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ミラクルローラースケーター翔の、ローションプール。
しおりを挟む疾風の首にペットの証であり、強化スーツの装着を妨害する首輪を取り付けた如月博士。
そんな博士に敗北、気絶してしまった疾風。溶解液にアンダーウェアを溶かされ裸同然の姿に、窓から見物していた生徒たちが騒然とする中。
「……私が守ってあげる」
とっさの判断で疾風を抱き抱え、保健室に消えた養護教諭の姿を、すぐそばで如月博士が見届けていた。
「校舎内に逃げられては追えませんね。……まあいいでしょう。既に疾風は私が呼べば出てくる忠犬なのだから」
モロ見えのカラダに薄い掛け布団を被せられて、疾風はすぐに目を覚ました。
保健室の見覚えある天井と、何か資料の整理をしている養護教諭の後ろ姿。
「5時間目の先生には連絡してあるから、寝ていても大丈夫よ」
「すみません、今日は早退します……」
任務中にお漏らしさせられた苦い経験から、疾風はカバンの中に予備のパンツを用意していた。
ーー替えのパンツ。要らないと思っていたけど、まさか溶かされちゃうなんて。
それはいつか、体育の時に白ブリーフを笑われて、博士にお小遣いをもらい自分で買った赤のボクサーパンツだった。
「ちょっと、キツいかな……」
身体は成長しているのに、敵は全然倒せない。もっと、強くなりたい……!
保健室を出たところで、疾風は自分を心配して駆けつけた村田麗と鉢合わせする。
「ッ!!」
「宝月くん! 大丈夫……?」
「ありがとう。僕は、大丈夫だから。……僕っ、帰るね」
疾風は、村田麗の呼び掛けも早々に切り上げ悔しげに学園を去った。
敵を倒せない以上、変身できないのがバレるのも時間の問題だ。
ーー近い未来、僕はヒーローをクビに、学校も退学になるだろう。
クラスのみんなにはそんなこと絶対に言えない。仲良くなった友達からの親切も、今の疾風には辛いものでしかなかった。
「何があったか知らないけど、これ読んだらまじで元気出るから!」
そう言ってクラスメートの拓也が貸してくれたのは、敵をたった1発のパンチで倒す、イッパツマンという漫画。
昨日借りたまま鞄の中に入っていたのを思い出して、帰りの電車の中で読み始める。
「こんな大男を2秒で倒すなんて、すごいなあ」
ーーーー
イッパツマンが悪党に呼び出され指定された場所へ向かうと、
「貴様の恋人を殺されたくなかったら、我らに服従するのだ!!」
と話す手品師みたいな格好の怪しい男がいた。
捕まった女の子は小高い丘のようなところで縛られていて、そばには導火線に火がつけられた爆弾が。
「あと30秒で娘は木っ端微塵だ。貴様が娘を救う方法は一つ。イッパツマンなどというヒーローはやめて私の言うとおりに改造手術を受けるのだ! たった30秒で戦闘員を全員倒して丘の上の娘を救うことなどできまい」
「フッ、馬鹿がッ、 30秒あれば余裕だぜ!」
「あっ」
気づくと最寄り駅に着いていた。
慌ててマンガを鞄に突っ込み、電車を夢中で降りる。
「30秒で倒せれば、僕はヒーローでいられる……!」
帰宅した疾風は、真っ先に自習用に支給されたタブレット端末を起動。インカメラで自分の姿が写るよう棚の上に立て掛けて、動画を撮り始めた。
「僕の予想が正しければ……」
疾風は終始カメラ目線で、インカムを起動。そのままミラクルローラースケーター翔に変身した。
「うッ、うわぁぁぁッ!!!」
無事、強化スーツが装着されたのはほんの一瞬。非変身チョーカーの効果ですぐに身体中に放電が走り、首輪を掴んで必死に堪えるもあえなく変身解除。
「くっ……」
強化スーツからの放電によるダメージはすぐに起き上がれないほど、疾風は手を伸ばして棚の上のタブレットを取り、録画を停止。
すぐに再生して変身の様子を確かめる。
「うッ、うわぁぁぁッ!!!」
「……ッ!」
疾風がこれからやろうとしている事。
自分の苦しむ姿を再生すると決意は揺らぐ、それでもやらなければならない。
「……10秒。思ったより短いな……」
今の疾風にもう一度変身を試みる力はなかった。
チャンスは一回。
「僕が怪人を倒す方法は、これしかないんだ……」
ーー翌日。
昨日は体調不良で早退したけど、怪人にびしょ濡れにされたせいか本当に風邪引いちゃった……
「へっ……くしッ!」
「疾風大丈夫かー? まだ風邪治って無いんじゃねーの」
「ちょっと、保健室、行ってくるね……」
なんか、フラフラするな……。でも、今日こそ倒さないと、僕は。
今にも降り出しそうな曇り空のなか、疾風は中庭に向かった。
少し走った程度だったが、疾風の息はひどく上がっていて、少し熱もあるようだった。
「はぁッ、はぁッ……。カラダ、熱いかも……風邪なんて、引いてる場合じゃないのに……!」
昨日、カエル型ロボにスーツを溶かされてしまったのもあるが、疾風は制服のまま中庭で待機していた。
ーー昨日みたいに、10秒だけ変身して、その間に敵を、倒すんだ……!
「早かったですねぇ、疾風」
ビュッビュルルルッッ
「あっ」
如月博士の声に疾風が振り向くや否や、昨日とおなじカエル型ロボから怪しげな液体が噴射される。
間一髪で疾風は避けることが出来たが……
ーー攻撃を避けながら、接近するんだ!
