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車座
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同じ場所で天井と床を激しくバウンドし続ける者。敵であるボクたちを全く無視した方向へジグザグで飛んでいく者。バウンサーズ同士、執拗にぶつかり合う者……。
カオスの魔法にかかった彼らの心中は、おぞましいほどの不安と恐怖が交錯しているのだろう。特にこの魔法はバウンサーのような知性の低い、それでいて集団行動を得意とする類の連中には絶大な効果を発揮する。
ただ、当然ながら高等な生き物にも影響はあるので、ポピッカ達には予め対魔法用の障壁を準備させた。また広間の角であれば敵に後ろを取られる事はないので、偶然に連中が飛んできた場合でも、ゲルドーシュが剣だけを障壁の外へ突き出して難を逃れる事は容易であろう。
ボクは狂ったモンスターのサーカスを暫く見学した後、カオスの魔法を解いた。彼らの周辺にまとわりついていた暗黒の光の帯が徐々に消え始める。
辺りを見回すと、先ほどの勢いはどこへやら、全てのバウンサーは動きを止めるか、非常に緩慢な動作に終始していた。
「ゲル、連中にトドメを」
「おう!」
ゲルドーシュが魔法障壁から飛び出し、既にふやけたゴムボールと成り下がったバウンサーズを一匹ずつ仕留めていく。
「ふう……、上手く行った」
そう思ったの途端、膝が緩みボクは図らずも床に片膝をついた。
「大丈夫ですか、スタン!」
魔法障壁を解除したポピッカとザレドスが駆け寄って来る。
「あぁ、大丈夫。ちょっと気が抜けただけだよ」
ボクは心配はいらないと手を振ったが、二人はまだ不安そうな顔をしている。
「いやぁ、驚きました。カオスの魔法って普通は単独の敵に対して使うものですよね。相手が下等なモンスターとはいえ、あれだけの数に対して同時に仕掛けられるなんて……」
ザレドスが驚きと関心を示してボクを称える。
「だから言ったろ? 旦那を信じろって」
バウンサーズの後始末を終え、ゲルドーシュがボクたちの方へ戻って来る。
「でも、スタン。今回もわからない事がテンコ盛りですわ。一体……」
「ポピッカ、もう少しスタンに休んでもらいましょうよ」
ポピッカが洪水のように疑問を投げかけようとするも、ザレドスが年長者らしい気遣いを見せた。
「あ、あぁ、スイマセン。つい……」
「いや、いいんだ。ボクの方も、みんなに伝えたい事が沢山あるしね。……ザレドス、改めて周囲をスキャンしてくれないか、新たな脅威が存在するかどうか」
ポピッカのしおらしい謝罪に満足しつつ、ボクはこの戦いで得た決定的とも思れる情報を仲間に知らせる準備をする。
「大丈夫のようです。一本道の通路の向こう側も含めて、これといった反応はありませんね」
「そう、じゃあどこから話そうかな……。あぁ、みんなとにかく座ろうよ。少し長い話になるかも知れない」
皆、戦いの緊張が続いたせいで、疲労している事も忘れているようだ。心を落ち着かせる意味もあって、ボクは他のメンバーを床に座らせ車座になる。
「まず、ボクがザレドスの提案した”一本道の向こう側でバウンサーズを迎え撃つ”を聞き入れなかった理由だけど……」
「いや、面目ない。通路にトキシンワームが潜んでいるなどとは、夢にも思わなくて……」
「そりゃあ、違うよ、ザレドス。いつもだったら、ザレドスは確実に毒虫の潜んでいる隠ぺい魔法を探知していたと思う。でもバウンサーズの攻撃があったんで、とてもその余裕はなかったって事さ」
ボクは、後悔しきりの細工師の面目を施すのに腐心する。
「今までザレドスは、妨害者の罠を幾つも見破って来た。奴からすれば、口惜しい限りだったろうね。だから普通に罠を仕掛けてもダメだと悟ったんだろう」
「……だから、ザレドスがまともに探査できない状況を作ったというわけですわね?」
「その通り。あれだけの数のバウンサーズが飛び交う中で、まともに探索できる者なんていやしないよ。特にバウンサーズは非常に賑やかな攻撃をするから、平常心を失わせるにはもってこいの”囮”だったのさ」
ボクは成り行きを説明する。
「今までの出来事から分かるように、妨害者は人の心理を巧みについてくる。そう考えた時に、脱出路に罠が仕掛けられている可能性に気づいたんだ」
「なるほど、さすが旦那」
ゲルドーシュの称賛と共に、最初の謎解きが終る。
「さぁて、ここからが本題だ。今回、妨害者は罠を仕掛けるためにバウンサーズを差し向けたわけだけど、それについて疑問はないかい?」
ボクは車座になったメンバーを見回す。
「そうですね。確かに変ですね。妨害者はダンジョン自体は壊したくない様子でした。それなのに構造が脆弱だと分かっているこの広間で、あちこちに衝撃を与えるのが前提のモンスターをよこしました。
これだと私たちを仕留めるのに成功したとしても、バウンサーズがきっかけで、ダンジョンそのものの崩壊が起きたかも知れません」
「なるほど……、矛盾しますわね。実際、天井から石の欠片のような粉が、かなり降って来たと記憶していますわ」
ザレドスとポピッカは、ボクと同じ疑問に行きついたようである。
「う~ん。俺にはさっぱり意味が分からん。妨害者はダンジョンを壊したいのか壊したくないのか、どっちなんだ?」
続いてゲルドーシュも、同じ疑問に辿りつく。
「ボクは奴がダンジョンを潰しても構わないと思っているとは考えていない。崩落させる階層を選ぶといった配慮をしているわけだしね」
