アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

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冒険者活動と鍛錬の日々

第19話 私の勇者様(※アーリアSIDE)

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 その日私は久しぶりに昼間の公務に空きができたため、散策をすることにした。王城内でも通常は、護衛や供は付いて回るけれど、中庭なら閉じた空間なので独りにして欲しいと頼んだ。

 どうせ、密やかな護衛は離れないと知っているので、安心して中庭に出た。
 軽く伸びをする。

 私はこのミネス王国の第一王女。16歳だ。しかし、すでに外交や政治の一端を担っている。
 私の下に2人の妹、3人の弟がいる。
 直系の妹は1人、弟は1人。第2夫人の妹は1人弟が2人。
 まだ下の子たちは一番上でも、10歳にもなっていない。公務などの段階ではない。
 成人している王の子は私1人。
 私しか父の手助けはできないのだ。

 先日、”彷徨い人”が現れた。その人はこの王都”ラ・ミネス”から離れた東の村に現れた。今、この王都にその”彷徨い人”は向かっている。早馬の使者が先発して知らせに赴いたということだった。

 もちろん主要都市や、重要施設なら魔道具に寄る、遠距離通話はできるのだが、魔力を相当使うのでそうそう使われはしない。

 その”彷徨い人”は先触れのようなものだ。”邪王”というこの世界を滅ぼす存在が目覚めるということの。

 ”彷徨い人”は異世界から呼ばれた勇者になる可能性のある人々だ。

 勇者とは神から下賜された”聖剣”で、”邪王”を討ってくれる存在。それが勇者。だが、その聖剣は失われて200余年。

 今度目覚める”邪王”に聖剣なしで、どうやって勇者は挑むのだろうか?
 前回までは聖剣に選ばれた存在が、勇者だということだった。
 では今回はどうすればいいのだろう?
 いつ、勇者が勇者足り得たのかと、判断すればいいのだろうか?
 たった一つだけ、手段がある。

 この世界は一つの大陸で成り立っている。それが三つに枝分かれし、それぞれの枝葉に当たる大陸に人族、魔族、獣人族が暮らしている。

 それぞれの国は遠すぎてあまり交流はない。だが、邪王の出現期間は違う。それぞれの大陸に勇者が現れ、邪王を討つ。
 それぞれの大陸に現れる”邪王”は根は同じで、どこかで本体(核)を討つことができれば、どの大陸からも邪王が消えるという。
 どういう理屈かわからないが、過去人族が8割、魔族と獣人族で2割ほどの割合だという。
 圧倒的に人族が多いのは、呼びこまれている勇者様の力量なのだろうか? そして黒髪黒目の勇者様が多いのは何か理由があるのだろうか?

 その方は勇者様なのか。聖剣のなくなった今。

 心配はない。その時になったらわかるのだ。
 このミネス王国の第一王女にだけ、遺伝するスキルがある。
 そう、私にだけ、女神様の声が聞こえるのだ。

 ”その方が”勇者である、と。

 200年前の第一王女は聖剣の選定のあと、女神様の声を聞いたと記録が残っていた。
 彼女は、最終的な邪王討伐の際も参加していた。

 当時の勇者の人となりも多少記録がある。

 寡黙で人嫌い。目の覚めるような美形だった、とのこと。

 私も勇者様の誕生に立ち会えるのでしょうか。
 女神様の声を聞くのでしょうか。
 勇者様を辛い死地に追いやってしまうのでしょうか。

 中庭に出ると午後の日差しが、柔らかなものになっていた。
 もうそろそろ、お茶の時間になる。快晴の今日は水路にきらきらと陽が照り返して街が美しい。
 遠目に街を見下ろしながら、中央にある噴水の近くのベンチへ座ろうとした時、人が倒れてるのが見えた。
 慌てて駆け寄った。
 手を鼻にあてると息がかかった。生きている。規則的な呼吸は寝息のようだ。
 ほっとしてよく見ると驚いた。

 黒い髪、見たことのないデザインの服。この人は、まさか、”彷徨い人”?
 中庭に人はいないことを確認していたはずなのだ。
 だから私はここに来られた。
 若い男性。芝生の上とは言っても、地面は堅い。膝を提供することにした。
 気が付いた彼が開いた目を見ると、確かに黒い瞳だった。吸い込まれそうで綺麗だった。

 中庭で出会った”彷徨い人”は優しそうな人だった。護衛のフリネリアに話が行っていろいろと手配してくれた。今日は公式に話すのは無理だと言われたのだが、こっそり訪ねていった。

 でもいろいろとばれていた様子で結局予定されていた会談はフリネリアが代行して、私は謹慎だ。公務の書類を一心不乱に片付けながら”アキラ様”のことを思う。

 少し長めの前髪は両脇に垂らされていた。後ろは顎より少し長くて真っすぐだった。顔は少し顎先が細い方で、整った顔立ちだった。歳は19歳だと聞いた。身長は175センチくらい。やや細身の優しい口調の方だ。

 あの方は城に現れた。前回の勇者も城に現れた。
 ではあの方が勇者なんだろうか?

 心臓がドキドキした。
 このドキドキはなんだろう?

