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魔獣の弱点

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「ガッツ3!」

ボクは各種身体能力を向上させる魔法を、魔句呂コーラーを通じて発動する。魔獣の力を侮るわけではないが、何が起こるか不明である現在、マジックエッセンスの消費を考えれば上から二番目に強力なガッツ3を使用するのが定石だろう。

ボクはゲルドーシュと共に、魔獣ガノザイラの左右に向かって展開する。とにもかくにもザレドスの分析が頼みの綱であるわけだから、魔獣がザレドスを攻撃するのを少しでも遅らせなければならない。

ポピッカが、いつものように自らとザレドスを守る障壁を張ろうとするも、細工師はそれを妨げた。

「ポピッカ、今度の戦いは貴方も攻撃に参加する公算が強い。その時のためにマジックエッセンスを無駄遣いしないで下さい。

短時間ならば、私も手持ちの防壁魔使具で自分一人くらいは守れます。あなたはヘキサを最小限準備して、自分自身を守って下さい」

「……わかりましたわ。では!」

一瞬のためらいはあったものの、ポピッカは六角形の防護壁であるヘキサを五枚だけ展開し、魔獣の遠距離攻撃に備える。一方、ザレドスもその言葉通り腰に装着していた魔使具のスイッチを入れて、自らを包むバリアを出現させた。

いつもであれば、ザレドスの提案をポピッカが飲むはずはない。防御用の魔使具があるとはいえ、それはポピッカの作る障壁に比べれば明らかに見劣りするからだ。しかし今は、そうしてでも魔獣に対応しなくてはならない状況である。ポピッカも苦渋の決断といったところだろう。

ザレドスは早々に、データベースが収められているタブレット上の魔使具から、眼前の魔獣のデータを引き出し皆に報告する。しかし今のところ、ボクが知っている情報と大差ない。細工師には、この魔獣の攻略法を一刻も早く見つけてもらわねばならない。

探索用魔使具をデータベース魔使具に直結させ、魔獣の弱点を探っていたザレドスの顔がパッと明るくなった。

「弱点、弱点です。弱点がわかりました!」

歓喜に満ちた細工師の声に、皆、一瞬呆気にとられる。こんなにも早く攻略法が判明するとは……! なんてボクたちは、運がいいんだ。他の皆もそう思っているに違いない。

「おう! こいつぁあ幸先がいいぜ。ザレドス、弱点ってぇのは一体何なんだ!」

早くも魔獣の目の前で、中段に大剣を構えているゲルドーシュが欣喜雀躍する。

「”ビートブラックパイ”。奴の首の下、人間で言えば鎖骨と胸骨の合わさる辺りに直径三十センチくらいの黒っぽくて丸いものが見えますか? 

そこは奴が外部からもマジックエッセンスを取り込む場所で、肉体のあらゆる重要器官につながっています。そこに剣を突き刺してゲルの闘気を爆発させれば……!」

皆がザレドスの言った場所に視線を向けた。

なるほど、確かにそういった円形のものが奴の首下にある。魔物の高位体である魔獣は、当然の如く体内でマジックエッセンスを生産する能力を有するが、その巨体を維持するエネルギーを得るために、外部からもマジックエッセンスを吸収すると聞いた事がある。

そこでゲルの闘気爆発を打ち込めば、衝撃は魔獣の体の重要器官を内部から破壊するだろう。

「よっしゃぁ!」

目標を見定めたゲルドーシュは、一気呵成に魔獣に向かいダッシュする。戦士はガノザイラの足元まで見る間に到達すると、急所めがけてジャンプした。

「慌てるな、ゲル!」

ボクは思わず叫んだ。

魔獣の方だって、どこが自分の弱点かわかっているはずだ。そう易々と泣き所を攻撃させるはずはない。案の定、魔獣は一声鳴くと両腕をクロスさせて急所を守り、同時に両肩に合計二十本はある細いが丈夫な銛付き触手を高速で射出してきた。

「ちっ!」

空中で思うように体勢を変えられないゲルドーシュは体をよじり、何とか襲い来る触手を避けようとするが、人間は鳥ではない。ポピッカの様に妖精の羽根を展開できるのであればともかく、そうではないゲルドーシュに如何ほどの回避行動がとれるだろうか。

ボクは早くも隠し玉を使う。予備の魔奏スティックを素早く取り出し二刀流となった。そして時を移さず、両方の先端から鞭状になった雷魔法を放つ。

バチバチという音をたて、ゲルドーシュに向かっていた触手を電撃鞭が絡めとった。ボクはすかさず魔獣の後ろに回り、ガッツ3の身体強化に加えて腕力のレベルを個別に上げる。

「フォース!」

全身に力がみなぎる。ボクは渾身の力を込めて両手の魔奏スティックを引き、魔獣を後ろに引き倒す作戦に出る。しかしある点を過ぎると、電撃鞭はビクとも動かなくなった。

これじゃぁ、足りないのか? 

一瞬パワーを上げようかと考えたが、ボクは魔獣の脚を見て考えを変えた。ガノザイラの脚は逆間接型である。それだけで重心は下がるし安定性も向上する。更に脚そのものも非常に逞しい筋肉で覆われており、踏ん張る力も尋常ではないだろう。

出し惜しみをするわけではないが、マジックエッセンスの消費を考えると、これ以上のパワーを出しても効率の悪い結果を生み出すのは明白だ。

触手の追跡を逃れ、ゲルドーシュが体勢を立て直す。

「ちきしょう! あれだけモロにガードされちまうと、弱点を狙うのはむずかしいぞ」

歴戦の勇士も、魔獣の手ごわさに弱音を吐かざるを得ない。

「どうにか奴の体勢を崩さないと……。奴を押さえているスタンの体力も長くはもちません。どうしたら……」

分析を続けながらも、細工師が打開策を模索する。

「ザレドス、少しだけ私はここを離れますわ。よろしくて?」

「おい、ちょっと待て、お前がこっちへ来たって、どうなるもんじゃねぇぞ」

ザレドスが返事をする間もなく、ゲルドーシュが叫ぶ。

「ポピッカには、奴の隙を作るための何か考えがあるんですね?」

細工師がポピッカの顔を見上げると、彼女は振り返りニコッと笑った。
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