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仲間を助けたければ剣道場に来い、とか転校生にほざく鬼畜。
しおりを挟むなんとなく、友達ができたような気がしていた。
彼女以外の特定の人間とは群れない、広く浅い人間関係ばかりの俺に、ちょっと親しい友達ができたような錯覚をしていた昨日。
偶然と運が重なってのことだが結果的にヒーローを救った俺を、転校生長峰ジュンは随分とよそよそしい目でみた。
「昨日は本当にごめんなさい。でも、ありがとう。僕は大丈夫だから、もう助けたりしないで」
現実は、俺が考えているよりずっとシビアなのだろう。俺はヒーローを助けたいと思った、でもそれをヒーローは望んでいない。俺はヒーローの辛い宿命をわかっていない。
......それでも構わない。昨日同様女の子に机を囲まれるヒーローは、俺とは別な世界の人間だったんだろう。ほんの一瞬、交わることがあった、それだけの話。
俺はいちご牛乳を飲みながら参考書をめくる、いつも通りの超合理的な朝の時間をすごしながら、頭では別なことを考えていた。
ーーそして放課後。
剣道部に入部してから二ヶ月とちょっと。幽霊部員とはいえ他の部員と全く関わりが無いわけではない。
たまには部活に来てよ、と小学校から知ってる友達に頼まれて、俺は剣道場に来ていた。
頼まれて、というのはあれだ。部員でもないのに剣道場にのさばってるよくわからないやつがいるとかなんとか。顧問が来れば何処かへいなくなるらしいけど、今のうちに話つけとかねーとな。
……剣道場に入る前には一礼。顔を上げると、そこにはニヤニヤ嗤って俺に視線を向ける連中と
「太田……っ!」
後ろ手に縛られ板の間に転がされた幼馴染の姿があった。
「ごめん桜牙くんっ、こんな人たちだって思わなくて……」
「泉桜牙か? こっちに来な。まさか親友置いて逃げたりしねぇよなぁ?」
「……俺のこと知らないのに、なんで俺を」
見た目が目立つだけでとくに不良生徒でもない俺に、恨まれる心当たりはない。
「別に殺したりしねーから安心しろって。直接お前襲っても良かったんだけど、王子を飲み込んだスライムぶった切ったりヤバい奴っぽかったから」
「……王子?」
文脈から察するに王子とは例のヒーローのことを指しているのだろう。だけど、それと俺が呼び出された理由って。
「抵抗、するなよ?」
その頃渦中の転校生長峯ジュンは。
泉くん、今日は部活なんだっけ。木刀一本でスライム倒しちゃうすごい人だったな。......そりゃあ彼に手伝ってもらえれば、僕なんかよりずっと上手くスライムも倒せるんだろうけど。
だけど、
「......?何だろ」
ジュンは自分の下駄箱に入っていた、A4のコピー用紙を二つ折りにしたものを取り出す。間に挟まっていた何かが床に落ち、とっさにそれを拾ったジュンは思わず声をあげた。
「これっ、なんでこんな......!」
ジュンが拾ったのは一枚の写真、インスタントカメラで撮られたものだ。電気のほとんど通っていない宇宙帝国で主流のそれは、送り主がその筋の人間であることを示していた。
写っていたのは手足を縛られ猿ぐつわまで噛まされた泉桜牙。
「どうして泉くんが......」
ナカマヲタスケタケレバケンドウジョウニコイ。......仲間を助けたければ剣道場に来い。
幼い頃から日本語教育を受けていたジュンは日本語を話せるものの、宇宙帝国で日本語を話す者は少ない。あくまで日本人を装ってか彼らの書いた日本語はすべてカタカナで、ジュンは容易に宇宙帝国からの刺客だと見破ることができた。だが彼らは二度も自分を助けてくれた命の恩人を人質にしている。
ジュンはすぐに向かおうと走り出した、しかしすぐにその足は止まる。そして穴の空くほどに紙を見つめたあと、思わず呟く。
「......剣道場とは?」
桜牙の持っていたような木刀での技を極める武道場を想像した。だが学校案内もそこそこに、転校二日目のジュンにそんな場所がわかるわけがない。
誰かに聞こうにも、既にクラスメートは部活動や帰路についていて、校舎に残っている者は少ない。
「どうしよう……体育館の方かな、でも体育館てどこだっけ……」
キョロキョロと辺りを見回すジュン。だが自分の為に捕まってしまった桜牙を案ずるあまり、背後から忍び寄る気配に気づくことが出来なかった。
「長峰。まだ帰ってなかったのか?」
「わわっ、先生!」
慌てて手紙を隠すジュン。
「昨日のこともあるからな。校門まで送るよ」
ジュンの背後にいた担任の教師は手紙に触れることなくそんなことを言った。
「あの、今日はこれから剣道場に行くんです。でも、場所がわからなくて」
「剣道場? 何しに行くんだ?」
「え、えっと……お、桜牙くんに、誘われて」
「へぇ、幽霊部員のくせに勧誘かよ。よし、俺もいっしょに行く」
「えっ」
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