アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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緑の迷宮への挑戦

第49話 レイモンド・シルフ・ガーランド(※レイモンドSIDE)

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 私はレイモンド・シルフ・ガーランドという。ミネス王国騎士団副団長をしている。
 ここのところ国境が騒がしかったため、国境の砦に長く滞在していたので、王都の状況に少し疎くなっていたのは否めない。“彷徨い人”が現れて戦闘訓練をさせていた、と祝日まで間のない時期に聞かされた。
 その行っている戦闘訓練を覗いてみたが、子供の遊戯程度になっているかという程度だった。あれでは騎士団精鋭の第一騎士団の方がずっと戦闘能力は上だ。
 そもそも通常であれば騎士達が受けるはずの訓練を、まともに受けていないようだった。
 指導者不足などいいわけだ。こちらの思惑でさせているものならもっと効率的に厳しくやるべきなのだ。団長に訴えたら苦い表情をしていた。
 宰相やら貴族やらがどうも口を出しているらしい。まあ、いい。迷宮への実践訓練では、少し厳しく指導をすることにしよう。

 まずは能力確認だ。“彷徨い人”のスキル表を見た。全体的にスキルが多いし、優秀なスキルを持っている。
 強力な魔法スキルを持っている人物も何人かいた。これなら初級レベルの魔物くらいは倒せるだろう。私は迷宮での戦闘プランを作成し、同行する騎士に周知した。

 準備期間が少なくあっという間に出発の日が来た。正装に身を包んだ“彷徨い人”は一部のものは騒がしく、他は不安な表情で、馬車の旅を続けた。

 バーダットは王都から馬車で一日の距離だ。馬の休憩をはさんでも、朝出れば夕刻に着く。

 バーダットの北門から更に馬車で半日の距離に迷宮はある。
 門前町のように宿や武器屋などがその入口の周りに出来ていて、バーダット迷宮街と呼ばれている。
 一旦街中で宿を取り、翌日迷宮へと向かう。15名の大所帯の滞在の上、”彷徨い人”の宿泊とあって、宿の選定は難航したそうだ。

 結局は騎士団の使っている簡易宿泊施設を改装し、誂えたようだ。食事は近くの宿屋に頼んだらしい。到着した当日は彼らも疲れていたらしく、早々に休んだ。迷宮に挑むのは明日からだ。

 この迷宮は“緑の迷宮”と呼ばれ、内部は草原や森を模した空間が広がり、階層により、気候も、植生なども変わり、魔物の生態も変わる。
 下層に行く度に魔物の強さが上がり、5層ごとに階層主がいる。
 階層主を倒すと転移陣が現れ、魔力を登録すると地上の入口の脇にある部屋へ転移することができ、また、次に迷宮に入った時、登録した転移陣へ転移ができるようになる。

 何故そういうことができるかは解明されていないが、そういうものだ、と皆が認識しているので、今問題は起こっていない。
 この迷宮は全階層が攻略済みだが、迷宮を迷宮たらしめる、“迷宮核”は壊されていない。最下層の階層主を倒した冒険者はいたが核を見つけられていない。
 しかし最下層より下に行く道は見つからず、全15階層の迷宮ということになっている。また、魔物の強さはC級冒険者が最下層まで行くことのできるレベルで、初心者向けの迷宮と呼ばれている。

 初心者、というのは迷宮に潜る初心者であり、冒険者としての初心者ではない。そのため、迷宮へ挑戦するにはC級冒険者であるということが条件だ。討伐依頼を何度もこなした実績がないと挑戦できない。ただし、パーティーを組んでいる場合、リーダーがC級冒険者以上であればその限りではない。

 もともと迷宮はパーティーを組むのが前提であり、ソロで挑戦する命知らずはそうはいない。が、いることはいるので、冒険者ギルドは保険を課している。
 ギルドカードではなく、迷宮へ入ることを許可したカードだ。緊急の魔術が組み込んであって、命の危険があるとギルドに知らせが来る仕組みだ。
 位置情報も一緒にもたらされるので、救出には役立つのだ。それ相応の保証金が必要ではあるが、それがないとそもそも迷宮に入ることができない。
 このカードが出来る以前は自由に出入りさせていたが、犯罪や腕に見合わない挑戦に死亡が相次いで、許可制で管理することになったのだった。それでも犠牲者は出る。そんな場所なのだ。

 騎士達に命じてカードはもうそれぞれに渡している。冒険者ギルドにも登録させた。実戦経験はないということで低階層からゆっくりと鍛えていけばいいだろう。

 私はこの時、“彷徨い人”を騎士候補や冒険者と同じように考えていた。それが間違いだと、気付いていればもっとやりようはあったのではないかと、後々ひどく後悔をすることになったのだ。

