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敵もさるもの
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ダンジョンより帰還した翌日の午後から、ゼットツ州との事後交渉が始まった。相手は交渉専門の役人と見えて、実にドライな対応で手続きを進めていく。まぁ、この辺はある程度予想していたし、今までも経験済みの事である。こちらも予定通り、ボクとザレドスが彼らと対峙した。
残金の全額支払いと、倒したモンスターからの利益配分等々、順調に話し合いは進んでいく。ゲルドーシュは、自分たちが州付きの魔法使いを捕まえるための囮になっていた事に憤慨したが、それが契約書の内容に違反していない限りは文句を言う筋合いのものではない。
ただし妨害者ガスラムがボクたちの行動を著しく阻害し、魔獣まで放っていたとなれば話は別である。州付きの魔法使いである以上、管理責任は州にある。その人物がボクたちをダンジョンに閉じ込めたり、魔獣を放ったとなればこれは明らかに州の落ち度であった。
ところが話がその部分に差し掛かると、意外な事が起こった。交渉者が交代したのである。州側の新たな刺客は何と昨日出会った、施設の責任者ラジュファムだった。
交渉をしている部屋へ彼が現れると、今までボクたちの前に居た交渉官は慌てたように、そそくさと彼に席を譲る。
あぁ、なるほどなとボクは思った。施設の責任者とは名ばかりで、この為に州から彼が派遣されて来たのだろう。州が解けなかった最深部の謎を解き、魔獣まで出てきたのだ。ボクたちに悪意があれば、将来に渡り州を脅すような事もあり得ると判断したものと思われる。
話はボクたちが、ほぼ予想した通りの展開になった。
「契約書の条項にある”社会通念上、一般的に考えられる状況にある限り、双方が同契約書の内容に従う義務がある”という部分なんですがね……」
まずは、ボクが攻勢をかける。
「上層階の崩落に関しては、自然災害ならともかく、そちらの管理下にある魔法使いが人為的に起こした事ですので、この条項には当てはまらないと思いますが……」
「いや、事実だけを見ればそうでしょう。しかしこちらとしても、ガスラムがあのような事をするとは想定外でしたので、これは免責事項に当てはまると思います」
ラジュファムも、負けてはいない。
「おい、冗談じゃ……」
「ゲル!」
後ろの席からゲルドーシュが喋りかけるのをポピッカが止める。そもそも兵隊たちがガスラムを張っていたのだから”想定外”のはずがない。無論、交渉の全権を委任されているだろうラジュファムが、知らぬはずはない。
「ほぉ、そうですか。それでは魔獣に関してはどうでしょう。魔獣なんて代物の出現は、どう考えても普通の常識では考えられない。しかも、そちらの身内が意図的に出したわけですからね」
ラジュファムの眉が、ピクリと動く。
「当初の契約内容とは大きくかけ離れた、危険が伴う依頼だったという事になりませんか?」
ボクは、取りあえずの一撃をくらわした。
「だから、当方の契約違反だと?」
ラジュファムが、落ち着き払って口を開く。
「先ほども申し上げた通り、こちらとしても想定外、魔獣出現など予め想定できるはずがない。もう、これは天災と同じですよ。契約書にも”天災等の場合は免責事項にあたる”となっていますよね。
ある意味、州も被害者でしてねぇ。まぁ、魔獣を倒して頂いた事には感謝します。それにつきましては、報酬に多少の色をお付けして……」
「多少だと!? てめぇ、俺たちがどんな思いで魔獣を倒したと思ってやがるんだ!」
ゲルドーシュが、たまらず席を蹴り飛ばして怒号をあげた。大荒れの予感に部屋の中は極度の緊張感に包まれ、州付きの護衛官が身構える。
残金の全額支払いと、倒したモンスターからの利益配分等々、順調に話し合いは進んでいく。ゲルドーシュは、自分たちが州付きの魔法使いを捕まえるための囮になっていた事に憤慨したが、それが契約書の内容に違反していない限りは文句を言う筋合いのものではない。
ただし妨害者ガスラムがボクたちの行動を著しく阻害し、魔獣まで放っていたとなれば話は別である。州付きの魔法使いである以上、管理責任は州にある。その人物がボクたちをダンジョンに閉じ込めたり、魔獣を放ったとなればこれは明らかに州の落ち度であった。
ところが話がその部分に差し掛かると、意外な事が起こった。交渉者が交代したのである。州側の新たな刺客は何と昨日出会った、施設の責任者ラジュファムだった。
交渉をしている部屋へ彼が現れると、今までボクたちの前に居た交渉官は慌てたように、そそくさと彼に席を譲る。
あぁ、なるほどなとボクは思った。施設の責任者とは名ばかりで、この為に州から彼が派遣されて来たのだろう。州が解けなかった最深部の謎を解き、魔獣まで出てきたのだ。ボクたちに悪意があれば、将来に渡り州を脅すような事もあり得ると判断したものと思われる。
話はボクたちが、ほぼ予想した通りの展開になった。
「契約書の条項にある”社会通念上、一般的に考えられる状況にある限り、双方が同契約書の内容に従う義務がある”という部分なんですがね……」
まずは、ボクが攻勢をかける。
「上層階の崩落に関しては、自然災害ならともかく、そちらの管理下にある魔法使いが人為的に起こした事ですので、この条項には当てはまらないと思いますが……」
「いや、事実だけを見ればそうでしょう。しかしこちらとしても、ガスラムがあのような事をするとは想定外でしたので、これは免責事項に当てはまると思います」
ラジュファムも、負けてはいない。
「おい、冗談じゃ……」
「ゲル!」
後ろの席からゲルドーシュが喋りかけるのをポピッカが止める。そもそも兵隊たちがガスラムを張っていたのだから”想定外”のはずがない。無論、交渉の全権を委任されているだろうラジュファムが、知らぬはずはない。
「ほぉ、そうですか。それでは魔獣に関してはどうでしょう。魔獣なんて代物の出現は、どう考えても普通の常識では考えられない。しかも、そちらの身内が意図的に出したわけですからね」
ラジュファムの眉が、ピクリと動く。
「当初の契約内容とは大きくかけ離れた、危険が伴う依頼だったという事になりませんか?」
ボクは、取りあえずの一撃をくらわした。
「だから、当方の契約違反だと?」
ラジュファムが、落ち着き払って口を開く。
「先ほども申し上げた通り、こちらとしても想定外、魔獣出現など予め想定できるはずがない。もう、これは天災と同じですよ。契約書にも”天災等の場合は免責事項にあたる”となっていますよね。
ある意味、州も被害者でしてねぇ。まぁ、魔獣を倒して頂いた事には感謝します。それにつきましては、報酬に多少の色をお付けして……」
「多少だと!? てめぇ、俺たちがどんな思いで魔獣を倒したと思ってやがるんだ!」
ゲルドーシュが、たまらず席を蹴り飛ばして怒号をあげた。大荒れの予感に部屋の中は極度の緊張感に包まれ、州付きの護衛官が身構える。
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