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ヘリスウィル・エステレラの章(第二王子殿下視点)
ヘリスウィル・エステレラ~ロシュとノクス~
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節度とは母が異性との交際の時の、適切な距離のことだと言っていた。慎みはみだりに異性の身体に触れたりしないことだということだった。
……セイアッドは男に見えたが女の子なんだろうか?
しかし、面と向かって聞くことはできないので、疑問に持ったまま日々は過ぎた。
剣聖の行う訓練に参加するだけでは、体力はつかないようで、相談して普段から体力づくりをすることになった。
剣聖の訓練内容を、普段の体力づくりのために平易にしたものを剣術の時間を当ててすることになった。
おかげで夜は夢も見ず寝るようになった。
夏が終わるころ、彼らは領地へと帰っていった。
別れの挨拶をしに行ったらセイアッドがかなり冷たかった。泣きそうになった。
『宵闇め』
「貴様とはもう会わなくてもいいが、とりあえず体調に気を付けろ」
「同感。ロアールはここよりずっと空気がいいので殿下に心配されなくても大丈夫だと思う」
ノクスとはついいがみ合ってしまうのだが、それでもちゃんと僕に付き合ってくれる。
ノクスはセイアッドが絡むと途端に人が変わるので、びっくりする。
ある騎士が『独占欲丸出しですね~』と言っていた。
言葉は知らなかったが、何となく意味は分かった。
二人が王都に来るのはずいぶん先だというが、出会うまでちゃんと鍛えないと、二人に負かされそうだから、それから鍛錬も勉強も頑張った。
母のお茶会でも人の話を聞くようにした。
大人しくて話し出せない子や自分語りをしてしまう子。すべてわかって引いている子も。いろんな子がいた。
「ヘリスウィル殿下は、少し変わったね」
ある時ぽつりとロシュが呟いた。
「かっこよくなった」
にこっと笑って言われて、僕は動揺を隠すだけで精いっぱいだった。
「そうかな? ありがとう」
かっこいい。
褒められて嬉しかった。
それに、ロシュの笑った顔は凄く印象的で、鮮明に記憶に残った。
ノクスとセイアッドには時折、近況を書いて送った。
ちゃんと返事が返ってきて、その度に字が上手くなっていた。
特にノクスには負けられないと字の練習もした。
季節は巡って、また春が来た。
城の鍛錬場が借りたいと剣聖が申請してきたと聞いた。
また参加したいとお願いをした。
そしてそこにロシュも参加することになった。
ロシュはあっという間にセイアッドと仲良くなった。
いまだにセイアッドから距離を置かれている身としては羨ましくて仕方ない。
どうしたら仲良くできるのか。
ロシュが伯爵のタウンハウスに招待されていたので、一緒に行けるようにお願いをした。
伯爵の許可と父の許可は取ったのだが、二人には知らされてなかったようで、驚いた顔をした。
ロシュは「殿下も遊びに来たんだね」と言っていたけれど。
『宵闇の傍から月の神の神子を引き離せ』
この声がすると、自分の体が自分のではないような気がする。昔は一致してたように思う。価値観もすべて。
でも僕はノクスのことを嫌いになれない。
編み物を始めた二人を見ていた。ロシュは普通に話せるから、セイアッドと仲良くなりたい。そっけない態度からノクスか、せめてロシュくらいにはなりたいと思って見ていた。
ノクスが僕の傍に来た。
頭の奥が痛む。
『宵闇の神子め』
「近い」
「殿下をもてなすのは臣下の義務です。大人しく僕に護衛させてください」
「嫌味だな。嫌味だろう」
「何のことですか?」
ノクスに引っ張られるようにして、タウンハウスの裏庭に出た。
木でできた剣を渡されて、打ち合い稽古を始めた。
「王族なのにふらふら出歩いていいんでしょうか」
「今日は社会見学だ」
「ロシュはセイの友達になったようですけど殿下は呼ばれてないのに勝手に来るからセイの好感度が下がったの自覚してます?」
「……え?」
「セイアッドは俺様は嫌いなんです。権力を振りかざすのはもってのほか。セイアッドに好意を持ってもらうには真摯に丁寧に理詰めで行かないとダメです。感情的にはマイナスで、どうプラスにもっていくかが課題です」
「……」
「ちなみに僕の殿下への好感度は解けない氷くらいです」
「おい」
辛辣だ。好感度が上がりも下がりもしないということか!?
「ただの知り合いくらいまでならセイアッドの好感度を上げてもいいですが。僕の言うとおりにできるでしょうか」
やっぱりノクスはいい奴なのではないだろうか。
『生意気な奴め』
声はとことんノクスを嫌っているがどうしてなのだろう。
僕の気持ちと声から感じる好悪の感情が、僕の中でぐるぐる回る。
僕は唸っていたようだった。
「頼む」
悔しそうに言うとノクスは満足げに頷いた。
セイアッドに編み物をしないのか聞かれたが編み物は僕の勉強する範囲ではないし、令嬢の必須技術と呼ばれるものだ。
婚約者に刺繍をしたハンカチや小物を贈るのが令嬢の愛情の現れだとか聞く。もらえない婚約者は大事にされてないとか、そういう目で見られるそうだ。
やっぱりセイアッドは女の子なんだろうか。ロシュも編み物をしているから、ロシュも?
