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番外編②

助祭ニエルの独白

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「は~せっかく月の神様の神殿が発見されたというのにいつになったら私は拝謁できるのでしょうか」
 私は任されている教会の礼拝堂で神に愚痴を言ってしまった。
 私はニエル。今年で29歳の独身だ。神官なんて結婚する方が稀だ。別に結婚を禁止されているわけではないが、忙しすぎて伴侶候補との出会いもないくらいなのだ。

 私は農民の出で魔力持ちのオメガだ。加護の祝福の儀で、豊穣の神の祝福を得てスキルの儀で神官スキルをいただいた。私のスキルは土魔法、癒しの魔法(聖魔法)、祈り(神官スキル)だ。そのため、貴族の養子という話は流れ、教会に見習い神官として入り、宗派としては豊穣の神を信奉する言わゆる主流派ではない派に属した。
 生まれた領地は王国の第二の穀倉地帯とよばれる公爵の領地(第一はロアール領だ)で、太陽の神が主流派ではあったが、平民クラスでは農業が主産業だったからか、豊穣の神を信奉するものが多く、私の生まれた村も豊穣の神の加護をいただいた村民が多かった。

 豊穣の神は月の神の眷族神で、月の神が宵闇の神の伴侶であるということは常識なのでうちの村では黒は忌避する色ではない。ないのだが、見習いから神官職に就く修行は王都の教会で行うのだが、宵闇の神、月の神の宗派への差別は酷いものだった。
 黒の髪や目を持つ者は殆ど現れないのだが現れたら忌み子だと、宵闇の神の宗派にひどい言葉で言っていたのだから呆れる。
 最も宵闇の神や、闇の精霊の加護持ちは滅多に現れず、黒の混じった、もともとの地の色の髪や目、ということになる。
 茶色なら、こげ茶に近い色、という感じだ。
 神官にすら現れないのだから、初めて夜の君を見た時の衝撃は何というか、頭に雷を落とされたというか。
 月の神の加護を持つ領主の嫡男と一緒に現れたのだから拝みたくなっても当然だと思う。
 しかも、私の管轄する教会の清掃に!!

 本当にいいんですかね?
 神の愛し子ですよね、貴方方。その神気は隠せませんよ。
 神官は全員神気に敏感ですからね。
 依頼書を受け取って確認する。ああ、手が震える。
「お、恐れ多い」
 依頼書を持ったまま震えていると夜の君がきっぱり言った。
「仕事なので、指示お願いします」
 申し訳ない気持ちで片付けと掃除をお願いする。忙しすぎて、清掃が行き渡らない。
 教会で教えられるのはまず、拭き清めることなのに。情けない。
 とりあえず、彼らが清掃をしている間に書類仕事を片付けねば、また溜まる。

 終わったと呼ばれて礼拝堂に入った時の空気の清浄さに驚く。
 神気だ。
 使ったのは多分、クリーンの魔法。私の神官としての能力は中の下以下だ。
 それなのに、これほど強く感じるとは。
「……神に祈りを捧げる場所に、神気が満ちるというのは素晴らしいですね。神に感謝を」
 その時奇跡が起きた。神気が降り注いだのだ。
 ああ、神のおわす土地は、こうも神の息吹を感じられるのか。
 跪かずにいられない。
「神よ。感謝を捧げます」
 祈りを捧げると、豊穣の神の気配を感じた。
『ありがとう。君がこの教会の神官でよかったよ。二人を頼むね』
 神の声を聴いた。祈りのスキルが、神に届いたのだ。加護が増したのがわかった。
「私は職業柄、神の気配にはなじみがありますが、今日ほど感じたことはありません。月の君、夜の君、感謝いたします」
 依頼書に最高評価を付ける。この依頼を選んでくださって、ありがとうございます。
 夜の君、月の君。

 私がそう呼び始めると、人々もそう呼ぶようになった。そして、二人が諦めの表情で頷くのを見かけるようになった。

 彼らはしばらくずっと領都内の依頼を熟して回っていた。その姿は愛らしく微笑ましく、皆の敬愛を受けるにふさわしいものだった。
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