よろず魔法使いの日記帳 【第一部 ダンジョンの謎】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
100 / 115

花道

しおりを挟む
階段の果てに光が見えて来る。そうか、時間的には既に早朝なんだろう。日付が変わってすぐに探索を開始したから、まだ数時間しか経っていないはずなんだけど、もう二~三日は過ぎているような感覚だ。

果たして抜け道の出口は木々の影になっている石垣で、これまたちょっとやそっと見ただけではわからない代物だと知れた。

「いやぁ、辺りは木々で覆われているし、言われなければ、まず気が付かない場所ですなぁ」

ザレドスが、率直な感想を述べる。

「ただ、大勢で捜索すれば、見つかる可能性がない程の場所ではありませんわね」

ポピッカが、これまた率直な感想を述べた。

「いや、確かにおっしゃる通り、実は以前にも秘密裏にけっこう大掛かりな捜索をしたんですが、その時は見つからなかったんです。ところが今回は、比較的あっさりと見つかった。

前回の捜索に参加した兵の話によると”前も同じ辺りを探したが、こんな見つかりやすい感じじゃなかった”というんですね。私の考えるところ、今までは出入り口を魔法で偽装していたんじゃないかと思うんですよ」

開口された石垣を繁々と眺めるボクたちに、隊長が声をかける。

「つまり、今回は偽装されていなかったって事ですわよね。何故でしょう?」

ポピッカが、首をひねった。

「これはボクの勘なんだけどさ。一つ目はケガが酷くで偽装する心の余裕がなかった可能性。二つ目は魔獣を放った事により、”奴らは死んだ。今回の災難は解決した”と思い込んだ安心感。

その辺りが重なって、いつもより行動が荒くなったんじゃないのかな」

「ところがドッコイ、俺たちは生きていた!」

ボクの推理を、ザレドスでさえ言わないような古めかしい表現で引き継いだゲルドーシュ。

「もし彼が偽装を完璧にこなしていたら、この入り口は見つからなかったかも知れません。人の心理を巧みにつく妨害者ガスラムが、自分の心理を疎かにした結果の幸運というところでしょうか」

最後はザレドスが、上手くまとめあげた。

「さて、ボクたちはこれからどうするんですか?」

ボクは、隊長の方を見る。

「この場所はダンジョンの入り口から五百メートルくらいの地点にあります。まずその近くまで戻って頂いたあと、皆さんがここまで乗って来たビークルで宿泊施設の方へ移動してもらいます」

隊長の示した取りあえずの予定を了解し、皆は出発の場所、すなわちダンジョン入口方面へと足を進めた。

十数分後、林をぬけると景色が開けて、懐かしいダンジョンの入り口付近が視界に入る。そこには大勢の兵隊たちが……、あれ? 兵隊たちがいるのはいいんだけど、何か整列していないか。その向こうに見える大型ビークルへ向かって、二列で間を開けた隊列を組んでいるような……。

「あ、ありゃなんですか。並んでいる兵隊さんの間に、道が出来ているみたいだ」

ザレドスが、ちょっと面食らった声を出す。
 
「行けば分かりますよ」

隊長が、何やら意味ありげにほほ笑んだ。

兵隊たちは大体四メートルくらいの間を開けて立っており、彼らに挟まれた道は大型ビークルの昇降口まで三十メートルほど続いている。

そしてボクらが、その道に差し掛かった時、

「魔獣を討伐した英雄たちに、捧げスウォード!」

隊長が号令をかける。

兵たちは一斉に剣を胸まであげ、直立不動となった。

この儀式は出発前、ダンジョンの入り口でも行われたが、それは明らかに建前のみのセレモニーといった感があった。しかし、今は違う。兵士たちの尊敬のまなざしがひしひしと伝わって来る。

――確かにボクたちは魔獣を倒した。でもそれは英雄の名とは程遠い、希望と絶望をくり返すような格好の悪い、まるで地べたを這いつくばるようなギリギリの勝利である。本来ならば、こういった栄誉を受ける立場にはない。

だが少なくとも今は、照れる事なくこの祝福を受け入れよう。これは多分、ボクたち四人の絆に対する賛辞なのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...