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ミラクルローラースケーター翔に、リョナ。

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 由緒ある私立高校の和風庭園に、任務の為に変身して学園のヒーローは現れた。

━━ターゲットロックオン。

 耳に付いているインカムをピコっと起動させて、目の前の敵を確認する。
「あ、あのまろ……?」
『強化スーツを着ていれば倒すのは造作もない相手だ。五分で片付けなさい』
 強化スーツ。
 水色の全身タイツにインカム付きのゴーグルで研究所にいる博士から指示をきく。
 博士の指示に疾風は青いグローブとブーツを装着。
「あのま、ろか、りす?」
 今一つ敵の名前を読めないでいると、今日の獲物であるアノマロカリスが疾風に気づいたらしい。
「あ! ミラクルローラースケーター翔だ! 逃げろー」
 無数の足があるソレはさっそく逃亡を始めた。
「ま、待て!」
 アノマロカリスはローラースケートが効果を発揮しない中庭の入りくんだ道を逃げていく。
 小さな池の淵に沿って逃げるアノマロカリスに、学園のヒーローは池を飛び越えアノマロカリスを捕まえようとする。
 だが、アノマロカリスのすぐそばに着地する直前。

ネチャッ

 ゴーグルに透明な何かが付着しヒーローの視界を奪う。
 あっと思いゴーグルを外そうとするも手が届かない。
「んっとれない……ンンッ」
 腕に何かが絡み付いて動かすこともできず、ヒーローは悩ましげに体をよじる。

━━早くこれから離れないと……!

 中庭の二本の松の間に張られた、生ぬるい粘液で表面を覆われた糸で出来た蜘蛛の巣。
 ゴーグル越しには可視できない糸の中に飛び込んだヒーローはその粘液で強化スーツを濡らされ、今までにない感覚に戸惑いを隠せずにいた。
 ネチャッ ネチャッ と抵抗する度に聞こえる音、無意識に火照ってくる体。
 打開策も見出だせぬまま、粘着の強い蜘蛛の巣の上でもがく。
「くっ! 降ろせよアリストテレス!」
「我が名は二足歩行のアノマロカリスだ厨房が」
「僕は高校生だっ!」
 中等部のない学院に任務の為高校生として潜入していたが、実年齢は十二歳、小学生でも通用する体格をしていた。
 7代目ミラクルローラースケーター翔、本名は宝月疾風。
 並外れた運動神経とスーツの適性の高さでヒーローに採用されたものの、こうなってしまってはなすすべがない。
「気持ちよくしてやろう。高校生ならどうってことないだろう?」
 アノマロカリスはその二本の触手から特殊な震動波を放つ。
 視界を奪われた疾風には何が起こったのかわからなかったが、スーツが波打つ刺激を不意にくらい、喘ぎ声が漏れる。
「やっ、んんっ」
「ほれっ」
 全身の性感帯に服が擦れる程度の刺激を与え、焦らす。
 体が焦らしに慣れてきたところで震動波はやみ、精通前の疾風にはムズムズとした感覚だけが残る。
「んーっ! んーっ!」
 自ら慰めることも叶わず、ただ体力を消費し、びちょびちょになってしまった股間が微かに震える。
 太腿にくっついたネバネバの粘液も、しっかりと離す気配は見せない。
「フン、今からその蜘蛛の巣の持ち主である大蜘蛛主様をお連れするからせいぜい蜘蛛の餌食になるがいい!」
アノマロカリスは高笑いして去っていく。
「どうしよう……助けて……!」
 もがいてもびくともしない蜘蛛の巣に、観念して助けを呼ぶ疾風。
 しかし放課後の、職員室や運動場から離れたこの場所では誰も気づく人がいないようだった。しくしくと泣き出す疾風。
 すると中庭の隅でスケッチブックを広げていた女の子が、疾風に気づいて声をかける。
「あの、大丈夫?」
「僕、蜘蛛の巣に引っ掛かっちゃって……ごめん、誰か先生呼んできてくれないかな」
「大丈夫、ちょっと待ってて」
 女の子は蜘蛛の巣に触れた。
 蜘蛛の巣は一般的なそれと違い水糊のような素材で出来ているようだった。
 水溶性なら、と女の子は走ってバケツに水を汲みに行く。
「かけるよっ!」
 案の定、蜘蛛の巣は水をかけるとドロドロに溶けていき、体が自由になった疾風はひらりと着地する。
 ゴーグルがみえるようになると、疾風を助けたのは同じクラスの村田麗であると気づく。
「ありがとう村田さん」
「えっどうして私の名前を?」
「意外と行動力あるんだな、すっげーカッコよかったぜ!」
 付けていたインカムとゴーグルを外して、宝月疾風はにっこり笑った。
「宝月くんっ!」
 疾風を助けたのは、疾風と同じ一年三組の優等生、名前は村田れい
「ありがとう、お陰で助かった。帰りにジュース奢るよ。さっきの奴と大蜘蛛主を倒さなきゃいけないんだ、ちょっと待ってて」
 無言で頷く麗。
 クラスメートに助けられて、疾風は恥ずかしいながらも話ができてうれしい気持ちの方が勝った。

━━絶対に奴等に勝って、麗ちゃんと一緒にジュース飲むんだからなっ!

 そんな決意を胸に、ミラクルローラースケーター翔こと宝月疾風は見えないゴーグルの隙間から微かにみえた、アノマロカリスの影の方へと走って行った。
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