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最深部到着
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それから二時間ほどが経ち、予定通り早めの就寝となる。各階の安全地帯に仕掛けた警報魔使具の受信機を中心にして、四つの簡易ベッドが放射状に配置された。反応した場合は、即座に誰かが気付けるようにするためだ。一同、緊張の内に就寝となるが、幸いにも受信機がボクたちの眠りを妨げる事はなかった。
出発前日の夜に起きだした一行はしっかりと食事を取ったあと、最後のリラックスタイムを楽しんだ。
さて、いよいよ最深部へと乗り込む事になるわけだが、これまで以上の困難が待ち受けている可能性が高いと皆知っている。その為かいつものリラックスタイムとはどこか雰囲気の違う、己の中で強い決意を醸成するかのようなひと時となったようだ。
その後は各々が準備を済ませ、日付が変わった深夜1時頃には出発の準備が整う事となった。おそらく、今日で全ての片がつく。ボクは根拠のない確信で武者震いをした。
屋外では満点の星空が見られる時刻であろうが、ダンジョン内はいつもと変わらない。これまでの早朝時の出発と変わらぬ風景だ。ボクは皆に出発の合図をする。戦士、僧侶、細工師、それぞれに秘めたる覚悟はあるものの、決して気負うものではなく、最後の冒険に臨むにあたり、ある種の爽快感さすら覚えている様子が伺える。
それでも気を付けなければいけないのは、”妨害者”の動向であった。それなりのケガを負ってはいるだろうが、あちらもこういった場合の準備をしているだろう。その虚を突くための深夜の出発ではあるものの、用心深く行動するに越した事はないと皆わかっていた。
今回も前回と同じく、地下8階の安全地帯の前には、かなり強力な罠を仕掛けておく。よもや同じ手に引っ掛るとは思えないが、牽制する事は出来るだろう。昨日のようなトラブルがあった場合、この安全地帯がボクたちの生命線となるのは間違いないので、念には念を入れる。
全ての準備が終り、ボクたちは最後の探索への第一歩を踏み出した。
いつも通り前衛左にゲルドーシュ、同じく右にボク、中衛に探査用魔使具を装着したザレドス、後衛にポピッカという隊列をキープする。前回は隠ぺい魔法が付与された罠もあった事から、警戒のため自然と探索スピードは落とさざるを得ない。
「昨日とは打って変わって、何にも出ねぇな!」
ゲルドーシュが口を開く。ただ以前とは違い、それが不服というわけではなさそうだ。むしろ敵の出方を伺う戦士のたしなみといったところだろうか。
「妨害者は、もう諦めたんでしょうかね。それとも最深部で待ち構えていて、最後の決着をつけるつもりなのでしょうか」
ザレドスの問いに、ボクは考えを巡らす。
「それは、わからないね。まぁ、ここで昨日みたいな戦闘が始まったら、先へ進むのは困難になる。奴の”手駒”が、既に尽きているのを期待しようじゃないか。……ちょっと、楽観的過ぎるかな?」
「まぁ、行ってみりゃあ、それでわかるってもんさ」
進むべき道筋を睨んだまま、ゲルドーシュが誰にともなく話す。
行ってみればわかるというのは当たり前の話であるが、ゲルドーシュに反論する者はいなかった。ここまで来たからには、成り行き次第、運を天に任せるしかないと、皆わかっているのだろう。
少しずつ最深部が近づくにつれ、パーティーの中に緊張感が高まっていく。当初は容易に辿りつけると軽くみていたものの、終盤に差し掛かり起こった様々な妨害。その困難を乗り越えてようやく辿り着けるという安堵感と、それとは裏腹の不安。
胸の中を小さな妖精がグルグルと回っているような、何ともたとえようのない心持ちである。
「あの角を曲がれば、最深部の広間が見えるはずです」
探査魔使具を扱うザレドスの一報に、ボクの心臓はドクドクと音をあげる。細工師の携える魔使具が、体内に鳴り響くこの音を探知してしまうのではないかと、大いに心配してしまうほどだ。
「おぉ、やっとか。心臓がバクバクするねぇ! 下手すりゃ、体の外に飛び出しちまいそうだぜ」
ゲルドーシュが、率直な気持ちを吐き出した。
気持は同じというところだが、リーダーとしては奴のようにバカ正直に発言するわけには行くまい。ボクは少しだけ奴の事が羨ましく、また気持ちをひた隠す自分が疎ましくもあった。
「みんな、警戒を怠るな!」
ボクはパーティーに檄を飛ばす。妨害者はこちらの心理を巧みに利用している節がある。当初は何も仕掛けずこちらを油断させておき、いきなり精神的ショックを与える等、こういった計り事に長けた人物なのだろう。昨日の攻勢とは打って変わった静寂さを用いて、こちらを油断させる作戦だという可能性も十分に考えておかねばなるまい。
だがその考えは杞憂に終わった。
通路を曲がった一本道の先には図面通りの広間があり、これまでゼットツ州が行ってきた調査の跡を伺わせる機材が散見された。
「おっ、思ってたよりも広いじゃねぇか。ダンジョンに入って以来、せまっ苦しい場所で我慢してきたけど、少しは気が晴れるねぇ」
