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後発組集結
第25話 鷺宮エリカ②(※鷺宮エリカSIDE)
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迷宮の入口はぽっかりと開いた洞窟の入口のようだった。人が二人通れるかどうか。
そこをカディス教官、ハジメ君、しんちゃん、ガッキ―、僕、玲奈、ラビちゃん先輩の順でくぐった。
ラビちゃん先輩は僕に斥候をしろと言ってきた。やり方を教えてもらう。スキルは覚えていたけど、実践はまだだった。地下一階は罠はなくて、魔物もスライムやレプス等の最低ランクの魔物ばかり現れた。
地下二階にも通路に罠はない。迷路にはなっていなくて、まっすぐな道と部屋のようなものがあった。気配を探るが、なにもいない。そして降りてきた階段から最も遠い部屋の奥に何かが置いてあるのを見つけた。
ここまで見てきた“部屋”より広めの置いてある小さな箱以外何もない、“部屋”。宝箱、あるいは擬態した魔物か。僕は慎重に近づいていく。そこで皆が追いつく。
「待て、だめだ、戻って来い!」
ラビちゃん先輩の切羽詰まった声が聞こえた。
先輩が入口を潜ってくるのと、罠探知の魔法を箱にかけたのとはほぼ同時だった。
瞬間箱が光り、入口が閉じた。
「え!?」
驚いていると腕を掴まれた。
「やっぱりモンスターハウスかよ。」
舌打ちした先輩から普段は感知できない魔力が溢れてきたのがわかった。
「いかにもなのが怪しすぎるからわかるだろうと黙ってたけど、こういう時は罠発動のキーだってことをまず疑って欲しかったな。ま、初めてだから仕方ないけどな。」
え?ラビちゃん先輩も初めてじゃ、ないの??
そう言っている間にもモンスター……魔物が次々と現れた。
ラビちゃん先輩が結界を周りに展開した。無詠唱だった。内側に風の盾が3枚。その後に“風の刃”を発動。それも無詠唱。魔物が次々に倒れていく。
あっという間の出来事だった。倒された魔物は部屋に”喰われて”いった。
「全部倒したら扉が開くはずなんだが……お代わりかよ!」
全ての魔物が消えた瞬間、次の魔物が出現した。それも、さっきの魔物よりランクが上。それが何十体も。
「あいつら、魔法が効きにくい。この中にいろよ? いいな。」
そういうとラビちゃん先輩は剣を腰に下げたホルダーから抜いて片手に携えて結界から出た。
「ま、待ってよ! ラビちゃん先輩!! 僕だけって…」
ぎゅっとナイフを握りしめて震えを堪えながら声をかける。僕だけ、戦わないってそんなのだめだ。
「だ~いじょうぶ。こう見えて強いのよ。先輩は。」
そう言って僕にウィンクしたかと同時に横に片手剣を払う。その剣の道筋にいた魔物の身体が横にずれた。
そのままターンして、また横なぎに剣を振るう。剣が通ったあとは、魔物は立っていなかった。ふっと姿が消え、血飛沫だけが僕の周りを彩った。
高速で動きながら魔物を斬っていく。いつもパーティーの後ろから指示を出していただけの、ラビちゃん先輩とは別人のようだった。
ううん。
僕達のパーティーは女の子だけだったし、近接戦闘は皆苦手だったから、きっと手に負えない魔物は知らない間に処理してくれてたんだ。
だってたまに姿が見えなかったから。
僕はそれでも必死で魔物に向かってたから、気付けなかっただけなんだね。
カディスさんとの打ち合いだって、僕たちじゃ、立っていられないんだから。
ちゃんと強いってわかってたはずだったのに。
真剣なラビちゃん先輩を、知らなかっただけだったんだ。ううん。きっといつでもラビちゃん先輩は真剣で。
それを僕たちに、悟らせないようにしてただけだよね。
何十体も部屋を埋め尽くしていた魔物は、すべて倒れていた。犇めいていた魔物が、綺麗に部屋から消えていた。
部屋の真ん中に一人立ったラビちゃん先輩は、剣についた血を振るって落としてた。
不思議と身体に血は付いてなかった。
こっちを向いてにこって笑った。
ずきっと胸が痛んだ。
「さて、まだ扉が開かねえんだけど、こりゃあ、何かまだ仕掛けがあるってことか?」
