アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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後発組集結

第26話 迷宮攻略

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 二陣、魔法部隊4人衆は女性4人のパーティーだ。全員女子。

 オタクにはハードル高いんすよ。ええ。まったく。表面上はポーカーフェイスを気取ってますけどね。ほら、奇術師はいつでもポーカーフェイス…冗談です。
 この後発組は男女比6:4だ。やや男性陣が多いけど、向こうの世界とほぼ変わりない。
 他の男性陣はいつも尻に敷かれているような感じに見える。いや、下心がありすぎて声を普通にかけられないとかなのか?
 それとも扱きがきつすぎて、コミュニケーション阻害になってるとかなのだろうか?
 まあ、どっちでもいい。

 からかうのはやめていただきたい。本気で。

「ラビ君、ラビく~ん。」
 ほら来た。
「ねえ、えりりんと二人で閉じ込められた時、いい雰囲気になった?ねえ、ボーイッシュなえりりんにドキドキしなかった?」
 何言ってんのかこいつは!!
 高校生のくせに色気があって、それをわかって色目を使うタイプだ。その気になったらポイする怖い女。…に見えるんだよ!
「ドキドキはしたなあ。なんせ次から次へと求婚ラッシュで。魔物から。」
 と肩を竦めて見せた。
「もう!ラビっちはホモなの!??そっちの教官と出来てるの!?」
 何言ってるんだこいつは―――!!
「いやーこう見えてこいつは誰か一筋でぇ。俺なんか目にも入ってないんだよ…田村先生大好きっこだもんな。」
 お前もな!!カディス!!一遍死ね!!蹴ろうと思ったらかわされた。ぬぬ。
「田村さんは尊敬してるよ。当り前だろう?」
「ジジコン!!ジジコンだ―――!!」
 こら失礼にもほどが!!ああ、女の子2人で盛り上がっちゃってるよ…。
 おっとり美人のアユは余りテンションが上がらない風だが、実はノリノリだって言うのはわかる。
 目の色が違うからなあ。

 あ、今日は後半組で迷宮に来てます。魔法部隊の半分と最後に合流した二人。それと田村さんです。
 なんで俺は実況中継ふうに心の中でしゃべってるのか。自分で突っ込んでるのは虚しい。
「宇佐見殿は慕われてますね。」
 あれを見てそう言える田村さんを俺はマジ尊敬する。

 今は休憩中です。はい。女子二人が強烈なので男の子二人組は気圧されて黙って携帯食を口にしている。二人は最後に合流したせいもあってまだそんなに打ち解けていない。
 盛り上がる女子二人を水を飲みながら見ているのは、やや大柄で筋肉質の戦士タイプの黒田洋平くろだようへい。17歳。
 くたびれた顔で休んでいるやや細身だけど、剣に適性がある剣士タイプの芳田良よしだりょう。14歳。
 あれ、こう考えてみると前半組より平均年齢低いな。(田村さんのぞく)俺が一番年上か。おっさんて言われたら泣くぞ。

 第2層であったモンスターハウス以外、罠らしい罠はないようだった。この組には斥候向いているタイプがいなかったので俺がやっている。皆には索敵はしろと言ってある。
 第3層まで順調に降りてきていた。“地図”はおっとり美人のアユに任せた。
 調査隊の言う通り、ここまで出てきた魔物は王都の森で出会う魔物しかいない。
 ランクで言えばF~E相当で、初級冒険者向きの場所といえる。
 ただモンスターハウスのような罠がないとも限らないので油断はできない。

 地上で会う魔物との違いは、死骸を放っておいてもいつの間にかなくなってしまうところ、だ。
 もちろんその場で解体をして持ち出せば別だが迷宮でのんびり解体をするのは危険を伴う。
 大体は魔石と値の張りそうな素材のみを持ち帰る。それが普通らしい。

 後半組は脳筋タイプの男子二人が前衛、魔法使い女子二人が後衛だ。
 俺は遊撃を担当。カディスがフォロー。田村さんが回復役だ。
 脳筋タイプの二人は恐れず魔物に向かってヘイトを稼いでいる。その隙に魔法で攻撃、殲滅していた。意外とうまく回っている。第5層くらいまでは手を出さなくても十分に戦っていけそうだ。
 第6層から下は中で野営をしなければいけなくなりそうだ。第3層まで下りてきて、少しずつ魔物の強さが上がっているのを感じる。群れで現れる率も高くなっている。
 ちょうど俺とアーリアが王都を離れる頃に第6層に下りていきそうなのはちょっとまずいだろうな。
 帰るまで待ってもらうしかないだろう。

