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番外編①
ハーヴェストムーン
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この世界にも月にまつわるイベントはある。
収穫祭自体は新年のお祭りになっているが麦が実り始めた時期の満月は収穫の月、ハーヴェストムーンと呼ばれている。前の世界のハーヴェストムーンと同じ9月の満月。日本だと十五夜に当たる。
月の神に豊作を願い、豊穣の神にも祈りを捧げる。
こういったことから豊穣の神は月の神の眷属なのだ。
「月見える?」
「見えるかなあ?」
「そんなに見上げるとこけるから気ぃ付けろ」
少し雲がある夜。
祈りは昼間のうちに神殿で捧げられ、農民は農地にある豊穣の神の祠に祈る。
そして夜は満月を見ながらお酒を酌み交わすのだそうだ。
「ねえ、セイ、それなに?」
「月見団子」
「???」
「そのリンゴは? 皮が変な形に切られてるけど」
「うさぎリンゴ。月と言えばうさぎだし」
まあ、この世界の月にはうさぎの影は見えないけどね!
いわゆるお月見セットを作ってもらったのだ!
なんて言ったかな? 三方? あのよく神社とかで見かける木で作られた台。
その上に紙を敷き、団子(コメじゃないんだが仕方ない。小麦粉で代用)をピラミッド状に積む。
すすきに似た雑草は見つけておいたからそれを小さな花瓶に入れて横に置く。
それを庭園の中央に置き、その前に椅子を置いて今ノクスと一緒に夜空を見上げている。
お目付け役の師匠も一緒に。
また変わったことをという目で見られたが気にしない。
料理長のテンションが上がってたけど、気にしない。
ノクスが一緒に暮らすようになって一年とちょっと。
滑舌が良くなってちゃんと言葉がはっきり言えるようになってきた。
一年はあっという間。
これから収穫が始まって、父が豊穣の加護を農地に与える旅に出るのだ。
近くの儀式は見せてもらうことになっている。
「お月様ってまん丸だと眩しいね」
「……眩しいね」
二人で目を眇めて、星が見えない満月の夜空をしばらく眺めた。
そろそろ夜は涼しくなっていて、夜風は少し冷たい。
「坊っちゃんたち、もう寝る時間だ」
師匠の声に、頷いて二人で部屋に戻る。
まだ幼児だから歩いているうちに眠気が来てふらつく。
「危ない、セイ」
ノクスが慌てて支えてくれた。
「ありがと。ノーちゃん」
メイドさんが抱きかかえてくれて部屋に連れて行かれた。
寝る支度を整えてくれてベッドに放り込まれる。
ノクスも横に来る。
両親は諦めていた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
その夜の夢は月の上でうさぎと一緒にノクスと跳ねて遊ぶ夢だった。
「セイ」
額にキスが落ちてくる。
「ノーちゃん、ちゃんと椅子座ってみよう?」
俺は何故か、ノクスの上に座り、後ろから抱きかかえられている。
「いやだ。この態勢がいい」
「もう。我がままなんだから!」
「そうかな? 自分に正直になったと言ってほしい」
結婚して初めてのハーヴェストムーン。
昔みたいにお月見をしようということになって再現してみた。
米粉も作れたので、昔よりクオリティが高くなっている。
そしてお供えは月の神殿。
ここは聖域で、こんなにいちゃついて見ていていいのかなと思うんだけど。
人払いをしてもらって、結界を張ってのお月見。
うさぎリンゴもお供えしてある。
「セイはやっぱり月の神子だね。月の光の下ではキラキラしててますます綺麗だ」
耳元で囁かれてかあっと顔が熱くなる。結婚したら収まるかと思った、ノクスの気障な誉め言葉はますます破壊力を増してくる。
「ノ、ノ、ノーちゃん。ここは神殿だからね? わかってるよね?」
「うん。わかっているよ」
チュッと耳元にキスされる。俺は耳まで真っ赤になっているはずだ。
もう、月見どころじゃない。
でもがっちり抱きしめられて身動きも取れない。
「部屋に帰ろう。もう、お月見どころじゃないから!!」
ノクスは嬉しそうににんまりと笑った。
「カーテンは開けたままにしておこう」
なんでだよ! 月の神様に見られてる気がするからそれは嫌だ!
結局、月が見えたほうがいいと押し切られ、カーテンは全開にされて、朝まで抱き潰された。
起きれなかったよ!! ノクスの馬鹿―!!
