アクアミネスの勇者~エロゲ―を作ったら異世界に転移してしまいました~

佐倉真稀

文字の大きさ
上 下
14 / 67
彷徨い人と勇者

第13話 勇者は誰

しおりを挟む
 水峰勇みずみねゆうはよくわからない奴だ。彼の評価は大学で知り合った者とそれ以前の者とで全く違う。
 前者は、よく見るとイケメンだけど、影の薄いいるかいないかわからない無口な奴。
 後者は、明るく面倒見の良い、気取ったところがなく付き合いやすい奴。善人すぎていい人ねで終わる可哀想なイケメン。

 それともう一つ、俺はそれらとは違う、彼の一面を知っている。

 リンチに遭いそうになっていた水峰を助けようと物陰から見ていたら、彼は意外な強さで相手を追い払ってしまった。相手の殴る手を軽く止め、しかも殺気というか睨み一つで彼らを怯ませた。

 隠れていた俺に気づいていて、俺を驚かせた。
 その時話した水峰はごく普通のにいちゃんで、意外と気さくに話してくれた。
 それは以前からの彼の友人の話す人物像と、一致するように見えた。
 では、今の水峰は何がきっかけで目立たないように振舞っているのだろうか?

「ああ、この街の看板、日本語や英語じゃなく、ミネス語を使おうよ。」

 突然、水峰が先輩の描いていたグラフィックの背景画像を見ていて言い出した。
 ミネス語?
 彼以外のその場にいる全員がきっと頭上にはてなマークを浮かべていたに違いない。
 さらさらと書きだした見たことのない文字と綴りを見て、俺は手元から視線を顔にあげて水峰をじっと見てしまった。
 視線に気づいた水峰は慌てた。
「あ……いや、その、異国の言葉っぽいのを書くと臨場感が出るかなって……」
 後退りする様子に俺は言い訳のように紡がれる言葉を遮って言った。
「いいんじゃない?雰囲気でそうだし。水峰がつくったんだろ?後で対応表かなんか作って渡してくれるかな?」
 この時の水峰は、何とも言えない表情をしていた。困ったような、やってしまったというような。
 後で出された、英語の初級教科書のような量の対応表を見て、こんな言語が存在するのでは、と思うくらいそれはよく出来たものだった。

 そう、この世界に来て一番初めに驚いたことは、水峰が使おうと言った”ミネス”語だ。細部にわたり意味もそのままで、俺は酷く戸惑ったのだった。
 俺は、水峰の作った対応表に感心して、ある程度その言葉を覚えてしまっていたから、文字の習得に時間がかからなかったと思っている。
 その時に少し、考えてしまったのは水峰がこの世界の帰還者だということ。

 では、この世界から帰還は可能なのか?

【この世界が実在し、水峰が見たことは実は現実にあったことで、それをもとにあのシナリオを書いた。】

 それを仮定として用いるのなら、帰還は可能。
 死亡した人物に関してはわからないが、勇者候補として来た“彷徨い人”も、役割を終えた段階で元の世界に戻っていることが考えられる。
 なぜなら、この世界に黒髪黒目はほぼいない。
 残った人々が子孫を残したのなら、もう少し、居てもいいはずなのだ。
 全く違う髪の色、眼の色が生まれるということは珍しくないらしいが、隔世遺伝やらなんやらは存在すると思う。実際、街で見かけた親子は、似ていた。

 子孫を残すほど生きてはいなかったとか、は除いてだ。

 それに勇者の子孫という者はいない。普通は血筋を自慢するものだ。現に、勇者のパーティーにいた、という者の起源になった家はかなりあって、フリネリアの家もそうだという。

 ただここで考えなければいけないのは、水峰はこの時代の勇者ではなく、少なくとも聖剣によって勇者の選定が行われた時代に呼ばれたということ。
 さらに、この時代に呼ばれた”彷徨い人”も時間軸のずれがあった。

 田村さん。彼の生まれた年と俺の生まれた年は45年離れている。俺は今年19歳で4月生まれ、ここに転移したのはその年の大晦日。
 少なくとも彼は64歳でなければならない。
 しかし、俺が見た彼の満年齢は60歳。
 それを信じるならば、この世界と元の世界の時間軸は対応していないことになる。
 その召喚方法に意味があるのか、召喚した女神、創世神アクアミネスの作為なのか、俺にはわからない。
 ということは帰る手段はあって、留まることは自分の意志ではできない可能性もある。

 もし、アーリアやこの世界の人々と離れがたくても、否応なしにもとの世界へ戻ってしまう、ということだ。

 残酷だな。

 水峰のシナリオのラストが慟哭だったのを、俺は遅まきながら理解できたのだった。


 ……もちろんこの世界がゲームの世界でそのシナリオに巻き込まれているって可能性もあるだろうけど。


「どうなさいました?今夜はずいぶん何か悩んでいるように見えます。」
 ひとしきり世間話をした後、アーリアはそう切り出した。ちくしょう、鋭いな。
 ドキッとしながらも、思い悩んでいるほうではなく、別の話題を切り出した。
「ああ、スキルを見てもらってね。その結果を考えてるんだけど。“彷徨い人”の中に田村さんているだろ?ご老人の。」
 アーリアは微笑んで頷いた。可愛い。
「いらっしゃいますね。なかなか出来た方だと伺ってます。」
 おお、やっぱり人格者だという評価なんだな。

