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ノクスの章(ノクス視点)
ノクス・ウースィク(ノクス視点)~ウースィク公爵領~
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思い切り泣いてすっきりした。
魔力とともにいろいろなものが出て行った感じがした。
その後、伯爵に報告をして王都に行くことになった。伯爵は家族に会わせてくれる体裁を整えてくれた。
母は体調を崩しているらしい。弟はまだ小さいし外出できない決まりだそうでどちらにしても自分から会いに行くしかない。
セイアッドは私の熱の原因が魔力だと気づいていたらしい。あの魔石は前もって準備していたもので、いずれ使うことになるだろうと確信していたようだった。
セイアッドは凄い。
魔力を視認できるなどそこらの魔法師を超えるレベルだ。セイアッドを守るにはセイアッドを超える何かを身につけなければいけない。
そうでなければセイアッドの傍にいることすら叶わなくなるかもしれない。
セイアッドは自分に対して関心を向けてくれるけれど、保護者的な感じもしなくもない。いずれ大人になれば手を掛けなくても大丈夫と離れていきそうな気もする。
両親とセイアッドを秤にかけたらセイアッドのほうが重い。
今回吐き出してしまったから自分の中ではいろいろ整理がついた。
自分の虚弱の原因が魔力で解決してもロアールにいられるようにしなければいけない。
優秀なセイアッドはいずれ知れ渡る。素直で優しくてそれに加えてあの容姿だ。誰もが彼の隣を狙うだろう。
「なんだか冷える」
「足元が冷えるんだろう。ほら、これを使いなさい」
「ありがとう。父様。ノーちゃんほら」
公爵領に向かう馬車の中でセイアッドは毛布を頭からかぶると私の方の手を挙げて誘う。思わず伯爵の顔を見れば不機嫌そうにして私を見ている。もう一度セイアッドを見るが、挙げた手を降ろさない。もう一度伯爵を見て渋々頷く様子にほっとしつつセイアッドにくっついた。
このポジションを他人に渡したくない。
セイアッドの甘い香りに包まれて私は心地よい眠りの中に落ちて行った。
伯爵の機嫌がだんだんと悪くなっている気まずい馬車の旅は公爵領に着いて一旦終わる。しばらく屋敷に滞在して王都に向かう。
自分の家に帰ってきたのに、そんな気がしない。ロアールの屋敷の方が、自分の家の気がするのはこの雰囲気の悪さだろうか。
ピリピリとした空気が入ってきた時から伝わってきた。以前のようなあからさまな視線はないけれど、使用人たちの目の奥に歓迎の感情はないような気がした。
思わずため息が漏れる。
このためにロアール家へ預けたのだろうと幼い自分にもわかった気がした。
家についてから3日後面会が許された。
再会した母はやつれていた。それでも大分よくなったらしい。もう少し体力が戻れば、通常の生活ができるようになると言っていた。
二人きりになった部屋で、母に抱きしめられて、しばらく頭を撫でられていた。
充分だ。
母に捨てられたわけじゃない。
色々あるんだ。父が外交官で外国に行かないといけないのは仕方ない。母が元気なら母も一緒に行く。結局は屋敷に私一人で残らなければいけなくなる。
それを避けたいと思ってくれたのだろう。
「あなたのお話を聞きたいわ。手紙で知ってはいるけれど、直接あなたの言葉で教えて欲しいの」
話すことは優しいロアールの人々とセイアッドのこと。魔力が暴走しそうになった時のこと。
「ロアール家ではよくしてもらっているのね。セイアッド君にも感謝しないといけないわね」
「僕、学院に行くまでロアールにいたい」
「まあ。戻ってこなくていいの? だいぶ良くなったと伯爵はおっしゃっていたのだけれど」
「……セイと一緒にいたいから」
「あらあら、おませさんね」
「母上、からかわないで」
「セイアッド君は縁談の申し込みが殺到しそうだものね。あら、このリボンがセイアッド君にもらったリボン?」
