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花道
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階段の果てに光が見えて来る。そうか、時間的には既に早朝なんだろう。日付が変わってすぐに探索を開始したから、まだ数時間しか経っていないはずなんだけど、もう二~三日は過ぎているような感覚だ。
果たして抜け道の出口は木々の影になっている石垣で、これまたちょっとやそっと見ただけではわからない代物だと知れた。
「いやぁ、辺りは木々で覆われているし、言われなければ、まず気が付かない場所ですなぁ」
ザレドスが、率直な感想を述べる。
「ただ、大勢で捜索すれば、見つかる可能性がない程の場所ではありませんわね」
ポピッカが、これまた率直な感想を述べた。
「いや、確かにおっしゃる通り、実は以前にも秘密裏にけっこう大掛かりな捜索をしたんですが、その時は見つからなかったんです。ところが今回は、比較的あっさりと見つかった。
前回の捜索に参加した兵の話によると”前も同じ辺りを探したが、こんな見つかりやすい感じじゃなかった”というんですね。私の考えるところ、今までは出入り口を魔法で偽装していたんじゃないかと思うんですよ」
開口された石垣を繁々と眺めるボクたちに、隊長が声をかける。
「つまり、今回は偽装されていなかったって事ですわよね。何故でしょう?」
ポピッカが、首をひねった。
「これはボクの勘なんだけどさ。一つ目はケガが酷くで偽装する心の余裕がなかった可能性。二つ目は魔獣を放った事により、”奴らは死んだ。今回の災難は解決した”と思い込んだ安心感。
その辺りが重なって、いつもより行動が荒くなったんじゃないのかな」
「ところがドッコイ、俺たちは生きていた!」
ボクの推理を、ザレドスでさえ言わないような古めかしい表現で引き継いだゲルドーシュ。
「もし彼が偽装を完璧にこなしていたら、この入り口は見つからなかったかも知れません。人の心理を巧みにつく妨害者ガスラムが、自分の心理を疎かにした結果の幸運というところでしょうか」
最後はザレドスが、上手くまとめあげた。
「さて、ボクたちはこれからどうするんですか?」
ボクは、隊長の方を見る。
「この場所はダンジョンの入り口から五百メートルくらいの地点にあります。まずその近くまで戻って頂いたあと、皆さんがここまで乗って来たビークルで宿泊施設の方へ移動してもらいます」
隊長の示した取りあえずの予定を了解し、皆は出発の場所、すなわちダンジョン入口方面へと足を進めた。
十数分後、林をぬけると景色が開けて、懐かしいダンジョンの入り口付近が視界に入る。そこには大勢の兵隊たちが……、あれ? 兵隊たちがいるのはいいんだけど、何か整列していないか。その向こうに見える大型ビークルへ向かって、二列で間を開けた隊列を組んでいるような……。
「あ、ありゃなんですか。並んでいる兵隊さんの間に、道が出来ているみたいだ」
ザレドスが、ちょっと面食らった声を出す。
「行けば分かりますよ」
隊長が、何やら意味ありげにほほ笑んだ。
兵隊たちは大体四メートルくらいの間を開けて立っており、彼らに挟まれた道は大型ビークルの昇降口まで三十メートルほど続いている。
そしてボクらが、その道に差し掛かった時、
「魔獣を討伐した英雄たちに、捧げスウォード!」
隊長が号令をかける。
兵たちは一斉に剣を胸まであげ、直立不動となった。
この儀式は出発前、ダンジョンの入り口でも行われたが、それは明らかに建前のみのセレモニーといった感があった。しかし、今は違う。兵士たちの尊敬のまなざしがひしひしと伝わって来る。
――確かにボクたちは魔獣を倒した。でもそれは英雄の名とは程遠い、希望と絶望をくり返すような格好の悪い、まるで地べたを這いつくばるようなギリギリの勝利である。本来ならば、こういった栄誉を受ける立場にはない。
