アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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緑の迷宮への挑戦

第56話 藤宮かのん4(※藤宮かのんSIDE)

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 疲れきって次の階層に移った。土の上でもかまわず眠れた。陽の光が恋しかった。
 彼が水と食料をくれたけど、お腹がすいてるはずなのにあまり喉を通らなかった。
 どうして彼はまっすぐに進めるんだろう?

「出られるのかな? まだ先なんでしょう? あなたはなんで、戦えるの? 血が出るし、痛いし、怖いし、死んじゃうかもしれないのに……。」
 先の見えなさに泣きたくなって、でも堪えて聞いた。

「死にたくないから戦ってるんだよ? 生きて迷宮を出るよ。俺は、護りたい人がいるんだ。絶対死なせたくない人がいる。一緒に生きて、幸せになりたい。だから戦う。」

 ハッとして彼の手を見た。左手の薬指。
 失恋だ。そうだよ。こんなにかっこいい人にいないわけがない。そう言えば最初に恋人がいるって言ってた…ような。

「恋人?」
 彼は大きく頷いた。やっぱりだった。
「そう、俺の恋人。今、すごく心配していると思う。無事だって知らせてあげたいけど、ここを出るまでどうにもならない。」
 握った手がわずかに震えてた。私より焦ってるのかもしれない。

「そう、だよね。私が巻き込んじゃったんだ。あなたが助けてくれたのに。あの時、あなたが光に取り囲まれて、それが不思議でずっと見てたの。馬鹿だよね。すぐ逃げればよかったのに。私、藤宮かのん。あ、こっち風に言うと、カノン・フジミヤかな?……異世界から来たの。こっちでは”彷徨い人”っていうらしいの。この髪とかで、わかるらしいよ?……あれ?…あなたも、黒目、黒髪なんだけど……名前、教えてもらえるかな……」
 彼の視線が迷うように揺れた。彼はため息をついて。やっと名前を教えてくれた。

「タツト・タカハ・レングラント。……確かに珍しいらしいよ? ……俺は拾われた口だから、もしかしたら、そうだったのかもね。記憶はないんだけれど。俺は今、この街の魔法学院生で、休暇を利用してここに戦闘技術を上げるために来たんだ。レングラントは騎士爵で、当主は王国騎士団団長を務めているからなんとなく、知ってはいたよ。……絡まれたしね。」
 日本人の名前だと思った。でもあの水色の髪の人と同じ名字だった。騎士団の団長の関係者だという。

「そう、なの? ……あの……邪王って知ってる? 私たち、それを倒すための、”勇者”になるはずの者たちだって言われた。誰かはわからないけど、この中にいるはずだって。だから、皆集められて戦闘訓練をさせられてるの。どうしても駄目な人は何人かいて、その人たち以外は半分半分になってここと、もう一つの迷宮に魔物と戦う訓練だって言われてきたの。皆慣れてなかったから、こういうことになっちゃったみたい。何があったかわからないんだけど、そのあなたに絡んだ人が、魔物を呼び寄せたみたいなの。なんだかあっという間だったから、私たちも状況がわからないんだけど。巻き込んでごめんなさい。」
 私は思わず頭を下げた。彼は私の言葉を黙って聞いていた。

「私、迷宮って危険だって聞いてたけど、死ぬはずないって思ってたみたい。変ね。私と同じくらいの男の子たちは勇者になるって浮かれてた。なんかすごいスキルがいっぱいついてたらしくて、強いんだって言ってた。だから、管理されてるような、騎士団での暮らしは嫌だったみたい。私は、特に凄いスキルはなかったから、早くから後方支援組って言われてた。でも、私は帰りたかったの。家族のもとに。ここじゃないところにいるの。仲いい友達もここにはいない。もう、帰りたいの……」
 思わず抱えた膝に顔をうずめた。もう、涙が止まらなかった。

「それじゃあ、余計にここを出なくちゃ。生きてここを出れば、帰れるかもしれないよ? ここで死んだらなんにもならない。だから諦めないでついてきて。えーっと、かのん……も強くなってると思うし。」
 私は顔をあげて彼をみた。暖かい風がそっと顔を撫でていって、涙が乾いた。魔力を感じた。
 彼は優しい。
「強くなってるかな?」
 彼はにっこり笑った。ああ、胸が締め付けられる。

「なってるなってる。だから一緒に帰ろう。」
 私はまた泣いてしまった。彼はおろおろして、でも落ち着くまで待ってくれた。

 差し出された手を取って、魔物が待つフロアに出る。
 彼は励ましてくれた。失恋したって、少しぐらいは好きでいてもいいかな。ねえ、タツト君。
 一緒に地上に戻りたい。

 この階層は私の所持する魔法と相性がよかった。ゾンビやスケルトンは気持ち悪いけど。初めて魔物を魔法で倒した。彼の役に立てた。嬉しかった。
 ボスはリッチだった。スケルトンとゾンビを従えてた。彼がリッチを、私には眷族を倒すように、お願いされた。聖属性の浄化魔法で一掃出来た。私でも出来るんだ。彼の役に立てる。