「うん」
「よかったわね。凄く似合っているわ」
私は照れて、母の胸に顔を伏せた。
「応援しているわ。ノクス、あなたは自由にしていいの。公爵領を継いでくれたら嬉しいけれど、そうでない道もあるわ。セイアッド君との未来を考えて最善の道を選んでいいの。残念だけど、この領の人々はあなたに優しくないわ。なぜなのか、私にもわからないの」
母の手が優しく頭を撫でた。顔をあげて母を見た。
「私の実家では黒を忌み色として嫌うことなんてなかったのよ。私の実家は東の公爵領の隣にある伯爵領で、主神は鍛冶の神なの。私は王家の色をしているけれど王家筋ではないの。太陽の神の加護が強かったのね。私の髪と目は実家では逆に珍しかったのよ。学院で父様と出会ってお互いが番と意識したから私はこの家に嫁いだのだけれど」
「つがい?」
「お互い大切な人だって思い合うことよ」
「それを番というの? 僕もセイと番になれるかな?」
「そうね。ノクスが大きくなって今のセイアッド君を思う気持ちが薄れなくてセイアッド君がノクスを大切に思ってくれたら、なれるかもしれないわね。それまで、ノクスはちゃんと、セイアッド君にアピールしないといけないわね」
「アピール?」
「セイアッド君に自分の気持ちを伝えることよ。父様は私に事あるごとに誉め言葉を言ってプレゼントしたり、いろんなところに連れて行ってくれたりしたの」
「そうなんだ」
「10歳の加護の儀が終わったら父様にいろいろ聞いて頑張りなさい」
「はい」
「エクラにも会ってもらえるかしら」
「もちろん」
それから弟にあった。私に似ている。私がこうであったらいいなという姿だった。少しの胸の痛みを感じた。母とエクラの姿は少し羨ましかった。
でもないものねだりをしても仕方がない。
綺麗な髪とセイアッドは言ってくれた。黒目黒髪であるのが私だ。
その私を好意的な目で見てくれるセイアッドがいれば、もうそれでいいと思う。
話の流れでセイアッドは私ともっと仲良くしてくれると言ってくれた。
言質は取った。
母のアドバイス通り、これから頑張っていこう。
魔力とともにいろいろなものが出て行った感じがした。
その後、伯爵に報告をして王都に行くことになった。伯爵は家族に会わせてくれる体裁を整えてくれた。
母は体調を崩しているらしい。弟はまだ小さいし外出できない決まりだそうでどちらにしても自分から会いに行くしかない。
セイアッドは私の熱の原因が魔力だと気づいていたらしい。あの魔石は前もって準備していたもので、いずれ使うことになるだろうと確信していたようだった。
セイアッドは凄い。
魔力を視認できるなどそこらの魔法師を超えるレベルだ。セイアッドを守るにはセイアッドを超える何かを身につけなければいけない。
そうでなければセイアッドの傍にいることすら叶わなくなるかもしれない。
セイアッドは自分に対して関心を向けてくれるけれど、保護者的な感じもしなくもない。いずれ大人になれば手を掛けなくても大丈夫と離れていきそうな気もする。
両親とセイアッドを秤にかけたらセイアッドのほうが重い。
今回吐き出してしまったから自分の中ではいろいろ整理がついた。
自分の虚弱の原因が魔力で解決してもロアールにいられるようにしなければいけない。
優秀なセイアッドはいずれ知れ渡る。素直で優しくてそれに加えてあの容姿だ。誰もが彼の隣を狙うだろう。
「なんだか冷える」
「足元が冷えるんだろう。ほら、これを使いなさい」
「ありがとう。父様。ノーちゃんほら」
公爵領に向かう馬車の中でセイアッドは毛布を頭からかぶると私の方の手を挙げて誘う。思わず伯爵の顔を見れば不機嫌そうにして私を見ている。もう一度セイアッドを見るが、挙げた手を降ろさない。もう一度伯爵を見て渋々頷く様子にほっとしつつセイアッドにくっついた。
このポジションを他人に渡したくない。
セイアッドの甘い香りに包まれて私は心地よい眠りの中に落ちて行った。