「その人さ、俺の世界の医者だったんだって。しかも治癒魔法使えるらしいよ。この世界で医者っているの?ああ、医者っていうのは、身体の怪我や病気を治したりできる人だよ。魔法を使わずにね。」
 アーリアはびっくりした顔をしていた。

「あの、薬草とか、薬での治療はこの世界でもあります。回復魔法や治癒魔法の使える方は限られていて、治癒魔法士としてギルドに登録されている方です。薬で治す方は薬師ギルドに登録している方で、薬師として、薬の調合ができる方です。そうでない治癒魔法が使える方もいますが、冒険者や、騎士団、魔術師団に所属する方が多いです。そして、治療費は高いのです。薬も。」
 そう言うと少し暗い顔をした。平民の最下層、要するに貧民は手当ても出来ずに、死ぬこともあるということだ。

「あのさ、彼に頼んで簡単な向こうの医術を本にしてもらうとか、彼に治癒院で働いてもらうとかは? 彼、街で生活することは決まってても、なにを仕事にとかは決まってなかったって聞いたよ。」
 そう言うとアーリアは驚いた顔をした。

「すごいですね。彼はあんまり話をしたがらなくて、希望を訪ねても質素に暮らせればそれでいいとしか、おっしゃってくれなかったそうです。そんな向こうの世界のお仕事とかを打解けてお話されたなんて。」
 感激した風に頬を紅潮させた彼女は、綺麗でかわいかった。いや、そんなことを考えるのはあれなんだけれど。というか、勇者っていう色眼鏡かかってるんじゃないか?アーリア…。目医者紹介したい。
「え、いやいや、たまたま待ってる間の暇つぶしの会話だったよ。ああ、それとお願いが…冒険者活動についてなんだけど…」
 俺はアーリアに冒険者として活動する時間の許しを願い出た。

 マルティナが置き土産のように、荒れ地のど真ん中で極大魔法を何発かぶっ放して、バーダットという都市にある、バーダット魔法学院へ戻って行った。
 暇があったら遊びに来てね、と言ってもらったので、許しが出たら行ってみたいと思う。

 そして、俺の冒険者としての活動が始まったのだった。おまけつきで。

「お目付役賜っちゃった。」
 むやみに爽やかに挨拶に来たのは諜報部のカディスだった。
 あーも―ソロでカッコよくデビューのつもりだったのに!

 まあ、いきなり危険なことはさせないしない、なんだろうけどな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮
ファンタジー
妻に先立たれた 後藤 丈二(56)は、その年代に有りがちな、家事が全く出来ない中年男性。 独り身になって1年ほど経つ頃、不摂生で自分も亡くなってしまう。 が、気付けば『切り番当選者』などと言われ、半ば押しつけられる様に、別の世界で第二の人生を歩む事に。 再び妻に巡り合う為に、家族や仲間を増やしつつ、異世界で旅をしながら幸せを求める…………話のはず。 独自世界のゆるふわ設定です。 誤字脱字は再掲載時にチェックしていますけど、出てくるかもしれません、すみません。 毎日0時にアップしていきます。 タグに情報入れすぎで、逆に検索に引っかからないパターンなのでは?と思いつつ、ガッツリ書き込んでます。 よろしくお願いします。 ※この話は小説家になろうさんでアップした話を掲載しております。 ※なろうさんでは最後までアップしていますけど、こちらではハッピーエンド迄しか掲載しない予定です。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

実験施設から抜け出した俺が伝説を超えるまでの革命記! 〜Light Fallen Angels〜

朝日 翔龍
ファンタジー
 それはある世界の、今よりずっと未来のこと。いくつもの分岐点が存在し、それによって分岐された世界線、いわゆるパラレルワールド。これは、そ無限と存在するパラレルワールドの中のひとつの物語。  その宇宙に危機を及ぼす脅威や魔族と呼ばれる存在が、何度も世界を消滅させようと襲撃した。そのたびに、最強無血と謳われるレジェンド世代と称されたデ・ロアーの8人集が全てを解決していった。やがては脅威や魔族を封印し、これ以上は世界の危機もないだろうと誰もが信じていた。  しかし、そんな彼らの伝説の幕を閉ざす事件が起き、封印されていたはずの脅威が蘇った。瞬く間に不安が見え隠れする世界。そこは、異世界線へと繋がるゲートが一般的に存在し、異世界人を流れ込ませたり、例の脅威をも出してしまう。  そんな世界の日本で、実験体としてとある施設にいた主人公ドンボ。ある日、施設から神の力を人工的に得られる薬を盗んだ上で脱走に成功し、外の世界へと飛び出した。  そして街中に出た彼は恐怖と寂しさを覆い隠すために不良となり、その日凌ぎの生き方をしていた。  そんな日々を過ごしていたら、世界から脅威を封印したファイター企業、“デ・ロアー”に属すると自称する男、フラットの強引な手段で険しい旅をすることに。  狭い視野となんの知識もないドンボは、道中でフラットに教えられた生きる意味を活かし、この世界から再び脅威を取り除くことができるのであろうか。

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~

雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。 新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。 助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。 彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。 『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。 女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。 この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。 だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。 ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。 噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。 その資金源も目的もわからない。 不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。 その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。 だが、ジルドランは人間。娘は魔族。 血が繋がっていないことは明白。 いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...