 熱があるのだろうか。頬が熱い。昨日、アキラ様に出会ってから時々おこる。
 あ、手が止まっていた。いけないと思い、書類をひたすら処理したのだった。

 フリネリアから聞いたアキラ様の処遇の希望を、なるべく叶えるように各所に手配した。もう一人の”彷徨い人”が来てからまた対策は考えればいいと、そう思っていた。

 そして私は、夕食後の1時間ほど、アキラ様の時間をもらい、報告という名のお話を聞く機会を手に入れたのだった。
 ところが今回の”彷徨い人”の出現は2人に止まらなかった。

 その報告数は極めて短い期間に4人になった。何が起こっているのでしょう?
 余りの人数に、父上が対策をとるよう宰相に頼んだ。これは荒れるなと思った。
 宰相は知らないのだ。代々の勇者たちへの王族の思いを。
 力だけを求めてはいけない。命令してもいけない。あくまでもお願いする。
 そうでなければ、なぜか、”邪王”を倒せないのだと、王家代々の王女の手記が伝えているのを。

 アキラ様に対して諜報部が関心を示しているのを知った。いつも護衛をつけていてくれる部署だ。
 アキラ様は優秀で、他の”彷徨い人”とは違うらしいのだ。
 そんなことを聞いた後、街に出たいと言われた。

『デート』

 何故かそんな単語が浮かんだのだけど、必死に頭から消して、街へ出る算段を考えた。
 私のお忍びの護衛だと言えばいいのでは!?

 私は名案だと思い、各所に手配した。
 調整が難航したけれど、その甲斐があった。
 アキラ様は出かける日の調整ができたと知らせた時、何故か口元が引きつっていたようだったのだけど。

 アキラ様は私に贈り物をしてくれた。その時不思議なことがあったのだけど、私は舞い上がってしまい、贈られた髪飾りをその日からつけて過ごした。

 魔術師団の師団長に素晴らしい魔道具ですね、と褒められた。

『小さな魔石にこの術式は相当高度な付与魔術師でなければ難しい。これをお選びになった方は大変にお目が高い。』と。

 魔道具? 売っていたのはただの魔石の付いたアクセサリーだったのに?

 私には全然わかっていなかったのだった。
 アキラ様が私を護るように、その髪飾りに魔法を込めてくれたことを。

 それは私が迂闊な真似をして、身を危険に晒した時に初めて解った。

 その日はアキラ様と出かけられる最後の冒険者としての活動日。

 しっかりと依頼をこなして終えたいと思っていた私に焦りがあったのだろう。
 いつもの森と様子が違った。だから獲物が見つからなかった。
 やっとのことで探し当てた私は逃がしたくない一心で先走ってしまった。

 周りの安全を考慮せず、単独行動をとってしまった。
 弓で撃った魔物を袋に入れようとした時、横合いから風圧が来た。
 それを眼の前で何かが弾いた。何かが割れる音がした。私は目の前に現れた大きな魔物を見て気を失った。

 次に起きた時は恐ろしい”鬼”とアキラ様が戦っていた。聖なる光に輝く剣を振るって。

「……アキラ様!!」

 激しい戦いだった。傷ついていくアキラ様に何もできないまま、護ってもらっている自分が恥ずかしかった。この事態は自分が招いたミス。なのに、それを嬉しいと愚かな私は喜んでいるのだ。

「アーリア、無事だったか?」

 私を護る障壁が消えた。駆けだして抱きついた。
 責める私に困惑を浮かべたアキラ様はそれでも優しかった。

「命に代えなんてないんだよ。アーリアは一人しかいない。アーリアに死んでほしくはない。酷い目にあって欲しくもなかった。だから護りたかった。いけないか?」

 なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう、この人は。私は王族なのだ。誰も私本人を見ていない。第一王女という王族を敬っているだけなのだ。なのに、命懸けで戦って護ってくれた。
 勇者様なのだ。この方は勇者様。だから自然と口に出た。

「……もしそうだったとしても、アキラ様は私にとって勇者様です……」
 感謝の気持ちを示したかった。だから自分からキスをした。

 アキラ様の一瞬の驚いた顔と、私を抱く力強い腕がアキラ様の気持ちを代弁してくれたようだった。

 離れた後、髪を掻きあげて触れるはずの、そこに髪飾りがないことを知った。

「……アキラ様、髪飾りが……」
 いつの間にか無くなっていた髪飾りの事を謝ろうと口にした時、アキラ様は髪飾りを渡してくれた。
 魔石は無くなっていて壊れて少し歪んでいた。

「役に立ててよかった。今度誕生日にもっと可愛いのを贈るよ。」

 アキラ様だったのだ!この髪飾りはアキラ様が購入後に魔法を付与してくれたのだ。それが私をあの時、護ってくれたのだ。

 きゅうっと胸が痛んだ。

 そして自覚してしまった。私がアキラ様と一緒にいる時の、鼓動の不自然さの原因を。
 でもそれは一生口に出せることじゃないことも、わかってしまっていたのだった。

 王都に戻った私はますます増える”彷徨い人”対策と新たな迷宮対策に翻弄され、その時の胸の痛みも忘れられたかに思えたのだった。
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