伯爵の機嫌がだんだんと悪くなっている気まずい馬車の旅は公爵領に着いて一旦終わる。しばらく屋敷に滞在して王都に向かう。
自分の家に帰ってきたのに、そんな気がしない。ロアールの屋敷の方が、自分の家の気がするのはこの雰囲気の悪さだろうか。
ピリピリとした空気が入ってきた時から伝わってきた。以前のようなあからさまな視線はないけれど、使用人たちの目の奥に歓迎の感情はないような気がした。
思わずため息が漏れる。
このためにロアール家へ預けたのだろうと幼い自分にもわかった気がした。
家についてから3日後面会が許された。
再会した母はやつれていた。それでも大分よくなったらしい。もう少し体力が戻れば、通常の生活ができるようになると言っていた。
二人きりになった部屋で、母に抱きしめられて、しばらく頭を撫でられていた。
充分だ。
母に捨てられたわけじゃない。
色々あるんだ。父が外交官で外国に行かないといけないのは仕方ない。母が元気なら母も一緒に行く。結局は屋敷に私一人で残らなければいけなくなる。
それを避けたいと思ってくれたのだろう。
「あなたのお話を聞きたいわ。手紙で知ってはいるけれど、直接あなたの言葉で教えて欲しいの」
話すことは優しいロアールの人々とセイアッドのこと。魔力が暴走しそうになった時のこと。
「ロアール家ではよくしてもらっているのね。セイアッド君にも感謝しないといけないわね」
「僕、学院に行くまでロアールにいたい」
「まあ。戻ってこなくていいの? だいぶ良くなったと伯爵はおっしゃっていたのだけれど」
「……セイと一緒にいたいから」
「あらあら、おませさんね」
「母上、からかわないで」
「セイアッド君は縁談の申し込みが殺到しそうだものね。あら、このリボンがセイアッド君にもらったリボン?」
「うん」
「よかったわね。凄く似合っているわ」
私は照れて、母の胸に顔を伏せた。
「応援しているわ。ノクス、あなたは自由にしていいの。公爵領を継いでくれたら嬉しいけれど、そうでない道もあるわ。セイアッド君との未来を考えて最善の道を選んでいいの。残念だけど、この領の人々はあなたに優しくないわ。なぜなのか、私にもわからないの」
母の手が優しく頭を撫でた。顔をあげて母を見た。
「私の実家では黒を忌み色として嫌うことなんてなかったのよ。私の実家は東の公爵領の隣にある伯爵領で、主神は鍛冶の神なの。私は王家の色をしているけれど王家筋ではないの。太陽の神の加護が強かったのね。私の髪と目は実家では逆に珍しかったのよ。学院で父様と出会ってお互いが番と意識したから私はこの家に嫁いだのだけれど」
「つがい?」
「お互い大切な人だって思い合うことよ」
「それを番というの? 僕もセイと番になれるかな?」
「そうね。ノクスが大きくなって今のセイアッド君を思う気持ちが薄れなくてセイアッド君がノクスを大切に思ってくれたら、なれるかもしれないわね。それまで、ノクスはちゃんと、セイアッド君にアピールしないといけないわね」
「アピール?」
「セイアッド君に自分の気持ちを伝えることよ。父様は私に事あるごとに誉め言葉を言ってプレゼントしたり、いろんなところに連れて行ってくれたりしたの」
「そうなんだ」
「10歳の加護の儀が終わったら父様にいろいろ聞いて頑張りなさい」
「はい」
「エクラにも会ってもらえるかしら」
「もちろん」
それから弟にあった。私に似ている。私がこうであったらいいなという姿だった。少しの胸の痛みを感じた。母とエクラの姿は少し羨ましかった。
でもないものねだりをしても仕方がない。
綺麗な髪とセイアッドは言ってくれた。黒目黒髪であるのが私だ。
その私を好意的な目で見てくれるセイアッドがいれば、もうそれでいいと思う。
話の流れでセイアッドは私ともっと仲良くしてくれると言ってくれた。
言質は取った。
母のアドバイス通り、これから頑張っていこう。
応援ありがとうございます!
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