油断しているわけではないが、ボクもゲルドーシュと同意見だ。迷宮の物理的な狭さに加えて、息詰まる緊張感が続いてきた事を考えれば、この開放感は気持ちがいい。ポピッカも同様に考えているのか、頭をすっぽり覆ているフードを後ろに下げて、すうっーと背伸びをした。
そんな中、ザレドスだけが何故か相も変わらず緊張した表情を見せている。
出発前日の夜に起きだした一行はしっかりと食事を取ったあと、最後のリラックスタイムを楽しんだ。
さて、いよいよ最深部へと乗り込む事になるわけだが、これまで以上の困難が待ち受けている可能性が高いと皆知っている。その為かいつものリラックスタイムとはどこか雰囲気の違う、己の中で強い決意を醸成するかのようなひと時となったようだ。
その後は各々が準備を済ませ、日付が変わった深夜1時頃には出発の準備が整う事となった。おそらく、今日で全ての片がつく。ボクは根拠のない確信で武者震いをした。
屋外では満点の星空が見られる時刻であろうが、ダンジョン内はいつもと変わらない。これまでの早朝時の出発と変わらぬ風景だ。ボクは皆に出発の合図をする。戦士、僧侶、細工師、それぞれに秘めたる覚悟はあるものの、決して気負うものではなく、最後の冒険に臨むにあたり、ある種の爽快感さすら覚えている様子が伺える。
それでも気を付けなければいけないのは、”妨害者”の動向であった。それなりのケガを負ってはいるだろうが、あちらもこういった場合の準備をしているだろう。その虚を突くための深夜の出発ではあるものの、用心深く行動するに越した事はないと皆わかっていた。
今回も前回と同じく、地下8階の安全地帯の前には、かなり強力な罠を仕掛けておく。よもや同じ手に引っ掛るとは思えないが、牽制する事は出来るだろう。昨日のようなトラブルがあった場合、この安全地帯がボクたちの生命線となるのは間違いないので、念には念を入れる。
全ての準備が終り、ボクたちは最後の探索への第一歩を踏み出した。
いつも通り前衛左にゲルドーシュ、同じく右にボク、中衛に探査用魔使具を装着したザレドス、後衛にポピッカという隊列をキープする。前回は隠ぺい魔法が付与された罠もあった事から、警戒のため自然と探索スピードは落とさざるを得ない。
「昨日とは打って変わって、何にも出ねぇな!」
ゲルドーシュが口を開く。ただ以前とは違い、それが不服というわけではなさそうだ。むしろ敵の出方を伺う戦士のたしなみといったところだろうか。
「妨害者は、もう諦めたんでしょうかね。それとも最深部で待ち構えていて、最後の決着をつけるつもりなのでしょうか」
ザレドスの問いに、ボクは考えを巡らす。
「それは、わからないね。まぁ、ここで昨日みたいな戦闘が始まったら、先へ進むのは困難になる。奴の”手駒”が、既に尽きているのを期待しようじゃないか。……ちょっと、楽観的過ぎるかな?」
「まぁ、行ってみりゃあ、それでわかるってもんさ」
進むべき道筋を睨んだまま、ゲルドーシュが誰にともなく話す。
行ってみればわかるというのは当たり前の話であるが、ゲルドーシュに反論する者はいなかった。ここまで来たからには、成り行き次第、運を天に任せるしかないと、皆わかっているのだろう。
少しずつ最深部が近づくにつれ、パーティーの中に緊張感が高まっていく。当初は容易に辿りつけると軽くみていたものの、終盤に差し掛かり起こった様々な妨害。その困難を乗り越えてようやく辿り着けるという安堵感と、それとは裏腹の不安。
胸の中を小さな妖精がグルグルと回っているような、何ともたとえようのない心持ちである。
「あの角を曲がれば、最深部の広間が見えるはずです」
探査魔使具を扱うザレドスの一報に、ボクの心臓はドクドクと音をあげる。細工師の携える魔使具が、体内に鳴り響くこの音を探知してしまうのではないかと、大いに心配してしまうほどだ。
「おぉ、やっとか。心臓がバクバクするねぇ! 下手すりゃ、体の外に飛び出しちまいそうだぜ」
ゲルドーシュが、率直な気持ちを吐き出した。
気持は同じというところだが、リーダーとしては奴のようにバカ正直に発言するわけには行くまい。ボクは少しだけ奴の事が羨ましく、また気持ちをひた隠す自分が疎ましくもあった。
「みんな、警戒を怠るな!」
ボクはパーティーに檄を飛ばす。妨害者はこちらの心理を巧みに利用している節がある。当初は何も仕掛けずこちらを油断させておき、いきなり精神的ショックを与える等、こういった計り事に長けた人物なのだろう。昨日の攻勢とは打って変わった静寂さを用いて、こちらを油断させる作戦だという可能性も十分に考えておかねばなるまい。
だがその考えは杞憂に終わった。
通路を曲がった一本道の先には図面通りの広間があり、これまでゼットツ州が行ってきた調査の跡を伺わせる機材が散見された。
「おっ、思ってたよりも広いじゃねぇか。ダンジョンに入って以来、せまっ苦しい場所で我慢してきたけど、少しは気が晴れるねぇ」
油断しているわけではないが、ボクもゲルドーシュと同意見だ。迷宮の物理的な狭さに加えて、息詰まる緊張感が続いてきた事を考えれば、この開放感は気持ちがいい。ポピッカも同様に考えているのか、頭をすっぽり覆ているフードを後ろに下げて、すうっーと背伸びをした。
そんな中、ザレドスだけが何故か相も変わらず緊張した表情を見せている。
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