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ラムネビー玉の簡易水晶。
しおりを挟む部屋にあるたった一つのランプが、静かにうなづくジュンの顔をオレンジに照らす。
「……桜牙くんの方が、ヒーローみたいだよ」
「マジ?」
「うん。でも、僕もやってみるから」
ふと、桜牙が胸ポケットに入れた何かが気になって、学ランの胸ポケットを探る。
鉄製のカーテンクリップ、ジュンにしてみれば未知の部品だ。
先っぽを思い切りねじって、桜牙の作っていたようなピッキングの針金を作り出す。
「気をつけろよ、下手に突っ込むと、電気が流れる」
「大丈夫。これの開け方は、わかってるんだ。上手く行くかは、わからないけど」
魔王が消滅したあの日以来の感覚。僕の身体から僅かな魔力を魔王の持つ水晶に送り込んでいたあの日。
体力を消耗し動けなくなった僕は、魔王を倒した総督に水晶を操られすぐさま捕縛された。
魔王の消滅を知ったクリスタル帝国国王が僕に恩赦を出さなければ、僕は磔、火炙りにされていただろう。
「諦めなければ、生きて、いけるんだろうか……」
持っていた錠前の重みを支えきれずに、ジュンの手のひらから落下していく。魔力の消費によるとてつもない疲労感に、ジュンはその場に座り込んでいた。だが牢破りをしてしまった以上、立ち止まって休むことなどはできない。
「……すげーじゃん」
「この鍵を外したことを、恐らく総督は気づいている。急いで脱出しよう」
ジュンが鍵穴に魔力を送り込み、頑丈な錠前を外して見せた時。
クリスタル帝国総督が肌身離さず持っている水晶の付いた杖が鈍い光を放つ。
「おやおや。ずいぶん早かったじゃないか」
総督の呟きに、総督の自室で昼食をともにしていたわずか12歳の王女が反応した。
「見て! リカエル、また水晶の色が変わったわ」
総督の側近かつ王女の護衛として昼食に同行したリカエル中佐は、王女の数少ない話し相手だった。
「たのしい昼食だったよ、王女。私は仕事に出なければ。この色はそういう合図なんだ」
「あら、それは残念ですわ」
「王女は水晶に興味がおありのようです。是非またお話がしたいご様子で」
「え、えぇ」
リカエルの要らぬお節介を適当に流す王女。40代手前の総督とは親子ほど歳が離れていて、王女は総督の持つ珍しい水晶にしか興味がなかった。
「リカエル、悪いが鳥かごを見てきてくれないかな。小鳥が逃げてしまったようだ」
「早急に捕まえましょう。鳥はご覧になられますか?」
「ぜひ見たいね、後で見に行くよ」
王子の捕縛は決して王女には悟られぬよう行わなければならない。
ーー騒ぎが大きくなれば王女が傷つくだけ、王子もそれは望んではいまい。
総督が鳥かごと呼ぶ、総督を含めわずかな人間しかしらない秘密の部屋。
そんな部屋からの脱出を試みたジュンと桜牙は、セキュリティに何度か阻まれながらも出口へと進んでいた。
「乗り気じゃなかった割にはすげー順調に進んでね?」
「水晶を用いた解錠パターンなどはたかが知れているから。桜牙くんがくれた小さな水晶で、魔力の消費が抑えられたおかけだよ」
「水晶っていうか、昨日飲んだラムネのビー玉だけど。それはよかった」
セキュリティの脆弱性に似たような状態がここでも起こっているらしい。
魔力そのものを使える者が少ないので、特にパスワードもなくワンクリックで次に進める状態、というわけか。
「総督が魔法を使えるのは、魔王から奪った水晶の力だ。でもあんなのは増幅装置に過ぎない。理科の授業でいうところの、電極回路に電気を流しているに過ぎないんだ」
これで最後、とジュンは石造りの壁に埋め込まれた水晶に、ラムネビー玉の簡易水晶をかざす。
黄色く反応した水晶は、同じ光をまるで石板に染み込むような模様を一瞬みせて、音もなく演劇の幕のように上へと収納されていった。
「すげー……」
壁の向こう側に広がる、西洋の宮殿を思わせる赤い絨毯と壁の装飾。
学ラン姿の二人にはあまりにもそぐわない場所、檻の外へは出たとはいえ前途は多難なようだ。
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