だが少なくとも今は、照れる事なくこの祝福を受け入れよう。これは多分、ボクたち四人の絆に対する賛辞なのだから。
果たして抜け道の出口は木々の影になっている石垣で、これまたちょっとやそっと見ただけではわからない代物だと知れた。
「いやぁ、辺りは木々で覆われているし、言われなければ、まず気が付かない場所ですなぁ」
ザレドスが、率直な感想を述べる。
「ただ、大勢で捜索すれば、見つかる可能性がない程の場所ではありませんわね」
ポピッカが、これまた率直な感想を述べた。
「いや、確かにおっしゃる通り、実は以前にも秘密裏にけっこう大掛かりな捜索をしたんですが、その時は見つからなかったんです。ところが今回は、比較的あっさりと見つかった。
前回の捜索に参加した兵の話によると”前も同じ辺りを探したが、こんな見つかりやすい感じじゃなかった”というんですね。私の考えるところ、今までは出入り口を魔法で偽装していたんじゃないかと思うんですよ」
開口された石垣を繁々と眺めるボクたちに、隊長が声をかける。
「つまり、今回は偽装されていなかったって事ですわよね。何故でしょう?」
ポピッカが、首をひねった。
「これはボクの勘なんだけどさ。一つ目はケガが酷くで偽装する心の余裕がなかった可能性。二つ目は魔獣を放った事により、”奴らは死んだ。今回の災難は解決した”と思い込んだ安心感。
その辺りが重なって、いつもより行動が荒くなったんじゃないのかな」
「ところがドッコイ、俺たちは生きていた!」
ボクの推理を、ザレドスでさえ言わないような古めかしい表現で引き継いだゲルドーシュ。
「もし彼が偽装を完璧にこなしていたら、この入り口は見つからなかったかも知れません。人の心理を巧みにつく妨害者ガスラムが、自分の心理を疎かにした結果の幸運というところでしょうか」
最後はザレドスが、上手くまとめあげた。
「さて、ボクたちはこれからどうするんですか?」
ボクは、隊長の方を見る。
「この場所はダンジョンの入り口から五百メートルくらいの地点にあります。まずその近くまで戻って頂いたあと、皆さんがここまで乗って来たビークルで宿泊施設の方へ移動してもらいます」
隊長の示した取りあえずの予定を了解し、皆は出発の場所、すなわちダンジョン入口方面へと足を進めた。
十数分後、林をぬけると景色が開けて、懐かしいダンジョンの入り口付近が視界に入る。そこには大勢の兵隊たちが……、あれ? 兵隊たちがいるのはいいんだけど、何か整列していないか。その向こうに見える大型ビークルへ向かって、二列で間を開けた隊列を組んでいるような……。
「あ、ありゃなんですか。並んでいる兵隊さんの間に、道が出来ているみたいだ」
ザレドスが、ちょっと面食らった声を出す。
「行けば分かりますよ」
隊長が、何やら意味ありげにほほ笑んだ。
兵隊たちは大体四メートルくらいの間を開けて立っており、彼らに挟まれた道は大型ビークルの昇降口まで三十メートルほど続いている。
そしてボクらが、その道に差し掛かった時、
「魔獣を討伐した英雄たちに、捧げスウォード!」
隊長が号令をかける。
兵たちは一斉に剣を胸まであげ、直立不動となった。
この儀式は出発前、ダンジョンの入り口でも行われたが、それは明らかに建前のみのセレモニーといった感があった。しかし、今は違う。兵士たちの尊敬のまなざしがひしひしと伝わって来る。
――確かにボクたちは魔獣を倒した。でもそれは英雄の名とは程遠い、希望と絶望をくり返すような格好の悪い、まるで地べたを這いつくばるようなギリギリの勝利である。本来ならば、こういった栄誉を受ける立場にはない。
だが少なくとも今は、照れる事なくこの祝福を受け入れよう。これは多分、ボクたち四人の絆に対する賛辞なのだから。
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