アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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緑の迷宮への挑戦

第52話 事情聴取②

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 問題児4人の一人、井上勝道。ちょっと不貞腐れた顔でこちらに近づいてきた。
 やや短めの角刈りに近い髪、顎の張った少し厳つい顔。しかし、体躯は中肉中背で、何か体術や剣術を身に付けていない所作で、無造作に歩いてきている。

(うーん、一応、王都迷宮組はあんな歩き方する奴いないな。今気付いたけど)

 歩き方というのは大事だ。音なんかさせたら敵に気付かれる。無駄な動きをしたら、敵に刃が届かないかもしれない。動きの基本であって、身体をコントロールできているかどうかの証。
 武芸者の隙が見えないというのは、そういうことだ。まあ、力量が伴って初めて見えるものなんだが。

 井上君はむっつりとした面白くない、といった不機嫌を隠さない表情で、俺の前に座った。
「もういい加減にしてくれよなー。魔物が出てきて逃げた、それだけ。」
 彼は一応、坂上智樹と行動を共にしていた。副団長に呼び出され、離れた彼を一応は眼で追っていた。
 魔物が出現したのを目の当たりにし、パニックを起こし、助けが来たとたん一目散に逃げた。そういうことか。彼の得意魔法は風か。火とは相性がいい。その割に単体でしか使ってないな。

「なるほど。確かに一番最初に逃げたようですね。危機察知能力は高いということですか。あなたを庇った騎士が怪我をされたようですね。」
 彼の顔に動揺が見えた。別に苛めるつもりはない。
「……そ、それは俺達の護…… 「もちろん、騎士の方からは何も報告は受けていませんが。」 ……」
 言い募ろうとした彼の言葉を遮った。

 俺はにっこりと笑って手を組んだ。
「次は、甲斐りくさんをお願いします。」
 彼は舌打ちして立ち上がった。入れ替わりに髪のやや長い、文系のような感じの、細い気弱そうな高校生が俺の前に座った。
「……魔物が出てきて襲われた、それだけだと思うけど。藤宮の事は俺わかんないよ。」
 たしかに。井上君とほぼ同じ場所にいて、つられるように逃げた。後ろは振り向かずに安全な場所へ。だから見ていない。甲斐君は水と土の攻撃魔法の持ち主。けれど、突然の魔物の出現には対処はできなかった。騎士以外。それくらいの錬度だった、ということだ。勇者の卵なのに。

 ああ、だが、俺も彼らを放置した。最初は自分の事だけで精一杯だったが、余裕ができた後も、助言すら、彼らにしなかった。同胞で同じ勇者候補なのに。
「……わかりました。魔物は、怖かったでしょうか?」
 彼はむっとした様子で俺を視た。
「そ、そりゃ、1匹や2匹ならなんとかなってもいっせいに数十匹は無理だよ。怖いに決まってるよ!!」
 俺は頷いてじっと彼の目を視た。

「当たり前のことを聞きました。では、佐藤昌樹さんをお願いします。」
 彼らを鍛え直そう。俺の傲慢な考えかもしれない。でも出来ることすべて試さないと、邪王にはきっと勝てない。

 佐藤昌樹は少し戸惑いながら、こちらに来た。
 彼の得意魔法は光と闇。相反する属性を抱える彼は、制御が少し難しいはずだ。
 一般的に勇者と言われれば日本では光属性全盛だ。そして闇属性は魔王。そういうイメージがある。
 しかしこの世界には魔王はいない。
 いるのは魔族の統治者である、魔族の王。それも人族の地とは遠すぎて戦争も起こせない。
 そんな事情で、攻撃力というより、彼の属性を扱える指導者が少ないのが、彼が4人の中で一番下に見られている原因なのだろう。防御としても一級品の様なのにな。

「ええっと、俺は二人が言い争っているようなのは見ました。それでなんでか急に周りに魔物が大量に出現して……パニック起こしてたら助けに来た人がいて、わからないうちに、藤宮がいなくなってた。」
 ほぼ言っている通りかな。佐藤君は、流されて4人の中にいた感じか。多少自分の魔法属性に自負心もあって、でも使い方がわからない。

「ありがとう。君は光と闇属性で、この世界では珍しい属性持ちだね。バーダット魔法学院の先日行われたトーナメントに、闇属性を巧みに操る生徒が出ていたよ。……坂上智樹君を呼んで欲しい。」
 ピクリと、巧みな闇魔法のところで彼の肩が震えた。まあ、鍛えるの俺しかいないな。うん。まあ、仕方ない。200年前の状況考えれば、手は多いほどいいんだ。

 彼は坂上智樹に声をかけた。
 不機嫌そうに立ち上がってこちらに歩いてくる。
 瞳に暗い情念が見える、体中から不機嫌なオーラを放っている。それでも彼の属性に惹かれて火の精霊が多く彼の周りにいる。“炎の賢者”という称号は伊達ではない。俺の目の前に立ち止まり、乱暴に椅子を引いて座った。
「俺は、藤宮が消えるところはみてねえ。」
 ああ、その通りだね。彼は迷宮から戻ってきた時、のたうち回るほど後悔したけれど、魔物の多さに怯えて副団長を放って逃げ出してしまったから自分を許せていなくて人に突っかかる。

 自己評価と他人の評価のギャップにいつも苦しんでいる。
 自己顕示欲の塊。
 それが見えた。俺は探るように彼を見る。内面や、ステータス、過去にあったこと。踏み込んではいけないところまで視た。
 このままだと、彼は“勇者の卵”ではなくなってしまうように思えた。