鬼ごっこは初めてした。楽しかった。
……セイアッドは男に見えたが女の子なんだろうか?
しかし、面と向かって聞くことはできないので、疑問に持ったまま日々は過ぎた。
剣聖の行う訓練に参加するだけでは、体力はつかないようで、相談して普段から体力づくりをすることになった。
剣聖の訓練内容を、普段の体力づくりのために平易にしたものを剣術の時間を当ててすることになった。
おかげで夜は夢も見ず寝るようになった。
夏が終わるころ、彼らは領地へと帰っていった。
別れの挨拶をしに行ったらセイアッドがかなり冷たかった。泣きそうになった。
『宵闇め』
「貴様とはもう会わなくてもいいが、とりあえず体調に気を付けろ」
「同感。ロアールはここよりずっと空気がいいので殿下に心配されなくても大丈夫だと思う」
ノクスとはついいがみ合ってしまうのだが、それでもちゃんと僕に付き合ってくれる。
ノクスはセイアッドが絡むと途端に人が変わるので、びっくりする。
ある騎士が『独占欲丸出しですね~』と言っていた。
言葉は知らなかったが、何となく意味は分かった。
二人が王都に来るのはずいぶん先だというが、出会うまでちゃんと鍛えないと、二人に負かされそうだから、それから鍛錬も勉強も頑張った。
母のお茶会でも人の話を聞くようにした。
大人しくて話し出せない子や自分語りをしてしまう子。すべてわかって引いている子も。いろんな子がいた。
「ヘリスウィル殿下は、少し変わったね」
ある時ぽつりとロシュが呟いた。
「かっこよくなった」
にこっと笑って言われて、僕は動揺を隠すだけで精いっぱいだった。
「そうかな? ありがとう」
かっこいい。
褒められて嬉しかった。
それに、ロシュの笑った顔は凄く印象的で、鮮明に記憶に残った。
ノクスとセイアッドには時折、近況を書いて送った。
ちゃんと返事が返ってきて、その度に字が上手くなっていた。
特にノクスには負けられないと字の練習もした。
季節は巡って、また春が来た。
城の鍛錬場が借りたいと剣聖が申請してきたと聞いた。
また参加したいとお願いをした。
そしてそこにロシュも参加することになった。
ロシュはあっという間にセイアッドと仲良くなった。
いまだにセイアッドから距離を置かれている身としては羨ましくて仕方ない。
どうしたら仲良くできるのか。
ロシュが伯爵のタウンハウスに招待されていたので、一緒に行けるようにお願いをした。
伯爵の許可と父の許可は取ったのだが、二人には知らされてなかったようで、驚いた顔をした。
ロシュは「殿下も遊びに来たんだね」と言っていたけれど。
『宵闇の傍から月の神の神子を引き離せ』
この声がすると、自分の体が自分のではないような気がする。昔は一致してたように思う。価値観もすべて。
でも僕はノクスのことを嫌いになれない。
編み物を始めた二人を見ていた。ロシュは普通に話せるから、セイアッドと仲良くなりたい。そっけない態度からノクスか、せめてロシュくらいにはなりたいと思って見ていた。
ノクスが僕の傍に来た。
頭の奥が痛む。
『宵闇の神子め』
「近い」
「殿下をもてなすのは臣下の義務です。大人しく僕に護衛させてください」
「嫌味だな。嫌味だろう」
「何のことですか?」
ノクスに引っ張られるようにして、タウンハウスの裏庭に出た。
木でできた剣を渡されて、打ち合い稽古を始めた。
「王族なのにふらふら出歩いていいんでしょうか」
「今日は社会見学だ」
「ロシュはセイの友達になったようですけど殿下は呼ばれてないのに勝手に来るからセイの好感度が下がったの自覚してます?」
「……え?」
「セイアッドは俺様は嫌いなんです。権力を振りかざすのはもってのほか。セイアッドに好意を持ってもらうには真摯に丁寧に理詰めで行かないとダメです。感情的にはマイナスで、どうプラスにもっていくかが課題です」
「……」
「ちなみに僕の殿下への好感度は解けない氷くらいです」
「おい」
辛辣だ。好感度が上がりも下がりもしないということか!?
「ただの知り合いくらいまでならセイアッドの好感度を上げてもいいですが。僕の言うとおりにできるでしょうか」
やっぱりノクスはいい奴なのではないだろうか。
『生意気な奴め』
声はとことんノクスを嫌っているがどうしてなのだろう。
僕の気持ちと声から感じる好悪の感情が、僕の中でぐるぐる回る。
僕は唸っていたようだった。
「頼む」
悔しそうに言うとノクスは満足げに頷いた。
セイアッドに編み物をしないのか聞かれたが編み物は僕の勉強する範囲ではないし、令嬢の必須技術と呼ばれるものだ。
婚約者に刺繍をしたハンカチや小物を贈るのが令嬢の愛情の現れだとか聞く。もらえない婚約者は大事にされてないとか、そういう目で見られるそうだ。
やっぱりセイアッドは女の子なんだろうか。ロシュも編み物をしているから、ロシュも?
鬼ごっこは初めてした。楽しかった。
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