************************************************************************
大変お待たせしてしまった番外編です。時々ぽつりと投稿させていただきます。
昨日の十三夜を見ていて思い浮かんだお話です。6歳の豊穣の前くらいの時期のお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
収穫祭自体は新年のお祭りになっているが麦が実り始めた時期の満月は収穫の月、ハーヴェストムーンと呼ばれている。前の世界のハーヴェストムーンと同じ9月の満月。日本だと十五夜に当たる。
月の神に豊作を願い、豊穣の神にも祈りを捧げる。
こういったことから豊穣の神は月の神の眷属なのだ。
「月見える?」
「見えるかなあ?」
「そんなに見上げるとこけるから気ぃ付けろ」
少し雲がある夜。
祈りは昼間のうちに神殿で捧げられ、農民は農地にある豊穣の神の祠に祈る。
そして夜は満月を見ながらお酒を酌み交わすのだそうだ。
「ねえ、セイ、それなに?」
「月見団子」
「???」
「そのリンゴは? 皮が変な形に切られてるけど」
「うさぎリンゴ。月と言えばうさぎだし」
まあ、この世界の月にはうさぎの影は見えないけどね!
いわゆるお月見セットを作ってもらったのだ!
なんて言ったかな? 三方? あのよく神社とかで見かける木で作られた台。
その上に紙を敷き、団子(コメじゃないんだが仕方ない。小麦粉で代用)をピラミッド状に積む。
すすきに似た雑草は見つけておいたからそれを小さな花瓶に入れて横に置く。
それを庭園の中央に置き、その前に椅子を置いて今ノクスと一緒に夜空を見上げている。
お目付け役の師匠も一緒に。
また変わったことをという目で見られたが気にしない。
料理長のテンションが上がってたけど、気にしない。
ノクスが一緒に暮らすようになって一年とちょっと。
滑舌が良くなってちゃんと言葉がはっきり言えるようになってきた。
一年はあっという間。
これから収穫が始まって、父が豊穣の加護を農地に与える旅に出るのだ。
近くの儀式は見せてもらうことになっている。
「お月様ってまん丸だと眩しいね」
「……眩しいね」
二人で目を眇めて、星が見えない満月の夜空をしばらく眺めた。
そろそろ夜は涼しくなっていて、夜風は少し冷たい。
「坊っちゃんたち、もう寝る時間だ」
師匠の声に、頷いて二人で部屋に戻る。
まだ幼児だから歩いているうちに眠気が来てふらつく。
「危ない、セイ」
ノクスが慌てて支えてくれた。
「ありがと。ノーちゃん」
メイドさんが抱きかかえてくれて部屋に連れて行かれた。
寝る支度を整えてくれてベッドに放り込まれる。
ノクスも横に来る。
両親は諦めていた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
その夜の夢は月の上でうさぎと一緒にノクスと跳ねて遊ぶ夢だった。
「セイ」
額にキスが落ちてくる。
「ノーちゃん、ちゃんと椅子座ってみよう?」
俺は何故か、ノクスの上に座り、後ろから抱きかかえられている。
「いやだ。この態勢がいい」
「もう。我がままなんだから!」
「そうかな? 自分に正直になったと言ってほしい」
結婚して初めてのハーヴェストムーン。
昔みたいにお月見をしようということになって再現してみた。
米粉も作れたので、昔よりクオリティが高くなっている。
そしてお供えは月の神殿。
ここは聖域で、こんなにいちゃついて見ていていいのかなと思うんだけど。
人払いをしてもらって、結界を張ってのお月見。
うさぎリンゴもお供えしてある。
「セイはやっぱり月の神子だね。月の光の下ではキラキラしててますます綺麗だ」
耳元で囁かれてかあっと顔が熱くなる。結婚したら収まるかと思った、ノクスの気障な誉め言葉はますます破壊力を増してくる。
「ノ、ノ、ノーちゃん。ここは神殿だからね? わかってるよね?」
「うん。わかっているよ」
チュッと耳元にキスされる。俺は耳まで真っ赤になっているはずだ。
もう、月見どころじゃない。
でもがっちり抱きしめられて身動きも取れない。
「部屋に帰ろう。もう、お月見どころじゃないから!!」
ノクスは嬉しそうににんまりと笑った。
「カーテンは開けたままにしておこう」
なんでだよ! 月の神様に見られてる気がするからそれは嫌だ!
結局、月が見えたほうがいいと押し切られ、カーテンは全開にされて、朝まで抱き潰された。
起きれなかったよ!! ノクスの馬鹿―!!
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大変お待たせしてしまった番外編です。時々ぽつりと投稿させていただきます。
昨日の十三夜を見ていて思い浮かんだお話です。6歳の豊穣の前くらいの時期のお話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
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