「わかりました。ご協力ありがとうございます。『坂上智樹君、王都で会いましょう。』……では皆さん、ありがとうございました。また顔を合わせることがあるかと思いますが、その時は歓迎してくださいね~」
 俺は立ち上がって手をひらひらと振って部屋を後にした。彼に最後に贈った言葉は日本語だ。

 ラビっち先輩としての再会だ。ブートキャンプ再びだ! 喜ぶといい!!
『ふざけんなー!!』
 後方で坂上智樹が日本語で、何か叫んでたようだけど聞こえなかったな。


 そして俺は今、二人が消えた階層に来ている。騎士が何人か封鎖のため、立っている。

 消えたと思しき場所を“解析アナライズ”する。
 残滓しか残ってない。術式は発動したら消えうせるタイプ。ただ、キーは置物か。

 現場を視たが情報は少ない。致死性の罠が張り巡らされた一帯だった、ということは見て取れる。
 光ったのは俺とアーリアが巻き込まれたのと同じ転移陣。

 意識を下層へ伸ばす。
 この迷宮は15層。そのさらに下、隠された層があるかどうか。
 考えてみれば、この迷宮と王都の迷宮はそっくりだ。
 掛けられた罠も難易度も。

 用意された必然の罠? 俺と、タツト君、あるいは資格を持つ人間のための……。
 迷宮は皆隠し階層があるのかもしれない。
 それに見合う実力を持った人間が来るのを、待っているのかもしれない。

 異変を感じた。
 迷宮の何かが“変わった”というこの感じ。
 倒したか!?

 “眼”を飛ばした。出てくるのは地上。

 視えた。

 タツト君と、藤宮かのんか?
 迷宮の出口で、騒ぎが起きていた。

 ウォルフォード君と、あれはたしかアデイラと、マーク。
 
 倒れて瀕死の状態のタツト君に治癒を施すアデイラ。足りないかもしれないな。
 俺は強化魔法を使って地上まで一気に戻った。もちろん5層の転移陣も使いましたとも。

「いやあ! タツト君!」
 藤宮かのんの悲鳴が響いた。

 意識を失った彼を治癒院に運ぶようだ。アデイラの治癒魔法に乗せて、俺も致命傷を留めるくらいの治癒魔法を使った。魔力がほとんど残ってない状態では治癒魔法の効きも弱い。

 どれだけの魔物を屠ったのか。

 俺とタツト君では、タツト君の方が素材としては優秀だ。だが、今回一緒に潜った相手の錬度が違う。護りながら突破するのは、対する相手よりも上のレベルを要求される。
 アーリアは優秀だ。俺の魔法も剣の腕も知っていて、サポートに徹してくれた。
 だから、やっぱり俺もぶっ倒れたけれど、死にかけてはいなかった。

 しかし藤宮かのんはどうだっただろう?
 そっと、混乱する現場に近づき、藤宮かのんに声をかけた。

「よく帰ってきてくれたね。俺は諜報部から調査に来ているラビという者だ。つらいとは思うが、君たちが消えた後の状況を話して欲しい。ああ、勿論宿舎に帰ってゆっくりしてからでいい。」
 涙で濡れた顔をあげて頷いた彼女の目は、消える前の映像で見た死んだような目ではなく、決意を持った生きた目だった。
 宿舎に一緒に送り、“彷徨い人”に無事を知らせて引き合わせた。今夜は休養を取らせて事情聴取は翌日にした。

「ラビ。」
 与えてもらった部屋に帰ろうとした時、団長に声をかけられた。

「お久しぶりです。」
 誘われて団長の泊まっている部屋に入った。
「無事見つかってよかったです。迷宮は多分20層になっています。魔素の流れが変わったのは感じました。行ってみなければわかりませんが俺の時と一緒だと思います。迷宮ボスを倒して戻ってきたんでしょうね。明日藤宮かのんの記憶を見せてもらいます。いいでしょうか? それとお願いが。」
 側近に用意してもらった紅茶を手にしていた団長は首を傾げるようにして俺を見た。

「彼女の体調に気をつけてもらえれば大丈夫だ。調書はこちらにも出してもらえるな? ……お願いとは?」
 俺は息を吐きだし、肩を竦めて首を振った。

「“彷徨い人”俺に預けてください。あれではだめです。200年前の勇者のような苦労はさせたくない。タツト君可愛いでしょう? 彼だけだと思う。勇者になる覚悟ができている“彷徨い人”は。そんな可愛い彼に苦労はさせたくないでしょう? 預けれくれれば一通り、王都迷宮組くらいには鍛え上げて見せます。魔法は俺が仕込みます。剣は……カディス、一緒に鍛えてくれるか?」

 気配が急に生まれて俺の横に立つ。
「まあ、俺はあんたの警護だし。上司に言われてるからこき使っていいよん。」
 俺は頷いて、騎士団長に視線を戻した。
「ということです。問題児もなんとかします。いいですか?」
 カップを置く音が響いた。

「私から進言してみよう。どっちにしても、計画が無謀だったと、けん制して自由に動けるように、根回しはしておこう。王女殿下の許可は必ずとっておけ。」
「では、“彷徨い人”は2日後王都へ帰還、休養後王都迷宮組と合流、訓練を再開。そのあたりで煮詰めよう。ここの調査も少しは手伝って帰ることにします。さて、最後の俺の相手はドラゴンでしたが……タツト君は何だったんでしょうね。」
 そうだ。強者との戦い。タツト君は何をみただろうか?
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