こっちに近づいてきたラビちゃん先輩と僕との間に、ぬうっと床から四角い影が出現した。
宝箱だ。
部屋に鎮座していた宝箱。その、宝箱から何かが飛び出したように見えた。
毛むくじゃらの巨大な両手。顔は口だけがあるようで、大きく開き鋭い牙が並んでいて、まるで人食い鮫の口のようだった。
足は短く首はない、歪なゴリラのような魔物。
背は僕の身長の二倍はあるようで、宝箱から出てきたかと思えないほど、大きな魔物だった。
その、太く大きな腕が振り落とされた。僕に。
「……!!!」
結界がなかったら死んでいた。結界が弾けて風の盾ごと横の壁に叩きつけられた。
「か、……はッ……」
衝撃で息がつまった。でも、死んでなかった。その僕の耳に声が聞こえた。
「てめえ、何すんだよ!!」
ガキッと、音がした。剣は堅い毛皮に阻まれて、中には届かなかった。
「物理耐性、か……魔法も効きにくいってか。でも、あいにく二度目だからな! お前、あいつよりは弱いだろ!!」
剣が魔力を帯びていく。それは青白く光って綺麗だった。魔物の大きく太い腕が振りあげられる。
それを避けて魔物の目に炎をぶつけて剣で肩を斬りつけた。さっきは通らなかった剣が、すっと線を引いていき、魔物を切り裂いた。
真っ二つに分かれて倒れ込んだ魔物が床に呑まれて消える。
僕は壁にもたれて座り込んだまま、それを見ていた。
ふっと部屋の空気が緩んだように思えた。
石を引きずるような音とともに、閉じていた入口が開いた。
ラビちゃん先輩が僕を助け起こした。”ヒール”と唱えた声が小さく聞こえた。
さっきまで痛かった場所が、痛くなくなった。
皆が駆けこんできて玲奈に抱きつかれた。
「よかった。よかったよう……」
泣いている玲奈の背を、ポンポンと叩いて僕は言った。
「ラビちゃん先輩に護ってもらったから全然大丈夫だったよ。」
そのラビちゃん先輩はひっくり返っている宝箱を見て、カディス教官と何か言い合ってた。
宝箱だけは残ったんだ。
僕はその様子を目の端に捉えながら、ラビちゃん先輩は、すっごい強かったんだなあって今さらながら思った。
そしてその後、罠にかかることもなく無事探索を終了し、第3層の半ばで引き返した。
僕の手にはラビちゃん先輩の宿題があった。
「地図を描くように。」
ゲームのようにオートマッピングとかあればいいのになあと思いながら手で書いていく。紙自体はこの世界にもあるようなのだが、それなりに高い。地図なら耐久性だろうと、ラビちゃん先輩が魔物謹製の羊皮紙みたいなものをくれた。
定規とかないし、方眼紙もないから描きにくい。ましてやつけペンなのだ。(インクも高いらしい)
それでも一生懸命思い出して地図は完成した。
その地図は、後半組が作成した地図と比較して、罠が変わっているかとか、検証するらしい。
次の日は迷宮にはいかず、体力づくりと冒険者ギルドでの依頼消化だった。
凄い美人の騎士様が来た。フリネリアさんだという。そして彼女も鬼だった。
夕方日の暮れる前に森から戻って、ギルドで達成の証明を受けて戻ったら、門の前で迷宮組と鉢合わせした。
どうやら、今回は僕が起こしたような失敗は、なかったようだった。
背後から見守っているラビちゃん先輩に、自然と目がいく。優しい目だった。
どうしても目が、ラビちゃん先輩を追ってしまう。
どうしてなんだろう。
お風呂でため息を付いたら、玲奈にからかわれた。
「エリ、恋でもした?」
割と大きな声だったので一緒に入ってた他のメンバーにも詰め寄られた。
「ない、してないっ」
「またまた~お姉さんに話なさ~い!」
囲まれて問い詰められた。詰め寄られて、追い詰められた。皆の圧が凄い。
うう、みんな胸があるよう。
陸上は胸がない方が助かるけど、今はあった方がいいなあと、皆を見て思った。
玲奈が隠れ巨乳なのは知ってるけど、ちょっと今日はやるせない気分になった。
「わかった。ラビ君でしょ。」
望未さんに言われてギクッとした。
脱衣所で着替えながら、まだその話題を引きずっていたのかと思った。
ワスレテクレテモイインデスヨ?
