上 下
103 / 115

密談

しおりを挟む
通された部屋はひときわ豪華で、本当に要人を持て成すかのような造りであった。ゲルドーシュがはしゃぎまわり、ポピッカが苦言を呈したのはいつもの事なので、詳しい話は割愛する。

皆は備え付けのお茶のセットを利用して、暫しの歓談を楽しんだ。その後、ボクはザレドスに耳打ちする。

「どうですか? 何か気になる点は」

「今のところは大丈夫です。ただ残念ながら、保証は出来ません」

ザレドスも、声を落として応対した。

「よぉ、何だよ、内緒話かい?」

ゲルドーシュが、割って入ってくる。

「じゃぁ、念のため……」

戦士の問いには答えず、ボクは最小限のジェスチャーで結界を張った。透明に近いとばりが、ソファーに身を委ねた四人の周りへと降りて来る。

「ん、何だよ。何が起こったんだ」

ゲルドーシュが、怪訝な顔をした。

「遮音結界をはったんだよ。ただし、中の音は外へ漏れないけど、外の音はちゃんと聞こえるように調整した」

「どうして?」

「外に聞こえちゃ、まずいからに決まってますわ」

ポピッカの答えにゲルドーシュは、ますます混乱をきたしたようだ。

「なんだ?また俺だけ仲間外れってか?ちゃんと説明しないと、この結界ぶっこわしちまうぞ」

それが本気でない事は分かっていたが、ボクは無垢な戦士に説明を始める。

「なぁ、ゲルドーシュ。今、ボクたちは凄く微妙な立場にいるんだよ。ゼットツ州の連中にしたって、混乱しきりだろうしさ。事態がどう動くかはわからない」

「まぁ、さすがに暗殺って事はないでしょうがね」

ザレドスが、物騒な話を付け加える。

「……って、おい!意味が全然わかんねぇぞ」

細工師の答えに、事の重大性を少しずつ認識し始めるゲルドーシュ。

「まず、結界を張った理由を話そう。ポピッカさんが言ったように、結果的には、こちらの話を聞かれないようにする為なんだ」

「ん~……。って事は、誰かがドアの外で聞き耳を立てていたり、盗聴する魔使具が仕掛けられてるって事なのか?」

「それは一応調べましたが、完全に無いとは言い切れないんですよ。何せ分析する為のデータが余りにも不足していますし、大っぴらにアッチコッチひっくり返して探すのも気が引けますしね」

ボクの答えをザレドスが引き継ぐ。

「いやまて、そもそも何でゼットツ州の連中が、俺たちの話を盗聴する可能性があるんだよ?俺たちは、しっかり依頼をこなしたはずじゃんか」

戦士の疑問は、"普通の状況"なら至極当然である。

「普通はね。だけど今回の探索、予想外の事が幾つもあったろう。州付きの魔法使いが犯人だった事。最深部の奥には結局は何もなかった事、魔獣が出た事、抜け穴があった事」

ボクは自ら復習するかのように、ゲルドーシュへ話して聞かす。

「まぁ、確かにそうだな」

一応の理解を示すゲルドーシュ。

「その事はさ、ゼットツ州にとっては凄く”マズい事”だとは思わないかい?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界生活は楽に暮らしたい〜『時間魔法』で時を操る転生者〜

ss
ファンタジー
とりあえず5話までご覧になってもらえれば面白さはわかるかと!!!

捨て子の幼女は闇の精霊王に愛でられる

ここあ
ファンタジー
幼女が闇の精霊王にただただ愛でられる話です。溺愛です。徐々に逆ハー(?) 感想いつでもお待ちしております!励みになります♪

転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香
ファンタジー
***11話まで改稿した影響で、その後の番号がずれています。 小さな村に住むリィカは、大量の魔物に村が襲われた時、恐怖から魔力を暴走させた。だが、その瞬間に前世の記憶が戻り、奇跡的に暴走を制御することに成功する。 魔力をしっかり扱えるように、と国立アルカライズ学園に入学して、なぜか王子やら貴族の子息やらと遭遇しながらも、無事に一年が経過。だがその修了式の日に、魔王が誕生した。 召喚された勇者が前世の夫と息子である事に驚愕しながらも、魔王討伐への旅に同行することを決意したリィカ。 「魔国をその目で見て欲しい。魔王様が誕生する意味を知って欲しい」。そう遺言を遺す魔族の意図は何なのか。 様々な戦いを経験し、謎を抱えながら、リィカたちは魔国へ向けて進んでいく。 他サイト様にも投稿しています。

透明な僕たちが色づいていく

川奈あさ
青春
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。 表紙イラスト aki様

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...