カエル型ロボは疾風に攻撃されないよう5メートルほど距離を取り、様子をうかがっていた。
二人の間には青いビニールシートが引かれていて、夜露に表面が濡らされている。
敵は疾風を遠距離戦で弱らせてから捕まえるつもりだ。疾風は少しでも早く接近戦に持ち込まなければならない。
「たった1日で、表面の装備がかなり変更されている……いったい何が仕掛けられているんだ……?」
まずは敵の懐に飛び込んで、表面の装備を破壊しなければ。疾風はトレーニング用の五本指強化グローブを装着し、青色のビニールシートが引かれた地面を走りだすが……
「わわッ、うわぁぁーーッ!」
ビシャーー……
「これは……やはり君は僕のペットになりたがっているのかな? 私が夜のうちに用意したローションビニールプールの罠に頭からダイブしてくれるなんてねぇ」
「やだっ、動くとヌルヌル、ねばねばしてッ、おち○ち○、べちゃーッてッ、くっ付くからぁぁっ!」
制服のズボンやシャツ越しに敏感なところをネバネバ責められて、疾風はよつん這いのまま起き上がれなくなっていた。
「おやおや。おちんちん両手で掴んでたら起き上がれないよ? 疾風はずっとそこで遊んでいたいのかな?」
「違うッ♡♡、けどっ♡♡♡、ねばねばされるとチカラっ抜けちゃう、から……!♡♡」
「どこをネバネバされると気持ちいいのかな?」
「おち○ち○……あッ♡♡♡」
如月博士の言葉責めと誘導に、疾風はみるみる追い詰められていく。
「フフ、ついに認めてしまったねぇ、君は自分からローションプールに飛び込んで気持ちよくなって、変身できないのにロボにローションかけられる為に毎日私に会いに来ているんだよ?」
「ちがう……ちがうもん!!」
目視出来ないほど薄く塗られたローション。ビニールシートは下の柔らかい地面が疾風の重みで押されることで、疾風の股間がまるまるローションに浸される
ほどに形状を変えていた。
つまり疾風のカラダにぴったり合わせた形状のプールは、ねばねばローションに全身浸された疾風がもがけばもがくほど、股間や乳首がシートに擦れて気持ちよくなってしまうのだ。
ーーなんとか脱出して、撤退しないと……
疾風は如月博士が周囲を警戒する隙きを突きにわかに素早い動作でローションの溜まった凹みを抜け出すと、ほふく前進に近い動きでビニールシートを抜け出そうとした。
「逃がしませんよ!」
如月博士の掛け声で、カエル型ロボから今日初めてのギミックが疾風めがけて飛んできた。
「アッ、捕まっちゃう……!」
カエル型ロボから飛び出した赤色のロープが、逃げようと背中を晒していた疾風の足首に巻き付く。
ヌルヌルねばねばのビニールシートの上を、なす術なく疾風のカラダはうつ伏せで引き摺られて行った……。
「あああぁッ、はなせっ……くぅっ!」
ウィィーン……ガシャッ
ロボは軽々と疾風の足を持ち上げると、疾風の身長より高いところまで持ち上げつるし上げていた。
「さ、私のペットになる決心はついたかな? 敵相手に手玉に取られるようじゃ、ヒーロー失格だろう?」
「僕はまだ……負けてない!」
ーーそうだむしろ、ロボットに接近するという条件はクリアした。あとはあれを起動して……
「意地を張るのは良くないね。だけど、レッドの隣で調教すればヒーローだった記憶なんてすぐに忘れてしまうさ。君は生まれた時から私のペットなのだと、信じてきっと幸せに暮らすだろう」
カエル型ロボから出てきた白いアームの付いた棒が、疾風の足腰に装着されていく。如月博士はロボの内部に疾風を閉じ込めるつもりで、カラダを固定する為のギミックを発動しているのだ。
タイミングは今しかない。疾風は腕を拘束しようと伸びるギミックを払い除け、耳のインカムを起動。
「僕はヒーローだ。これからも、ずっと」
疾風はカエル型ロボにカラダを宙釣りにされたまま、ミラクルローラースケーター翔に変身した。
…………ッ!!
バケツをひっくり返したような大雨と、疾風の身体にヒーロースーツが装着されるのとがほぼ同時。
数メートル先も見えないほどの大雨に、如月博士からは疾風やカエル型ロボでさえ、全く見えなくなっていた。
「クッ、光線銃だけじゃ、倒せない……うわぁぁぁーーーッ!!」
疾風の叫び声は雨の音に掻き消されたものの、首輪からの放電は全身をずぶ濡れにした効果で数倍に拡がった。
「まさか。あの疾風が、新型カエルちゃんEXを倒しただと……!?」
想定外の放電で内部がショートしたのか、音立てて崩れていくカエル型ロボ。
疾風がロボとの戦闘で体力を消耗させていることは容易に想像がついた。
だが疾風を持ち帰る為のカエル型ロボが破壊されてしまった為、如月博士はやむなく学園を去ったのだった。
「やった……僕、如月博士のロボに、勝ったんだ……」
ーーこれで、僕はヒーローでいられるね……
草の上で大の字に寝転がる疾風。
肩で息をするのは、戦闘によるダメージだけでは無かった。
「? なんだろ、空が、みえないや……」
目の前の景色が歪んで、そのまま意識を失ってしまった疾風。5時間目の授業が終わったクラスメートが様子を見に来るまで、疾風のカラダは土砂降りの雨の中に放置されてしまった…………
…………つづく。
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