呼べ!答えはイエッサ―しか認めない!……とか言ったらどうすんのかなあ?」
 と、目の前に立っていってみた。立ち上がって睨みつけてくる。もう、普通に話せないのかね。
 まあ、仕方ないけど。

「いや、あれ本気でしょ。始めの訓練なぞるって言ってたしね……」
「にっこり笑顔が怖ぇ……」
 うちのグループから声が上がる。うん。あとで訓練を倍にしてあげよう。
 そっちに視線向けてちょっと睨む。

「何か言ったかなあ?」
 首を振って青い顔をしている。
「何でもありません、サー!!」
 よしよし。あ、前半組がぽかんとしてる。坂上智樹も、毒気を抜かれた顔をした。まあ、これもじゃれあいなんだけど。

「始めに言っておくよ。魔法の訓練は俺、剣と言うか武術の訓練はそこのカディス、たまにフリネリアとグレイナーが来る。スキルに関しては俺が相談を受ける。迷宮での事故で、王女様は非常に、心を痛めている。ある程度のレベルまで引き上げないといけないから覚悟して欲しい。ちなみにこっちの皆はC級冒険者になっているから、レベルも高いよ。こっちに追い付くには倍の努力をしなきゃいけない。俺は勇者を孤立させるつもりはないから協力してもらいたい。これは全員へのお願いだ。」

 ぐるりと、壇上に戻って全員の顔を見回す。ああ、後半組もぽかんとしている。
 
 そう、この中の誰も邪王がどんな存在かわからない。恐ろしい存在なのかわからない。俺だって、水峰のシナリオを見てどんなふうに戦ったか概略だけ知ってるだけ。でも、一撃で勇者が死にかけた。それほどの相手なんだ。今回聖剣はない。それがどれほどのハンデか、皆は知らない。

「この国の誰も、邪王を倒せと強制はしない。だが俺は衣食住の面倒を見てくれた王女の役に立ちたいと思っている。だから……」
 俺は凶悪な顔をしてたんだろう。しんちゃんからひっと息を飲む声がした。

「とりあえず鍛えるのは強制ね。せめてCランク冒険者になってから我儘言おう。ハイ、とりあえずグランド100周。返事は?」

「イエッサ―!!」
 綺麗に後半組はそろえた声で返事が返ってきた。
「イ、イエ??」
「どゆこと?」
 戸惑っている前半組。それを仕方ないというふうに誘導していく後半組。威嚇している坂上のグループはまだ俺の前にいる。

「ほら、グランド100周だからついていって?」
「ふざけんな。なんでてめえの命令聞かないといけないんだ?」
 俺は仕方ないと“電撃”を打った。ばたりと坂上が倒れる。

「仕方ない。俺が担いで行こう。ほら君達も“電撃”食らいたくなかったら外に出る。素直に自己紹介してれば、実技訓練なかったのにね。残念!!」
 佐藤昌樹、甲斐りく、井上勝道が、出ていった皆のあとをいやいやついていく。俺は肩に、坂上を担いで最後に教室を出た。

「やりすぎだろ。」
 カディスの突っ込みは無視した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...