「じゃぁ、どういう事なんだよ旦那」
ボクは僅かな間をおいて核心に触れる。
「妨害者は、わかっていたんだよ。バウンサーズが暴れまくっても、広間や最下層が”崩壊しない”って」
カオスの魔法にかかった彼らの心中は、おぞましいほどの不安と恐怖が交錯しているのだろう。特にこの魔法はバウンサーのような知性の低い、それでいて集団行動を得意とする類の連中には絶大な効果を発揮する。
ただ、当然ながら高等な生き物にも影響はあるので、ポピッカ達には予め対魔法用の障壁を準備させた。また広間の角であれば敵に後ろを取られる事はないので、偶然に連中が飛んできた場合でも、ゲルドーシュが剣だけを障壁の外へ突き出して難を逃れる事は容易であろう。
ボクは狂ったモンスターのサーカスを暫く見学した後、カオスの魔法を解いた。彼らの周辺にまとわりついていた暗黒の光の帯が徐々に消え始める。
辺りを見回すと、先ほどの勢いはどこへやら、全てのバウンサーは動きを止めるか、非常に緩慢な動作に終始していた。
「ゲル、連中にトドメを」
「おう!」
ゲルドーシュが魔法障壁から飛び出し、既にふやけたゴムボールと成り下がったバウンサーズを一匹ずつ仕留めていく。
「ふう……、上手く行った」
そう思ったの途端、膝が緩みボクは図らずも床に片膝をついた。
「大丈夫ですか、スタン!」
魔法障壁を解除したポピッカとザレドスが駆け寄って来る。
「あぁ、大丈夫。ちょっと気が抜けただけだよ」
ボクは心配はいらないと手を振ったが、二人はまだ不安そうな顔をしている。
「いやぁ、驚きました。カオスの魔法って普通は単独の敵に対して使うものですよね。相手が下等なモンスターとはいえ、あれだけの数に対して同時に仕掛けられるなんて……」
ザレドスが驚きと関心を示してボクを称える。
「だから言ったろ? 旦那を信じろって」
バウンサーズの後始末を終え、ゲルドーシュがボクたちの方へ戻って来る。
「でも、スタン。今回もわからない事がテンコ盛りですわ。一体……」
「ポピッカ、もう少しスタンに休んでもらいましょうよ」
ポピッカが洪水のように疑問を投げかけようとするも、ザレドスが年長者らしい気遣いを見せた。
「あ、あぁ、スイマセン。つい……」
「いや、いいんだ。ボクの方も、みんなに伝えたい事が沢山あるしね。……ザレドス、改めて周囲をスキャンしてくれないか、新たな脅威が存在するかどうか」
ポピッカのしおらしい謝罪に満足しつつ、ボクはこの戦いで得た決定的とも思れる情報を仲間に知らせる準備をする。
「大丈夫のようです。一本道の通路の向こう側も含めて、これといった反応はありませんね」
「そう、じゃあどこから話そうかな……。あぁ、みんなとにかく座ろうよ。少し長い話になるかも知れない」
皆、戦いの緊張が続いたせいで、疲労している事も忘れているようだ。心を落ち着かせる意味もあって、ボクは他のメンバーを床に座らせ車座になる。
「まず、ボクがザレドスの提案した”一本道の向こう側でバウンサーズを迎え撃つ”を聞き入れなかった理由だけど……」
「いや、面目ない。通路にトキシンワームが潜んでいるなどとは、夢にも思わなくて……」
「そりゃあ、違うよ、ザレドス。いつもだったら、ザレドスは確実に毒虫の潜んでいる隠ぺい魔法を探知していたと思う。でもバウンサーズの攻撃があったんで、とてもその余裕はなかったって事さ」
ボクは、後悔しきりの細工師の面目を施すのに腐心する。
「今までザレドスは、妨害者の罠を幾つも見破って来た。奴からすれば、口惜しい限りだったろうね。だから普通に罠を仕掛けてもダメだと悟ったんだろう」
「……だから、ザレドスがまともに探査できない状況を作ったというわけですわね?」
「その通り。あれだけの数のバウンサーズが飛び交う中で、まともに探索できる者なんていやしないよ。特にバウンサーズは非常に賑やかな攻撃をするから、平常心を失わせるにはもってこいの”囮”だったのさ」
ボクは成り行きを説明する。
「今までの出来事から分かるように、妨害者は人の心理を巧みについてくる。そう考えた時に、脱出路に罠が仕掛けられている可能性に気づいたんだ」
「なるほど、さすが旦那」
ゲルドーシュの称賛と共に、最初の謎解きが終る。
「さぁて、ここからが本題だ。今回、妨害者は罠を仕掛けるためにバウンサーズを差し向けたわけだけど、それについて疑問はないかい?」
ボクは車座になったメンバーを見回す。
「そうですね。確かに変ですね。妨害者はダンジョン自体は壊したくない様子でした。それなのに構造が脆弱だと分かっているこの広間で、あちこちに衝撃を与えるのが前提のモンスターをよこしました。
これだと私たちを仕留めるのに成功したとしても、バウンサーズがきっかけで、ダンジョンそのものの崩壊が起きたかも知れません」
「なるほど……、矛盾しますわね。実際、天井から石の欠片のような粉が、かなり降って来たと記憶していますわ」
ザレドスとポピッカは、ボクと同じ疑問に行きついたようである。
「う~ん。俺にはさっぱり意味が分からん。妨害者はダンジョンを壊したいのか壊したくないのか、どっちなんだ?」
続いてゲルドーシュも、同じ疑問に辿りつく。
「ボクは奴がダンジョンを潰しても構わないと思っているとは考えていない。崩落させる階層を選ぶといった配慮をしているわけだしね」
「じゃぁ、どういう事なんだよ旦那」
ボクは僅かな間をおいて核心に触れる。
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