「だって、男でカッコイイの、彼かカディスさんしかいないでしょ。他はまだ男の子って感じだし。」
あ、そういう一般論か。よかった~。
え? 何がよかったって?
僕なに言ってんの?
「違いますってば~~!」
とりあえず逃げた。
逃げた先は中庭だ。のぼせた身体を少し冷やそうと、思ったのもあったけど。
「………」
「………」
誰かが話す声が聞こえた。思わず隠れてしまった。
こっちに向かってゆっくりと歩いてくるから。
ラビちゃん先輩と、あれは……王女様だ。
「……無茶しないで欲しいです。アキラ様はいつも無茶ばっかりで、本当に心配です。」
ラビちゃん先輩のこと、名前で呼ぶんだ。
「アーリアは心配性なんだよ。今回だって傷一つついてなかったからさ。それより、もう遅いから。怒られちゃうぞ。行こう。」
ラビちゃん先輩も名前で呼んだ。これってどういうこと?
「私も迷宮に行きます!無茶しないよう見張らないと。」
王女様を見るラビちゃん先輩の目が優しい。
「許可が降りたら連れていくよ。約束する。」
声が優しい。
「はい。アキラ様…ちゃんと許可を取ります。」
二人の影が寄りそう。二人の手の影が重なってそのまま城の中に戻っていく。
僕は隠れたまま二人が去っていってもしばらく、そこから抜け出せなかった。
部屋に戻ってベッドに潜った。
玲奈はまだ、帰ってなかった。
「あれ? なんだろ?」
目の前が霞む。
頬を伝うものが止まらない。
僕は上掛けを被って寝てしまった。
ラビちゃん先輩と王女様の事は、僕の胸の奥にしまった。
僕は強くなりたい。
この世界に来て、流されるままだったけど、追いかける目標ができた。
ラビちゃん先輩ほどになれなくても迷惑をかけないくらいには強くなる。
王女様は無理を通したのか、今日一緒に迷宮探索をすることになった。
きっと王女様も、同じ気持ちなんだろうと思った。強い瞳を見て思った。
がんばろう。
きっとその先にこの世界に来た意味があるんだと思うから。
そこをカディス教官、ハジメ君、しんちゃん、ガッキ―、僕、玲奈、ラビちゃん先輩の順でくぐった。
ラビちゃん先輩は僕に斥候をしろと言ってきた。やり方を教えてもらう。スキルは覚えていたけど、実践はまだだった。地下一階は罠はなくて、魔物もスライムやレプス等の最低ランクの魔物ばかり現れた。
地下二階にも通路に罠はない。迷路にはなっていなくて、まっすぐな道と部屋のようなものがあった。気配を探るが、なにもいない。そして降りてきた階段から最も遠い部屋の奥に何かが置いてあるのを見つけた。
ここまで見てきた“部屋”より広めの置いてある小さな箱以外何もない、“部屋”。宝箱、あるいは擬態した魔物か。僕は慎重に近づいていく。そこで皆が追いつく。
「待て、だめだ、戻って来い!」
ラビちゃん先輩の切羽詰まった声が聞こえた。
先輩が入口を潜ってくるのと、罠探知の魔法を箱にかけたのとはほぼ同時だった。
瞬間箱が光り、入口が閉じた。
「え!?」
驚いていると腕を掴まれた。
「やっぱりモンスターハウスかよ。」
舌打ちした先輩から普段は感知できない魔力が溢れてきたのがわかった。
「いかにもなのが怪しすぎるからわかるだろうと黙ってたけど、こういう時は罠発動のキーだってことをまず疑って欲しかったな。ま、初めてだから仕方ないけどな。」
え?ラビちゃん先輩も初めてじゃ、ないの??
