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ザレドスの講釈

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「なに? なんですの!?」

「おい、一体どうしちまったんだ、ザレドス!」

ザレドスの絶叫に、ポピッカとゲルドーシュが困惑する。

あぁ、さすがザレドス。ボクが気がついたのと同じ事を感じているな。

「ザレドス、次は何をしたらいいと思う?」

「そりゃあ……、そりゃあ、決まっているでしょう! 浮遊の魔法で私を天井まであげて下さい!」

少し皮肉っぽく質問をしたボクに、ザレドスは目を輝かせて懇願する。

わけがわからないという面持ちのポピッカとゲルドーシュをよそに、ボクは床に浮遊の魔方陣を出現させた。そしてザレドスが中央に乗るのを確認し、ゆっくりと魔方陣ごと細工師を天井へといざなう。

「これはどうなっているんですの? スタン、いい加減に説明して頂けませんか」

「そうだよ、旦那。俺も納得できねぇぞ」

僧侶と戦士の連合軍がボクを責め立てる。

「ごめん、ごめん。でもザレドスの調査が終わるまで、もう少し待ってくれないか。ボクが気がついた事は、あくまで推測なんだよ。ザレドスが、今、それを客観的に証明しようとしてくれてるんだ」

ボクは天井の細工師を仰ぎ見る。

それから十数分後、じりじりとするポピッカとゲルドーシュを横目にザレドスが地上へと戻って来た。

「さぁ、今度こそ説明してもらうぜ。ザレドス、一体天井に何があるんだよ。そもそも俺が体当たりしたのは問題の壁だぜ。天井がそれとどう関係しているんだ」

待ち切れないとばかりに、ポピッカを差し置いてゲルドーシュが細工師を問い詰める。僧侶もボクとザレドスの方を見て何回か頷き、今度ばかりは戦士に加勢をした。

「ちょ、ちょっと待って下さい。待ち切れないのは分かりますが、少し追加の調査をします。もう少し、もう少しだけ待っていて下さい。

でもこれだけは、ハッキリと言えます。

私たちは今、最深部の謎を解明する突破口を見つけたと思います」

ザレドスは自信ありげにそう言うと、二人の返事も聞かぬまま、あちら側に空間があるとされている問題の壁を調べ始めた。

「ということだから、もう少しだけ待とうよ」

二人をなだめるように、ボクは言う。

「そりゃ、旦那とザレドスはいいよな。謎が何なのか見当がついたみたいだからさ。だけど俺は蚊帳の外かよ。

……っていうか、ポピッカ。おめぇも旦那やザレドスと一緒に天井を見ていたんだろ? 何か気がつかなかったのかよ。だらしのねぇ……」

ゲルドーシュが責めるような目で、ポピッカをジロリと見る。

「は? いや、それは……。そんな事を言われても、わかりませんわよ。もう! スタンもザレドスも人が悪いですわ。だから私が唐変木の筋肉男にバカにされるんですのよ!」

「んだとぉ? 誰が唐変木だ、誰が!」

「わぁ~、ごめんごめん。謝るからケンカはよしてくれ。別に二人を軽んじているわけじゃないよ。まぁ、成り行き上というかなんというか……。とにかくザレドスの調査をまとうよ……ね?」

彼らの苛立ちもわかるだけに、ボクはもう平謝りをするしかない。

「大体のところはですが、大方の予想はつきました」

ポピッカとゲルドーシュから袋叩きの憂き目にあおうとしていたその時、やっとこさ救いの神ザレドスが、調査を終えて戻って来た。

「え、えぇ……と、スタン、私の方から話してよろしいんですか?」

遠慮がちに尋ねるザレドスに、ボクは上で判明した事を説明するよう目で促した。

「あ、あぁ、結論から言いますと、天井の特定の部分には”ある魔法”が掛けられていました」

「魔法?天井にですって?」

ザレドスの意外な回答に、ポピッカが調子っぱずれの声をあげる。

「そ、そりゃ、どんな魔法なんだよ?」

ゲルドーシュも興味津々だ。

「特定の条件が発生すると天井部分の石が削られて、その粉が降ってくるという魔法です」

ザレドスが、緊張した様子で二人の疑問に答える。

細工師の一声に、ボクの胸は高鳴った。やっぱり、ボクの推測は間違っていなかったのである。

「いや、さっぱりわかりませんわ。なぜ天井から石粉が降ってくる魔法がかかっていた事が、この謎を解く突破口になるんですの?」

「っていうか、そもそも何でそんな魔法が天井にかかってるんだ?」

蚊帳の外に置かれた二人が不思議がった。

「スタン、このまま続けてもいいですか。多分、あなたは天井の魔法の事をはじめ、もう一連のカラクリを全て見破っているのでしょう?」

僧侶と戦士の要求に答える前に、ザレドスがボクに気を使う。

「あぁ、多分ね。でもそれは、あくまで推理でしかない。だからザレドスが実証してくれなければ、余り意味を持たないんだ」

「わかりました。では続けます」

ポピッカとゲルドーシュは、ザレドスの説明を前にもまして食い入るように聞いている。

「天井から石粉が降ってくる条件は、”問題の壁に一定以上の物理的な衝撃が与えられた時”もしくは”壁が鳴動した時”というものです。

つまりですね。ここで重要なのは、天井から石の粉が降ってくる現象は、自然に起こっているのではなく、あくまで魔法によって人為的に起こされていたという事なんですよ。ある種の”演出”と言っていい」

「ゲルじゃありませんが、何故そんな事をする必要があるんですの?」

「そうだよ、全く意味が分かんねぇ」

僧侶と戦士が続けざまに、疑問を投げかけた。

「それは、この広間の構造がひどく脆弱であると思わせるためです。壁に衝撃を与えた結果、天井から石の粉がパラパラと落ちてくれば、普通は”これ以上、衝撃を与えたらヤバイかも……”って考えますよね。

となれば、誰だってそれ以上は、問題の壁に衝撃を与えようなんて思いませんよ。広間が崩落して、最悪、ダンジョンそのものも連鎖反応で潰れる可能性を考えなければなりませんからね」

「……つまりだな。それだと天井に魔法をかけた奴は、あの壁に衝撃を与えてもらっちゃ困るって事になるわな。でも、それは何で……」

細工師の説明に、ゲルドーシュが口を挟む。

「あぁ! そうでしたの! おぼろげながら、わかりかけてきましたわ。

壁の向こう側に空間があると分かった場合、普通に考えれば壁を壊してその先を確認しようとしますわよね。その為には何らかの方法で、壁に”相当な衝撃”を与えなければいけません。

そしてバウンサーズが襲ってくる前、ザレドスが言っていたように、衝撃を避けてメルトなどの魔法を使って壁を破壊しようとしても、やはり壁が鳴動し、広間全体が振動してしまう……」

「だから、何だっていうんだよ!」

一人だけ置いてけぼりをくったゲルドーシュが、再び声をあげた。
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