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MP0でどうやって戦えばいいんだ

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手紙には一人で来い、とは書かれていなかったけど。
桜牙が人質になっているであろう剣道場にいっしょに行く。担任教師にそう言われてから、ジュンは絶句したままであった。
嗚呼、誰か別な先生に聞けば良かったんだ。
本人は親切心だろうが、非情にも担任教師はスタスタと剣道場へと案内してくれていた。
場所がわからないジュンにはいつ到着するのかもわからないわけで、ヒヤヒヤしながら早歩きでついていく。
「ここだよ」
「ッ! はいっ」
理由もなく元気な生返事。
剣道場の入り口は、古い木製の扉だった。
いっしょに行くと行っていた時よりは、担任教師のテンションはかなり落ち着いていた。
「あの……」
「どうした? 長峯は、俺に入ってほしくないんじゃないのか?」
「はい……」
言葉が出てこない。桜牙の身を案ずる気持ちと、自分自身の心配と、先生の言葉。
それが何一つ整理できず頭の中はゴチャゴチャしていて、先生にこのまま帰ってほしいと伝えることさえ失念していた。
泣きそうになっていたジュンを察したのか、担任教師の方から切り出してくれた。
「僭越ながら。さっきの手紙、俺も目を通してしまった」
写真もな。
そこまで言われて、ジュンの目から涙が零れた。
「悪いようにはしねぇから。自分の生徒に二度も手ぇ出されて、黙ってるほど柔じゃねって」
「……ありがとう」
先生に言われた言葉の詳細な意味まではジュンにはわからなかったが、いい先生であることは理解。
それでも中に入ろうとするジュンを制止して、担任教師は剣道場へと足を踏み入れた。
「君たち、うちの学校の生徒じゃないよね? 今すぐ出ていってもらえる?」
「村上? なんで……」
まさかの担任の村上先生登場に、最初に反応したのは桜牙本人であった。
後ろ手に縛られてはいたものの、情報収集のためか猿ぐつわは外され太田とは離されて部屋の中央奥に転がされていた。
村上が入ってすぐ扉に鍵をかけられてしまったので、ジュンは必死に聞き耳をたてていた。
「長峯ジュンを知らないか?」
「さあ。もう帰ったんじゃないかな」
日本人では無さそうな、色白な数人の男たち。
彼らがもしジュンのいた国の政府の人間なら、国外でむやみに人を傷つけはしないはず。
担任教師は手前にいた太田の縄を解くためにゆっくり近づいていった。
男たちは誰一人、行く手を阻もうとしない。だが、さっき話した男が担任教師の背中に向け手をかざし、
「de ……to ……o ……two ……」
怪しげな呪文を唱え始めたとき。
ジュンは突然開かない扉を叩きだした。
「やめろーッ!」
どうにか中に入れないだろうかと、他の入り口を探し歩き回る。
そして担任教師がジュンの声に振り返ったとき。
「おい、どうしたんだよ……?」
担任教師はいきなり胸を押さえ、苦しみだしたのだ。
何が起きたのかもわからず目を見開いたまま、口を開いたまま床に転がり硬直する担任。
幸い窓の一つの鍵が開いていて、ジュンはそこから剣道場に入ることができた。
「みんなには手を出すな! 僕ならここにいるぞ!」
ジュンは夢中で叫んでいた。
かけられた相手を呼吸困難にさせる呪文。既に意識を失いかけていた担任だが、呪文をかけていた男の注意が逸れたのか激しく咳き込みながらも正気を取り戻していた。
「カハッ……はぁッはぁッ……」
早く生徒たちを逃がさなければ。そう思いながらも、背中を踏みつけられ起き上がることができない。
「てめーがさっさと言うこと聞かねーからよ」
ジュンの足元に現れたのは、紫色の魔方陣。とっさに避けるジュンを面白がって、次々に魔方陣を仕掛けていく。
「いつまでもつかな?」
宇宙転送用の魔方陣。これに捕まったら、一瞬にして宇宙帝国まで転送されてしまう。
ーーくッ、反撃、できない……!
完全に遊ばれている。わかっていながらも、ジュンは半ば転がりながら魔方陣との鬼ごっこを続けていた。
「魔王の息子がMPゼロじゃあ辛いよな! そろそろ終わりにしてやるよ」
この鬼ごっこがどうすれば終わるか、男たちにはわかっていた。
魔方陣が現れたのは、縛られて転がされた桜牙の真下。
ジュンの逃げる様子から、その意味は部屋にいる全員が理解していた。
「桜牙ッ」
「ここにいる三人、見殺しに出来れば見逃してやってもいいぜ?」
宇宙帝国に転送されたが最期。その存在すら一部の人間にしか知られていない以上、地球人を生かすも殺すも彼らの自由。
ーーお願いっ間に合ってよ……!
ジュンは自分より大きい体を魔方陣から必死に引きずり出そうとするが、

魔方陣が一際光輝いて、その瞬間二人の姿はどこにもなくなっていた。
「邪魔したな」
踏まれていた足をようやく退かされ、起き上がる担任。
残された太田の縄を解くことさえ忘れ、二人のいた場所を見つめる。
「嘘だろ……?」
自分の教え子を守れなかった。それ以上に、自分の目の前で生徒が消滅した現実。それをにわかには受け入れることができずに、担任はしばらく立ち尽くしていた。
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