アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
44 / 67
王都新迷宮攻略

第43話 迷宮攻略⑤(※カディスSIDE)

しおりを挟む
 第9層へ降り立ち、二手に分かれて半日ほどが経った。俺の索敵範囲は5キロに及ぶ。

 今のところ、パーティの生存を脅かすような危険な魔物はいないようだ。
 俺はこの規格外の能力により、諜報部への道が開けた。
 だが、この“彷徨い人”の集団にいると自分が優ってるとは思えない。特に、上司グレイナーのお気に入り、アキラ・ウサミ。

 王女殿下に発見され、手厚い保護を受けている彼は一番初めに王都に現れた“彷徨い人”だ。

 発見されたのはタムラが早かったが、移動に時間がかかり、到着した時はすでに一週間が過ぎていた。その間に、アキラが現れた。

 アキラは次々とスキルを体得し、魔法も全属性扱える。
 武術や剣技に至っては1カ月もしないうちに騎士団レベルまで使えるようになっていた。

 特に、気配察知や魔力感知に秀でている。何も知らない状態で、ハイディングしていた俺とグレイナーを見破った。そんなスキル持ちは国に10人もいない。
 さすがは勇者候補、というところだ。それに加え、奴は勇者にはなれないと公言している。どこにそんな思慮深い人間がいるのだ。

 俺は“彷徨い人”の全員のスキルをみたが、隠蔽したのは奴くらいだった。なのに天狗にならない。不思議だった。
 あの、炎の魔法をひけらかすくらいの馬鹿もいるんだが。どう見ても平凡すぎるスキルに隠蔽されていた。
 使える魔法がのっておらずスキルもなかった。

 人に見せられないスキルのオンパレードではないかと俺はみている。持っているスキルを奴は話さないが、魔法の方は最初についていた教師が喜々として教え込んでいたから、あの教師が使える魔法は、すべて使えるのではないかと思っている。

 それくらい、魔法を使いこなしていた。ほぼ無詠唱で。

 就いた教師は魔族で、無詠唱で魔法を使う。
 魔族と人族はそもそも魔力の扱いが根本的に違う。なのに、かなりの短時間で無詠唱をものにし、今、後続で現れた彼らに魔法を教えるほどに上達をした。
 あの教師は優秀だったが、他の“彷徨い人”より数段上の魔法適正を持っていたのには、間違いないだろう。

 さらに魔眼。どんな魔眼かは明かしてないが、相当に規格外だろうというのは王女殿下やグレイナーの見解だ。

 そして肝心なことだが、奴は努力を惜しまない。ストイックすぎるほどだ。
 普段の言動はお調子者と名高い俺に匹敵するくらいなのだが、ここに現れてからこっち、奴が訓練を休んでいる姿をほぼ見たことがない。
 他の“彷徨い人”は週に1日くらいは訓練を休んでいる。特にタムラよりあとに現れた初めの10人は訓練を嫌がってろくに戦えない。攻撃魔法を使える者だけが我儘を通し、他を見下していた。
 アキラはそれを憂いていたが、口を出すことまではしなかった。
 王女殿下もどうにもできないことだった。

 “彷徨い人”に強制はできない。
 彼らがこの世界を見かねて手を貸してくれるまでお願いに留めておかなければならないからだ。やるもやらないも彼ら次第。

 まあ、あとから来た10人には強制してしまったようだが。
 それが功を奏したのか、アキラが面倒を見ている10人は勤勉だった。アキラの能力の凄まじさに、多分彼らも気づいている。
 前半組とアキラが名付けた5人を預かり、第10層へ下りるために道を探している。見通しの悪さが足を止める。思ったより進みが遅い。

「先生、そろそろ休みましょうよう~」
 彼らは俺を先生、アキラをラビちゃん先輩と呼ぶ。このパーティーのムードメーカーはハジメ。いつも率先して行動する。

「よし、昼にしよう。」
 手放しで喜ぶ連中を安全と思われる場所まで誘導し、一時の休みとなった。

 アキラの率いたパーティには王女殿下が合流している。少し危険だが、必ずアキラが護るだろう。
 バーダットに向かった連中には騎士15人が付いているが、こちらの護衛は俺一人。そもそも地力が違ってしまっている。
 アキラが鍛えに鍛えた彼らは、騎士の部隊長に匹敵する実力はある。冒険者で言うところのCランク以上だ。ここのところの連携のよさや、判断のよさは経験によるものだろう。

「虫ばっかりはきついわ~」
「確かに気持ち悪い~」
 第9層は昆虫型の魔物と、植物型の魔物が出現する層のようだ。

 このダンジョンはできてから日が浅く、潜るパーティーも“彷徨い人”のみだ。調査した冒険者以外このダンジョンには入っていない。その分、危険があるが、目立たないように訓練するにはちょうどいい。“邪王”の復活には魔物の暴走が付きものだ。立ち向かう力を手に入れて欲しい。

 ここに入って攻略をするようになって2カ月になる。彼らのレベルもかなり上がった。アキラに関しては先んじて魔物討伐をしているためその倍はあるだろう。

「よし、休憩は終わりだ。行くぞ。」
 俺は出発しようと声をかける。彼らは素直に立ちあがって周囲を警戒する。
 斥候役の少女が先んじて消える。彼女は罠を感知すると警告をする役目がある。このダンジョンに入ってから随分と磨かれたスキルだ。
 そうしてしばらく歩くと、ダンジョン内の空気が緊張しているように感じられた。何か妙だ。

「先生、何か……」
 彼らも気づいたようだ。索敵を広げる。魔物は感知内にはいない。なのに、この緊張感。何かが起きているのだろうか?

「よし、ラビのパーティと合流する。行こう。」
 斥候の少女に見つけてもらうよう頼んで、2時間ほど過ぎたころだった。
 慌てた様子の後半組と合流ができた。

 アキラと王女殿下はいなかった。

「戻ってこないの。索敵してもいないの。どこに行ったのかわからないの!」

 彼らのパーティの索敵役はアキラだったが地図は亜由美、という少女が担っていた。彼ら全員で、索敵を手分けしたが向かった方角からは何もなかったということだ。

 アキラに関してはこちらを見つけることができないはずはなく、合流して来れない状況にあるのは間違いがない。王女殿下も心配だ。

 なんてこった。

 撤退するほかはない。ここで“彷徨い人”を危険に晒すことはできない。
 俺は即座に判断し、第10層を早々に攻略し、地上に戻ることを決めた。来た道を戻るより倒してしまったほうが早いという判断だ。

 第10層に下りる道はそれからほどなくして見つかり、蟷螂の魔物が階層主だった。魔法が通りにくく、物理も堅い表皮に攻撃が余り通らず苦戦をしたが、関節部分が弱いことがわかると無事倒すことができた。奥にある転移陣で地上に戻り、報告をした。

 王女殿下の失踪に城中が大騒ぎになったのは言うまでもない。

 王女殿下の側近のフリネリアは動揺していたが、すぐに立ち直り捜索隊を編成、ダンジョンへ向かわせた。10階層までのどこにも、彼らの姿はなかった。

 1日経ち2日経っても、何の手がかりも見つけられなかった。

 絶望的な空気が、王城を支配した。

(アキラ、こんなところでくたばるタマじゃないだろう。早く戻ってこい)

 そして、バーダットに向かった組にも、事件は起こったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...