アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
33 / 67
トーナメント

第32話 王都への帰り道

しおりを挟む
 バーダットを出立して順調に馬車は王都に向かっている。
 6人乗りの馬車に5人乗っている。そこはいい。目の前には大柄の騎士、老齢の魔術師。隣にはアーリアとそのお付きの侍女。

 どうしてこうなった?

 目の前がむさくるしいんだけど。更に侍女の眼が怖いんだけど。
「ラビ君とか言ったな。諜報部のポープということは、グレイナーから聞いている。一度腕前を見てみたいものだ。」
 威厳が溢れ出る感じで俺に話題を振ってくれたのは、フリネリアのお父さん、騎士団団長、“ヴァーノン・フォティア・レングラント”。
「いえ、あの……新人という感じで、まだまだです。」

 そして相変わらず、俺の髪の生え際を凝視する、“ダビッシュ・ウル・ネイビス”。
「先日の席ではあまり話せことはできなかったが今日はもて余すほど時間がある。せっかくじゃ、有意義な話をしたいものじゃのう。……そうじゃ、おぬし、かなりの魔力の持ち主じゃのう。」

 うわ。見破られてるよ。つーか二人とも俺にロックオンかよ。アーリアの馬車に乗っててそれかよ? あーもう。

「ラビ様はとても優秀な護衛です。私が安心して外を出歩けるのは彼のおかげです。」
 アーリア様!! 助け舟とっても嬉しいです。
「ほう。そこまで王女殿下からの信頼を得るとは……なかなかだな。」
 目がらんらんと輝いて怖い!! 怖いです。これで王都まで一日中一緒って辛いわ。

 バーダットを立ってから約二時間。
 微妙な空気のまま、王都へと馬車は進んでいる。
 途中馬を休ませるための休憩を何度か挟んで、夕刻には王都へ到着する予定だ。

 馬車の先頭に騎馬の騎士が2名、殿に2名。後ろの馬車は歩兵の騎士が6名乗っている。
 今回、アーリアを世話するのは馬車の中にいる侍女しかいない。
 見たところ戦闘能力はないと見ていい。アーリアの方が上かもしれない。これでもアーリアはCランク冒険者だ。(いつの間にか上がってた!! フリネリアと依頼をこなしてたりしたらしい)

 ゴブリン程度では傷つけることはできない。
 しかし人間相手ではわからない。俺も、人を殺すことができるかは、わからない。魔物から護る自信はある。でも、人相手は怖い。俺は強くなったから、殺すつもりがなくても、死に追いやることもある。殺すつもりで向かってくる相手は本当に怖い。

 今だって前面からの威圧プレッシャーに負けそうだ。

「そろそろ休憩を取るようです。」
 俺がそう言ったら扉が叩かれた。休憩の合図だ。馬車が止まり、休憩を取るために馬車や馬を降りる。まずは馬の休憩だ。俺は興味深そうにそれを見ていて、アーリアがくすくすと笑ってそんな俺を見ていた。
「いや、だって、馬って可愛いじゃん?」
 思わず隣に座って、小声でいつも通りに声をかける。
「本物を見たのがこっちに来てからなんで、ついね。ああやって世話するんだなあとかね。」
 ちょっと照れて頭を掻く。あ、鬘ずれそう。もちろん威圧プレッシャーから逃れたのも嬉しいけどね!
「私も馬を見るのは好きですよ。おとなしくて綺麗な生き物です。」

 今休憩をしているのは街道の側に作られた馬の水飲み場だ。この街道を行き交う馬車が頻繁に利用するから広場は背の高い草があまり生えていない。
 思い思いの場所に座って、皆が水を飲み、ある者は携帯食を口にしている。
 通行の多い街道だが、日本みたいに渋滞だとか、頻繁にすれ違うということはない。
 都市間の移動はやはり危険が伴う。
 それなりに護衛を頼んだ状態での移動が好ましいのだ。

 バーダットと王都の街道脇には草原から奥に森が広がっている。
 バーダットから王都に向かって左手側には竜の森と呼ばれる森が広がり奥に進むと竜の住むという険しい山に繋がっている。
 右手側は工業都市アミラールに繋がる道が途中で現れ、ところどころに点在する小規模の森や、湿地帯を抜けるコースになる。魔物の暮らす森はすぐそこにあるのだ。

