アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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王都新迷宮攻略

第46話 手の中のかけがえのないもの

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「はあ。……はあ。」
 壁に背を預けて座り込む。やっと魔物が途切れた迷宮の中の通路。四方10m以内に魔物はいない。ほんのひと時の休憩を取る。それを繰り返して広い階層を出口を目指して進んでいる。
 大きな怪我はしてはいない。
 だが、ひっきりなしに襲いかかってくる魔物に疲労が溜まっていく。アーリアも表情が優れない。多分、俺もだろう。

 2体目のボスを屠った後に転移した今いる階層は、廃墟のような建物があったり、暗くじめじめとしている。
 まるでアンデット系に街が占領されたかのようなそんな階層だった。現れる魔物も所謂ゾンビやらレイスやらスケルトンやらのオンパレードだ。
 スケルトンならまだいいが、ゾンビにはアーリアがてこずった。腐肉のため、矢の通りが悪いのだ。ようするに相性が悪い。俺は聖属性の浄化魔法に切り替えた。浄化魔法はアンデット系に劇的な効果をもたらす。魔物ひしめくフロアをその光が蹂躙していった。

 魔力がそのせいで半分を切った頃、休憩しようと魔物のいない区画を探してそこに滑り込んだ。

 この階層はずっと薄暗い夜だ。休憩場所に選んだ廃墟の壊れた天井は穴が開き、見上げる空は漆黒の闇。地面に近い目線から下は僅かに光があった。迷宮特有の光る壁のようなものだろう。そこは教会のようだった。迷宮でこんな建物が存在するとは思わず、驚いてしまった。

 礼拝堂のようなそこには崩れかけた石造りの長椅子があった。そこに腰掛けた。お互いの姿はすでにぼろぼろだった。アーリアのアクセサリーの守護はもうない。発動したということは、危険な目に合わせてしまったということだ。

「アーリア。今近くに魔物はいない。少し休もう。」

 アーリアがほっとした表情を見せて隣に座る。水筒で喉を湿らせて目を閉じる。
 持ってきた食糧は少ない。水は魔力があればなんとかなるが、長引くと魔石も消耗品だ。いずれ使えなくなる。魔力にしても、いつ枯渇の危機があるのかわからない。眼を広げる。上層に行く通路はない。下層にも通じない、転移陣しか移動手段のない階層。それがあと少なくとも2層。この階層は3番目。転移する度に広くなっていた。

 転移してからどのくらいの時間が経ったのだろうか。少なくとも3日は経っている。時計がないから感覚的なものだ。睡眠はあまりとれない。層移動の出現ポイントが安全圏だったがそれもこの先どうなるかはわからない。
 アーリアの身体には細かい傷がついている。服はあちこち亀裂が入り、当然俺もぼろぼろだ。アーリアに治癒魔法をかけようとしたら『かすり傷くらいで魔力を使ってはいけません』と怒られた。

 気丈なアーリアが、小さくため息をついたのに気付いた。
「アーリア、少し寝た方がいい。大丈夫だ。すぐに魔物の現れる気配はない。」
 アーリアは俺を見た。何か言いたそうにしたが頷いた。
「では少し休みます。アキラさ…も交替で休んでくださいね?」
 そう言って石のベンチの上に横になった。背負い袋を枕に目を閉じる。寝息がすぐに聞こえたが、眠りは浅いだろうと思えた。
 このままだと多分、迷宮主を倒さないと地上には帰れない。よくあるダンジョン物のパターンだ。出口がないということはそういうことだ。

 この罠にはまってからここまで、俺はレベルが10、アーリアは20上がった。レベルが上がると上がりにくいはずなのに、この数日で上がった。
 魔物は強い、ということに加え、数が多かった。

 通路がびっしり魔物で埋まっていたこともある。この階層はアンデット系なので聖属性の広範囲魔法で力押しができたことで多分、余裕ができたようだが、またいつ大挙して押し寄せるかはわからない。ポーションも余りない。出来る限り早くここを抜けないといけない。

 そうだ。アーリアの矢に聖属性の魔法を付与することはできないか?そうすれば物理と属性の両方のダメージを与えられる。

 俺は眼に魔力を込めて弓と矢に付与を施した。
 しばらくしてアーリアが目を覚ました。まだ魔物の気配はない。もしかするとここは安全地帯なのかもしれない。
「見張り、ありがとございます。大分回復しました。」
 起き上がって身繕いをしながら俺に言った。

「おはよ。それならよかった。準備できたら動こうか?」
 ボス部屋に至るには、まだ今まで歩いてきたのと同じくらいの距離を進まなければならない。
 荷物の中身の軽さに一瞬思いを馳せてから立ち上がった。

 属性を付与した矢は格段に威力が上がった。魔石を付けていないから多少の魔力を消耗するが今まで何矢か打ち込まないと倒せなかったアンデッドが1、2矢命中すると消滅した。
 弱点があからさまな魔物はかなり助かる。俺も剣に魔力を纏わせて斬った。

 そうしてまた通路を埋め尽くすような魔物の群れを殲滅しながら進んだ。
 途中また安全地帯のような場所を見つけ、短時間だが交替で睡眠を取って休んだ。
 そんなことを繰り返すと、時間の感覚もなくなってくる。剣を操る手が雑になっているし、“眼”は使えているが、意識が上手く働かない。注意力が緩慢になっている。
 魔物が途切れて息を吐く。

「大丈夫か? アーリア」
 肩で息をして、疲労の色濃くなったアーリアは口を聞くのもつらいのか、しばらく言葉がなかった。
「……大、丈夫。アキラが護ってくれてますから……」
 にこっと笑って何でもない顔をしてくれる。本当に凄い子だ。
「ああ、アーリアを護る。護って地上に帰る。あと少しだ。」
 アーリアはその言葉を聞くと俺を見上げた。

「はい。……でも時には私にも護らせてくださいね?」
 そう言って俺を抱きしめた。
 ふいに鼓動が跳ねあがった。
 俺はアーリアの背に手を回してそっと抱きしめた。
「俺、アーリアの護衛なんだけどなあ……」
 余裕がなくなっていた。軽口も叩いてなかった。それが、手の中の今にも折れそうな細身の少女に気付かされた。
「私は勇者パーティーの……いいえ、アキラのパーティーメンバーなのですからアキラを護るのは当然ですよ?」
 くすりと笑って冗談のように言ってくる。
「俺だけのパーティーメンバーになってくれるのか? 勇者、じゃなく?」
 じっとアーリアの瞳を見る。
「もちろんです。アクアミネスの勇者になっても勇者にならなくても、アキラは私の勇者様ですから。」
 きっぱりと言い切るアーリアをぎゅっと抱きしめた。
「ア、アキラ……」
 腕の中で一瞬硬直した彼女が俺に身を預けた。
「ありがとう。アーリア……」
 この世界に来て初めて出会った少女は俺にとっていま最も大切な存在になっていたのだった。

 この階層のボスはリッチだった。強力な魔法を撃ってきたが、アーリアの弓の援護と上級の聖属性魔法で倒せた。ドロップアイテムがあったので袋にしまって転移陣に飛び乗った。

 出た先はモンスターハウスだった。迷宮の悪意はまだ俺達に向いていたようだった。
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