 そして次の階層に出た時、魔物に囲まれていた。

 転移した部屋を埋め尽くす、魔物の群れ。敵意が肌を突き刺すようだ。
 タツト君が魔法を使った。周りの魔物が次々と倒れていく。
 それでも、前に倒れた魔物にかまわず残った魔物達は壁近くにひしめき、倒れた魔物を乗り越えてこようと蠢いてる。
「かのん、防御頼める?」
 タツト君から指示が来た。
「はいっ」
 私は聖属性の防御壁を展開した。タツト君は無詠唱で風の礫を四方に飛ばす。それで全部の魔物は倒れて、転移陣の間は魔物の死骸と血だまりで溢れた。タツト君と一緒に、この階層のボス部屋に走る。
 魔物の数が前の階層とは比べ物にならない。
 
 タツト君はひしめく群れを切り開くように、魔法をぶつけて道を開けた。返り血が私たちの装備を濡らす。タツト君は道がわかっているように、通路を進んでいく。
 魔法が放たれると、彼の周りに光りが集まっていく。そして辺りが凍りついた。それをタツト君は風魔法で吹き飛ばす。魔物は砕けて散った。その欠片を踏み固めるように駆けていく。
 なんて凄い人なんだろう。この強さを超える人が勇者だというならそれはどんなに強い人なんだろう。多分、私の周りにはいない。

 タツト君は進路を塞ぐ魔物を次々と屠っていく。長い時折曲がる通路を走る。広場に出た。そこも魔物で溢れていた。タツト君はすぐに、炎属性の魔法を展開した。一瞬で焼けおちる魔物を見て、私は思わず声をあげた。坂上君より、凄い。
 魔法で無理やり道を作っていくタツト君のあとを、私は付いていく。防御と回復に努めて、時折浄化魔法が効く魔物に攻撃する。タツト君は剣でも魔物を屠っていく。彼の剣の切れ味が鈍ってきていた。そして、タツト君が云う、ボス部屋に辿り着いた。

 フロアボスはワイバーンだった。

 高い天井と広い空間。
 そこを舞う、ワイバーン。羽ばたきで吹き飛ばされそうになる。あれは風魔法なのだろうか。

 空を飛ぶ魔物をどうやって攻撃するの? そう思っていたら一筋の雷がワイバーンに落ちた。
 一瞬気絶したのか、地上に落ちる。雷の魔法?タツト君の?

 落ちていくワイバーンの落下地点に”土の槍”が突き出た。それに落ちて槍にワイバーンが貫かれた。
「ギャアアアアアアーーーー」
 つんざくような悲鳴が空気を振動させた。そのワイバーンに向かって何本もの”土の槍”が突き刺った。
 全身を串刺しにされて絶命した。

 奥の扉が開いていく。
「走れ!」
 彼と私は扉の向こうへ駆け込んだ。
「回復しておいた方がいい。」
 魔法陣へ足を踏み入れながら差し出された魔力回復薬を飲んだ。体力の回復薬も飲む。次が最下層とタツト君が教えてくれた。

 最下層、迷宮主の部屋。
 広い空間、高い天井、そこには黒い表皮と金色の目のドラゴンがいた。
 圧倒的な威圧。私はへたり込む。口を開けたのが見えた。光が集まっていく。
 ブレスが来る。
 タツト君に抱えられて跳躍する。
 ぎりぎりをブレスが掠めていった。
 辺りが削れて土が蕩けて変質していた。

 こんな怪物が最終ボス。どうやって倒すの?私は攻撃魔法は使えない。でもタツト君だけで戦えるとは思えない。どうしよう。私はっどうやて彼を援護すればいいの?

 魔力が黒と金のオーラとなって竜の表面に渦巻いている。綺麗で凶悪だ。視界には暴力的なまでの魔力が見えていた。身体が震えている。
 タツト君は剣に魔法を纏わせた。そうして彼の身体が浮く。そのまま竜に突っ込んだ。
「かのん! 防御を張れ!」
 タツト君の声にとっさに自身に防御壁を張った。
 タツト君の目の前に竜の顔が迫る。彼は剣を目に突き刺そうとして両手で前につきだした。だけど目に届く前に姿が掻き消えた。どうして?

「え!?」
 タツト君が驚いた声をあげる。その、背後から強烈な風切り音がした、竜の尻尾が彼を殴りつけて吹き飛ばす。壁に叩きつけられてもんどりうって崩れ落ちた。生きてるの!??

「…・・・げほっ……」
 タツト君が口から血を吐く。だめ! 死なせない!! 思わず治癒魔法を放った。
「タツト君!!」
 よかった、効いた。怪我が治っていく。

「助かった。気をつけろ!」
 掛けられた声に竜と距離を取る。竜の射程につかまらないよう、必死で逃げる。彼は口を拭ってよろよろと立ち上がった。よかった。

 私にできることは何?
 防御と、治癒魔法。自分の身を護ってタツト君の怪我を治す。
 それしかできない。私にあの竜を倒すことはできないから、サポートに徹する。
 戦えない私をタツト君が庇いながらじゃ、倒せない。

 だから、足手まといにならないようにする。防御魔法の聖属性の盾を3枚、自分を囲むようにした。いつでも、治癒魔法を放てるように用意する。
 ナイフを手に、竜と対峙するタツト君の、一挙手一投足を見つめる。

 だから、タツト君、勝って。一緒に地上に戻ろう。
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