そう言っている間にもモンスター……魔物が次々と現れた。
ラビちゃん先輩が結界を周りに展開した。無詠唱だった。内側に風の盾が3枚。その後に“風の刃”を発動。それも無詠唱。魔物が次々に倒れていく。
あっという間の出来事だった。倒された魔物は部屋に”喰われて”いった。
「全部倒したら扉が開くはずなんだが……お代わりかよ!」
全ての魔物が消えた瞬間、次の魔物が出現した。それも、さっきの魔物よりランクが上。それが何十体も。
「あいつら、魔法が効きにくい。この中にいろよ? いいな。」
そういうとラビちゃん先輩は剣を腰に下げたホルダーから抜いて片手に携えて結界から出た。
「ま、待ってよ! ラビちゃん先輩!! 僕だけって…」
ぎゅっとナイフを握りしめて震えを堪えながら声をかける。僕だけ、戦わないってそんなのだめだ。
「だ~いじょうぶ。こう見えて強いのよ。先輩は。」
そう言って僕にウィンクしたかと同時に横に片手剣を払う。その剣の道筋にいた魔物の身体が横にずれた。
そのままターンして、また横なぎに剣を振るう。剣が通ったあとは、魔物は立っていなかった。ふっと姿が消え、血飛沫だけが僕の周りを彩った。
高速で動きながら魔物を斬っていく。いつもパーティーの後ろから指示を出していただけの、ラビちゃん先輩とは別人のようだった。
ううん。
僕達のパーティーは女の子だけだったし、近接戦闘は皆苦手だったから、きっと手に負えない魔物は知らない間に処理してくれてたんだ。
だってたまに姿が見えなかったから。
僕はそれでも必死で魔物に向かってたから、気付けなかっただけなんだね。
カディスさんとの打ち合いだって、僕たちじゃ、立っていられないんだから。
ちゃんと強いってわかってたはずだったのに。
真剣なラビちゃん先輩を、知らなかっただけだったんだ。ううん。きっといつでもラビちゃん先輩は真剣で。
それを僕たちに、悟らせないようにしてただけだよね。
何十体も部屋を埋め尽くしていた魔物は、すべて倒れていた。犇めいていた魔物が、綺麗に部屋から消えていた。
部屋の真ん中に一人立ったラビちゃん先輩は、剣についた血を振るって落としてた。
不思議と身体に血は付いてなかった。
こっちを向いてにこって笑った。
ずきっと胸が痛んだ。
「さて、まだ扉が開かねえんだけど、こりゃあ、何かまだ仕掛けがあるってことか?」
こっちに近づいてきたラビちゃん先輩と僕との間に、ぬうっと床から四角い影が出現した。
宝箱だ。
部屋に鎮座していた宝箱。その、宝箱から何かが飛び出したように見えた。
毛むくじゃらの巨大な両手。顔は口だけがあるようで、大きく開き鋭い牙が並んでいて、まるで人食い鮫の口のようだった。
足は短く首はない、歪なゴリラのような魔物。
背は僕の身長の二倍はあるようで、宝箱から出てきたかと思えないほど、大きな魔物だった。
その、太く大きな腕が振り落とされた。僕に。
「……!!!」
結界がなかったら死んでいた。結界が弾けて風の盾ごと横の壁に叩きつけられた。
「か、……はッ……」
衝撃で息がつまった。でも、死んでなかった。その僕の耳に声が聞こえた。
「てめえ、何すんだよ!!」
ガキッと、音がした。剣は堅い毛皮に阻まれて、中には届かなかった。
「物理耐性、か……魔法も効きにくいってか。でも、あいにく二度目だからな! お前、あいつよりは弱いだろ!!」
剣が魔力を帯びていく。それは青白く光って綺麗だった。魔物の大きく太い腕が振りあげられる。
それを避けて魔物の目に炎をぶつけて剣で肩を斬りつけた。さっきは通らなかった剣が、すっと線を引いていき、魔物を切り裂いた。
真っ二つに分かれて倒れ込んだ魔物が床に呑まれて消える。
僕は壁にもたれて座り込んだまま、それを見ていた。
ふっと部屋の空気が緩んだように思えた。
石を引きずるような音とともに、閉じていた入口が開いた。
ラビちゃん先輩が僕を助け起こした。”ヒール”と唱えた声が小さく聞こえた。
さっきまで痛かった場所が、痛くなくなった。
皆が駆けこんできて玲奈に抱きつかれた。
「よかった。よかったよう……」
泣いている玲奈の背を、ポンポンと叩いて僕は言った。
「ラビちゃん先輩に護ってもらったから全然大丈夫だったよ。」
そのラビちゃん先輩はひっくり返っている宝箱を見て、カディス教官と何か言い合ってた。
