アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
17 / 67
冒険者活動と鍛錬の日々

第16話 調査依頼

しおりを挟む
 場所は王都から馬車で1日ほどの距離。途中の宿場町にほど近い、穀倉地帯に向かう途中の森。
 最近住みついた大きめの魔物の調査。弱い魔物が姿を潜めてしまい何かが起きているとのこと。
 討伐は義務ではなく手に負えないようであれば逃げて報告すること。
(いや、これもっと上の依頼じゃないか?カディスの奴)
 ともかく商会の馬車に乗せてもらいながら(護衛を引き受ける代わりに無料で乗せてもらった)目的の森に辿り着いた。

 目に見える植物相が少し変わり色彩が華やかになったように見えた。
 索敵をかけると大きな生き物の気配は感じ取れなかった。俺の索敵範囲はまだ2キロほど。
 カディスはどうやらもっと広いらしい。
 気配を消すのが上手いし、やはり熟練の諜報部の人間なのだなと思う。俺の近くに顔を出す時はかなり軽薄な感じではあるけれど。

「どう思う?」
 カディスが小さい声で聞いてきた。
「小動物も見ないから、相当大物がいると見ていいんじゃないかと思うんだけど…」
 カディスは頷く。なんとなく俺は近くの木を見上げた。俺の身長よりかなり上の方に生々しい爪痕があった。驚いてカディスを呼ぶ。

 熊の爪痕に似ている。木登りをしたとかでなければ立ち上がった時点で、俺よりも大きい。
「これはやばいな。相当大物かもしれない。少なくとも二人パーティーでは危険だな。戻ろう。」
 頷いてかけだそうとした。
 背後に殺気を感じて飛び退こうとした。無意識に風の盾を出した。しかしそのまま吹っ飛ばされて近くの木に激突する。

(…いってええええ)
 魔法の盾ごと吹っ飛ばすなんて、どんな奴だ。背中を打って咳き込む。
 殺気と風が唸る衝撃が俺の顔の近くを通り過ぎる。
 目を開けてそれを見た。
 真っ黒い影。
 巨大なシルエット。
 向こうの世界で言う熊が立ち上がって威嚇するような、そんな姿。

 空気が振動した。

 咆哮だ。威圧が含まれて身が竦む。俺では抵抗ができなかった。
 目に魔力を通したまま、奴を見た。精神が乱れて上手く情報がつかめない。
 俺からは逆光になっていて、奴の毛皮の黒さと相まって表情が見えない。
 ゆらりとスローモーションのように影が揺らいだ。
 
 起き上がれない俺に向けて、地を蹴った身体が瞬時に目の前に現れる。
 盾を三枚同時に展開した。身を護ること、それしか浮かばなかった。

 格上の魔物。
 俺が魔法を使えなかったらとうに命はなかった。
 多分魔力を身に纏っているんだろう。その大きな凶悪な手で風の盾を粉砕していく。
 盾を連続で展開する。パニックからは少し立ち直った。攻撃魔法をストックする。水の魔法を。
 防ぎながら少しずつ身体を起こしていく。多分俺の持っている剣はこの魔物を斬れない。
 どうしたらいい?風の刃で首を狙うか?石の礫で目を潰す?

水球ウォーターボール
 距離をとりたくてともかく水の塊をぶつける。手で切り裂かれた。水風船が破裂するようにぺしゃんこだ。辺りに水が飛び散って消えた。
 だが一瞬の足止めになった。大木の間に身を滑り込ませた。相手から苛立ちの気配がした。

 また咆哮が来て、こちらに向かってきた。風の刃を左右から撃った。毛皮にあっさりと跳ね返された。

 今までは狩りだった。でも今は命の奪い合い。

 負けたら、死ぬ。

 生き物を殺して罪悪感とか、言ってる場合じゃない。ともかく、持てる力をすべて使って生き残らないと。

 探れ。探れ。急所を。魔法が効くところ。剣の通るところ。

 眼に映る魔物を探査サーチしていく。
 情報が頭の中に流れる。いらない情報は流して必要な情報が出るまで見続けた。
 物理の通る急所は目、喉、股間。
 魔法の通る急所は喉元のみ。他は魔力と物理防御のある毛皮に全て弾き返される。
 もちろんこの魔物よりレベルが高い相手なら、他の場所でも攻撃は通る。
 だが俺のレベルは奴の3分の1。とても普通の方法では勝てない。
 探ってる間、奴の凶器である両手にただただ殴られた。盾が次々消えていく。
 魔力量の多い俺でもこのままいったら魔力切れになる。