 草に紛れて近づくことは容易で、索敵スキルなどを持っていないとわからない。
 そしてもちろん盗賊などは人の裏をかくことができるからますます危険なのだが、今のところ俺の索敵に危険な兆候はない。もう少し都市から離れなければ襲ってこないのか、幸運なのか。

 馬が復調したところで出立する。
 そして微妙な空気の車内に逆戻りだ。どうしよう。
「ネイビス様、昨日の決勝、アデイラ様の活躍、とても素晴らしかったと思います。大変な鍛錬をされたのでしょうね?」
 気遣いの女神、アーリアの降臨だった。

「負けてしまうとはまだまだじゃ。じゃが、あやつは生真面目なところが取り柄で、おっちょこちょいの所が弱点じゃ。おっちょこちょいの部分は治っているのかのう。」
 最後の方は、ただの独り言に聞こえた。
「決勝の時はそんな部分は見えませんでした。きっと克服なされたのでしょうね。」
 にこにこと述べるアーリアは、本当に気遣いの天才だ。

「また、お相手のタツト・タカハ・レングラント様も素晴らしい魔法でした。レングラントの名を持っていらっしゃいますが、レングラント卿の息子さんでしょうか?」
 あ、それ聞きたいな。

「……ああ、タツトは遠縁の夫婦の忘れ形見だ。亡くなっているのを知ったのは最近で、彼を見つけた時には記憶がなかった。なので引き取って私が後見人になっている。うちに引き取った時は中々慣れなかったが三男のウォルフォードがよく面倒を見ていて、魔法の才能に気づいて、学院を勧めたのだ。結果よかったと思っているよ。」
 なるほど、そういう設定になっているのか。フリネリアは弟が連れてきたと言ったから彼が面倒を見ているというわけか。

「素晴らしいお力を持っていますね。レングラント家は、二人も魔法に秀でた方がいらっしゃって先が楽しみですね。特に昨日のウォルフォード様の竜の魔法は凄いの一言でした。」
 レングラント卿が苦笑した。

「光栄です。ウォルフォードにも、王女殿下からお褒めいただいたと伝えます。」
 レングラント卿は丁寧に頭を下げた。騎士の作法だ。
 確かにほんとにあの魔法は凄かった。”分析”しちゃったから俺も使えるけれど。あれ確か上級魔法とかもっと上の魔法だった気がする。

「ところで、そのほうの眼、”魔眼”じゃろう?」
 うわ、思ってもみなかったところから被弾したよ。今レングラント卿の話してたんじゃないのか~。
「えーと、まあ、そうですね。」
 あーじっと眼を見られてるよ。まずいよ。俺の背中に冷や汗がだらだらと流れた。

 その時、意識の端っこに何かが引っ掛かった。
「!!」
 思わず顔をあげる。意識をそちらに向けた。
「どうした?」
 俺の様子にレングラント卿が訝しげに問う。
「何か来ます。魔物のようです。止めて様子を見ましょう。」

 索敵しつつ、“精霊眼”に切り替えた。精霊の眼を借りる。
 見えた。まだ馬車から視認できない距離に、魔狼の群れ。馬車が追いかけられてこちらに向かってきている。

「魔狼の群れに、馬車が追い立てられてこっちに来ます。魔狼の数は、30頭ほど。」
 レングラント卿とネイビスの顔色が変わる。
 アーリアは不安な顔をしながら、隠している短剣を位置を確かめた。
「止めろ!! 魔物が来る。」

 レングラント卿の声に馬車が止まった。並走する騎士達が集まってくる。レングラント卿は外に下りて、前方を見る。だがまだ見えない。

「見えないが本当なんだな。」
 問われて頷く。
「もうすぐ見えるほどの距離です。逃げるか、迎撃しないと全滅する可能性があります。」
 そう言うと馬車の車輪の音が聞こえてきた。相当スピードを出している。
 皆の顔色が変わった。

「王女殿下は馬車の中にいてください。」
 俺は言うと、風の盾で馬車を覆った。
 バタバタと慌ただしく騎士達が動き、歩兵の乗っていた馬車を盾代わりにして、迎え撃つ陣形になる。

「来たぞ!!」

 追われていた馬車が姿を現した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...