宝箱だけは残ったんだ。
僕はその様子を目の端に捉えながら、ラビちゃん先輩は、すっごい強かったんだなあって今さらながら思った。
そしてその後、罠にかかることもなく無事探索を終了し、第3層の半ばで引き返した。
僕の手にはラビちゃん先輩の宿題があった。
「地図を描くように。」
ゲームのようにオートマッピングとかあればいいのになあと思いながら手で書いていく。紙自体はこの世界にもあるようなのだが、それなりに高い。地図なら耐久性だろうと、ラビちゃん先輩が魔物謹製の羊皮紙みたいなものをくれた。
定規とかないし、方眼紙もないから描きにくい。ましてやつけペンなのだ。(インクも高いらしい)
それでも一生懸命思い出して地図は完成した。
その地図は、後半組が作成した地図と比較して、罠が変わっているかとか、検証するらしい。
次の日は迷宮にはいかず、体力づくりと冒険者ギルドでの依頼消化だった。
凄い美人の騎士様が来た。フリネリアさんだという。そして彼女も鬼だった。
夕方日の暮れる前に森から戻って、ギルドで達成の証明を受けて戻ったら、門の前で迷宮組と鉢合わせした。
どうやら、今回は僕が起こしたような失敗は、なかったようだった。
背後から見守っているラビちゃん先輩に、自然と目がいく。優しい目だった。
どうしても目が、ラビちゃん先輩を追ってしまう。
どうしてなんだろう。
お風呂でため息を付いたら、玲奈にからかわれた。
「エリ、恋でもした?」
割と大きな声だったので一緒に入ってた他のメンバーにも詰め寄られた。
「ない、してないっ」
「またまた~お姉さんに話なさ~い!」
囲まれて問い詰められた。詰め寄られて、追い詰められた。皆の圧が凄い。
うう、みんな胸があるよう。
陸上は胸がない方が助かるけど、今はあった方がいいなあと、皆を見て思った。
玲奈が隠れ巨乳なのは知ってるけど、ちょっと今日はやるせない気分になった。
「わかった。ラビ君でしょ。」
望未さんに言われてギクッとした。
脱衣所で着替えながら、まだその話題を引きずっていたのかと思った。
ワスレテクレテモイインデスヨ?
「だって、男でカッコイイの、彼かカディスさんしかいないでしょ。他はまだ男の子って感じだし。」
あ、そういう一般論か。よかった~。
え? 何がよかったって?
僕なに言ってんの?
「違いますってば~~!」
とりあえず逃げた。
逃げた先は中庭だ。のぼせた身体を少し冷やそうと、思ったのもあったけど。
「………」
「………」
誰かが話す声が聞こえた。思わず隠れてしまった。
こっちに向かってゆっくりと歩いてくるから。
ラビちゃん先輩と、あれは……王女様だ。
「……無茶しないで欲しいです。アキラ様はいつも無茶ばっかりで、本当に心配です。」
ラビちゃん先輩のこと、名前で呼ぶんだ。
「アーリアは心配性なんだよ。今回だって傷一つついてなかったからさ。それより、もう遅いから。怒られちゃうぞ。行こう。」
ラビちゃん先輩も名前で呼んだ。これってどういうこと?
「私も迷宮に行きます!無茶しないよう見張らないと。」
王女様を見るラビちゃん先輩の目が優しい。
「許可が降りたら連れていくよ。約束する。」
声が優しい。
「はい。アキラ様…ちゃんと許可を取ります。」
二人の影が寄りそう。二人の手の影が重なってそのまま城の中に戻っていく。
僕は隠れたまま二人が去っていってもしばらく、そこから抜け出せなかった。
部屋に戻ってベッドに潜った。
玲奈はまだ、帰ってなかった。
「あれ? なんだろ?」
目の前が霞む。
頬を伝うものが止まらない。
僕は上掛けを被って寝てしまった。
ラビちゃん先輩と王女様の事は、僕の胸の奥にしまった。
僕は強くなりたい。
この世界に来て、流されるままだったけど、追いかける目標ができた。
ラビちゃん先輩ほどになれなくても迷惑をかけないくらいには強くなる。
王女様は無理を通したのか、今日一緒に迷宮探索をすることになった。
きっと王女様も、同じ気持ちなんだろうと思った。強い瞳を見て思った。
がんばろう。
きっとその先にこの世界に来た意味があるんだと思うから。
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