 なんとか攻撃の糸口を掴まないと…と、気が逸れた時、衝撃が来た。
 横っとびに吹っ飛ぶ。なんとか身体に巡らせていた風の盾で最悪の事態にはならなかった。
 だが痛みに息ができない。
 最後の攻撃をぶつけようとしている殺気が威圧となって押し寄せる。
 大きく右腕を振りかぶった、俺はやられると思った。

 その瞬間、魔物の喉元から鮮血が迸った。

 魔物が一瞬何事かと動きが止まる。
 カディスだ。気配を完全に隠し、死角から暗器で喉を切り裂いた。一撃離脱したのか、暗器を飛ばしたかはわからない。カディスの気配はそばにはない。
 一瞬できたその隙に喉元に向かって風の刃を飛ばした。飛ばした瞬間横に転がって正面から逃げる。

 魔物の喉元を風の刃が通過する。血しぶきをあげて半分ほど、首を切り裂いた。

 大きな身体がそのまま、倒れ込んで動かなくなった。

「はあ、はあ…は…」
 俺はそのまま寝転がっていた。力が入らなかった。
 静かだった森に音が戻って来た時、俺はやっと起き上がった。

「よ。回復したかー?こりゃ、無茶だったわ。Aランク相当のグレイベアの特異体だな。この黒い毛皮、魔力で変化している。生半可な攻撃じゃびくともしないな。」
 いつの間にか巨体を丸太にくくったカディスが毛皮を指で弾きながら言った。
 腐りやすい内臓は抜いて血抜きをしてあった。
「逃げる判断が遅かったな。仕方ねえけど。俺もちょっと見誤ったわ。Bランク相当かと思ってたら、特異体とは。とりあえず、これ持って戻るぞ。水魔法でこいつ洗ってくれ。そうしたらハイディングで速攻街道に抜ける。抱えて全力疾走で王都に戻る。はい、立って―。回復魔法使えるんだろ?怪我直して即出発。」

 鬼!!

 魔物がいなくなったのがわかったようで、途中小動物やFランク相当の魔物を見掛けた。
 やはりこいつが原因だったようだ。
 やけに森が静かだったのも鳥すら近寄らなかったからだと思った。
 獣は危険に聡い。
 俺達人間は危険に鈍いのだろうか。
 俺は背後に立たれるまで気づかなかった。
 それではだめだ。
 今回は生き残れたが次はないかもしれない。
 もっと索敵の感度をあげて気配探知も、鋭くしなければならない。
 足りないものはたくさんある。

 とにもかくにも門のところでひと騒動、ギルドについてもひと騒動だった。
 このランクを二人で狩った、というのはそれこそAランクでも難しいとのことだった。
 今回は幸運だったとしか言いようがなかった。
 カディスの技能に助けられたというほかはない。

 魔物の皮は相当なレアものだったらしく競売にかけるということですぐに値は付かなかった。
 依頼達成の報奨金は金貨1枚だった。Eランクの調査依頼では破格だがAランクの魔物の調査としては低すぎる。素材で色を付けるということで話が付いた。交渉はすべてカディスがしてくれた。俺は気配を消してマントをかぶって後ろで見ていただけだった。

 その日レベルが一気に20も上がった。高レベルの魔物を倒すとボーナスが付くようだった。

 魔力切れに近かった俺は部屋に戻った時、倒れ込むようにして寝てしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮
ファンタジー
妻に先立たれた 後藤 丈二(56)は、その年代に有りがちな、家事が全く出来ない中年男性。 独り身になって1年ほど経つ頃、不摂生で自分も亡くなってしまう。 が、気付けば『切り番当選者』などと言われ、半ば押しつけられる様に、別の世界で第二の人生を歩む事に。 再び妻に巡り合う為に、家族や仲間を増やしつつ、異世界で旅をしながら幸せを求める…………話のはず。 独自世界のゆるふわ設定です。 誤字脱字は再掲載時にチェックしていますけど、出てくるかもしれません、すみません。 毎日0時にアップしていきます。 タグに情報入れすぎで、逆に検索に引っかからないパターンなのでは?と思いつつ、ガッツリ書き込んでます。 よろしくお願いします。 ※この話は小説家になろうさんでアップした話を掲載しております。 ※なろうさんでは最後までアップしていますけど、こちらではハッピーエンド迄しか掲載しない予定です。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...