 後半組の迷宮攻略一日目は終わった。
 帰り際門の前で前半組とかち合った。ワイワイと依頼達成について話していた。昨日の罠の事は引きずってないのかとちらっとえりりんを視た。一瞬目があったような気がしたが、すぐ逸らされた。視線を外したが、時折見られていると感じる。もしかして気にしているかもしれないな。

「アキラ様、私は怒っているのです。」
 昨日、公務が伸び、俺と話す時間の取れなかったアーリアがぷりぷりと怒っていた。
 めっちゃ可愛いんだけど。
「迷宮第2層目の罠の報告を受けました。どうして飛び込んでいったのですか?」
 どうしてって、それは…。言わせるのか?アーリア。
「…そりゃ、死なせたくなかったからだ。結果的に罠だったから、入ってよかったと思ったよ。」
 それを聞いてアーリアは俯いた。彼女は今、葛藤している。多分。
 膝上で握られた手の関節が白い。綺麗な色のドレスの生地がそこで皺が深くなっていた。
「アーリア。散歩しないか?中庭に出るくらい、許してもらえるだろ?」
 はっとして顔をあげる。泣き笑いの顔で俺を見つめている。

「はい。」
 やっとのことでアーリアは頷いて、二人で中庭に出た。もう、風が冷たい。
 俺が着ていた上着を、アーリアにかけた。

「ありがとうございます。」
 目元がほんのりと赤くなったアーリアは、月明かりに照らされてとても綺麗だった。
 月明かりが水路に反射して、幻想的な風景だ。

「俺は、ほんの少しだけ、早く来て、ほんの少しだけ、彼らより強い。だから彼らも鍛えると引き受けたからには俺と同じレベルまで頑張ってもらいたい。それには無茶なこともしなくちゃいけない時があるよ。そもそも、“邪王”討伐なんて、無茶をしないと成し遂げられない。そうだろう?」

 噴水前に来て立ち止まる。水音が沈黙の間を埋める。

「はい。でも、それでも。私はアキラ様が、私の知らないところで無茶をなさって、万が一の事があったら、許せないのです。自分を。」
 俺の目をまっすぐに見て、そう言ってくれる。
 嬉しいよ。

「アーリアのいないところでは、万が一なんて俺はならないよ。」
 アーリアが歩きだす。

「本当ですか? 誓ってくれますか?」
 アーリアは真剣な顔を俺に向けた。

「誓う。絶対に俺はアーリアのもとに帰る。」
 ハッとしてアーリアは俺を見る。

「嬉しいです。私の勇者様。」
 アーリアの顔が緩んだ。もう大丈夫だろう。アーリアの歩みに合わせて、ゆっくりと城内に戻ろうとした。

「でも……本当にあまり無理しないでください。アキラ様はいつも無茶ばっかりで、本当に心配です。」
 ごめんよ。そんなに無茶をしているつもりじゃないんだけど。2度ほど死にかけてはいるから否定できない。

「アーリアは心配性なんだよ。今回だって傷一つついてなかったからさ。それより、もう遅いから。怒られちゃうぞ。行こう。」

 誰か、いる。気配を少し隠しているけれど、いる。殺意はないし、そううまい気配遮断ではないから、大丈夫だろう。覚えのある気配だから、後発組の誰か。でも、早めに戻った方がいいだろう。

「私も迷宮に行きます! 無理しないよう見張らないと。」
 全くアーリアは……。王女だってこと自覚してるのかね。でも釘は刺しておかないと。

「許可が降りたら連れていくよ。約束する。」
 でも、俺のことを心配してくれるアーリアが、俺は愛しく感じる。
「はい。アキラ様……ちゃんと許可を取ります。」
 やっと心の底からの笑顔になって、俺は安心した。アーリアの手が俺の手に触れて、俺はそっと指を絡めて握った。少し引くようにして、部屋に戻った。

 手のぬくもりがいつまでも残った。

 そしてアーリアは許可をもぎ取ってきた。俺は内心舌を巻き、彼女を連れて迷宮に潜る準備をした。

 バーダット魔法学院へ出発する一週間前だった。
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