 翌朝、騒がしい朝食を終えて緑の迷宮に向かう。途中移動時に周りから声が上がる。

「なんだ?騎士団の訓練か?」
「迷宮に行くのか? 珍しいな、誰か貴族の護衛か?」
「それにしちゃまとまりがなくないか?」
「あれ、騎士団の副団長じゃないのか?」

 秘匿事項の”彷徨い人”であるがこうも集団で歩いていれば目立つにきまっている。
 そもそも内密と言うならば、新たに出来た迷宮に行けばよかったのだろうと思うが、向こうは向こうでもうひと組の”彷徨い人”の訓練を行うはずだから、仕方ないと言えば仕方ない。

 ともかく、私たちは迷宮に入ったのだった。

 1階層は森によく出る魔物がほとんどで、それも低ランクだ。C級の実力があれば集団で囲まれない限りは楽に進める……はずだった。
 たしかに単体の実力ではこの階層の魔物を軽々と屠る力はあるとは思う。が、低レベルの魔物をいちいち高火力の魔法で倒すなど、非効率すぎる。

 積極的に魔物を狩っているのは比較的若い男性の4人。坂上智樹、佐藤昌樹、甲斐りく、井上勝道。

 4人とも、攻撃魔法の適性が高く、高火力の魔法が使える。が、そのため魔法に頼りがちで、身体能力、剣術があまり身についていない。その4人が先頭に立ち、魔物を屠っていく。
 他のメンバーは怯えながらついていくだけだ。これでは何もならない。休憩を取った後、順番に他のメンバーに魔物を狩らせたが、生き物を殺すという行為が初めてのようで、何人かは吐いていた。

 それでも、1層をくまなく歩き、全員に魔物を狩らせただけで終わった。

 宿に帰る前、迷宮前の広場で各自の戦闘の改善点を指摘し、宿に戻った。皆疲れ切っていたのか、あまり食事をせず、部屋に戻っていった。

「副団長、大丈夫ですかね。」
 第一騎士団所属の騎士、ネロが声を掛けてきた。補助で入っている騎士の中では一番優秀な人物だ。
「何がだ?」
 ネロは思案気に一瞬視線を落とし、意を決したように顔をあげた。
「自分は向こうの組についていくことになった騎士から少し話を聞きました。彼らは騎士の付き添いは断って、万が一の連絡係だけ残す様にとの指示があったそうです。」
 彼は一旦言葉を止め、また話し始めた。

「彼らは冒険者も随分前からやっているようで、4―5人のグループを組んで効率的に、迷宮攻略と冒険者業をこなしているようです。錬度もこちらとは比べ物にならないと。これは新しい迷宮に面した門番からも聞いています。団長は知っていたようですが、一部の人間にしか伝わっておりません。もうひと組の中心人物はかなりの実力者のようで、王女殿下が直接関わっているようです。副団長は今まで王都を離れていたので噂すら聞いてないようですが。」
 そこで躊躇いがちに私に伏せられていた事実を話す。

「実は坂上智樹がもうひと組の鍛練場に乗り込んでいって彼らに炎魔法を放ったことがあるのです。その時、彼らは一瞬で魔法障壁を展開し、傷一つ負わなかったそうです。……10人全員です。それほどの差が、あるようです。」
 抑えた声で私に情報を伝えた騎士は憂うように言い切った。

 何故そんなことになっているのだ? 指導者の差か? だが、もうひと組の集団には、時折手のあいた近衛のフリネリアくらいしか指導をしに行っていないと文書にあった。
 魔法にいたっては指導者はおらず、魔法を使えないという評価だった。

 坂上智樹は性格に多少の難があるようだが、火魔法の上位属性の炎魔法を操る称号“炎の賢者”を持っている。魔力量も多い。その彼が放つ炎魔法は並大抵では防げない。

 それを一瞬で?
 どんな錬度なんだ? そんな魔術師なら魔術師団のトップクラスだ。
 すでに冒険者業をし、迷宮にも一足先に潜っている。
 こちらとは雲泥の差ではないか。

 私はこの時、少し焦っていたのかもしれない。彼らの指導に冷静さを欠き、結果、事件に至った。そうとしか思えない。

 翌日から私は彼らの指導を厳しくし、彼らの表情は暗く沈んでいったのだった。

 一日一階層深く潜っていき、5層を攻略したら、6―10層まで地上に戻らず踏破するという計画だ。
 そしてその日、5層の階層主をかなりの時間かけて倒し、地上に戻った。

 坂上智樹が結局のところ、炎魔法でとどめを刺し、5層を抜けた。これで直接6層に下りることができる。ただやはり、連携という攻撃の要の行動はできず、個々の能力で乗り切る戦闘は危うく、今日の訓練を振り返る私の指導も長くなってしまった。
 その時、水色の髪をした少年が視界の端に見えた。

 団長のご子息、ウォルフォード・アクア・レングラント、だった。
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